各種の臨床材料 (血液, 尿, 膿, 喀痰, 糞便) より分離された59株の
Pseudomonas aeruginosaのlipopolysaccharide (LPS) をsodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis (SDS-PAGE) 法で分析し, 各菌株のLPS構成と試験菌を分離した臨床材料および薬剤感受性との関連性を検討した。臨床分離株59株をLPS構成の相違により3群に分類した。すなわち35株は長鎖 (B-band) LPS保有株, 14株は短鎖 (A-band) LPS保有株, そして残り10株はLPS欠損株であった。血液由来の13株のうち12株 (92%) は長鎖LPS保有株, 尿および便由来には長鎖LPS保有株がともに67%存在し, 喀痰由来株にはLPS欠損株が42%と高率に存在した。LPS構成の異なる
P. aeruginosaのうちLPSが欠損した10株中7株はgentamicin (GM) に対し高度耐性を示し, 1株は中等度耐性, 残り2株は0.78μg/ml以下の感受性であった。GMに感受性を示した2株に対する菌表層部へのGMのイオン結合性を [
3H] GMを用いて測定し, LPS化学組成が既知のPAC 1 Rシリーズ株を対照として比較した。その結果GMに感受性を示した2株のうち, No.45株はLPSが欠損するにもかかわらずLPS長鎖株と同様に [
3H] GMと高い結合性を示した。一方, 対照菌株として用いたPAC 1 Rシリーズ株のうちLPS欠損が拡大し, core-oligosaccharideの中性糖残基が欠損してlipid Aが露出したPAC 605株では [
3H] GMに対する結合性が高かった。またLPSのO-polysaccharideの繰り返し単位の欠損が高度になるにしたがい菌体表層の疎水性は高くなり, さらに欠損が拡大すると逆に疎水性は低くなった。さらにGMに感受性を示す臨床分離のLPS欠損株2株の糖組成を分析したところ, No.45株には中性糖残基がまったく検出されずPAC 605株と同じ構造を示した。これらの結果は
P. aeruginosaのLPSのO-polysaccharide部位よりも深部構造の陰性荷電部位が. GMなどの多価カチオン性物質の結合に関与することを示唆し, 臨床分離No.45株は, このタイプの菌株であると推定された。次に, 長鎖LPSを保有するPAC 1R株とそのLPS変異株を, GM (20μg/ml) と短時間 (10分間) 接触させた場合の殺菌性を比較した。PAC 1 R株では生菌数は最初の70%に減少したが, LPS深部の中性糖残基にまで欠損がおよんだPAC 605およびNo.45株では, それぞれ3.6および11.0%にまで減少し, これらのLPS欠損株はGMにより強く殺菌されることが判明した。治療の場における抗菌薬との接触, その他の環境要因の影響によって
P. aeruginosa臨床分離株の表層部の構造, 特にLPS構成は多様に変化し, その結果O-抗原構造が変化するのみではなく, 多価カチオン性抗菌物質, GMの結合性および感受性に変化が生じることを確認した。
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