アニマル・セラピーを参考に開発されたアザラシ型ロボット「パロ」は,米国では「神経学的セラピー用医療機器」の承認を得た初めての医療ロボットで,認知症,発達障害,精神障害,PTSD,脳機能障害,がん患者等を対象として,30か国・地域以上で約5,000体が利用されている。世界各地での治験等により,パロとの触れ合いが,人の気分を向上させ,不安,うつ,痛み,孤独感を改善することが示された。認知症者の場合には,徘徊,暴力・暴言等の問題行動を抑制・緩和する。また昼間に傾眠する人がパロと触れ合うと覚醒し,夜間によく眠れ,昼夜逆転を改善,夜間の起き出しを減らす。これらは介護者の負担を軽減し,転倒等のリスクを低減する。さらに副作用がない「非薬物療法」として,各種抗精神病薬の投薬を低減する,全く新しい医療福祉サービスである。
現在,大型トラックによる自動運転隊列走行システムや一般道での完全自動運転を目指した技術開発が行われている。本稿では現在国内外で研究開発されている自動運転車の現状を紹介するとともに,近年目覚ましい技術進化を遂げているディープラーニング等のAI技術や3次元デジタル道路地図とセンシング技術を融合したローカルダイナミックマッピング技術等の技術開発動向について,前回の執筆から2年以上が経過したため,2017年4月現在の最新情報を取りまとめた。
自動運転が実用化段階を迎えつつある。しかし,特に完全自動運転を実用化するに当たっては,さまざまな法制度上の課題に対応しなければならない。自動運転技術は事故を減らすだろうが,ゼロにすることは絶対にないから,事故が起きたときの法的責任の所在も論じられなければならない。本稿では,自動運転技術が直面することになる法制度上の課題を概観するとともに,対応策の方向性について,提案を行う。
サービスの価値の全体最適化を図るには,各サービス受容者のパーソナルデータを複数のサービス提供者が共有して協調する必要がある。その共有を実現するため,データの提供者と利用者以外の運用者が介在する集中方式が従来は用いられてきたが,介在者のいない分散方式の方がはるかに安全かつ安価でスケーラブルである。中でも特に安価でスケーラビリティの高い仕組みであるPLR(Personal Life Repository)について述べ,その応用および応用の可能性に触れ,さらに関連する世界の動向を概観する。
現在,オープンデータの取り組みは世界的に広がりをみせており,実際の利用例の開拓を目的としたコンテストは注目を浴びている活動の一つである。日本国内で最初期から活動を継続しているコンテスト「Linked Open DataチャレンジJapan」は,Linked Dataに力点を置いているだけでなく,協賛者のデータを使った応募作品を作るハッカソン等イベントを共催で開催できる特典をスポンサーに用意するなど特色ある制度が存在する。本稿では,コンテストの運営者の視点に加えて,スポンサー・データ提供で協賛したデータ提供者の両方の視点から,コンテスト形式でのオープンデータ普及活動の実例を紹介する。LODチャレンジのこれまでの歩みと2016年の開催報告,JST(科学技術振興機構)との共催のイベント開催の様子とコンテストにデータを提供することのメリット,そして今後の展望と課題について述べる。
インターネットという情報の巨大な伝送装置を得,おびただしい量の情報に囲まれることになった現代。実体をもつものの価値や実在するもの同士の交流のありようにも,これまで世界が経験したことのない変化が訪れている。本連載では哲学,デジタル・デバイド,サイバーフィジカルなどの諸観点からこのテーマをとらえることを試みたい。「情報」の本質を再定義し,情報を送ることや受けることの意味,情報を伝える「言葉」の役割や受け手としてのリテラシーについて再考する。
第2回は各言語のWeb上におけるプレゼンスを計測する「言語天文台」の構想について,言語間デジタル・デバイドについて,情報伝達における「母国語」の役割と多言語社会について考える。