災害発生から48時間以内を想定した医療組織のレジリエンス・トレーニングを考案し,その有用性を検証した.トレーニングは「宝さがし」と名付けられ,「災害時にひとりでも多くの人に適切な医療を届けることに資する“楽しい体験型トレーニング”」をコンセプトに考案された.5~6名のグループ間で得点を競うゲームであり,災害対応時のリスクコミュニケーションを想定し,コミュニケーションの量,正確さ,スピードが揃うと高得点が得られるよう設計された.トライアル実施後の評価から,正確な情報の収集と伝達,適切な状況判断,タイムマネジメント,意思決定,人に頼らない意思決定,効率を考える,戦略性,人員配置などに関するノンテクニカルスキルの学習が促される可能性が示された.加えて,ゲームの性質上自然発生的に生まれる協働や連携などの要素から,メンバーを組織化する体験,チームプレーを引き出す体験,好結果を生む連携の体験,倫理観を問う状況が発生することが示され,体験的学習から協働や連携に関する気づきを得る可能性が示された.
本研究の目的は,衣服ボタンの形状が高齢者のボタンかけはずしにおよぼす影響を明らかにすることであった.実験協力者は22名の高齢女性と19名の若年成人女性であった.ボタンの型(平型,タライ型)と厚さ(2,3,4 mm)とを変更した6種のボタンが実験に用いられた.これらのボタンを実験で用いるブラウスに縫い付けた.実験協力者はこのブラウスを着用してボタンのかけはずしを行い,このときのかけはずしの時間やかけはずしに関する官能量を計測した.得られたデータを,年齢群,ボタン型,ボタン厚さを要因とした三元配置分散分析によって解析した.その結果,次の3点が明らかになった:1)高齢者は若年者に比べてボタンかけはずし時間が長く,この違いは主に加齢にともなう手指の巧緻性の違いに起因する,2)ボタンの厚さは年齢にかかわらずボタンかけはずしの時間に影響し,ボタンの型は高齢者のボタンはずし時間に影響する,3)ボタンの型や厚さはボタンかけはずしの官能量に影響するが,その影響の程度は若年者に比べて高齢者において小さい.
情報探索しやすいGUIデザインのための知見を得ることを目的とし,GUI操作時の情報探索作業において,画面の複雑さが反応時間,眼球運動特性に及ぼす影響を調査した.そのために,グルーピングの有無,整列の有無,要素数(少,中,多)の3要因を組み合わせた12画面について,ターゲットを探索しポインティングする実験を行った.画面の複雑さの指標としては,グルーピングと整列を考慮したcomplexityを算出し,眼球運動特性としては注視回数,注視時間を測定した.実験の結果,complexityの増加に伴って,反応時間の延長および注視回数の増加が認められた.特に,要素数とグルーピングによる影響が大きいことが明らかになった.注視時間は,complexityに関わらず一定であり,いずれの要因の影響も受けていなかった.また重回帰分析の結果より,反応時間の変動を説明するモデルにおいて注視回数の標準偏回帰係数が非常に大きく,反応時間の変動は注視回数による寄与が高いことが明らかになった.反応時間は注視回数の増加に伴って延長しており,variable number modelによる情報探索が行われていることが示唆された.