日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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72 巻, 9 号
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原著
  • 後藤 裕信, 池永 雅一, 平尾 素宏, 藤谷 和正, 末田 聖倫, 辻江 正徳, 安井 昌義, 宮本 敦史, 宮崎 道彦, 三嶋 秀行, ...
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2183-2187
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    当院の胃癌手術では,従来より,下剤投与さらに浣腸を行うことによって腸管に機械的な清掃を加える機械的腸管前処置(mechanical bowel preparation:MBP)を行っていた.2009年3年よりMBPを省略し,それ以前の症例をMBP群,それ以降の症例を非MBP群としてその評価を行った.対象は待機胃癌手術の158例で,MBP群が79例,非MBP群が79例であった.この2群間で術後の排ガス,排便までの日数,縫合不全,手術部位感染の有無,クリティカルパス管理下でのバリアンス発生の有無を検討した.排ガスまでの日数,縫合不全,手術部位感染の有無,その他のバリアンス発生の有無では有意差は認めず,排便までの日数が非MBP群で有意に短縮していた(p=0.036).待機胃癌手術では,術前にMBPを省略しても,安全に周術期管理が行えると考える.
  • 林 彦多, 服部 晋司, 佐藤 崇, 比良 英司, 山本 佳生, 藤井 敏之, 小藤 宰, 五十嵐 雅彦, 田中 恒夫
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2188-2198
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    目的・方法:POSSUMは1991年にイギリスで開発されたが(以下,original POSSUM),術後合併症の過剰予測で日本の実情に合わないとされ,2007年にHiroshima-POSSUM(以下,H-POSSUM)が開発された.島根県の多施設消化器手術データベースに集積された1,246例(2002年から2010年)の前半622症例からロジスティク回帰分析にてShimane-POSSUM(以下,S-POSSUM)を導き,後半624症例における有用性を観察された発生率の予測されたそれに対する比(以下,O/E比)の比較とROC解析を用いて,original POSSUM,H-POSSUMと比較した.結果:術後合併症率ではO/E比はoriginal POSSUM 0.52,H-POSSUM 0.70,S-POSSUM 0.86であり,手術直接死亡率でも各々0.09,0.25,0.46と,S-POSSUMが最も1に近かった.ROC解析では,術後合併症率ではAUCは各々0.666,0.672,0.672,手術直接死亡率では,0.817,0.829,0.836と3者同等であった.結論:当地域の消化器手術の合併症予測にはS-POSSUMが最も有用であった.
臨床経験
  • 本間 周作, 河本 和幸, 岡部 道雄, 佐野 薫, 朴 泰範, 伊藤 雅
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2199-2203
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    原発性小腸癌は臨床症状が出難く診断時には進行癌であることが多い.今回当院で経験した原発性小腸癌13症例(空腸癌5例,回腸癌8例)を対象として,どのように診断,治療がなされているのかを調査・検討した.ダブルバルーン小腸内視鏡は空腸癌の存在が疑われたときの確定診断には有効であるが,早期病変の発見には繋がっていなかった.回腸癌は大腸内視鏡検査(CF)時に可能な限り回腸遠位側を観察することにより診断されたものが多く,CF時の回腸観察は回腸癌の早期発見に繋がる可能性があると考えられた.リンパ節郭清を含む口側肛門側とも5~10cm離した小腸部分切除で肉眼的治癒切除できた症例には長期予後が得られたものがあった.進行再発症例に対し有効性を認めた化学療法は経験しなかった.
  • 徳村 弘実, 野村 良平, 西條 文人, 松村 直樹, 安本 明浩, 武者 宏昭
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2204-2208
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術の経腹腔的アプローチ(TAPP)は,前方アプローチのメッシュ手術より利点が多い.しかし,新たな手技習得が必要でラーニングカーブが長いため本邦では必ずしも普及していない.筆者らは,TAPPの手技的難点を軽減する目的に,経皮的に鼠径部腹膜前腔にロピバカインとエピネフリンの膨潤麻酔剤希釈液約150ml注入することを先行する膨潤TAPPを考案し22例を経験した.対象は,男21例,女性1例で平均年齢は58.2歳,24病変,間接ヘルニア19病変,直接ヘルニア5病変であった.手技的に,従来TAPPと比べて,腹膜前腔の膨化によって層確認が容易となり剥離しやすく,出血も少なく,比較的確実な手術が可能となった.合併症は,血腫,水腫各1例でいずれも軽微で,術後疼痛も少ないと考えられた.今後,さらなる症例集積と従来TAPPとの比較試験による検証が必要であるが,膨潤TAPPは従来TAPPを手技的,臨床的に改善すると推察された.
症例
  • 中村 雅憲, 小野田 尚佳, 山片 重人, 小川 佳成, 石川 哲郎, 若狭 研一, 平川 弘聖
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2209-2213
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    70歳,男性.甲状腺左葉下極に約2cm大の低エコー腫瘤を認め,穿刺吸引細胞診により悪性リンパ腫を疑われたため,切除生検を受けたところ胸腺腫の診断を得,加療目的で当院紹介となった.甲状腺左葉切除とリンパ節郭清術を施行した.病変は甲状腺から被膜外へと進展し,反回神経を含む周囲との癒着は強固であったが,周囲臓器への浸潤,リンパ節・遠隔転移を認めなかった.縦隔内の胸腺への連続性は認められなかった.組織学的には甲状腺内外に浸潤増殖を示す浸潤性胸腺腫(type B2)であった.術後経過良好で術後5日目に退院,放射線外照射(50Gy)を追加し,現在まで再発は認めていない.
    甲状腺を含む頸部に認められる胸腺腫は,胎生期の下降不全などによる異所性胸腺組織が発生母地と考えられ,極めてまれな疾患である.本疾患の鑑別診断と治療について,文献的考察を加えて報告する.
  • 浅羽 雄太郎, 堀 明洋, 森岡 淳, 芥川 篤史, 三輪 知弘, 前田 孝
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2214-2218
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,女性.甲状腺癌術後加療中,左乳房腫瘤を主訴に当科紹介受診となった.左乳房B領域に弾性・硬,2.5cm大の腫瘤を触知し,マンモグラフィーでは高濃度・境界明瞭な腫瘤影を認め,超音波検査で腫瘤は大きさ25×24mm,境界明瞭,内部は不均一で嚢胞状エコーを呈した.core needle biopsy(CNB)を施行し,浸潤性乳管癌(充実腺管癌)の結果を得たが,以前に切除された甲状腺癌転移部の標本との比較・再検討により,甲状腺癌乳腺転移と確定診断し,乳房部分切除術を施行した.病理診断は甲状腺濾胞癌乳腺転移であった.
    転移性乳腺腫瘍は稀な疾患であり,甲状腺癌乳腺転移の報告例は,さらに少ない.今回われわれは原発性乳癌との鑑別を要した甲状腺癌乳腺転移の1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 藤島 則明, 浜口 伸正, 谷田 信行, 大西 一久, 山井 礼道, 藤原 聡史, 黒田 直人
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2219-2224
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    乳腺の大きな偽血管腫様過形成pseudoangiomatous stromal hyperplasia(PASH)の1例経験したので報告する.症例は28歳,女性.急速に増大する左乳房腫瘤を訴え来院した.大きさ8cmの弾性硬,可動性良好の腫瘤を触知した.マンモグラフィ,超音波検査,MRI,吸引細胞診では葉状腫瘍が疑われた.腫瘤は大きく摘出術を行った.7.5×7.0cmの境界明瞭な白色調の腫瘤で間質細胞の増生,偽血管腔様の構造もみられた.上皮成分の増生はみられなかった.免疫染色では間質の紡錘形細胞はα-SMA,CD34陽性,h-caldesmon陰性で,空隙面はCD34,CD31,FactorVIII陰性でPASHと診断された.PASHは稀な疾患であり,葉状腫瘍,血管肉腫との鑑別に注意を要する.若干の文献的考察を加え報告する.
  • 鈴木 繁紀, 有賀 智之, 山下 年成, 堀口 慎一郎, 川上 睦美, 黒井 克昌
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2225-2231
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は52歳,女性.2010年7月にふらつき,失認,頭痛を契機に前医を受診し,頭部CTにて右後頭葉に石灰化を伴う6cm大の腫瘤および大脳半球,小脳の多発病変を指摘された.転移性脳腫瘍疑いにて当院脳神経外科紹介受診となり,原発巣の検索目的に上部・下部内視鏡検査,胸腹部造影CTを施行した.内視鏡検査では異常を認めず,CTにて右乳房に粗大石灰化を伴う6cm大の乳房腫瘤と右鎖骨上,右腋窩および上縦隔のリンパ節腫大を認めた.問診ではこの右乳房腫瘤は32年前より前医にて経過観察中で,MMG,USでは陳旧性の線維腺腫としても矛盾しない所見であった.しかし,右後頭葉転移性脳腫瘍に対して摘出術を施行したところ,石灰化を伴う低分化腺癌と診断されたため,乳腺腫瘤に対して針生検を行い浸潤性乳管癌と診断された.このため,乳腺腫瘍切除術を行い,最終的に線維腺腫内から発生した原発性乳癌で,原発巣,脳転移巣のいずれもER-,PR-,HER2 3+,GCDFP15陽性であることから,右原発性乳癌の脳転移と診断した.陳旧性の線維腺腫に発生した浸潤性乳癌が遠隔転移から発見された症例はこれまでに報告されていない.
  • 上田 大輔, 田村 淳, 馬場 信雄
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2232-2236
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は45歳,スペイン人男性.数日前からの強い咳嗽,腹痛を主訴に近医を受診した.気管支炎の診断で投薬を受けるも,軽快しないため,翌日に当院を受診した.上腹部に圧痛を認め,胸部CTにて縦隔炎,左膿胸を認めた.当初は特発性食道破裂を疑い手術を施行したが,明らかな穿孔は認めなかった.6日後,頭頸部に及ぶ膿瘍形成,および現病歴の聴取から降下性壊死性縦隔炎と診断した.頸部までのドレナージを追加することで全身状態は改善傾向を示し,第95病日に退院となった.降下性壊死性縦隔炎は重篤な経過をたどる疾患であり,特発性食道破裂を疑った場合,降下性壊死性縦隔炎を鑑別に挙げ,詳細な病歴の聴取および頭頸部までの画像検索が鑑別には重要と考えられ,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 高野 信二, 勝原 和博, 古賀 繁宏, 明比 俊, 延原 研二, 酒井 堅
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2237-2239
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    われわれは,外傷性胸部大動脈損傷の1例を経験したので報告する.症例は22歳,男性.作業中に1.5mの高さから転落し,当院救命救急センター搬入.レントゲン検査.CT検査にて,胸部大動脈損傷,肝損傷,下顎骨骨折,腰椎骨折,左大腿骨骨折,左脛骨骨折,左腓骨骨折の診断.肝損傷については保存的加療,多発骨折については,後日,観血的手術の方針とし,胸部大動脈損傷に対して緊急手術施行.大動脈は遠位弓部で損傷しており,周囲の血腫と胸腔内出血を認めた.胸部大動脈人工血管置換術を施行.術後経過は良好で,下顎骨骨折,腰椎骨折,左大腿骨骨折に対する手術を経たのち,119日目に軽快退院となった.
  • 大惠 匡俊, 和田 譲二
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2240-2245
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は59歳,男性.吐下血を認め救急搬送された.腹部造影CTにて径50mmの腹部大動脈瘤と胃内視鏡では治癒期の潰瘍が指摘されたが原因は確定できなかった.循環動態は安定していたため輸血にて経過観察するが入院後3日目に多量の下血を生じショック状態となった.腹部造影CTにて腹部大動脈瘤の十二指腸穿通出血を疑い緊急手術を施行した.開腹にて大動脈瘤十二指腸瘻と診断し人工血管置換術,十二指腸穿通部部分切除・同閉鎖術を施行し術後23病日目に退院となった.退院後14日目に人工血管末梢側吻合部を中心とした感染性仮性動脈瘤を認め仮性動脈瘤切除術・両側腋窩大腿動脈バイパス術を施行,その後限局性腹腔内膿瘍を認めるもドレナージ術にて改善し退院となった.以降約5年経過するも感染徴候は認めていない.腹部大動脈瘤の消化管穿通に対しては速やかな手術治療と術後感染に対する十分な経過観察および迅速な対応が重要と考えられた.
  • 有倉 潤, 安達 大史, 近藤 啓史, 前田 好章, 篠原 敏樹, 濱田 朋倫
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2246-2251
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    肺類上皮性血管内皮腫は本邦での症例報告数が50例程度の稀な腫瘍である.われわれは肝転移を認めた肺類上皮性血管内皮腫の1切除例を経験したので報告する.症例は67歳,女性で他疾患経過観察中に胸部異常影を指摘され当院を受診した.胸部X線および胸部CTで右肺野に比較的境界明瞭な結節影を認めた.確定診断に至らず,胸腔鏡下肺部分切除術を施行.病理組織検査では,腫瘍細胞は肺胞内に充満するように存在し,空胞を有する異型細胞の増殖を認めた.免疫組織染色では血管内皮細胞マーカーであるCD31,CD34で腫瘍細胞が陽性となり肺類上皮性血管内皮腫の診断となった.その後早期に肝転移を生じ,肝部分切除術を施行した.外科的切除以外に有効な治療法が確立されておらず,胸腹部CT,脳MRIなどの画像検査を含め注意深い経過観察が必要である.
  • 小島 雅之, 本山 健太郎, 中房 祐司, 中村 勝也, 田中 雅夫
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2252-2256
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,女性.既往歴に特記すべきことはない.2007年6月の胸部X線で右中肺野に35mm大の結節影を指摘され,精査加療目的で当科紹介受診となった.胸部CT,FDG-PET,気管支鏡検査で明らかな悪性所見は得られなかったが低分化な肺癌や肉腫などの悪性腫瘍が否定できないため,胸腔鏡補助下右肺中葉切除術を施行した.病理組織学的所見では紡錘形から類円形の核を有する腫瘍細胞が束状に配列し,密に増殖しており,免疫組織化学的にはvimentinが陽性であった.標本からのRT-PCRでSYT-SSX1融合遺伝子が確認され,単相線維型滑膜肉腫と診断した.手術後3年6カ月経過し,無再発生存中である.紡錘形細胞主体の腫瘍の術前診断は困難である.今回われわれは術後の遺伝子検索で確定診断した比較的稀な肺原発滑膜肉腫の1例を経験したので報告する.
  • 大原 利章, 竹原 清人, 中西 将元, 田中屋 宏爾, 青木 秀樹, 竹内 仁司
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2257-2260
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は81歳,男性.2日前から続く発熱,心窩部痛を主訴に近医より紹介受診となった.既往歴として8カ月前にオフポンプ冠動脈バイパス手術(3枝)を受けていた.胸部レントゲン検査では心陰影に重なり,ニボー像が認められた.CT検査では胸骨右背側の横隔膜を穿破して心嚢内に腸管の脱出が認められた.横隔膜ヘルニアと考えられ,手術目的に入院となった.開腹すると肝前面に横行結腸を認め,大網と合わせて横隔膜内への陥入が認められた.横行結腸を用手的に引き戻し,大網は心嚢内で心臓と癒着していたため切離し,半吸収性メッシュにてヘルニア門を修復した.半吸収性メッシュは臓器癒着を予防し,収縮率が低いとされ,腹壁瘢痕ヘルニアでは有用性が報告されている.横隔膜ヘルニアの修復に半吸収性メッシュを用いた本邦報告例はない.冠動脈バイパス手術後の横隔膜ヘルニアは,胃大網動脈をグラフト血管として用いた場合は報告されているが,その他のグラフト血管での報告は極めて稀である.冠動脈バイパス手術後には,グラフトの種類に関わらず横隔膜ヘルニアが起こる可能性を念頭に置くことが肝要と考えられた.
  • 秋元 俊亮, 小村 伸朗, 矢島 浩, 小林 進, 柏木 秀幸, 矢永 勝彦
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2261-2265
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    患者は60歳,男性.30年以上前に食道アカラシアと診断されたが,その後通院していなかった.2005年につかえ感が増悪し,当院を受診した.上部消化管X線造影検査にてシグモイド型gradeIIの食道アカラシアと診断し,同年腹腔鏡下Heller-Dor手術を施行した.術後は年に一度,上部消化管内視鏡検査で経過観察していた.2008年上部消化管内視鏡検査で早期食道癌を認め,内視鏡的粘膜下層剥離術を施行した.病理検査ではmoderately differentiated squamous cell carcinoma,0-IIc,m2,INFb,ly0,v0,pHM0,pVM0であり根治が得られた.食道アカラシア術後の食道癌発生は比較的まれである.食道アカラシア術後の定期的上部消化管内視鏡検査により,早期食道癌で発見し内視鏡的に治療可能であった症例を経験したので文献的考察を加え報告する.
  • 竹本 健一, 中島 晋, 福田 賢一郎, 藤山 准真, 増山 守, 馬場 正道
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2266-2269
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は70歳代,男性.3年前より上部消化管内視鏡検査にて胃粘膜下腫瘍(以下胃SMT)を指摘されるも,follow upの内視鏡検査を拒否し経過観察中であった.3年後,黒色便とふらつきを主訴に当院を受診し,緊急内視鏡検査にて胃SMTよりの出血を指摘された.精査の結果,多発胃SMTの診断の下,胃部分切除術を行うこととし開腹したところ,術前確認していた2カ所の病変に加えさらに2カ所腫瘤を触知したため,部分切除は困難と判断し幽門保存胃切除術を施行した.術後病理検査にてinflammatory fibroid polyp(以下IFP)の診断となった.本症例のように多発した胃IFPの報告は,われわれが検索しえた限りでは4例のみであり1)2),4個と多発した胃IFPは極めて稀であると考えられ,これに対し幽門保存胃切除術を施行した症例を経験したため若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 林 始, 村下 純二, 丸山 泰司, 曽我 祐一郎
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2270-2274
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は54歳,男性.腹部大動脈周囲リンパ節転移を伴う進行胃癌を認めた.術前化学療法としてTS-1:120mg/body/dayを2週間内服した後,TS-1+CDDP療法(TS-1:120mg/body/dayを3週間内服2週間休薬,day 8にCDDP 80mg/m2)を2クール施行後,腹部CTにて腹部大動脈周囲リンパ節の腫大は消失したため,胃全摘術+D2郭清術(No.16サンプリング)施行した.術後病理検査ではリンパ節に癌細胞は認めなかった.術後TS-1の内服を8カ月行った.現在,術後5年が経過したが無再発生存中である.腹部大動脈周囲リンパ節転移陽性進行胃癌に対して,術前化学療法が奏効した長期無再発生存中の1例を経験したので報告する.
  • 田上 誉史, 尾方 信也, 片川 雅友, 坂東 儀昭
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2275-2279
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,男性.平成13年8月に心窩部痛のため,胃内視鏡検査を施行し,胃角部に0-III型の胃癌が発見された.生検で低分化型腺癌と診断され,治療を勧めたが,自己都合により放置していた.平成20年9月,心窩部痛が増悪したため再受診し,胃内視鏡検査にて胃角部に約1.5cm大の潰瘍性病変を認めた.生検では,低分化型腺癌であった.上部消化管透視は胃角部後壁に約1.5cm大の中心陥凹を認め,周辺に約4cmのなだらかな隆起を認めた.腹部CT検査では胃角部の壁肥厚と少量の腹水を認めた.HpIgG 34U/mlで腫瘍マーカーはCEA 5.5ng/ml,CA19-9 4.5U/mlであった.平成20年12月幽門側胃切除を施行した.病理組織学的深達度はUI-IVsを合併したpT1(M)であった.背景粘膜は腸上皮化生を認め,粘膜下以深の著明な線維化を伴い,腫瘍細胞は再生上皮と混在して存在した.胃低分化腺癌で,初回診断から約7年放置後に根治手術が施行され,粘膜内癌と診断された症例は珍しく,若干の文献的考察を含め報告する.
  • 岡内 博, 清水 智治, 谷 徹
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2280-2284
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,男性.9カ月前に胃石落下による小腸閉塞に対し開腹下に胃石摘出術を受けている.今回,腹痛,嘔吐を訴えて受診となった.精査,既往より再発胃石による小腸閉塞と診断し,開腹手術を行った.胃内に2個,Bauhin弁より90cmの部位に1個可動性のある硬い構造物を触知し,黒褐色の異物を摘出した.大きさはそれぞれ5.5×4.5cm,5.5×4cmおよび4.5×4cmであった.結石分析では成分の特定には至らなかった.
    落下胃石による腸閉塞は比較的まれな疾患であり,その中でも再発症例は極めてまれである.本邦では,本症例を含めて2例しか報告されていない.さらに自験例ではビールとトマトジュースのカクテルの大量摂取という特殊な嗜好が,胃石生成に関与していると考えられた.本疾患の術後には胃石の生成原因と考えられる因子を取り除き,再発を念頭に置き術後の定期的な経過観察を行うことが重要であると考えられた.
  • 佐藤 純人, 大賀 純一, 畑山 年之, 早稲田 正博, 石田 康男, 幡谷 潔
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2285-2289
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.69歳時,腹壁瘢痕ヘルニアに対し腹腔内留置型のコンポジットメッシュを用いたヘルニア修復術が施行されている.その2年8カ月後に腹痛と手術創からの膿排出を主訴に来院した.手術創部に瘻孔形成を認め,瘻孔造影検査にて小腸が描出されたため小腸皮膚瘻と診断し手術を施行した.癒着した小腸と瘻孔部,メッシュを含めた腹壁を一塊に切除後,1-VICRYL糸にて筋膜を皮下組織とともに単純縫縮し,腹壁2層縫合法にて再度ヘルニア修復術を施行した.術後経過は良好で術後9病日目に退院した.術後,ヘルニアの再発や感染は認めていない.
    腹壁瘢痕ヘルニアに用いた腹壁内留置型メッシュが小腸皮膚瘻を形成した1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
  • 久米 修一, 久保田 竜生, 平田 貴文, 平島 浩太郎
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2290-2293
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    患者は84歳,女性.82歳時,右閉鎖孔ヘルニアに対し他院でメッシュを用いた手術を受けた.2年後に腹痛と嘔吐のため当科を受診し,腹部単純レントゲン,腹部CTにてイレウスの診断で入院となった.イレウス管にて改善しないため開腹したところ,シート状のメッシュに小腸の強い癒着を認め,イレウスの原因となっていた.メッシュを腹壁および小腸から剥離し,摘出した.
    ヘルニアの修復にメッシュを用いる機会は増えてきているが,これが腹腔内に露出すると,癒着の原因となる.ヘルニア術後のイレウス症例ではメッシュによる腸管癒着を念頭におく必要があると考え,文献的考察を加え報告する.
  • 森 至弘, 高瀬 功三, 小塚 雅也, 佐溝 政広, 山本 正博, 出射 由香
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2294-2297
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,慢性腎不全の男性で,腹痛および悪寒を主訴に近医を受診.左下腹部の圧痛および反跳痛を認め,腹部単純CT検査にて左腹部に限局した小腸の拡張,壁肥厚と周囲の脂肪織濃度の上昇を認めた.限局性腹膜炎と診断され,翌日精査加療目的に当院に紹介入院となった.入院後に腹部単純CT検査を施行したところ,腹水の増量および微小なfree airの出現を認めたため,消化管穿孔と考え緊急手術を施行した.開腹所見では,Treitz靱帯から約30cm肛門側の空腸に穿孔を認め,周囲に限局された膿瘍を形成していた.同部位の小腸部分切除術を行い,小腸小腸吻合を行った.病理組織学的には穿孔部周囲に憩室形成を認め,小腸仮性憩室穿孔と診断された.術後経過良好にて,第22病日に退院となった.比較的まれとされている小腸憩室の穿孔を経験したため,報告する.
  • 信太 昭子, 小坂 愉賢, 大久保 博世, 鎌田 弘樹, 中村 隆俊, 渡邊 昌彦
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2298-2301
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は40歳,女性.3日前からの腹痛を主訴に近医を受診した.発熱,下腹部痛,筋性防御を認めたため,当院紹介となった.血液検査で炎症反応の高値を認め,腹部CTでは拡張腸管,腹水,骨盤腔内にairを伴う膿瘍形成,腸管内に10mm大の高濃度の球形構造物を認めた.消化管穿孔による汎発性腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した.開腹所見では,腹腔内に多量の膿性腹水があり,回腸末端より50cm口側の回腸にMeckel憩室を認めた.Meckel憩室基部は穿孔し,内部に1個の腸石が含まれていた.小腸切除術と腹腔洗浄ドレナージ術を施行した.病理組織学的には,憩室粘膜に異所性胃粘膜が存在した.腸石は,胆汁成分による真性腸石だった.真性腸石を伴う成人のMeckel憩室穿孔は極めて稀であり,本邦報告例も少ない.貴重な症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 田野 龍介, 井口 千景, 吉崎 慎介, 三瀬 眞一
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2302-2306
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    虫垂結石症は,結石が指圧でつぶれない,腹部単純X線に写る程度の無機物を含むもの,等の定義があるが,まだ議論があり結石の成分分析等の詳細な検討は少ない.症例1:21歳,男性.主訴は右下腹部痛.腹部X線検査,腹部CTで虫垂に一致して石灰化像認め,腹部超音波検査では虫垂に音響陰影を伴う強エコー像あり虫垂結石症と診断された.虫垂切除術施行し,虫垂内に18×7mmの結石を認めた.成分分析では脂肪酸Ca 49%,リン酸Ca 30%,炭酸Ca 21%であった.症例2:24歳,男性.主訴は右下腹部痛.腹部X線検査,腹部CTで虫垂に一致して石灰化像認め,腹部超音波検査では虫垂に音響陰影を伴う強エコー像あり虫垂結石を伴う急性虫垂炎と診断された.虫垂切除術施行し,10×10mmの結石認めた.成分分析では炭酸Ca 55%,リン酸Ca 45%であった.虫垂結石症の成分分析について自験例を含めて文献上の報告と併せて検討した.
  • 直井 大志, 佐藤 寛丈, 熊谷 祐子, 井上 康浩, 塚原 宗俊, 岡田 真樹
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2307-2312
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例1:87歳,女性.糖尿病の既往がある.腹痛と嘔吐を主訴に受診.下腹部に圧痛を認め,軽度の反跳痛を伴っていた.腹部CT検査では門脈ガス血症と回腸から上行結腸の拡張,壁肥厚を認めた.緊急大腸内視鏡検査では回腸から上行結腸に全周性に粘膜の脱落とびらんを認めたが,明らかな腸管壊死の所見は認めず保存的治療を選択した.翌日より症状の改善を認め,その後軽快退院した.症例2:85歳,女性.皮膚筋炎にて15年間ブレドニゾロン(15mg/日)を内服中.右大腿骨頭壊死に対して人工骨頭置換術施行.第9病日より下痢,腹痛出現し,第14病日の腹部CT検査で門脈ガス血症と結腸全域に壁肥厚像を認めた.緊急大腸内視鏡検査では結腸全域に散在性に粘膜のびらんと浮腫を認めたが,明らかな腸管壊死の所見は認めず保存的治療を選択し軽快退院した.大腸内視鏡検査により保存的治療を選択し,軽快した門脈ガス血症を伴う腸炎の2例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 得居 将文, 鴻巣 寛, 沢辺 保範, 富田 晴久, 藤原 郁也, 柳田 正志
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2313-2317
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.45歳時に大動脈弁置換術,以後抗血小板剤を内服中.平成21年秋,昼食後に突然腹痛が出現し救急受診.腹部造影CT検査で広範囲に小腸と大腸が拡張しており,上腸間脈静脈から門脈本幹,肝内門脈に血管内ガス像を多数認めた.また小腸壁の一部が造影不良であり,腸管壊死を疑い緊急手術を施行した.術中所見は腸管全体の拡張を認めたが明らかな壊死所見はなく,術後経過は良好で術後10日目に退院した.しかし,退院2カ月後に同様の症状で再受診し,CT検査で再度門脈ガス血症を認めた.腹膜刺激症状はなく前回と類似しており,厳重な経過観察で軽快して退院となった.原因として,抗コリン作用薬による腸管内ガスの貯留が疑われ休止したところ,その後は膨満感も消失しそれ以後は再発はない.今回われわれが検索したかぎり,短期間に繰り返し門脈ガス血症を発症した症例の報告は無く,極めて稀と思われたので報告する.
  • 秦 政輝, 丹羽 浩一郎, 石山 隼, 高橋 玄, 五藤 倫敏, 坂本 一博
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2318-2323
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    特発性大腸穿孔を短期間に2回発症したSLEの症例を経験したので報告する.症例は52歳の女性で,発熱,下腹部痛を主訴に来院した.既往歴は21歳時にSLEを発症し,副腎皮質ステロイドの内服治療を受けていた.CTで腹腔内遊離ガス像を認め,消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した.術中所見では,横行結腸背側の腸間膜に便汁が貯留し,横行結腸に3cm大の穿孔部を認め,Hartmann手術を施行した.病理所見では,血管炎および血栓形成はみられなかったため,特発性大腸穿孔と診断した.術後135日目に再度腹痛を訴え,CTで人工肛門近傍の腸間膜内に便の貯留像を認め,消化管穿孔の診断で緊急手術を施行した.術中所見では,横行結腸背側の腸間膜に便汁が貯留し,人工肛門より5cm口側の横行結腸に2cm大の穿孔部を認め,結腸右半切除,回腸人工肛門造設術を施行した.病理所見では前回と同様であり,特発性大腸穿孔と診断した.
  • 古畑 智久, 西舘 敏彦, 山口 洋志, 沖田 憲司, 計良 淑子, 伊東 竜哉, 平田 公一
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2324-2327
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.主訴は腹部膨満感および下痢.近医にてS状結腸狭窄を指摘され,手術目的に当科紹介となる.大腸内視鏡検査では,S状結腸に多発する憩室を認め,同部位は約15cmにわたり著明に狭窄していた.入院時の血液検査では,血清carbohydrate antigen(CA)19-9値(基準値37U/ml)が1894.0U/mlと異常高値を示した.消化管,膵胆道系の悪性腫瘍の合併を疑い,精査を施行するもS状結腸憩室症による腸管狭窄以外に異常所見を認めなかった.S状結腸憩室症による腸管狭窄および同部位に潜在する結腸癌の可能性から手術適応と判断し,腹腔鏡補助下S状結腸切除術を施行した.摘出標本の病理組織学的所見は,粘膜下層の線維化,固有筋層の肥厚を認めたが,腫瘍性病変は存在しなかった.CA19-9免疫染色では,陰窩上皮に陽性細胞を認めた.術後血清CA19-9値は経時的に低下し,術後約4カ月後には29.7U/mlまで減少したことから術前の異常高値は,S状結腸憩室部からのCA19-9産生によるものと考えられた.
  • 信藤 由成, 中山 裕行, 楊 知明, 和田 征大, 中村 友哉, 岡村 隆仁
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2328-2331
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    今回われわれは腹壁に二次口を有する極めて稀な坐骨直腸窩痔瘻の1例を経験したので報告する.症例は82歳男性.主訴は発熱で腹壁から膿性排液を認めていた.MRI検査を中心とした術前検査で坐骨直腸窩から会陰皮下を走行して腹壁に二次口を開口した坐骨直腸窩痔瘻と診断した.MRI検査は痔瘻の走行診断に非常に有用であり,今回のような稀な走行であっても適切な治療方法の選択に役立つと考えられた.
  • 福岡 達成, 西口 幸雄, 井上 透, 山下 好人, 有本 裕一, 池原 照幸
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2332-2337
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は41歳,女性.妊娠28週目に腹痛を認めたため,前医を受診した.精査にて横行結腸癌を疑われたため,当科紹介となった.大腸内視鏡検査にて横行結腸腫瘍を認め,生検にてtub2と診断された.明らかな遠隔転移は認めなかったため,産科医および小児科医との相談の上,妊娠29週であることから,帝王切開術および横行結腸切除術を施行した.帝王切開にては1,280gの女児(Apgar score 8/9)を出産した.病理組織検査にて横行結腸癌(tub2,ss,n2,ly0,v1,H0,P0,M0,Stage IIIb)と診断した.妊娠中に消化器癌を合併する頻度は非常に少なく,なかでも大腸癌は妊娠10万例に1~2例といわれ,非常に稀である.治療方針は妊娠時期や患者および家族の意思を考慮する必要がある.今回妊娠中に切除した横行結腸癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 豊川 貴弘, 山本 篤, 山下 好人, 井上 透, 池原 照幸, 西口 幸雄, 井上 健
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2338-2343
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,男性.不消化性の下痢,曖気の精査加療目的で入院となった.腹部CTで下行結腸~脾彎曲にかけて13cm大の腫瘤性病変を認めた.下部消化管内視鏡検査では下行結腸に隆起を主体とする5型病変を認め,ファイバーは潰瘍底より容易に胃内へと挿入された.腫瘍からの生検で高分化型腺癌と診断された.胃結腸瘻を形成した進行下行結腸癌と診断し,左半結腸切除術,D3リンパ節郭清,胃全摘,膵尾部・脾臓合併切除術を施行した.最終診断はmuc,si,n0,ly0,v0,ow(-),aw(-),stageIIで,手術根治度Aであった.われわれは内視鏡が通過することで診断できた胃結腸瘻を形成した下行結腸癌の1例を経験したので,自験例を加えた本邦報告25例の集計および文献的考察を行った.
  • 木原 一樹, 小池 直人, 大島 祐二, 武内 俊章, 有田 誠司, 渡橋 和政
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2344-2347
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    Segmental arterial mediolysis(以下SAM)は,腹部内臓動脈破裂の原因疾患として報告数が近年増加している.症例は48歳男性.突然の上腹部痛で発症.CTで後腹膜に広範なhigh density areaを認め,後腹膜血腫を疑ったが,CTで明らかな出血源は特定できなかった.保存的治療で症状の軽快,後腹膜病変の縮小を認めつつあったが,十二指腸の浮腫による通過障害,急性胆嚢炎を発症した.出血源特定のため血管造影検査を施行したところ,前下膵十二指腸動脈に動脈瘤を認めた.臨床所見,造影所見からSAMによる動脈瘤の破裂と診断し,動脈瘤に対してコイル塞栓術を行った.破裂すると救命困難なことに加え,どの内臓動脈にも起こりうるため症状が多彩で診断は必ずしも容易ではないが,画像診断を適切に用いて迅速な診断,治療方針決定をすることが重要であると考えられる.
  • 林谷 康生, 村上 義昭, 上村 健一郎, 首藤 毅, 末田 泰二郎
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2348-2353
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は53歳,女性.急性胆嚢炎に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術施行,経過良好で退院したが術後6日目に上腹部痛出現,汎発性腹膜炎の疑いで再入院となった.腹腔穿刺で胆汁性の腹水を確認し,術後胆管損傷を考え内視鏡的逆行性胆管造影行い胆嚢管と右肝管を交通する副交通胆管枝から造影剤の漏出を認めた.胆嚢摘出後の副交通胆管枝損傷による胆汁漏と診断し,内視鏡的経鼻胆道ドレナージを留置して保存的に軽快した.副交通胆管枝は胆道走行異常のひとつであるが,主要な胆管の間を交通している胆管様構造物で正常の胆管と環状構造を形成している.環状構造の一部に胆嚢管が含まれる症例では胆嚢摘出術に際し術前のDIC-CTなどで胆道の分岐形態を確認した上で胆嚢管の切離線を決定しなければならない.
  • 米田 晃, 岡田 和也, 梶山 實香, 岸川 博紀
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2354-2359
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性.上腹部痛を主訴に当院救急搬送となった.入院時の腹部CTで胆嚢周囲の腹水を認めた.12時間後の腹部CTで腹水の増加と身体所見の悪化を認め緊急手術を施行した.胆汁性腹水の貯留と胆嚢穿孔を認め胆嚢摘出術を施行した.病理検査では胆嚢体部に部分的な全層性壊死を認めた.胆嚢内に結石を認めず,胆嚢の炎症所見もなく,腹水培養検査は陰性で特発性胆嚢穿孔と診断された.
    胆嚢穿孔はほとんどが胆石症や急性胆嚢炎によるものであり,それらの原因を認めない特発性胆嚢穿孔は比較的まれで,自験例を含め本邦で36例しか報告例がない.文献的考察を加え報告する.
  • 小倉 俊郎, 中村 典明, 入江 工, 田中 真二, 有井 滋樹
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2360-2364
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,女性.灰白色便,心窩部痛を主訴に近医を受診.中部胆管腫瘍による閉塞性黄疸の診断でERBDを留置され,手術目的に当院紹介入院.血液検査所見では肝胆道系酵素の上昇を認め,腫瘍マーカーはCA19-9とDUPAN-2が異常高値であった.腹部造影CTでは中部胆管に造影効果を伴う壁肥厚像を呈し,術前診断は中部胆管癌で,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行.病理組織学的検索にて腫瘍はchromogranin A陽性,synaptophysin陽性であり,胆管原発内分泌細胞癌と診断した.術後は補助化学療法は施行せず,9カ月無再発生存中である.胆管原発内分泌細胞癌は非常にまれな腫瘍であり,また予後不良な腫瘍とされている.本邦の報告例および,近年報告されている治療法を含め,文献的考察を加え報告する.
  • 高良 慶子, 田中 真紀, 磯辺 眞, 篠崎 広嗣, 山口 美樹, 村田 一貴, 中島 収
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2365-2369
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    今回われわれは腎癌手術後9年目に胆嚢転移をきたした症例を経験したので報告する.症例は74歳男性.9年前に右腎細胞癌の診断にて右腎摘出術を受けた.腎癌術後5年目に肺転移をきたし,加療中であった.今回腹部造影CTにて胆嚢底部に強い造影効果を伴う約11mmの有茎性腫瘤を認めた.腹部エコー検査では胆嚢底部に11×8mmの低エコーの充実性腫瘍を認めた.肺転移もあることより腎癌からの胆嚢転移を疑った.診断的加療目的に腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った.組織学的に明細胞癌であり,また免疫組織染色ではCEA,EMA,CK7では陰性であり,vimentinにのみ陽性を示した.以上より腎細胞癌の胆嚢転移と診断した.腎細胞癌よりの転移性胆嚢癌は本邦報告17例と極めて稀であり,文献的考察を加えて報告する.
  • 飯塚 一郎, 青柳 信嘉
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2370-2374
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は50歳,女性.胆嚢頸部原発の胆嚢癌で,総胆管周囲に浸潤,総肝動脈沿線,上腸間膜動脈起始部,大動脈周囲(#16a2)のリンパ節が一塊となって膵頭部に浸潤固着していたため,幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を行った.肝左葉の1個の転移を切除した.3年10月後大動脈周囲リンパ節(#16b1)の単独の再発を切除した.2回の手術の術後それぞれ,5Fuとシスプラチンによる化学療法を実施した.初回手術後15年健存中である.T4N3H1のStageIVbの高度進行胆嚢癌の術後長期生存例の報告は少なく本症例の特徴を示しつつ症例報告する.
  • 飯澤 祐介, 根本 明喜, 勝峰 康夫
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2375-2378
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は22歳,女性.交通事故で当院に搬送された.来院時,腹部全体に圧痛を認めたが,腹膜刺激症状は認めなかった.腹部CTで膵頭部損傷,肝損傷,腹腔内出血を認め,保存的治療を開始した.入院翌日に施行した腹部CTで,右腎周囲の後腹膜腔の液貯留と,腹水の増加を認めたので,受傷38時間後に緊急手術を施行した.術中所見では,後腹膜腔に胆汁の貯留と,膵管損傷,膵内胆管損傷を伴った膵頭部損傷を認めた.また肝外側区域に深さ4cmの実質損傷と,十二指腸下行部に挫傷を認めた.患者の全身状態は安定していたため,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.膵液漏は認めず,術後46日目に退院となった.
  • 杢谷 友香子, 長谷川 順一, 三方 彰喜, 金 鏞国, 川野 潔, 根津 理一郎
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2379-2383
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    膵十二指腸動脈瘤は稀な疾患であるが,近年の画像診断の進歩とともに発見される機会が増加している.われわれは膵十二指腸動脈瘤に対し腹腔鏡下手術を施行し,良好な経過を得た症例を経験したので報告する.症例は67歳,男性.腎嚢胞および高血圧症にて内科通院中にスクリーニングCTを施行したところ十二指腸近傍に径30mm大の動脈瘤が発見された.3D-CT血管撮影像にて胃十二指腸動脈の末梢側に動脈瘤が確認され,膵十二指腸動脈領域に発生した真性動脈瘤と診断した.治療は低侵襲性と長期成績とを考慮して腹腔鏡下動脈瘤切除術を行った.周術期合併症は認めなかった.術後2年5カ月現在,腹部症状を認めることなく外来で経過観察中である.仮性動脈瘤や破裂例を除く膵十二指腸動脈瘤に対して腹腔鏡下動脈瘤切除術は,安全で効果的な治療法の一選択肢として考えられた.
  • 吉敷 智和, 柳田 修, 正木 忠彦, 森 俊幸, 杉山 政則
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2384-2388
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    膵頭十二指腸切除術後の膵瘻は治療に難渋する合併症である.今回,われわれは非観血的内瘻化術が有効であった完全外膵瘻の1例を経験したので報告する.症例は73歳男性で十二指腸乳頭部腺腫に対し膵頭十二指腸切除術を施行した.経過良好で術後17日に退院し,完全外瘻化の膵管チューブは外来での抜去を予定した.その後,膵管チューブの屈曲のため排液が停止したが放置されていた.術後30日目に,膵空腸吻合部縫合不全・膿瘍形成がみられ,経皮的ドレナージを施行した.膿瘍腔と空腸の交通はなくドレナージ後も純粋膵液排出が持続し完全外瘻と診断した.ドレナージ後115日目に瘻孔から挿入した内視鏡で膵実質空腸漿膜筋層縫合糸を確認することで安全に吻合部近傍の空腸を穿刺し,内瘻化チューブを留置した.留置後8日目にチューブをクランプし,78日目に抜去した.内瘻化術後4年後の現在,主膵管の軽度拡張のみで膵炎症状や,耐糖能異常はなく良好に経過している.
  • 福島 正之, 森田 高行, 藤田 美芳, 岡村 圭祐, 市村 龍之助, 中山 智英
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2389-2393
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    急性膵炎後に輪状膵・膵癌を発見された2症例を経験したので報告する.症例1:71歳,男性.急性膵炎の診断で当院入院.CT検査で輪状膵・膵鉤部に30mm大の嚢胞性病変を認め,内部に結節影を認めた.十二指腸下行脚に狭窄を認めたが,ERP検査施行可能で,十二指腸を取り巻く膵管が造影された.輪状膵を伴った膵管内乳頭粘液性癌(intraductal papillary-mucinous carcinoma;以下,IPMC)と診断し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除(subtotal stomach-preserving pancreaticoduodenectomy;以下,SSPPD)を施行した.病理診断は,微小浸潤を伴ったIPMCであった.症例2:72歳,女性.急性膵炎の診断で入院加療.CT検査で輪状膵と膵頭部に20mm大の腫瘍性病変を認めた.十二指腸下行脚の狭窄あり,ERP検査は不可.輪状膵を伴った膵管癌疑いでSSPPD・上腸間膜静脈合併切除を施行.病理診断は,浸潤性膵管癌であった.
  • 田村 周太, 木村 真士, 高田 暢夫, 山崎 泰源, 渡邊 良平, 大朏 祐治
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2394-2399
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は45歳,男性.黄疸,発熱を主訴に来院.臍部を中心に巨大な腫瘤を触知し,高度な白血球増多および貧血,閉塞性黄疸を認めた.肝外胆管閉塞を伴う膵頭部~十二指腸下行脚の巨大腫瘍で,生検で上皮系の未分化な悪性腫瘍と診断された.慢性骨髄性白血病の腫瘤形成型急性転化も考えたが骨髄穿刺やNAPスコアは正常で,十二指腸もしくは膵頭部原発の悪性腫瘍を考えSSPPDを行った.膵頭部~十二指腸内を占める巨大な腫瘍で膵外に突出し,膵内胆管および十二指腸に直接浸潤していた.病理所見は退形成性膵管癌で免疫染色で一部G-CSFが陽性であり,白血球数著増と併せG-CSF産生性退形成性膵癌と診断した.
    術後は約2カ月で肝転移,大動脈周囲リンパ節転移が出現,術後約9カ月で死亡した.
  • 野竹 剛, 中山 中, 竹内 信道, 辻本 和雄, 伊藤 憲雄, 高砂 敬一郎
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2400-2404
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.63歳時に肺小細胞癌に対して右肺上葉切除術が施行された.術後約1年3カ月後より血清ProGRP値の漸増を認め,局所再発および遠隔転移の検索目的にFDG-PETを施行したところ膵体部に2箇所の異常集積を認めた.腹部造影CTでは膵体尾部に2.0cmと1.5cmの境界明瞭で造影効果に乏しい腫瘤を認めた.以上より肺癌の膵転移と診断し,局所再発および膵臓以外への転移を疑う所見を認めなかったことから,膵体尾部切除術を施行した.切除標本には1cmと0.6cmの灰白色を呈する充実性の腫瘤を認めた.病理組織診断はsmall cell carcinomaで肺小細胞癌の膵転移に矛盾しなかった.膵切除後1年9カ月後に脳転移をきたし,3年6カ月後に永眠された.転移性膵腫瘍は一般的に予後不良とされ,腎癌からの転移以外では外科的切除の対象となるのはまれである.しかし本症例のように肺小細胞癌原発であっても積極的切除が予後の改善につながる可能性が示唆された.
  • 井上 諭, 北島 正親, 橋本 敏章, 伊藤 裕司, 古井 純一郎
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2405-2409
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.2010年3月頃より左陰嚢腫大を自覚していた.次第に大きくなり,排尿困難となったため5月近医を受診.鼠径ヘルニア疑いで当科を紹介された.無痛性の左陰嚢腫大を認め,徒手還納を試みるも不可能であった.陰嚢腫瘍を疑い精査を行った.腹部CT検査,腹部造影MRI検査にて,陰嚢内に限局し後腹膜と連続しない脂肪を主体とした巨大な腫瘍が認められた.急速に増大した臨床経過から左陰嚢脂肪肉腫を疑い,左陰嚢腫瘍摘出・高位精巣除去術を施行した.腫瘍の大きさは約30×17×12cmで,重さは1,300gであった.術後病理組織検査にて高分化型脂肪肉腫と診断された.術後10カ月が経過した現在,再発の徴候は認められない.
  • 福留 惟行, 駄場中 研, 岡本 健, 並川 努, 小林 道也, 花崎 和弘
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2410-2414
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    Ewing肉腫(以下,ES)と末梢性未分化神経外胚葉性腫瘍(peripheral primitive neuroectodermal tumor,以下,pPNET)は主に小児から若年者にみられる骨原発の悪性腫瘍であり,まれに軟部組織からの発生も報告されている.従来,ESとpPNETは形態学的な類似点を指摘されながら,別々の腫瘍として扱われていた.2002年の新WHO分類において,両者は種々の程度に神経外胚葉への分化を示す円形細胞からなる同一の腫瘍として定義され,ES/pPNETとして1項目に分類された.軟部組織から発生したES/pPNETの発生部位の多くは傍脊柱領域,四肢,胸腔内である.今回,われわれは腹腔内に発生したES/pPNETの2例を経験した.本邦での報告は,医学中央雑誌で検索した限りでは,自験例を含め12例と極めてまれであり文献的考察を加え報告する.
  • 奥村 晋也, 政野 裕紀, 西内 綾, 古山 裕章, 吉村 玄浩, 楠 直明
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2415-2419
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    今回われわれは腹部造影CT検査にて術前診断し,腹腔鏡下に切除しえた大網捻転症の1例を経験したので報告する.症例は45歳女性で,5日前からの右下腹部痛を主訴に当院を受診した.来院時,右下腹部に手拳大の硬い腫瘤を触知し,同部位に著明な圧痛を認めた.腹部造影CT検査にて大網捻転症と診断し,同日,緊急腹腔鏡下手術を施行した.手術所見では,血性腹水を中等量認め,右下腹部の大網が反時計方向に4回転捻転し,末梢側の大網は壊死に陥っていた.大網壊死部分を切除した.術後経過は良好で,術後6日目に退院した.大網捻転症は比較的まれな疾患であり,術前診断は一般に困難であるとされている.本症例では,腹部造影CT検査にて術前診断が可能であり,腹腔鏡下手術が治療に有用であった.
  • 古屋 信二, 須貝 英光, 三井 照夫, 小山 敏雄
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2420-2424
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は49歳,女性,開腹歴・家族歴に特記事項なし.検診の腹部超音波検査で腹腔内腫瘍を指摘され当院を受診した.大腸内視鏡検査では結腸肝弯曲に壁外性の圧迫と粘膜の陥凹を認めた.注腸検査では結腸肝弯曲に壁外性の圧迫と粘膜の陥凹を認めた.CT検査では結腸間膜に6cmの腫瘍を認めた.以上より,腸間膜GISTの疑いで結腸部分切除術を施行した.病理学的所見では,α-SMA,CD34,S-100蛋白,c-kitは全て陰性であったが,β-cateninは陽性であった.以上より結腸間膜原発のデスモイド腫瘍と診断した.
    デスモイド腫瘍は若年女性に多い線維性軟部腫瘍である.また,デスモイド腫瘍は家族性大腸腺腫症・Gardner症候群や開腹手術の既往例に発生することが多く,これらを伴わない症例は稀である.今回,家族性大腸腺腫・Gardner症候群の合併や腹部手術既往のない結腸間膜原発デスモイド腫瘍の1切除例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
  • 上田 吉宏, 榎本 直記, 本山 一夫, 大野 玲, 廣川 勝昱, 倉田 盛人
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2425-2430
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例はアスベスト曝露歴を有した70歳男性.2008年5月下旬に下腹部膨満を主訴に来院.大量の腹水貯留が見られるも,腹膜播種をきたしうる原発巣は検出されず,腹水ドレナージ後に審査腹腔鏡を施行.腹膜全体に白色の小結節を無数に認め,同病変の病理検査の結果,中皮腫の診断となった.胸膜中皮腫の合併はなかったが,その治療に倣い6月よりPemetrexed+CDDP療法を開始.一時的に効果を得たが,5クール後に腹水増加など見られProgressive diseaseの状態となった.以降,各種化学療法を順次行ってきたが病勢が進行し,診断から約15カ月後に死亡した.比較的稀な疾患である腹膜中皮腫に対するPemetrexedの使用経験を中心に文献的考察を加えて報告する.
  • 吉松 軍平, 新谷 史明, 阿部 道夫, 川口 信哉, 篠田 雅央, 海野 倫明
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2431-2436
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は79歳,男性.平成19年9月から下肢の浮腫が出現したため近医を受診.腹部の巨大な腫瘤を指摘され,当科に紹介となった.腹部は著明に膨満し,腹部全体に広がる固い腫瘤を触知した.腹部超音波検査では境界明瞭なmosaic patternを呈する径20cm大の腫瘍として,腹部CT検査では上/下腸間膜動脈をそれぞれ右/左に強く圧排する低吸収域の巨大腫瘍として認められた.巨大後腹膜腫瘍の術前診断にて手術を施行.腫瘍の他臓器への浸潤は無く,遺残なく全摘出できた.摘出標本の大きさは27×27cm,重量は6,900gであった.病理組織診は,高分化型脂肪肉腫のsclerosing typeであった.術後経過は良好で,第10病日に退院した.術後化学療法は行わず,現在術後3年が経過したが,今のところ再発の兆候を認めていない.
  • 坂田 好史, 有井 一雄, 木下 博之, 山口 俊介, 森 一成
    2011 年 72 巻 9 号 p. 2437-2441
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/03/25
    ジャーナル フリー
    症例は78歳,女性.早期胃癌に対する治療目的のため,当院へ紹介され,腹腔鏡補助下胃切除術(以下LADG)を施行した.術後第4病日に嘔気,嘔吐,左下腹部痛が出現したことから施行した腹部CT検査により左側腹部の12mmポートサイトでのヘルニアによるイレウスと診断し,同日,再手術を施行した.ポートサイトの皮膚切開を30mmまで延長し皮下を分け入ると,直下に脱出した小腸を認めたため,これを腹腔内に還納し,腹膜,筋膜をそれぞれ寄せ合わせ,閉創した.その後は経過良好でイレウスの再発を認めていない.
    ポートサイトヘルニアでは早期には腹部体表の隆起が認められず,イレウスの原因を特定することの困難なことが多い.このような場合でも腹部CT検査は早期にポートサイトヘルニアと診断でき,有用である.
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