メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (methicillin-resistant
Staphylococcus aureus, MRSA) の世代時間 (generation time) とvancomycin (VCM) の抗菌力との関係を細菌学的な立場から検討を行った。その結果,
1) VCMの抗菌力は菌の培養条件, すなわち対数期と定常期, 培養温度35℃ と30℃ の比較ではいずれも世代時間が長い条件下の方がより低濃度で菌の増殖を抑制した。
2) 培地の条件を変えて臨床分離のMRSA 25株の世代時間とVCMの最小発育阻止濃度 (MIC) を測定した。世代時間は感受性測定ブイヨン (ニッスイ: STB) では平均1.8時間 (h)(1.3~2.8h) であ ったが, 培地の成分を1/2にした1/2STBでは2.1h (1.5~4.3h), 1/4STBでは4.0h (2.3~15.0h) と培地の条件が悪くなるほど長くなった。VCMのMICの感受性のピークは感性ディスク用培地N (ニッスイ: STA) では1.56μg/mlが21株 (84.0%), 1/2STAでは0.78μg/mlが21株 (84.0%), 1/4STAでは0.78μg/mlが23株 (92.0%) であり培地の条件が悪くなるほどより低濃度でMRSAの増殖を抑制した。また培地の条件は変えずに菌の培養温度を30℃ とした時のMICは0.78μg/mlが 24株 (96.0%) ともっとも多く, 35℃ の時の1.56μg/mlが21株 (84.0%) と比べて1/2の濃度で抑制した。つまりVCMの抗菌力は菌の世代時間が長くなる条件下ほど強い傾向がみられた。
3) MRSA25株より一濃度ディスク法にて選んだ代表3株に対してimipenem (IPM) を作用させた時の増殖曲線を測定すると, 濃度依存性に世代時間が長くなり, その増殖に影響のみられる菌株に対するVCMの抗菌力は良好であった。また, かかる菌株に対してVCMとIPMの併用効果はより強かった。
以上, VCMの抗菌力は菌の培養条件, 培地の条件, 併用する薬剤による世代時間の延長に伴い抗菌力が強くなった。
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