紙パ技協誌
Online ISSN : 1881-1000
Print ISSN : 0022-815X
ISSN-L : 0022-815X
70 巻, 10 号
選択された号の論文の18件中1~18を表示しています
製紙技術特集II
  • 島崎 宏哉
    2016 年 70 巻 10 号 p. 995-999
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    サイズパートのアプリケーターロールとしてのポリウレタンカバーは,鉄芯との接着安定性を得るために下巻層が不可欠であった。しかし,最新のハイトップLシリーズではハイブリッドボンディングシステムの確立により従来の常識を覆し下巻層が不要となった。

    ハイトップLシリーズは,従来品と比較して下記の特徴がある。

    ①使用可能厚みが大きいためライフアップが見込まれる。

     同じロール外径でもLシリーズは従来品の1.5倍の使用可能厚みである。

    ②ポリウレタン層が厚く衝撃による接着界面へのストレスを軽減できるため,剥離トラブルを抑制できる。

     衝撃テストの結果,ポリウレタン層が厚い方が衝撃を吸収・分散し,接着界面に与える影響は小さくなる。走行テストでも高い接着力が維持できる。

    ③過酷な使用条件でもブリスター剥離が発生し難い。

     ブリスター促進テストの結果,LシリーズはSDシリーズと比較してブリスターが発生し難いことが確認できた。

    ハイトップLシリーズは2015年1月に1本目を納入し以降計10本を製造・出荷しており,これまで実機使用でのトラブルは発生していない。

    ハイトップLシリーズの採用で,サイズパートの安定操業に寄与できるものと期待している。

  • 渡邉 将希
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1000-1006
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,製紙業界においては,抄紙機,塗布機の高速化による内添薬品の歩留低下,表面薬品を用いる事による操業性悪化など製紙用薬品が有効に作用するには厳しい状況となっている。また,印刷様式の多様化に伴い,これまで以上に紙に対する品質要求が厳しくなっており,表面特性を容易に向上する事ができる表面処理剤が求められている。

    上記の背景から,表面処理剤の過去からの変遷,最新技術動向を纏めた。表面処理剤の中でも代表的な表面サイズ剤の過去からの変遷について,酸性紙が主流であった当時には,スチレン(オレフィン)/マレイン酸系共重合物が開発され,中性化が進んでくるとスチレン/アクリル系重合物が使用されるようになった。更にサイズ性能を高める目的でエマルジョンタイプの表面サイズ剤が開発されてきている。今回,紹介する新規エマルジョンタイプの表面サイズ剤は,特殊な乳化剤を使用して,塗布時のエマルジョンの紙への分散性を高めており,従来品対比良好なサイズ効果を示す。

    表面紙力増強剤は,過去より主に澱粉が使用されているが,ユーザーニーズに合わせてPVA,ポリアクリルアミドも使用されている。最近の動向として,段ボール原紙の薄物化が検討されており,これに伴う強度低下が課題となっているが,一般的な澱粉を塗布した場合には,目標強度が得られない場合がある。今回紹介する板紙用の新規表面紙力増強剤は,ポリマー密度を高めて高分子量化したポリアクリルアミドに紙への浸透性の高い水溶性高分子を導入した設計とした。このため,新規表面紙力増強剤は,澱粉,及び,従来の当社品と対比して,高い強度を示す。

  • 安藤 英次
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1007-1013
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    抄紙工程の後半で紙はカレンダーパートにて圧力を掛けて組織を緻密化させ,リールパートで次工程の処理に適した形に巻上げられる。カレンダーは古くからハードニップとソフトニップのタイプに区分され,それぞれの適用する範囲を棲み分けていた。技術の進歩,特に樹脂性弾性ロールの発達はソフトニップカレンダーでの連続操業を可能にした。現代のカレンダーはそれぞれの特長を生かしながら互いに適用範囲を広げている。

    また従来のロールニップに代わる新しいタイプのカレンダリングも市場に登場し認知されつつある。リールパートは抄紙機上で唯一の連続プロセスから断続プロセスに移る工程であり,巻き取りロールそれぞれの品質安定性や枠替えの信頼性が要求される。下巻き損紙を少なくし,巻きズレや紙表面を損傷無く巻上げるには適正な巻き取りニップ圧と張力が不可欠でセンター巻き方式は有効な手段の1つとなっている。また高水圧を利用した新しい枠替え技術は信頼性とともに下巻き損紙の削減も達成した。

    本稿に於いてカレンダー,リールパートのそれぞれについて要求事項を挙げて,その為の技術的な変遷を整理し,Voith社の製品を中心にこのパートでの最近技術を紹介させていただく。

  • 鈴木 聡
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1014-1016
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    アメテック・サーフェースビジョンによる表面検査事業は,1990年Isys Control社の設立とともにスタートした。当時としては画期的な完全デジタル処理による高機能な検査システムを開発し,おもに金属の表面検査向けに販売を開始。その後,マシンビジョンのリーディング・カンパニーであるコグネックス社の一事業部として,高機能かつ汎用の検査システム「SmartView(スマート・ビュー)」を開発し,2000年以降,紙パルプ業界における検査事業を展開してきた。2016年7月に本事業部の親会社がコグネックスからアメテックに移り,「アメテック・サーフェースビジョン」という新しい事業ブランドの下で,新たに検査事業を展開することとなった。

    近年,品質要求の高まりに応じて,欠陥検査システムは「検出能力の向上」「欠陥分類の高精度化」と発展を遂げてきた。また,欠陥位置でワインダーを自動停止できるワインダー支援装置や,欠陥検査システムとモニタリング装置の連携によるプロセス解析など,欠陥検査システムの周辺技術においても,さまざまなソリューションを提供してきた。

    本稿では,当社の新しい検査システム「SmartView7.2(スマート・ビュー7.2)」を中心とした欠陥検査における最新の技術と欠陥検査システムの拡張性について紹介する。

  • 和田 健一郎
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1017-1020
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    「B/M計」は,弊社が国産品として1969年に開発・販売開始した。以来,半世紀以上にわたって非常に多くの抄紙機に導入され,現在では抄造現場においてなくてはならない計装システムとなっている。B/M計の誕生により,流れ方向と幅方向の両方の品質をオンラインで自動監視できるようになった。そして今日当たり前に見られるような制御の本格的な導入もB/M計登場以降に進んだことである。オンラインでの品質の自動監視と自動制御が,これまでB/M計の果たしてきた基本的な役割である。

    オンラインで測定するにあたり,測定対象が高速で動いていることや,過酷な動作環境であること等によりいくつかの技術的課題を解決する必要がある。例えばLEDカラー計では,主要なコンポーネントの温度制御,パスライン位置を検出する独自技術,蛍光を含む測定と含まない測定の同点測定を可能にするLED点灯制御などの技術が用いられている。

    B/M計はセンサが紙面を斜めに走査するため,プロファイルデータの扱いにも注意が必要である。生プロファイルのデータを見ただけでは,見えている山谷が流れ方向変動を示すのか幅方向の変動を示すのか区別できない。これらの成分を分離するため,平均処理や平滑処理が一般に行われている。

    これらのオンライン測定における技術によって,B/M計は紙の品質改善と生産性の向上を支えてきた。今後は,ビッグデータ解析や新素材などにおいて更なる展開をしていくことになるだろう。

  • 福田 千春
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1021-1026
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    「品質の向上」および「クレームの削減」は製造部門で働く者にとって,永遠のテーマの一つである。さらにより良い製品をお客様に提供するため,それらは日々向上させていかなければならない。そのため,素材メーカーにはより厳しい品質が求められていく。

    日本製紙株式会社岩沼工場では,欠陥検出器の更新というアプローチで2013年から2015年にかけて3マシンと1マシンで取り組みを行い,クレームの削減を達成することができた。その時の状況や問題点などを紹介する。

    岩沼工場3マシンおよび1マシンの欠陥検出器は,1997年設置のもので透過方式のみの検査を採用しており,現状の設備では検出・判別できない欠陥がクレームの対象になってきていた。また,透過方式のみのため薄汚れ等の表面検査能力が低く,表面異物欠陥によるクレームも増加傾向であった。

    そこで,2013年から2015年の長期休転において,欠陥検出器更新工事を実施,クレームの大半を占めるスケ欠陥および表面異物欠陥の検査能力を向上させ,品質管理強化を実施し,さらにスリット支援システムを導入したことで欠陥流出防止対策を行った。立ち上げ当初は,LED光源特性により穴欠陥とスケ欠陥の区別ができなかったり,サンプルテストで検出できたシワ欠陥が実機で検出できなかったりという問題があったが,現在では品質強化だけではなく,欠陥の原因調査などの操業改善を行える強力なツールとなっている。

総説・資料
  • 門松 重忠
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1027-1031
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    近年,抄物の多品種化や塗工液の多様化ならびに高速化に伴い,サイズプレスアプリケーターロールカバー材質に対する品質安定化の要求がより厳しくなってきている。

    サイズプレス塗工工程において紙シートへの塗工の安定化を阻害する要因を詳細検証すると,以下の2点の問題点を解決することが必要になる。

    ①アプリケーターロールの表面の撥水性が十分でないことによる塗工液の転写の不安定

    ②アプリケーターロールの表面粗さが変化することでの紙シートの剥離位置の不安定

    当社はその問題点を解決するために,紙シートへの安定的塗工が行え,耐摩耗性・撥水性に優れた,低摩擦係数のポリウレタンカバー材質「スーパーポリフォルテ」を開発した。ユーザーでの評価結果は,特にサイズプレスアプリケーターロールにおいて表面粗さが一定に保たれる特性により,下記の効果が得られた。

    ・紙シートの剥離位置安定による塗工ムラの改善

    ・ロール両端部に発生していた波打ち状の凹凸現象の解消

    ・ロール交換周期の延命

    また,ブルーム量の減少による塗工ムラ改善や断紙時のロール表面傷つき軽減等の当社想定以上の効果を得ることができた。

    「スーパーポリフォルテ」は販売開始以来,100本以上のサイズプレスアプリケーターロールに採用されている。

    本稿では,「スーパーポリフォルテ」の特徴と材料物性評価および,評価事例について報告する。

  • ―縦型回転機器への応用―
    神園 貴志
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1032-1038
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    紙パルプ業界においても回転機器の軸封として,メカニカルシール化が進んできているものの,用途としては黒液やコーティングカラー等のポンプやスクリーンと言った機器に特定されており,保全担当者の手を煩わすことの多い,軸振れや振動を伴う横型及び縦型のアジテーターでは殆どの場合グランドパッキンが使用されている。

    これらの現状を打破し,省エネやメンテナンスコスト削減,更に安全や安心を提供し安定操業を実現すべく,過去2年に渡り,ゴムローズの特性を応用した弊社独自の設計思想に基づく,横軸用の軸振れ対応型の完全二つ割メカニカルシールを紹介並びに提供してきたが,今回はより過酷な条件で使用されるパルパー等の縦型機器への応用についても,豊富な実績紹介を盛り込みながら紹介させて頂き,改めて軸振れや振動を有する機器の軸封として最適な解決策を提案する。

  • 木村 忠司, 白石 陽一
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1039-1043
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    循環流動床ボイラでは燃料と媒体を高温環境下で流動して燃焼させており,ボイラに使用される部材の侵食摩耗が深刻な問題となり,設備の稼働率と経済性の課題がある。

    ここでは,ボイラ火炉内の水冷壁パネルおよび炉底に取り付け媒体を浮遊させ酸素を供給する流動化ノズルを想定して,高温ブラスト摩耗試験を実施し,高温での耐侵食摩耗策について検討した。その結果をまとめると以下の通りである。

    表面温度が約400℃の水冷壁パネルの耐侵食摩耗策としては,耐熱・耐食材料で,熱膨張係数が母材とほぼ同程度で,溶接性も良好なNi基材料,例えばAlloy 625などの延性材料を使用する肉盛溶接が適している。

    表面温度が約800℃の高温にさらされる流動化ノズルの耐侵食摩耗策としては,高温まで硬さを維持するCo基材料,例えばステライトNo.12等が適しているように思われるが,セラミックス添加材も含めてさらに検討が必要である。

    侵食には引っ掻き摩耗と剥離摩耗の2つの形態がある。引っ掻き摩耗は摩耗性粒子が物体表面に衝突する際に,表面に溝あるいはクレータを生じさせ,衝突したごく近傍を隆起させる。主に延性のある材料に見られる。一方,剥離摩耗は摩耗粒子が衝突することにより結合力の弱い層状の膜が分離(剥離)する現象で,主に脆性材料に見られる。半溶融状態の材料が適度にあらされた表面に噴射され,幾層にも重なってできた硬質の溶射皮膜は脆性である。

    今後は循環流動床ボイラにおける肉盛溶接材料の耐侵食摩耗特性についてさらに調査を行うとともに,実機における適用効果を明確にする予定である。

  • 桂 仁樹, 三枝 隆, 日髙 勝彦, 原田 要, 栗原 信一
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1044-1048
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    近年の製紙業界を取り巻く環境は大きく変化している。原料については,資源の有効利用や省エネルギー,環境保全の観点から,古紙原料の回収率,利用率の向上を行い,粗悪古紙の利用も検討されている。板紙の古紙利用率は,93.2%となっており古紙原料の影響による操業への影響が予想される。しかし,古紙原料の影響や多品種小ロットによる操業条件の変動による製品への影響が発生しやすい状況下でも,厳格化されたユーザー品質を維持し,さらに生産効率を向上させなければならない。

    そこで,本報告では製紙で用いられる多量の水に着目して,原料古紙悪化が進む中でも,品質と生産効率の向上を実現できるS.sensing®システムについて紹介する。本システム適用による水質と操業の関係解析から,水質をコントロールすることでウェットエンドや操業の改善が図れることが定量的に確認された。

  • ―O2段とD0段におけるキャリーオーバーの影響―
    アクリッシュ マスルー, ニクラス アンダーソン, キャロライン ウィルケ, ウルフ グレムガード, 長谷川 正司
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1049-1055
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    従来のファイバーライン制御はもっぱら,カッパー価として表されるパルプ繊維のリグニン含有量と,漂白段階での白色度測定を組み合わせて行われている。カッパー価は,複数のポイントで測定を行う従来型マルチポイント分析装置を用いて測定されているが,ひとつの中央分析ユニットの限られた分析能を共用するため,データの更新頻度が低くリダンダンシーに欠ける。一部の工場では依然として,手作業で試料を採取しラボでカッパー価を測定しているが,この方法ではデータ更新頻度がきわめて低く,一般に再現性も低い。繊維のリグニン含有量と白色度は実際に,単位操作の制御にとって決定的なパラメーターであるが,起きている反応に影響を及ぼすため液相中の溶解リグニン(黒液キャリーオーバーと呼ばれることが多い)が重要な役割を果たすことが明らかにされている。このキャリーオーバーの測定は,完全自動化ファイバーライン工程管理を最適化するうえできわめて重要な課題になっている。

    本研究は,パルプストック中の溶解リグニンキャリーオーバーを捕捉する2つの新しいセンサーを評価した結果を示し,酸素脱リグニン段と二酸化塩素漂白段における溶解リグニンキャリーオーバーの影響を正確に説明する。工場のデータをラボデータと組み合わせて,新しいセンサーツールを利用する新しい制御概念の有益性を確認する。

    最新の研究と工場での試験により,このような新しい測定法と制御機能が適切に履行されれば,パルプの収量と品質,生産速度および漂白薬品消費量の最適化という観点から,ファイバーライン操業を大いに改善する可能性があることが明らかになった。

  • 2016 年 70 巻 10 号 p. 1056-1060
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル 認証あり

    The history of AQUAS CORPORATION goes back to the foundation of NITTO KAKO K. K. in 1958 as a manufacturer of water treatment chemicals and water treatment equipment. The company back then manufactured and sold metal chelating agents newly developed for the dyeing industry.

    In 1987, we changed the corporate name to AQUAS CORPORATION as part of the corporate identity initiative. Today, we provide optimal solutions from diverse perspectives incl. chemicals, equipment and plant design by harnessing our technologies accumulated for over half a century.

    We stand on the foundation of honesty, integrity and sensitivity, and act based on the AQUAS Values : `great humanity', `a high-level of expertise and professionalism', `passion and courage to fearlessly drive transformation' and `pride and responsibility for the AQUAS brand'.

シリーズ : 大学・官公庁研究機関の研究室紹介 (113)
研究報文
  • 根本 純司, 楚山 智彦, 齋藤 継之, 磯貝 明
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1065-1071
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル フリー

    木材パルプの2, 2, 6, 6―tetramethylpiperidine―1―oxyl(TEMPO)酸化と,それに続く水中解繊にて得られるTEMPO酸化セルロースナノフィブリル(TOCN)を,水とt―ブチルアルコール(TBA)の混合分散媒を用いた凍結乾燥法にてエアフィルタ濾材への適用を検討した。支持体であるガラスフィルターに対するTOCNの付着量,さらには高湿度や粒子負荷のフィルタ性能に与える影響について評価した。

    支持体重量に対するTOCN付着量については,TOCN付着量が0.081%でフィルタ性能は最大となり,その後は低下した。TOCN付着量が多いと,密になったTOCNが圧力損失を大きく上昇させていると考えられた。湿度の影響では,高湿度環境下にTOCN付着フィルタを晒すと,圧力損失は低下し,粒子透過率は上昇した。一部のTOCNネットワークは収縮しているのが電子顕微鏡観察で認められたが,多くは多孔質のネットワーク形状が保持されており,高いフィルタ性能も維持していた。オイル粒子の連続負荷により,TOCNネットワークが凝集し,TOCN付着量の多いエアフィルタで圧力損失が低下した。しかし,粒子凝集体や風圧によるTOCNの脱落は確認されず,TOCNネットワークが強靭であることも示された。

    ナノセルロースのエアフィルタへの応用には課題もあるが,TOCN特有の極めて細い繊維径,高いアスペクト比,強固なネットワーク構造を生かすことで,高性能エアフィルタとしての利用が期待される。

  • Junji Nemoto, Toshihiko Soyama, Tsuguyuki Saito, Akira Isogai
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1072-1078
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル フリー

    Freeze-drying of 2, 2, 6, 6-tetramethylpiperidine-1-oxyl (TEMPO) -oxidized cellulose nanofibril (TOCN) dispersions in water/tert-butyl alcohol (TBA) mixtures was applied to prepare TOCN/glass fiber composite air filters. The influence of TOCN content in the filters, exposing conditions of the filters to humid air and the amount of particle loading on the filter properties were investigated. The TOCN content in the composite filters was controlled from 0 to 0.126% by controlling the amount of the TOCN/water/TBA mixture sprayed to the base glass filter. When the TOCN content was 0.081%, the filter quality factor showed the highest value. At the TOCN content higher than this value, densely packed TOCN networks rather formed and prevented the efficient capture of oil-aerosols used as model particles. After exposing the TOCN-containing composite filters to high humidity conditions, the pressure drop decreased and the particle penetration ratio increased. The original porous networks mostly remained and the high quality factors were maintained even after exposing the filters under humid conditions, while scanning electron microscopy images indicated that some TOCN networks shrank. The durability of the TOCN-containing composite filters was evaluated by continuous loading of oil-aerosol particles for 3h. When the air filter had high TOCN contents, the pressure drop slightly decreased, because the TOCN networks were aggregated with the particles. However, no TOCNs were removed from the filters even by the air flow with growth of particle agglomerates. Thus, the porous networks of TOCNs had sufficient durability against particle loading. Although there are several problems in practical applications of nanocellulose to air filters, the unique properties of the TOCNs such as the extremely small fiber diameters, high aspect ratios and tough network structures are advantageous in preparing new air filters with high performance.

技術報文
  • 友村 匡
    2016 年 70 巻 10 号 p. 1079-1089
    発行日: 2016年
    公開日: 2017/01/01
    ジャーナル フリー

    表面欠陥検査装置(Web Inspection System 以下欠陥検査装置という)は,国内の製紙業界では1960年頃に東英電子工業が「スポットディテクター」の商品名で発売したのが最初とされる。今でも欠陥検査装置のことをSD計とも表記されるのは,この名残である。

    1963年に立石電機(現オムロン)も布地の検査向けに欠陥検査装置を開発し,以降製紙業界を中心に約50年の歴史を刻んできた。当初は一部の製品での使途を除き,B/M計等の他の計装機器に対してさほど重要とされていなかった欠陥検査装置も,今ではこれなしでは紙が出荷できないまでに重要な計装機器となった。

    新規参入するメーカも増え,現在国内で販売される欠陥検査装置のメーカは,国内外を合わせて10社以上になった。ユーザの品質への向上心とメーカ間の競争により,性能,機能も格段に向上してきている。

    本稿では欠陥検査装置の技術の進歩と変遷について述べ,今後についても考察してみる。

    なお,機密保持の縛りがない限り,欠陥検査装置の技術の歴史を後世に残すために,他社技術でもできるだけ社名を挙げて記述した。万一誤記述があれば,各位にご迷惑をおかけすることに深くお詫びするとともに何卒ご容赦をお願いする。また弊社以外のメーカの技術についてもできるだけ多くを記述したかったが,他社技術については手元の資料に乏しく,弊社の技術が中心となってしまったことをお詫びする。

    振り返ると技術の進歩は,ユーザとメーカとが一緒になって創造し努力した結果であった。先達の諸氏には尊敬と感謝の意を表する。今後も,製紙業界と関連デバイスメーカおよび欠陥検査装置業界の発展を願う次第である。

Coffee break
パピルス
feedback
Top