日本気管食道科学会会報
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60 巻, 6 号
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原著
  • 那須 隆, 小池 修治, 野田 大介, 石田 晃弘, 青柳 優
    2009 年 60 巻 6 号 p. 457-463
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル 認証あり
    1993年から2007年までに当科において一次治療を行ったIII期・IV期喉頭癌64例を対象に,予後に関する治療成績と影響を与える要因,喉頭保存治療の適応について検討した。
    疾患特異的5年生存率からみた治療成績では,IV期症例で62.3%,声門上癌で65.2%,喉頭温存治療例で54.2%であり,III期症例,声門癌,喉頭摘出治療例に比較し有意に低い値であった。根治例における声門癌と声門上癌の比較では,初診時頸部転移陽性の声門上癌で,喉頭温存治療症例で有意に予後不良であった。
    治療内容や死亡症例の検討から,予後不良の声門上癌,初診時頸部転移陽性症例では,喉頭全摘術による十分な局所治療と頸部郭清術が必要であり,遠隔転移に対する予防策を考慮すべきと考えられた。
    生命予後の良好であったIII期の声門癌については,喉頭保存率を高めるため積極的に喉頭温存治療に取り組むべきであると考えられた。
  • 近藤 貴仁, 中村 一博, 塚原 清彰, 長谷川 剛, 清水 雅明, 吉田 知之, 鈴木 衞
    2009 年 60 巻 6 号 p. 464-469
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル 認証あり
    欧米では,頭頸部癌術後追加治療としてCDDP併用放射線療法を行うことで5年生存率が向上したとの報告があり,術後補助療法として標準的に行われている。しかし本邦では,その治療法は確立されていない。今回,頭頸部癌術後に追加放射線療法を行った18症例 (内訳はCDDP併用群8例,放射線単独群10例) をレトロスペクティブに比較検討した。対象は2000年6月から2008年12月までの間に当科にて頭頸部癌手術を行い,ハイリスク群 (術後病理検査で3個以上のリンパ節転移のある症例,切除断端陽性または近接症例,転移リンパ節の節外浸潤のある症例) であった18症例で,治療完遂率と有害事象について検討した。両群いずれも予定照射量を全例完遂可能であった。総線量,分割回数,総日数とも両群間で有意の差はなかった。CDDP投与完遂率は,8例中6例で75.0%であった。Grade 3以上の有害事象の発生率に関しては,統計上,両群間で有意差は認めなかった。白血球減少はCDDP併用群に多い傾向があった。現在の術後CDDP併用放射線療法を継続し,今度,局所制御率や5年生存率等の長期成績について検討する予定である。
  • 加藤 央, 木村 美和子, 熊谷 譲, 田山 二朗
    2009 年 60 巻 6 号 p. 470-475
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル 認証あり
    外科的気管切開術は,気管と皮膚との縫合を何如にするかで次のように分類される。気管と皮膚とを縫合せず,もしくは気管弁の一部を皮膚と縫合するのみにとどまる,いわゆる気管切開術と,気管孔周囲と皮膚とを縫合する気管切開術,いわゆる気管開窓術である。前者は,比較的短期間の気管孔管理を要する際に,後者は,長期気管孔管理を要したり,カニューレ自己抜管の危険がある場合などに行われる。
    当科において2002年2月から2007年8月までに行われた気管切開術24例,気管開窓術55例,計79症例の検討を行った。
    性別は男性52名,女性27名,平均年齢は57歳であった (1歳から89歳) 。手術に至った病態は,気管切開術群では両側反回神経麻痺,気管開窓術群では長期挿管が最も多かった。平均手術時間は気管切開術群が35分,気管開窓術群は42分であった。1カ月以上,気管孔による気道管理を要した割合は気管切開術群では72.2%,気管開窓術群では100%であった。気管切開術群に比べて気管開窓術群の方が早期・後期ともに合併症の発症率は少なかった。気管孔による長期気道管理が必要な場合には,気管開窓術を選択していくべきである。
症例
  • 田村 悦代, 福田 宏之, 田畑 泰彦, 岡田 信也, 渋谷 正人, 飯田 政弘
    2009 年 60 巻 6 号 p. 476-482
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2009/12/25
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    はじめに:声帯内自家脂肪注入術は,いわゆる声門不全疾患に対するリハビリテーション手術として普及してきた。しかし,注入後の吸収による効果の減弱は避けられず,注入量の決定が困難であった。イヌを用いた動物実験において,低濃度の線維芽細胞増殖因子の投与により注入後の吸収による減量が軽減できることを確認したので,学内の臨床審査委員会の認定を経て臨床応用をおこなった。
    方法:塩基性線維芽細胞増殖因子を,自家脂肪組織に混合して2症例の声帯内に注入し,経時的に観察した。注入後の合併症の有無,効果の持続などについて検討した。
    症例1:33歳,声帯溝症
    症例2:62歳,男性,食道癌術後反回神経麻痺
    結果:現在,いずれの例も術後1年以上経過しており症状は安定している。注入後の脂肪組織の残存量は,脂肪組織のみを注入した従来の方法に比較して,CT画像上,脂肪組織の残存量が多かった。また,注入後に重篤な合併症は認められなかった。
    結論:線維芽細胞増殖因子を脂肪組織に混合して声帯内注入術を施行することによって,注入後に脂肪組織の残存率を改善させることができる可能性が示唆された。
  • 鈴木 洋, 望月 隆一, 川本 将浩, 山本 圭介, 牟田 弘, 塩谷 彰浩
    2009 年 60 巻 6 号 p. 483-488
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2009/12/25
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    喉頭乳頭腫はしばしば再発を認め,また稀に悪性変化を来すことから,治療に難渋する疾患の1つとして知られている。喉頭乳頭腫の治療は外科的手術が中心であり,本邦ではCO2レーザーによる焼灼術が主体である。今回われわれは,大阪ボイスセンターにおいて2006年1月から2009年3月の間,喉頭乳頭腫に対してMicrolaryngoscopy下に手術を施行した12症例18件についてPower Assisted Surgeryを施行した症例を検討した。また喉頭乳頭腫の術前診断でPower Assisted Surgeryを施行し,術後の病理組織診断にて悪性所見を認めた症例についての検討も行った。喉頭乳頭腫に対するPower Assisted Surgeryは有用であり,また,悪性の場合においてもPower Assisted Surgeryは十分対応可能であった。
  • 中村 一博, 渡邊 雄介, 塚原 清彰, 許斐 氏元, 駒澤 大吾, 吉田 知之, 鈴木 衞
    2009 年 60 巻 6 号 p. 489-495
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル 認証あり
    当科では内転型痙攣性発声障害 (SD) に対し,甲状披裂筋切除術牟田法 (TA切除術) と甲状軟骨形成術2型 (2型) をどちらも施行しており,症例に合わせて術式を選択している。今回われわれは,性同一性障害 (GID) による音声障害を有するSD症例の手術治療を経験したので報告する。
    症例は32歳女性である。基礎疾患にGIDがあり,2005年3月に性別適合手術を受け,その後戸籍変更も済ませていた。
    以前より話声位 (SFF) が低いことで悩んでいたが,数年前から声のつまりが出現したため,2007年8月7日に当科を初診した。初診時の音声所見は,モーラ法にて11/21,SFF 133.3 Hz,最低音124.2 Hz,最高音418.2 Hz,MPT 21秒であった。
    患者の希望は“つまりの改善とSFFの上昇”であった。TA切除術はつまりの改善とピッチ上昇どちらも期待できる。まずTA切除術を先行させ,ピッチ上昇効果不十分の際には甲状軟骨形成術4型 (4型) を追加するという手術を予定した。
    2007年10月4日TA切除術を施行した。術後6カ月目の時点で,モーラ法では0/21でつまりは取れたが,SFF 200.1 Hz,最低音151.1 Hz,最高音364.1 Hz,MPT 12秒であり,さらなるSFFの上昇を希望したため,2008年5年27日4型を追加した。4型術後1カ月目には,モーラ法は0/21,SFF 244.8 Hz,最低音213.0 Hz,最高音322.4 Hz,MPT 8秒となった。
    GIDのSD症例に対し手術を施行した。TA切除術はSDの改善に対しては有効であったが,GIDのための低音化音声障害に対しては効果不十分であった。そのため4型を追加し良好な結果が得られた。TA切除術と4型は併施可能な術式であった。
  • 東野 正明, 川上 理郎, 長谷川 恵子, 峰晴 昭仁, 東川 雅彦
    2009 年 60 巻 6 号 p. 496-500
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル 認証あり
    開放性咽頭外傷によって高度舌運動障害を生じた非常にまれな症例を経験した。症例は39歳男性,自宅で転倒し,ガラス戸に頭から突っ込み,頸部に深い裂傷を負った。救急搬送時にはショック状態で気管切開後,閉創した。その後,高度の舌運動障害を認め,構音訓練と嚥下障害を呈した。その後,舌の萎縮を認めるようになったが,構音訓練のリハビリテーションを中心に施行し,発語明瞭度の改善とともに嚥下障害を補うことができた
  • 池谷 洋一, 野中 誠, 臼田 亮介, 桑迫 勇登, 鈴木 隆
    2009 年 60 巻 6 号 p. 501-506
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル 認証あり
    症例は66歳,女性。急性大動脈解離や胸腹部解離性大動脈瘤に対する二回の手術歴がある。二回とも気管切開は施行されていないが,二回目の術後に抜管ならびに経口挿管を三回繰り返されていた。二回目術後1カ月目に呼吸困難感ならびに喘鳴が出現し,当院へ緊急入院となった。気管支鏡では気管に全周性狭窄を認め,気管支鏡の通過は不可能であった。同狭窄部位は,CTにて胸部大血管三分岐再建術の吻合部に一致していた。よって気道狭窄に対する焼灼術は危険と判断,まず拡張用バルーンカテーテルにて狭窄部を拡張させ,細径経口挿管チューブを挿入,その後に気管切開をおき,細い経口挿管用のカフ無しチューブを気管切開部より挿入,狭窄部を通過させた。これにより呼吸困難感は消失し,歩行も食事も可能となった。段階的にチューブを太くしてゆくことにより,シリコンTチューブが挿入可能となり,退院となった。Tチューブ挿入から1年2カ月を経過して,安全に社会復帰を果たしている。本症例のような胸部大血管術後の気道狭窄に対して,バルーン拡張術や段階的にチューブを太くした上でTチューブを挿入することは安全な手法の1つと考えられた。
短報
  • 鈴木 正宣, 大谷 文雄, 松村 道哉, 古田 康
    2009 年 60 巻 6 号 p. 507-511
    発行日: 2009/12/10
    公開日: 2009/12/25
    ジャーナル 認証あり
    コロラドマイクロディセクションニードル®はチップ先端が5ミクロンと極めて鋭利なモノポーラ針である。最長で有効長17.8 cmのプローブもあり,直達喉頭鏡下手術においても使用できる。通常のモノポーラーと同様,止血能に優れ,さらに先端が極めて鋭利であるので周囲組織障害を起こしにくい。また安価であり,汎用されている一般のメスホルダーに接続可能であるため,レーザーに比べ導入は容易である。当科においては直達喉頭鏡下の喉頭蓋嚢胞造袋術,喉頭蓋血管腫切除術,喉頭腫瘍切除術で切開,凝固,止血に使用してきた。コロラドマイクロディセクションニードル®を使用した喉頭微細手術の手技と工夫について述べる。
用語解説
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