本研究では, 芳香族化合物の分子の物理化学的特性と感覚的なにおい質との相関関係を実験的に検討した. すなわち, 芳香族化合物の試料間の感覚的な質の類似性を因子分析法によって解析し, 得られた結果と, 芳香族置換基の疎水性, 電子的・立体的パラメータとの相関性を重回帰分析によって定量的に検討した. 本研究によって得られた知見を要約すると次のとおりである.
(1) 芳香族化合物のにおい質には, ベースとなる基本的なにおい質が共通して含まれ, そのにおい質が置換基の物理化学的特性によって修飾されると考えられる.
(2) におい質の類似性の判定には, 快・不快性が判断要素のひとつとして含まれる.
(3) 一置換体の芳香族化合物のにおい質を構成する主要な2つの因子のなかで, 第1因子は飽和蒸気圧と相関性が高く, 疎水性あるいは脂質への溶解性が質的因子に関与していることが考えられる. 第2因子は置換基の電子効果パラメータおよび分子屈折と相関性が高く, 質的因子に電子の吸引性, 供与性と置換基の大きさが関与していることが考えられる.
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