本研究では,高齢ドライバの運転に関するさまざまなデータを収集し,運転特性データベース,Data Repository for Human Life-Driving Anatomy (Dahlia)にまとめている.Dahliaには,約300名のドライバが登録し,視覚機能や認知機能,運転適性,運転に関する主観的側面といった人間特性データが含まれている.さらに,ドライバの一部からはnaturalistic driving studyの手法による長期運転行動データを収集し,まとめた.本論文では,データベースの概要とデータ収集方法,データベースの具体例と今後の展望について述べる.
Safety-1では,「安全とは悪いアウトカムの数ができるだけ少ない状態にあること」,Safety-2では「安全とは成功のアウトカムができる限り多い状態にあること」とされている.本研究では,状況変動に応じたSafety-1及びSafety-2両モードの使い分けの有効さを実験的に検証すること,及び両モードを切り替えるべき状況変動の定量的な目安を導き出すことを目的とした.火災発生時の消火活動を想定したシミュレーション実験の結果から,1)状況変動が大きくなるほど,Safety-1モードからSafety-2モードに切り替えて対応するケースが増えるが,一方で定常状態に比して15倍を超えるような状況変動が生じない限りSafety-2モードへの切替には慎重であること,2)状況変動が大きくなるほど,Safety-1モードで対応するよりSafety-2モードで対応する方が,成功のアウトカムは増し,成功のアウトカムを得るためのよりよい切替のタイミングの目安は,状況変動の大きさが定常状態に比して4~6倍であること,を示した.
日本人間工学会研究奨励賞 2021年度受賞論文
働き方改革関連法が本年から施行され,地方自治体でも長時間労働は抑制されるようになった.しかし,職員は新たな負担を抱え前向きに仕事に取り組む余裕がない.本研究では,自治体における組織文化,管理職のリーダーシップ,職務満足の因果関係を明らかにすることにより,自治体職員活性化策に役立てることを目的とした.自治体の特徴を明確化するため,大企業との比較を共分散構造分析―多母集団同時分析により検証した.約1,000人に対するアンケート調査の結果,(1)組織文化の閉鎖的側面は職務満足の阻害要因としては作用しない,(2)自治体では大企業よりも,組織文化のポジティブで協調的な側面がやりがいや成長感を促進することが示された.働き方改革時代の自治体では,従来のように役所文化を否定的に捉えて克服しようとするよりも,チームワークなど今ある協調的な文化を重視して職員の活性化を図ることの方が有効であることが明らかになった.
本研究では,花粉症対策に衛生マスクを持続的に着用する日常生活場面において,鼻の不快感に対するマスクへの着香効果を経時的に測定した.花粉症をもつ40名の被験者が2種の衛生マスク(ミント着香,または統制として無香マスク)をそれぞれ6時間着用し,携帯機器を通じて鼻の不快感について定期的に回答した.実験の結果,着香マスクは無香マスクに比べて装着直後に鼻の不快感の低減が強く生じた.しかし,香りの有無にかかわらず,マスク着用後,30分程度で不快感の低減効果は飽和状態となった.このことは,着香マスクの着用が鼻の不快感を低減させる効果は,着用を始めてから30分までの香りの印象が大きく影響することを示している.