医療情報の標準化は相互運用性実現の手段の一つで,効率化が喫緊の問題になっている社会保障においては実現しなければならない最重要項目といえる。日本では医療情報システムの普及は1950年代に始まり,諸外国に比べてかなり早かった。当時は事務処理の合理化がIT化の主目的であり,医療情報の標準化は重視されなかった。このようなシステムの普及が医療情報の利活用のための標準化の普及を遅らせたことは否めない。しかし,データ指向社会においては医療情報の利活用は社会保障の合理化のためだけでなく,創薬,医療機器開発,医療周辺産業の発展のためにも必須で,標準のさらなる普及が急がれる。
本稿では,近年,研究が発展している「分子ロボティクス(分子ロボット工学)」について,基礎から最新の動向まで解説する。分子ロボットは,情報分子DNAを利用したナノテクノロジーであるDNAコンピューター・DNAメモリー・DNAナノ構造形成等の生体分子情報技術を基礎にしており,生体内での計算や,診断・治療,人工細胞構築,大容量分子メモリー,脳型コンピューター開発などへの応用が期待されている。DNAにあまり触れたことのない読者を想定し,本分野を理解するために必要なDNAナノテクノロジーやDNAの塩基配列設計の基礎を簡潔に説明した後,最近の注目研究の動向に加え,われわれの研究グループが近年研究を進めている,DNA分子とマイクロ水滴を利用した,細胞型分子ロボット(人工細胞)の構築を詳しく解説する。
持続可能な海洋の保全や水産資源の利用・開発には,衛星リモートセンシングや海洋GISを利用した海洋空間の利用・管理が不可欠である。本稿では,これまで開発した衛星リモートセンシングやデータ同化モデルを利用した水産海洋情報システムを概観した。アカイカやスルメイカの短期のピンポイント漁場予測システム,ホタテガイ最適育成海域モデルを紹介した。さらに,気候変動モデルによる中長期のアカイカ漁場予測を紹介した。これらの一連のシステムが持続可能な水産資源管理に貢献し,スマート水産業へ発展し,今後の方向性として,AIやIoTの利用についても言及した。漁具に設置されたIoTセンサーにより蓄積される水産ビッグデータの解析から,漁業者の勘と経験の暗黙知から形式知へとすることができ,後継者問題も解決につながることを期待したい。
インターネットという情報の巨大な伝送装置を得,おびただしい量の情報に囲まれることになった現代。実体をもつものの価値や実在するもの同士の交流のありようにも,これまで世界が経験したことのない変化が訪れている。本連載では哲学,デジタル・デバイド,サイバーフィジカルなどの諸観点からこのテーマをとらえることを試みたい。「情報」の本質を再定義し,情報を送ることや受けることの意味,情報を伝える「言葉」の役割や受け手としてのリテラシーについて再考する。
第7回は,情報が日用品の一つといえるほど当たり前となった今,米国の「創造博物館」を例に「遊戯性」という観点から,社会における情報のありようを解説する。