最速で最善の答えを導き出せると,統計学が今,注目を浴びている。しかしどのようなデータを,どう分析し,どう生かしていくか,明確にわかっている人は少ないのではないだろうか。そこでまず,偏りを避け客観的な結果を導くランダム化比較実験(ランダム化比較試験)や,日本の高品質生みの親・デミング博士のマネジメントの根幹となった統計学を紹介する。そして実践編として,リサーチデザインを駆使し,仕事に生かせるデータ分析の理想サイクルを作る方法を伝授する。
政府が行っている統計調査の結果は,Excel等のファイルを中心に政府統計の総合窓口(e-Stat)というWebサイトで一元的に提供されている。しかし,従来の報告書をベースにしたExcelファイルが多数あり,データの抽出などが困難な状況となっている。これを解消するためにデータベース化を進め,プログラムから直接データを取得できるAPI機能の提供も行ってきた。そして,統計データの利活用をさらに高度にすることを目的として,オープンデータでは最も優れているといわれるLinked Open Data(LOD)での提供を2016年から開始した。本稿では,政府統計のデータ提供の現状を説明するとともにLODによる統計データの提供について,その設計等の考え方,利用方法などを中心に説明する。
最先端のシミュレーション・センシング・ICTを統合し,津波発生直後のきめ細かな津波情報や,迅速な被害情報の推計・把握と配信を通じて被災地を支援し,災害に対するレジリエンス(回復力)の向上とわが国の国土強靱化に資する,世界最先端のG空間防災モデルを確立した。スーパーコンピューターの活用により,沿岸部10mメッシュ分解能でのリアルタイム津波浸水予測(浸水する範囲と深さの予測)を可能とし,その予測とG空間情報の活用による建物被害予測を,地震発生から20分以内を目安に完了させ,実証自治体での災害対応の基盤情報に組み込んだ他,準天頂衛星からのメッセージ送信や災害に強いワイヤレスネットワークを活用し,住民等の利用者に対して確実に情報を配信するシステムを構築した。東北地方の津波被災地,南海トラフ巨大地震による被害が想定される自治体において本システムの実証実験を行い,システムの活用性を高めることができた。
ボランティアで運営されているインターネット上のデジタルテキスト・アーカイブである青空文庫は,その主たる形式として,テキストファイル(拡張子.txt)を扱っている。本稿では,テキストファイルに施す青空文庫独自の注記や,作業にまつわる問題点や解決法,そのほかテキストファイルの利点などを,その歴史的な経緯や今後の展望とともに解説する。とりわけJIS漢字コードと,書籍の体裁や組み版の情報を残すための注記を,いかに整理して効率的に運用するかが課題であり,そのためのツールや資料が各種開発されたことを概説するものである。
近年,大規模書誌情報データベースを対象とした科学計量学の研究が盛んに行われている。そのため,論文や特許,研究データの分類やクラスタリング,検索のため科学技術に関するシソーラスの重要性が増している。科学技術振興機構(JST)では,1975年からJST科学技術用語シソーラス,また2005年からは関連する大規模用語辞書の構築・改訂を進めてきたが,今回,合わせて約24.5万概念を含む両者を国際標準化団体W3Cが規定するResource Description Framework形式のLinked Dataに変換し,期間限定で公開した。本稿では,まずJSTシソーラスおよび大規模辞書の概要,およびLinked Data版の特徴や有用性について述べる。そして,さまざまなドメインオントロジーをつなぐハブとなるトップレベルオントロジーとしての位置付けについて考察し,オントロジー的観点から概念間の関係性の再整備を進めているライフサイエンスカテゴリーにおける取り組みを紹介する。最後に今後の取り組みとして自然言語処理技術による半自動的なシソーラス保守・整備作業の可能性について触れる。
インターネットの利便性をこれまでになく享受し,ネット上に拡散する情報の力が革新的な発想を後押しすることも多い21世紀初頭は,同時に情報漏えいや権利侵害,依存といった弊害や危うさを露呈し始めた時代でもある。不可視だが確実に存在する脅威,ネットにつながっているゆえの不自由さをも見極める必要がある。現代の環境を冷静に認識し,今起きていることに対してどうふるまうべきか。現代思想・法曹・警察行政・迎撃技術・情報工学・サイバーインテリジェンス等のスペシャリストが,6回に分けて考える。
最終回は,防衛省で陸上自衛隊初のサイバー部隊の初代指揮官を務め,その後,民間セキュリティー大手へ,そして今また経産省へと転身した伊東寛氏が,日本のセキュリティー産業育成について語る。インテリジェンスの観点から,また,国家安全保障上の視点からみえてくるサイバーセキュリティーの未来像とは何か。