日本臨床外科学会雑誌
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61 巻, 5 号
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  • 鷲澤 尚宏, 小林 一雄, 菊池 誠, 戸倉 夏木, 松本 浩, 河野 明彦, 石井 紀行, 小川 勝, 佐藤 行彦, 加瀬 肇
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1107-1113
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃切除術後の骨障害に対する治療方針を決定する目的で,術後6年経過した24症例について, QCT法による骨塩量の変化を検討した.手術時140.52±63.87mg/cm3であった骨塩量は, 108.00±83.38mg/cm3へと有意に減少し,年齢別標準値に対する率も, 139.64±55.11%から119.60±86.46%へと有意に低下していた.閉経の影響を除いた男性15例でも減少しており,このうち5例には3年以上にわたってalfacalcidol (Vitamine D)が投与されていた. menatetrenone (Vitamine K2)を投与した男性9例について骨代謝マーカーの推移を観察したところ,尿中pyridinolin,尿中deoxypyridinolinは一時上昇後,徐々に下降する傾向を示し,血中osteocalcinは徐々に低下した.投与後に骨塩量は増加し,腰痛などの愁訴は消失した.したがって, menatetrenoneは胃切除後の骨障害に対して有効である可能性が示唆された.
  • 木原 実, 横見瀬 裕保, 宮内 昭, 松坂 憲一
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1114-1117
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    甲状腺未分化癌はきわめて予後が不良であり,確立された治療法もないのが現状である.過去14年間に当科で経験した甲状腺未分化癌の治療成績を検討したので報告する.
    1984年から1998年までに462例の甲状腺悪性腫瘍を経験したが,このうち15例(3.2%)が未分化癌であった.この15例のうち偶発未分化癌,転移リンパ節未分化転化を除いたll例を今回の検討対象とした. 10例が死亡, 1例が現在生存中で,平均生存期間は273日, 1年生存率は27.3%であった.単変量解析では完全切除と腫瘍径が有意な予後因子であった.しかし,年齢,性別,リンパ節腫大,遠隔転移,放射線外照射,化学療法については生存期間に有意差はみられなかった.甲状腺未分化癌の治療として現時点においては腫瘍径の小さい症例にはまず完全切除を試みるべきであろう.
  • 西江 浩, 広岡 保明, 貝原 信明, 塩田 摂成
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1118-1122
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    原発性乳癌症例36例におけるリンパ節転移状況を,触診およびdynamic CTを用いて術前診断し,術後の病理組織学的検索結果と比較検討した.触診ではsensitivity 37.5%, specificity 100%, accuracy 72.7%で, dynamic CTではsensitivity 81.3%, specificity 75.0%, accuracy 77.8%であった. Sensitivity, accuracyにおいて触診よりもdynamic CTの方が優れていた. Dynamic CTにおけるリンパ節陽性転移の所見は, (1)造影効果陽性例, (2)左右差があり3ライス以上にわたり出現する約1cmのリンパ節, (3)癒合あるいはspiculaが認められるもの,であった. Dynamic CTによるリンパ節転移の術前予測は,臨床的に有用な補助診断法になりうると思われた.
  • 島津 雄一, 平田 公一, 渋谷 均, 西田 陸夫
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1123-1127
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌に対しAppleby手術を施行され術後15年以上経過した31症例を対象として,長期予後と晩期合併症を検討した.術直死例はなく実測1年生存率(以下生率) 58.1%, 2生率41.9%, 3生率32.2%, 4生率29.0%, 5生率25.8%, 10生率19.4%で, 15年以上を経た生存例は5例ある.生存例5例の内訳としては,平均年齢が64.6歳,占居部位別ではC 2例, CM 3例,肉眼型別で2型1例, 3型3例, 4型1例,組織型別でpor.int2例, por.sci 1例, sig.sci 2例,進行度別でIb (t2, n0) 2例, IIIa (t2, n2) 2例, IVa (t4, n2) 1例(n2の転移リンパ節8a1例, 11番2例)であった.再建法としてはdouble tract 4例, Roux-Y 1例であった.合併疾患としては鉄欠乏性貧血2例,巨赤芽球性貧血3例,糖尿病3例,骨粗鬆症1例である.消化吸収障害は程度の差こそあれ全例に認めた.生存例にn3(+)例はなく,術式の適応としてはC, CM領域でt2, n2までであると考えられた.
  • とくに長期生存例について
    青柳 慶史朗, 孝富士 喜久生, 矢野 正二郎, 村上 直孝, 堀 晴子, 寺崎 泰宏, 武田 仁良, 白水 和雄
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1128-1134
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    当科におけるstage IV胃癌の検討を行いさらにstage IV胃癌の3年以上生存例の検討を行った. 3年以上生存例17例中15例は根治度Bの手術が行われており, 1例はow(+)で根治度Cとなった症例であり,切除例はいずれもH0, P0でn3の3群転移リンパ節は2個以下, n4の3, 4群転移のリンパ節は3個以下であり,多くに術後MMC, 代謝拮抗薬,免疫賦活剤の併用投与が行われており, 1例はPl H0 N3 T4 stage IVbの非切除例で, MMC, 5'-DFUR, OK-432の併用療法が著効した症例であった.また, 3年以上生存例17例中11例が後期の手術症例であり,これは後期に拡大手術が積極的に行われるようになり根治度Bの症例が増加したためと考えられた. P0, H0で根治度Bの手術を行った結果,組織学的に3あるいは4群リンパ節転移個数が少数の症例には,術後補助療法を行うことにより,長期生存の可能性があると思われた. P(+), H(+)症例は前期より後期にやや予後の向上がみられるが予後はいまだに不良であり, P(+), H(+)例および術前より画像診断上あきらかに累々とした3, 4群リンパ節転移を認める症例には術前化学療法も含めた集学的治療が必要と思われた.
  • 小川 匡市, 池内 健二, 渡部 通章, 金子 靖, 衛藤 謙, 藤川 亨, 高尾 良彦, 穴澤 貞夫, 山崎 洋次
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1135-1139
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    大腸癌症例中,同時性肝転移群(S群) 34例,異時性肝転移(M群) 30例,および病理学的に肝転移群と有意差を認めず,術後5年間肝転移再発を認めない37例を対照群(C群)として,カドヘリン,ラミニンを用い免疫組織学的に3群間の比較検討を施行した.ラミニンの発現率は, S群17/34 (50%), M群17/30 (57%)で, C群2/37 (5%)と有意差を認めたが,カドヘリンの発現率では, S群14/34 (41%), M群12/30 (40%), C群8/37 (22%),同じく減弱率でS群5/34 (15%), M群6/30 (20%), C群2/37 (5%)と3群間に有意差は認めなかった.従って,ラミニンは肝転移予測に有用なパラメーターであることが示唆された.
  • 馬場 信年, 多幾山 渉, 亀田 彰, 右近 圭, 佐伯 修二, 向田 秀則, 平林 直樹, 久松 和史, 岩森 茂
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1140-1145
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/05/26
    ジャーナル フリー
    超音波内視鏡(EUS)深達度診断後手術され,臨床病理学的に解析された早期直腸癌18例(m癌10例, sm癌8例)を対象に,早期直腸癌の手術術式選択におけるEUS深達度診断の有用性と問題点を検討した.術式は, m, sm1癌は局所切除, sm2, sm3癌はリンパ節郭清を伴う直腸切除を適応とした. EUS診断は, 18例中15例(83.3%)で適切な術式を選択する診断がなされており,早期直腸癌の深達度診断,術式選択に有用な検査であると考えられた.また, 18例中2例(11.1%)が描出困難, 1例(5.6%)が誤診であったが,原因として,腫瘍丈が高いためのエコーの減衰,腫瘍の存在部位による操作の困難性や腫瘍と腫瘍周囲の線維化の鑑別困難などがあり,今後の課題であるとともに,直腸指診や内視鏡検査との総合的な診断の必要性も示唆された.
  • 田中屋 宏爾, 小長 英二, 竹内 仁司, 安井 義政, 柚木 靖弘, 土屋 健
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1146-1150
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    左側大腸癌の腸閉塞において,緊急手術で一期的に腫瘍の切除と腸管吻合を行うかについては意見が分かれるところである.今回われわれは大腸癌腸閉塞9例に,大腸内視鏡を用いて閉塞部の近位側に減圧管を留置し術前管理を行った.全例緊急手術を回避し得,術前の腸管内清浄化や腫瘍近位側の造影検査も可能であった.全例一期的な手術が行われ,術後合併症も認められなかった.左側大腸癌の腸閉塞において経肛門的減圧管による術前管理法は緊急手術を回避し安全に一期的手術を行い得る有用な方法と考えられた.
  • 豊田 和広, 中塚 博文, 眞次 康弘, 石崎 康代, 大城 久司
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1151-1154
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌術後に5'-DFURを投与し大球性貧血を来した症例を経験した.症例は69歳,男性.胃癌 (Stage I B) の診断で幽門側胃切除術を施行した.術後約1カ月より5'-DFURの内服を開始した.開始後20週目にはRBC 172×104/mm3, Hb 7.3g/dl, MCV 127.7flと著明な大球性貧血を来した.ビタミンB12, 葉酸は正常以上あり,貧血の原因は5'-DFURの副作用と考え投与を中止した.投与中止により貧血は改善した.またピリミジン系経口抗癌剤投与症例20例の末梢血液検査の変化を検討した.投与後のMCV値は投与前と比較し有意に上昇していたが,いずれの症例も慢性的な変化であり急激な貧血を来したのは提示した症例のみであった.消化器癌などの術後の補助化学療法として,ピリミジン系経口抗癌剤が使用されることは多い.投与例では定期的な血液検査が必要で,貧血が認められれば速やかに中止すべきと考えられた.
  • 坂井 威彦, 藤田 知之, 草間 啓, 熊木 俊成, 青木 孝學, 工藤 道也, 春日 好雄
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1155-1158
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1家系, 3世代に, 5例の甲状腺乳頭癌を認めた家系を経験したので報告する.発端者は21歳の大学生であり,その母親が8年前に甲状腺乳頭癌で,他医にて外科治療をされていた.発端者と同時期に, 25歳の実兄が甲状腺乳頭癌にて当科を紹介されて受診したので,家系調査を行った.その結果,母親の妹と,母方の祖母の2人に甲状腺乳頭癌が認められた.発端者の母親は,甲状腺内再発と両側肺転移を認めた. 5人の患者のうち4人に当科で外科治療が施行された.外科治療は甲状腺全摘が望ましいとされているが,合併症を防ぐため,準全摘とした.今後は他の発症していない家族の検診を続けるとともに,手術患者の局所再発,遠隔転移に注意していく必要があると考えられた.
  • 三浦 大周, 鈴木 規之, 中澤 英樹
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1159-1163
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は43歳,女性.右乳房AC領域の無痛性腫瘤を自覚し初診.触診, US, MMG所見よりT1aN0M0Stage Iの右乳癌と診断し手術を施行した.腫瘍を生検し,迅速診断にて浸潤性腺癌との確診を得た後, Bq+Axを行った.しかし,病理組織標本より乳頭側切除断端で乳管内進展巣が陽性であったため, 10日後, Btを追加施行した.肉眼割面状,腫瘤は15×10mm大,灰白色の充実性腫瘍であり,組織学的には,腫瘍細胞は充実性に索状の胞巣を形成し,その中心に軟骨化生部を有し,これらの間には連続した移行像を認めた.腺癌部では充実腺管癌成分が優位であった. n0, ly0, v0, EIC (+), ER, PGRはともに陰性であった.骨・軟骨化生を伴う乳癌は浸潤癌の特殊型に属し,その発生頻度はきわめて稀であり,本邦での報告は60症例程度である.これらをあわせ,臨床的特徴,予後因子を検討し報告する.
  • 鈴木 一則, 広岡 保明, 貝原 信明, 竹本 大樹, 佐藤 尚喜
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1164-1168
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳腺の管状癌は,特徴的な組織像を呈する乳癌で,その発生頻度は稀である.特にpure typeの管状癌ではほとんどリンパ節転移が認められず,予後は良好とされている.今回われわれは,リンパ節転移を伴ったpure typeの管状癌の1例を経験したので報告する.症例は55歳,女性で,左乳房腫瘤を主訴に受診した.マンモグラフィーにてspiculaを伴う腫瘍陰影を認め,穿刺細胞診では悪性と診断できなかったが,生検組織診にて管状癌と診断された.乳房切除術およびリンパ節郭清術を施行した結果,腋窩リンパ節転移を伴うpure typeの管状癌と最終診断された.以上より,管状癌ではpure typeでもリンパ節転移がみられることがあるため,通常の浸潤癌と同様に扱う必要があると思われた.
  • 中山 浩一, 石井 芳正, 高橋 正泰, 山田 敏雄, 中村 泉
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1169-1172
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝,肺,リンパ節および骨転移を有する59歳転移性乳癌例にdocetaxel (taxotere)が奏効し生存期間の延長が得られた.ただし,発熱性好中球減少症と反応性胸水の副作用を認め,前者は少量頻回投与にて回避し得たが,後者にて本剤の投与が制限された.肺,肝転移にPRを得たが,患者は脳転移にて死亡した.
  • 前部屋 進自, 木下 貴裕, 内藤 泰顯
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1173-1175
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は, 77歳女性. 2ヵ月前より,前胸部皮下腫瘤あり,他院にて切開を受けたが,出血多くまた疼痛が続くため当科を受診した.前胸壁正中部に発赤を伴う2.5×2cm大の腫瘤あり.切除生検にて血管肉腫の診断を得たため,広範囲切除を施行した.放射線治療などの術後補助療法は施行しなかった. 2ヵ月後に多発性骨転移を来たし, 9ヵ月後の現在,外来通院中である.
  • 体外循環を用いない心拍動下冠状動脈バイパス術との同時手術
    莇 隆, 向原 伸彦, 戸部 智, 長谷川 智巳, 有川 俊治, 高橋 洋, 中村 敬
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1176-1181
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例1: 65歳女性.経皮的冠状動脈形成術(PTCA)不成功の冠動脈2枝病変の狭心症および下血と狭窄をきたしたS状結腸癌の併存症例に対して,心拍動下に左内胸動脈-左前下行枝ならびに右内胸動脈と下腹壁動脈によるcomposite graftを用いた右冠動脈への2枝冠状動脈バイパス術(CABG)とS状結腸切除術を一期的に行った.症例2: 79歳男性. PTCA不成功の冠動脈3枝病変の狭心症および易出血性3型進行胃癌の併存症例に対して,心拍動下に大伏在静脈を用いて左前下行枝と右冠動脈への2枝CABGおよび胃全摘術を一期的に施行した.グラフトはすべて開存しており2例とも軽快退院した.重症虚血性心疾患を伴う進行消化器癌手術症例においては,周術期心事故の回避と癌の進行度・根治度・予後・緊急性を考慮したうえで, CABGとの同時手術を積極的に取り入れるべきと考える.特に出血を伴う症例では人工心肺を用いない心拍動下CABGは有用な手段である.
  • 東 久弥, 横尾 直樹, 吉田 隆浩, 加藤 達史, 福井 貴巳, 山口 哲哉
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1182-1185
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    気管原発の腺様嚢胞癌の1例を経験したので報告する.症例は61歳女性で,甲状腺腫瘍摘出術の既往を有する.呼吸困難を主訴に来院,吸気時に頸部において狭窄音を聴取し,呼吸機能検査で著明な混合性換気障害を認めた.頸部CT上,輪状軟骨よりやや尾側で気管内腔の約90%を占拠する境界明瞭な充実性腫瘤を認めた.喉頭内視鏡では,第3気管輪を中心に気管腔を閉塞せんとする易出血性腫瘤を認めた. 5気管輪にわたり気管を輪状切除して腫瘤を摘出し,気管を端端吻合した.腫瘤は気管壁を貫通して内腔と周囲組織に進展しており,両側気管断端はわずかに腫瘍細胞陽性であった.組織学的に,気管支線由来の腺様嚢胞癌と診断した.術後局所に50Gyの放射線照射を施行し,現在まで再発徴候を認めていない.
  • 三浦 弘之, 平良 修, 吉田 浩一, 加藤 治文
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1186-1189
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    59歳女性で,胸腺癌摘出後27カ月無再発生存中の症例を報告した.喘息発作時の胸部X線写真で,上縦隔から右へ突出する縦隔腫瘍を指摘された.胸骨正中切開下に,腫瘍を周囲臓器より剥離し,周囲リンパ節と一塊に摘出した. 80×55mmの腫瘍でカルチノイドに類似した組織像を示したが, Glimerius染色は陰性で,電顕的にも神経内分泌顆粒は認められなかった.免疫組織学的にもChromogranin陰性で, EMA, Keratin, CEA陽性であり,胸腺未分化癌と最終診断した.被膜を越える浸潤はなく,摘出した前縦隔リンパ節の1個に転移を認めた.術後補助療法として縦隔に60Gyの放射線治療のみを施行した.
    胸腺癌は,発見時に既に,周囲臓器に進展した症例が多く,完全切除が難しい.化学療法・放射線療法も確立されたものがない.カルチノイドの類似性から,化学療法は行わず,放射線療法のみ施行したが,良好な経過を得ている.
  • 富永 春海, 南 康範, 大森 敏弘, 中室 誠
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1190-1193
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は21歳男性.乗用車運転中にトラックと正面衝突し,当院に救急搬送された.少量の吐血を認め,腹部に筋性防御を認めた.腹部CTにて腹腔内に遊離ガスおよび食物残渣像を認めた.胃破裂の診断にて緊急手術を行った.胃角部小弯前壁に5cm大の破裂部を認めた.創縁が比較的きれいであったためdebridementせずに縫合閉鎖した.また肝損傷,脾損傷を認め,圧迫による止血を行った.肺損傷,血胸,肋骨骨折,右大腿骨骨折も認め,大量の輸血が必要であった.手術時,胃内および腹腔内に食物残渣が大量に存在し,胃破裂の原因は胃の内圧の上昇が原因と考えられた.
    成人の鈍的外傷による胃破裂症例の報告は,本邦では文献的には自験例を含め12例と少なく,稀と思われたので報告した.
  • 三浦 源太, 村上 信一, 柴田 智隆, 嶋岡 徹, 山口 方規, 藤島 宣彦
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1194-1198
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.健診後の精査で胃前庭部小彎に直径2cmの粘膜下腫瘍を指摘された.半年後に施行した胃内視鏡検査で腫瘍直径が3cmと増大したため,超音波内視鏡検査(以下EUS),腹部computed tomography(以下, CT)検査等の後,胃粘膜下嚢胞性腫瘍の診断で幽門側胃切除術を行った.切除標本では,腫瘍は5.0×4.2×1.5cmの多房性嚢胞であり,胃嚢胞性リンパ管腫の病理組織学的診断を得た.
    胃嚢胞性リンパ管腫は比較的稀な疾患であり,本邦報告例69例に本症例を含めて文献的考察を加えた.
  • 硬膜外麻酔下のBuess大口径内視鏡の有用性
    吉川 浩之, 渡部 祐司, 佐藤 元通, 得居 和義, 吉田 素平, 河内 寛治
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1199-1202
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    81歳,慢性腎不全を合併した幽門小彎に発生したsm癌の患者に対し, Buess大口径内視鏡を使用し,一時的に作製した胃瘻から胃内手術を施行した.硬膜外麻酔で施行し,術中術後の心腎機能の変動もなく,良好な結果を得た.
    高齢者や腎不全などのhigh risk症例に対し,硬膜外麻酔でも良好な視野で手術可能であるこの方法は,有用な治療法と考えられる.
  • 久保 義郎, 栗田 啓, 高嶋 成光
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1203-1207
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大動脈周囲リンパ節(以下, No.16と略す)再発に対し, No.16の切除を施行した症例を経験した.症例は69歳,男性.前庭部大彎の2型進行胃癌に対して,幽門側胃切除,胆嚢摘除, D2リンパ節郭清を施行し, Billroth I法で再建した.組織型は粘液癌(muc)でly3, v1, CY0,総合所見はT3 (SE), N2, H0, P0, stage IIIb, cur Bであった.術後1年4カ月後に,腫瘍マーカー(CEA, CA19-9)の上昇を認め,超音波検査, CTにてNo.16への転移と診断し,手術を施行した.郭清した19個のリンパ節のうちNo. 16b1に3個,胃病巣と同じmucの組織像を認めた.再手術後3年3カ月目の現在,再発の徴候は見られていない. No.16に転移があっても少数の場合には,郭清効果が期待できるとする報告もみられ, No.16への再発に対して有力な化学療法がない現在,他に遠隔転移がなければ,手術を施行する根拠となる症例と考えた.
  • 水上 泰延, 長嶋 孝昌, 生田 宏次, 長谷川 雅彦, 伊藤 之一, 吉崎 堅一
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1208-1212
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    術前膵癌による十二指腸狭窄が疑われたが,病理学的に膵十二指腸動脈瘤の破裂による狭窄と診断された症例を経験した.症例は51歳,男性.平成6年8月頃より嘔吐出現し,腸閉塞の疑いにて紹介入院.上部消化管造影にて十二指腸下行脚に狭窄を認めた.血管造影にて前下膵十二指腸動脈の途絶を認めたことより,膵頭部癌による十二指腸狭窄を疑い,手術を施行した.膵頭部に腫瘤を触知し,その部位に結腸間膜が巻き込まれていることより膵癌と診断し,膵頭十二指腸切除および右半結腸切除術を施行した.病理組織学的には,拡張した前下膵十二指腸動脈は血栓で充満し, Elastica van Gieson染色にて内弾性板・中膜・外膜は完全に断裂していた.動脈瘤が破裂し,血腫の線維化のため,十二指腸狭窄を起こしたものと考えられた.血栓による動脈の途絶像が術前膵癌との鑑別を困難にさせた.
  • 鶴井 裕和, 渡辺 明彦, 佐道 三郎, 山田 貴, 頼木 領, 楠本 祥子, 仲川 昌之
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1213-1216
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例1は61歳,女性.平成7年より原因不明の背部痛にて当院内科にて経過観察されていたが,平成10年8月のCTにて後腹膜腫瘍を指摘され当科紹介.後腹膜腫瘍または十二指腸粘膜下腫瘍と診断し,手術を施行した.腫瘍は十二指腸水平部に発生した粘膜下腫瘍であり,十二指腸の部分切除を行った.症例2は70歳.女性.検診にて腹部腫瘤を指摘され,平成10年10月当科受診した.症例1と同様の診断で手術を施行した.術中所見も症例1と同様であった. 2症例とも摘出標本は弾性硬,薄い皮膜を有し,白色充実性の腫瘍であった.病理組織診断では紡錘形細胞,核の束状,交錯状配列を認め,腫瘍細胞の大きさは一様, mitosisはほとんど認めなかった.免疫染色ではS-100蛋白, NSEが陽性, SMA, desminが陰性で良性神経鞘腫と診断された.十二指腸原発神経鞘腫はまれであり,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 田口 宏一, 湊 正意, 中西 一彰, 相木 総良
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1217-1222
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    平成9年1月から平成11年6月までにシートベルトに起因する小腸破裂の6例を経験した.年齢は7歳から65歳までで,男性2例,女性4例であった.受傷時運転者は2例で,他は助手席に乗車していた.受傷から手術までの時間は3例が即日手術をしたが,他の3例は1から3日を要した.これは受診時腹膜刺激症状がはっきりせず,絶食,点滴等の保存的治療により,症状が軽減し診断が遅れたためであった.破裂部位は5例が空腸で,そのうち2例は腸間膜損傷を合併していた.回腸の1例は,盲腸の漿筋層の裂創を合併していた.手術は全例腸管破裂部の縫合閉鎖とドレナージ術を施行した.全例元気に退院したが, 7歳の症例はイレウスを併発して再手術をした.シートベルトは腹部の外傷の予防には有効ではなく,改良の必要がある.シートベルトを着用した腹部外傷症例は,入院の上慎重な経過観察をして,手術の時期を逸することがないよう注意が必要である.
  • 野中 道泰, 富川 盛雅, 楠本 哲也, 鈴木 稔, 池尻 公二, 才津 秀樹, 矢加部 茂, 朔 元則, 吉田 晃治
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1223-1227
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    比較的稀な小腸血管腫の1例を経験したので報告する.症例は63歳女性.主訴は貧血.平成5年頃より貧血を認め近医にて胃および大腸の検査を行うも異常ないため,貧血の治療を行っていた.平成8年再び貧血増強し,経口小腸造影にて回腸に異常を認め当科紹介入院.小腸ゾンデ法にて回腸に結節状の隆起性病変を認め, CTでは小腸に辺縁明瞭な石灰化を有する分葉状腫瘤を認めた.小腸腫瘍の診断で手術施行.回腸末端より約170cm口側回腸に約3cmの軟かい腫瘤を触知し,漿膜面には血管の怒張を認め,肉眼的に血管腫を疑い回腸部分切除術を行った.病理組織診断は小腸血管腫であった.貧血症例で食道,胃,十二指腸および大腸に異常なければ,本症も念頭において小腸の精査が必要であると思われた.
  • 鎌田 喜代志, 金泉 年郁, 上野 正義, 安川 十郎, 八木 正躬, 中野 博重
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1228-1232
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は26歳男性.平成5年より全大腸型Crohn病で,内科的治療を行い緩解再燃を繰り返していた.平成10年1月中旬より腹痛,下痢を認め入院加療を行うも症状の改善を認めず腹部CTにて左腸腰筋膿瘍を認めたため2月26日手術を施行した.大腸は全体に脆弱,下行結腸で左腸腰筋に穿破して膿瘍を形成し,また横行結腸と胃の間に瘻孔の形成を認めた.下行結腸部分切除とドレナージ,並びに瘻孔を含む横行結腸と胃の部分切除を施行した.術後2度結腸吻合部に縫合不全を起こしたため,回盲部に双口式人工肛門を造設した.
  • 広松 孝, 小林 建仁, 所 昌彦, 太田 俊介, 近松 英二, 徳丸 勝悟
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1233-1236
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃粘膜と膵組織が迷入したMeckel憩室炎で穿孔を伴わない腹膜炎を呈した1例を経験したので報告する.症例は29歳の男性で右下腹部痛で発症.虫垂穿孔性腹膜炎の術前診断にて開腹したところ,虫垂は正常で,回盲弁より60cm口側の回腸に約4cmのMeckel憩室を認め憩室炎をおこしていた. Meckel憩室と虫垂切除および腹腔ドレナージを施行した.病理検索にてMeckel憩室内に迷入組織として膵組織と胃粘膜がみられた. Meckel憩室粘膜は連続性が保たれ,穿孔は認めなかった. Meckel憩室に迷入する異所性組織としては胃粘膜が多いが,胃粘膜と膵組織が同時に迷入した報告は少ない.若干の文献的考察を加え報告する.
  • 伊田 明充, 北村 善男, 須田 一史, 安達 実樹, 田中 文彦, 冲永 功太
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1237-1241
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は61歳女性.主訴は下腹部痛.平成10年12月下腹部痛出現し,保存的治療にて軽快した.平成11年3月18日,再度下痢と嘔吐を伴う下腹部痛出現し,近医で急性腹症と診断され当院へ紹介された.入院時体温37.3°C.下腹部に圧痛と反跳痛を認めたが筋性防御はなかった.血液検査所見では,白血球数は増多, CRPも上昇していた.腹部単純レントゲン写真では骨盤内に拡張した小腸ガス像および鏡面像が認められ,腹部CT検査および腹部超音波検査にて骨盤内に約3cm大の腫瘤像が描出された.保存的治療で症状改善せず,筋性防御が出現したため翌日緊急手術を施行した.回腸末端部から約70cm口側の腸管膜対側に径3cm大の腫瘤病変が存在し,腸管壁は発赤肥厚,周囲に膿苔の付着を認めた.腫瘍を含む回腸を部分切除をした.病理組織検査でMeckel憩室に平滑筋腫を合併し,憩室炎をきたしたと考えられた.
  • 鎗山 秀人, 新田 貢, 松下 薫一
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1242-1245
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    異物による虫垂穿孔の報告は少ない.特に魚骨以外の異物による虫垂穿孔例は極めて稀である.今回われわれは義歯による虫垂穿孔の1例を経験したので報告する.症例は77歳,男性.脳出血後のリハビリテーション目的のため内科入院中に右下腹部痛を訴え虫垂炎を疑われ外科へ転科した.腹部単純X線写真で右下腹部に約1cm大のX線不透過な金属性異物像を認め,腹部CT写真で同様の異物と周囲炎症像を認めた.異物による腸管穿孔も疑われたため緊急手術を施行した.後腹膜に癒着した虫垂の中央付近に穿孔部を認め,摘出した虫垂の内腔より長さ約1cmのくさび型の金属塊が出現した.形態よりこの金属塊は義歯牀であると推定した.異物による消化管穿孔では緩徐に発症して炎症性肉芽腫を形成する場合が多いが,本症例では異物の誤嚥時期は不明ではあるが,異物の一端が尖鋭であり,虫垂壁を刺通し穿孔を起こしたため臨床経過の短い急性型を示したと考えられた.
  • 花城 徳一, 西井 博, 小笠原 邦夫, 近藤 肇彦, 青木 克哲
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1246-1250
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Behçet病は内科的にも外科的にも現在治療法が確立されていない難治疾患である.今回われわれは23年間で6回の開腹手術を施行した症例を経験したので報告する.症例は男性で16歳のとき回盲部腫瘤で回盲部切除術を施行. 20歳のとき吻合部腫瘤で結腸右半切除術を施行. 25歳のとき口腔内アフタ性潰瘍,右陰嚢部潰瘍,下肢の毛嚢炎様皮疹,針反応陽性が認められた. Behçet病としての眼症状は認められず,不全型の腸型Behçet病と診断した. 26歳のとき吻合部腫瘤で横行結腸切除術を施行. 28歳, 32歳, 37歳のとき腹壁腸瘻で横行結腸,下行結腸切除術を施行.全経過中IVH, 成分栄養剤,リボソームSOD, ステロイドなどの内科的治療や,手術時に腸切除範囲,使用縫合糸の種類を替えるなどの工夫を凝らしたが再発を繰り返した. 39歳のときBehçet病の急性増悪期に起こると考えられている血液凝固能亢進による脳幹部の梗塞で死亡した.
  • 石川 浩一, 中村 彰, 奥永 良樹, 白水 章夫, 竹下 泰
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1251-1255
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は81歳男性.左下腹部から左腰背部の疼痛を主訴に入院.入院2日目に腹膜刺激症状が出現し,胸部X線にてfree air,腹部X線では左下腹部に粗大顆粒状の気泡像を認めた.腹部単純CTでは左腎周囲の気腫像を呈し,さらにガストログラフィンによる注腸造影検査で下行結腸は完全に閉塞していた.以上より,下行結腸癌穿孔による汎発性腹膜炎と術前診断し,緊急手術を施行した.下行結腸に約5cmの後腹膜腔への穿孔があり,同部にvillous adenoma様の大きなポリープを認めた.また,後腹膜の壊死,左腸腰筋の露出と腹腔内に腸内容の漏出を認めた.下行結腸切除,腹腔内洗浄ドレナージ,人工肛門造設を行い救命し得た.切除標本では下行結腸に6.0×2.5cmの軟らかいCarcinoma in adenomaを認め,腫瘍部対側が穿孔していた.結腸の後腹膜腔穿孔は稀であるが,急性腹症の鑑別診断として念頭におく必要がある.
  • 倉田 昌直, 高田 泰次, 川本 徹, 吉田 貞夫, 谷口 英樹, 轟 健, 深尾 立
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1256-1260
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は53歳男性.下血と腰痛を主訴に,注腸造影検査およびCT検査でS状結腸癌,肝尾状葉転移と診断され本院入院,低位前方切除および肝尾状葉切除術を受けた.病理学的には低分化腺癌, se, ly1, v2, n1(+), ow(-), aw(-), ew(+),根治度Bであった.術後DICとなり,メシル酸ガベキサートの投与を行ったが改善せず,骨髄生検と骨シンチグラフィーの所見からS状結腸癌骨髄癌症と診断.骨髄癌症に対してMTX-5FU交代療法(MTX30mg/m3, 5FU60mg/m2)を合計7クール施行したところ,血小板数の増加と, FDP値の低下が認められた. S状結腸癌術後骨髄癌症によるDICに対し, MTX-5FU交代療法が有効であったと考えられた.
  • 倉吉 学, 中原 雅浩, 岡島 正純, 清水 洋祐, 浅原 利正, 土肥 雪彦
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1261-1265
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大腸に6箇所の同時性多発癌を認めた症例を経験した.症例は65歳,男性.家族歴は原爆により両親・兄弟全員が死亡したため詳細不明.大腸内視鏡によりS状結腸に2型潰瘍性病変が,上行結腸・S状結腸に10箇所の隆起性病変が認められた. 2型潰瘍性病変に対しては前方切除術を,隆起性病変に対してはpolypectomyを施行した.病理組織学的検討により,進行癌1病変(ss),早期癌5病変(m, 3病変; sm, 2病変),腺腫3病変が認められた.以上の9箇所の腫瘍性病変について, DNAを抽出し遺伝子不安定性を検討したところいずれの病変部においてもreplication errorはみられなかった.
  • 塩谷 猛, 橋口 陽二郎, 田中 洋一, 出雲 俊之, 関根 毅
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1266-1270
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.平成8年6月に検診で胃潰瘍を指摘され,精査の結果,胃MALTリンパ腫および直腸カルチノイドの診断で,平成9年1月,胃全摘,脾合併切除,胆摘,空腸嚢間置,経肛門的直腸腫瘍摘除術を施行した.手術および病理学的所見では,胃病変はUM, IIc (5.0×4.0cm), sm, n(-)のmarginal zone B-cell lymphoma (low grade) で胃癌取扱い規約ではstage Ia, Ann Arbor分類ではstage IEであった.また,十二指腸粘膜下層と# 4リンパ節に日本住血吸虫卵を認めた.直腸カルチノイドはI sp (1.2×1.3cm), mp, n(-), ly1, v1で, chromogranin A, NSE, Grimelius染色が陽性であった.直腸カルチノイドに対して,再発の危険を考慮し根治手術を勧めたが,手術を希望せず経過観察とし術後2年の現在,再発はない.カルチノイドや日本住血吸虫症では,悪性腫瘍を合併しやすいとされているが,胃悪性リンパ腫との合併例は極めて稀であり報告する.
  • 村田 暁彦, 遠藤 正章, 袴田 健一, 鳴海 俊治, 西 隆, 佐々木 睦男
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1271-1274
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    膵損傷は比較的稀な外傷であるが,治療に難渋する事が多く,予後も不良な場合も少なくない.われわれは,受傷4日後に手術を施行し,救命し得たIIIb型膵損傷症例を経験したので報告する.症例は19歳男性,平成9年10月10日,交通外傷で右季肋部を強打.翌日紹介医受診し,腹部CTなどで膵損傷と診断された.保存的加療で症状の増悪がみられ, 10月14日手術目的で当科を紹介された.初診時,上腹部を中心に腹膜刺激症状を認めたため,緊急手術施行.開腹時,少量の漿液性腹水の貯留を認めたが,血管損傷は殆どなく,後腹膜を中心に膵液の貯留と周囲臓器の炎症性癒着を高度に認めた.損傷部位は膵頭部でほぼ全周に縦断され,主膵管も完全に損傷されていた.更に膵頭部・十二指腸の温存は不可能と判断し,膵頭十二指腸切除術を施行した.経過は良好で術後29日目に退院となる.
  • 真鍋 隆宏, 天野 富薫, 井元 清隆, 鈴木 伸一, 近藤 治郎, 高梨 吉則
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1275-1278
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は61歳,男性.自覚症状はなく,検診の超音波検査で膵仮性嚢胞を指摘され来院.腹部の超音波検査,腹部CT検査,血管造影検査にて,上腸間膜動脈から脾動脈が分枝する解剖学的起始異常を伴う脾動脈瘤と診断した.脾動脈瘤は膵後面に存在し,径30mmの嚢状瘤であった.破裂予防のため,外科的に切除した.病理組織所見は線維筋異形成であった.上腸間膜動脈から脾動脈が分枝する脾動脈瘤は稀であり,既報告6例を加え報告する.
  • 金沢 景繁, 徳原 太豪, 猪井 治水, 上野 正勝, 金子 雅宏, 木下 博明
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1279-1282
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は68歳,女性.平成10年6月頃より不明熱にて他院にて精査中, 7月7日より38°Cの熱発が持続,腹痛もみられるようになり, 7月14日当院紹介入院となる.腹部CT像上,脾腫瘍がみられたため, 7月21日,脾摘出術施行,肉眼上,脾臓に充実性の腫瘍がみられ,病理組織学的にび慢性中細胞型,悪性リンパ腫と診断された.術後補助化学療法を施行した後退院した.術約1年後に右腋窩リンパ節転移が認められたが,局所切除ならび化学療法施行により軽快した.脾原発性悪性腫瘍は極めて稀な疾患であるが,予後不良であり,脾臓に腫瘍性病変が認められた際には,積極的な外科治療ならびに補助化学痛法が重要であると考えられた.
  • 山本 重孝, 田中 康博, 関谷 直純, 青野 豊一, 松尾 吉庸, 本多 正治
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1283-1286
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は45歳の女性,主訴は腹部膨満感.近医で施行された上部消化管造影検査にて胃弓隆部に2cm大の粘膜下腫瘍を疑われ,精査のため当院に紹介された.腹部超音波検査, CTで脾臓に7×5cm大の腫瘍を,左腎に3cm大の腫瘍を指摘された.血管造影検査では脾臓にhypervascularな腫瘍を,左腎上極にも腫瘍濃染像を認めた.胃粘膜下腫瘍,腎腫瘍およびその脾転移の術前診断にて平成11年5月24日開腹術を施行した.脾臓は正常被膜に被われ鵞卵大に腫大.胃粘膜下腫瘍を疑われた病変は肝左葉外側区域に存在する肝嚢胞による圧迫であった.肝嚢胞開窓術,脾摘出術および左腎摘出術を施行した.摘出標本は脾臓実質内中央部に境界明瞭な赤褐色の腫瘍と左腎上極にsolid massを認めた.病理組織学的検査にて脾腫瘍は赤脾髄型過誤腫と診断され,腎腫瘍は腎細胞癌であった.脾過誤腫は稀な疾患であり文献的考察を加えて報告する.
  • 桑原 史郎, 畠山 勝義, 多田 哲也
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1287-1292
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大腸癌術後の孤立性脾転移の2例を報告する.症例1:76歳男性.上行結腸癌にて結腸右半切除を施行した. 22ヵ月後,孤立性脾転移と診断し脾臓摘出,膵部分切除を施行した.術後25ヵ月後の現在,局所再発を有するも生存中である.症例2:74歳男性.上行結腸癌にて結腸右半切除を施行した. 12ヵ月後,孤立性脾転移にて脾臓摘出,膵尾部切除を施行した.術後5ヵ月の現在,無再発生存中である.症例1, 2共に大腸癌と脾腫瘍の組織型が同じであった.大腸癌術後の脾転移は稀であり本邦報告例では30例であった.脾転移は初回手術後1年以内に生じるものが多く,初回手術時すでに脾臓への微小転移が存在している可能性もある.また予後は良好とは言えず,脾転移に対する手術に加え,全身病と考えた上での集学的治療が必要と考えられる.
  • 竹元 伸之, 山本 宏, 甲斐 敏弘, 椎名 良直, 岡田 晋一郎, 関口 勝也, 宮田 道夫
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1293-1298
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は69歳女性. 1997年7月3日,左下腹部痛を主訴に受診.腹部所見では同部位に径10cm大の圧痛を伴う表面平滑・弾性硬の腹部腫瘤を触知し,精査加療目的で7月14日入院.入院時検査成績では白血球数10,900/mm3, CRP2.60mg/dlと炎症所見を認めた. USでは消化管と連続した境界不明瞭なlow echoが描出され,またCTでは石灰化を伴う線状陰影を含有する腫瘤像を認めた.問診では確診は得られなかったが検査所見と合わせ,魚骨による腹腔内炎症性腫瘤を最も疑った.下部消化管造影では,横行結腸左側・S状結腸右側の両方に約5cmの壁外性圧排像を認めた.開腹所見で腫瘤は術前の画像診断の如く両結腸に挟まれて存在し,腫瘤を含めた切除を施行した.摘出腫瘤は一部膿を含み,内部に長径2.5cmの魚骨を認めた.原因不明の腹腔内腫瘤では腸管内異物の可能性も考慮し,詳細な問診や画像診断を駆使することによって,術前診断も可能であると思われた.
  • 福島 忠男, 亀田 久仁郎, 木内 幸之助, 仲野 明, 小林 俊介, 笠岡 千孝
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1299-1303
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は37歳男性.腹痛が出現し, CTで上腸間膜静脈に血栓を認め入院.小腸造影で上部空腸に2カ所以上の狭窄が認められた.上腸間膜静脈血栓症と多発性の小腸狭窄と診断し,小腸切除,小腸形成術を施行.狭窄部は粘膜下組織を伴わない再成上皮を認め,筋層は線維成分で置換され,瘢痕となっていた.術後経過は良好で術後20日で退院,体重も10kg増加し,栄養状態の改善がみられた.
  • 木下 敬弘, 川浦 幸光, 清水 淳三, 龍澤 泰彦, 野崎 善成
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1304-1308
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    稀とされる腸間膜静脈血栓症の1例を経験した.症例は69歳,女性で胸部不快感を主訴に救急車にて搬送された.来院時,呼吸困難と著明なアシドーシスを認めたため呼吸循環動態の管理を行ったが,入院3日目より腹痛,腹部膨満が出現した.原因不明のイレウスとして経過観察していたが,入院5日目には腹膜刺激症状が出現し緊急開腹手術を行った.開腹時,結腸のほぼ全域と回腸の一部に腸管壊死を認め大腸亜全摘術,回腸部分切除術および回腸瘻造設術を施行した.組織学的には腸管の全層壊死と右側ならびに左側の結腸腸間膜静脈内に比較的新鮮な血栓を認めた.本症は自験例のように特異的な症状に乏しく,さまざまな臨床経過をとり得るため早期診断が困難である.また自験例は大腸を主病変としており本症の中でも稀な症例と思われた.
  • 神谷 諭, 寺崎 正起, 岡本 恭和, 坂本 英至, 小林 聡, 篠原 剛, 浅羽 雄太郎
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1309-1314
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は, 64歳女性. 1991年7月原発巣不明の癌性腹膜炎のため,試験開腹術施行.多量の腹水と横行結腸間膜,直腸前面に結節を認め,同部位からの生検組織診断は,腺癌であった.全身検索するも異常なく、原発巣不明の癌性腹膜炎としてfollowされた.カルボプラチンを中心とする化学療法が施行され,腹水,腫瘍の著明な減少を認めた. 1997年6月,腫瘍の横行結腸浸潤のため,横行結腸切除術を施行した.腫瘍の組織所見は,乳頭状腺癌であった. 2回目の手術後,これまでの臨床経過を合わせて考慮し,腹膜漿液性乳頭状癌と診断した.腹膜漿液性乳頭状癌は,腹膜原発が疑われるまれな疾患である.今回われわれは,化学療法,手術療法にて,治療開始より8年間生存を得られている腹膜漿液性乳頭状癌の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
  • 菅 和男, 伊藤 俊哉, 千葉 憲哉, 草野 義輝, 塚本 幹夫, 西原 実
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1315-1320
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    間葉性軟骨肉腫は比較的稀な悪性腫瘍であり, 1959年, Lichtenstein and Bersteinによって最初に報告され,現在までに約200例の報告をみる.今回われわれは後腹膜原発と考えられる間葉性軟骨肉腫の症例を経験したので報告する.症例は65歳男性であり,外科的切除の手術後約20カ月後に多発性の腹腔内再発にて死亡している.われわれの検索しえた範囲では,後腹膜原発の間葉性軟骨肉腫は現在までに5例の報告をみるのみである.本症例を含めて,現在までの報告例を検討すると,その予後は非常に不良であり,多剤併用の化学療法なども無効と思われ,予後の改善には,広範な外科切除が必要と思われる.
  • 伊神 剛, 長谷川 洋, 小木曽 清二, 塩見 正哉, 籾山 正人, 太平 周作, 高橋 祐, 森 俊治, 上原 圭介, 宮崎 晋
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1321-1324
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は50歳の女性で,左下腹部痛を主訴として受診し,腹部CTで膵尾部付近の嚢胞性病変が指摘された.精査の結果,嚢胞性の膵腫瘍を疑い,手術を施行した.開腹所見で,腫瘍は膵とは関係なく,膵尾部頭側の後腹膜から発生していた.摘出標本では,腫瘍径4.5×3.5×3cm,腫瘍内容は黄色で粘稠性の液体であった.組織学的所見では,腫瘍内腔に上皮細胞はなく膠原組織のみで仮性後腹膜嚢胞と診断した.
    後腹膜嚢胞のうち,内腔に上皮細胞を認めないものは仮性嚢胞と定義することが可能で,本邦における仮性後腹膜嚢胞の報告例は自験例を含め8例であり,極めてまれな症例と考えられたため,若干の文献的考察を含めて報告する.
  • 阿部 元輝, 中谷 敦幾, 堀口 裕司, 二瓶 和喜
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1325-1331
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は67歳男性.腹部腫瘤,腹部膨満感を主訴として当院受診.腹部は著明に膨隆し,弾性硬の腫瘤を触知した. CTでは腫瘤は被膜を有する26×25×15cm大で,内部は嚢胞性で一部充実性であった.後腹膜腫瘍の診断で手術を施行し,回腸,上行結腸, S状結腸の一部を合併切除した.術中吸引した内容物を含めると重量は約7kgで, 1995年から1998年までの本邦報告例57例中最大であった.病理学的には良性神経鞘腫であった.術後経過は良好で, 6ヵ月後の現在も健在である.
  • 松原 秀雄, 小林 陽一郎, 宮田 完志, 竹内 英司, 服部 龍夫
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1332-1335
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.腹痛を主訴に来院,腹部全体に圧痛を認め,板状硬であった.腹部X線所見では右腎周囲にエアー像を認め,消化管穿孔による後腹膜気腫および腹膜炎を疑い緊急手術を施行した.開腹時所見では上行結腸の肝彎曲部に小手拳大の腫瘤を認め,その口側が後腹膜腔へ穿通していたため右半結腸切除術を施行した.切除標本では,上行結腸肝彎曲部に亜全周性の2型の腫瘍を認め,その1.5cm口側腸管の穿孔部より,後腹膜腔へ穿通していた.病理組織学的には腫瘍と穿孔部の間に約1.5cmの浮腫を伴った正常粘膜を認め,閉塞性大腸炎による後腹膜腔への穿通と診断した.術後16日目に軽快退院した.
  • 飯合 恒夫, 畠山 勝義
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1336-1339
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は, 57歳女性.腹部腫瘤,腹痛を主訴に当院に来院した.臍部に有痛性の腫瘤を有し,血液生化学的所見で白血球とCRPの上昇を認めた.腹部単純X線写真で小腸の拡張があり,腹部CT所見では小腸,大網と思われる脂肪組織の腹壁よりの脱出を認めた.以上より臍ヘルニアの嵌頓と診断し緊急手術を施行した.ヘルニア内容は,回腸と大網であった.嵌頓後7日を経過しており,回腸部分切除を施行せざるを得なかった.術後経過は順調で15病日に退院した.
    成人嵌頓臍ヘルニアは本邦では稀な疾患であり,最近10年間に自験例を含め11例が報告されているに過ぎない.若干の文献的考察を加え報告した.
  • 江田 泉, 矢野 匡亮, 田中 規幹, 須藤 一郎, 末光 浩也, 大塚 昭雄
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1340-1343
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は81歳,女性.突然,右下腹部痛と右大腿部痛が出現し,当院を受診した.骨盤部CTにて右側の恥骨筋と内閉鎖筋との間に嵌頓した腸管を認めた.右閉鎖孔ヘルニア嵌頓と診断し,緊急手術目的で入院した.ところが,入院直後に症状が消失したため,骨盤部CTを再検したところ,右側の恥骨筋と内閉鎖筋との間は拡大していたが,腸管の嵌頓は認めず,閉鎖孔ヘルニア嵌頓は自然還納されたことを確認した.手術は待機的に硬膜外麻酔下で鼠径法にて施行した.腹膜外経路にて閉鎖孔を検索し,ヘルニア嚢を切除した後, Teflon meshをCooper靱帯と内閉鎖筋に縫合固定し,ヘルニア門を被覆した.術後経過は良好で,術後第10病日に退院した.鼠径法でも手術操作に十分な視野が得られ,侵襲を最小限に抑えることができた.嵌頓していない症例および発症後早期に本症が診断され,消化管穿孔の可能性が低い症例では,鼠径法は有用であると考えられた.
  • 佐藤 隆次, 浅野 晴彦, 加藤 栄一
    2000 年 61 巻 5 号 p. 1344-1348
    発行日: 2000/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Recklinghausen病に伴った乳癌と空腸平滑筋肉腫の異時性重複の1例を経験したので報告する.症例は74歳の女性.平成5年12月当科で左乳癌にて非定型的乳房切除術を施行した.病理組織学的には浸潤性乳管癌(乳頭腺管癌)であった.術後無再発で経過していたが,平成10年6月始めに臍周囲部痛が出現.左上腹部に超手拳大の腫瘤を触知するため,精査の後,手術を施行した. Treitz靱帯から約90cm肛門側の空腸に10×10×5cmの管外性に発育した腫瘤を認めたが,肝転移とびまん性腹膜播種を伴っており,空腸部分切除術にとどまった.組織学的には空腸原発巣,肝転移部,腸間膜リンパ節および腹膜播種部のいずれも平滑筋肉腫であった.
    Recklinghausen病に伴った乳癌と消化管平滑筋肉腫の重複は,本邦ではこれまでに3例が報告されている. Recklinghausen病自体良性の疾患であり,合併する悪性腫瘍の存在が予後を左右するため重複癌を含めた悪性腫瘍の早期発見が重要であると考える.
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