日本気管食道科学会会報
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61 巻, 5 号
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特集:小児の手術が必要な気管食道疾患
  • 高瀬 真人
    2010 年 61 巻 5 号 p. 415-420
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/25
    ジャーナル 認証あり
    小児の気管食道疾患で手術を要する病態をとりあげて概説した。先天奇形では,喉頭軟化症などの喉頭奇形,気管閉鎖症,気管狭窄症,気管軟化症,気管食道瘻および食道閉鎖症をとりあげた。これらは新生児期に緊急対応が必要なものが多いが,出産前診断が増加しており,治療成績は次第に向上している。腫瘍性疾患はまれであるが,気管内腔に発育する種々の腫瘍,再発性気道乳頭腫症をとりあげた。異物,外傷についてはほとんどが内視鏡的に処置可能であるが,時に手術を要することから簡単に触れた。重症心身障害児では嚥下性肺炎の問題などから気道管理のために気管切開が行われることが多く,喉頭気管分離術が併用されることが多い。喉頭気管分離術は,重症心身障害児の生命予後と患児および家族のQOL改善に貢献している。また,おもに後天的に発症する機能的疾患として,胃食道逆流症とアカラシアについても述べた。小児におけるGERDの手術適応については今後の病態解明を含めてさらなる検討が必要である。
  • 黒田 達夫
    2010 年 61 巻 5 号 p. 421-426
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/25
    ジャーナル 認証あり
    小児外科で扱う気管食道奇形は,発生学的背景から,前腸の分離不全に起因する食道閉鎖症,食道狭窄症,気管気管支狭窄症,気管無形成などと,肺芽の発生異常に起因するBPFMなどの疾患群に分けられる。代表的気管食道奇形である食道閉鎖症では,近年,治療成績の向上から従来のリスク評価は見直され,重症心奇形や染色体異常のある症例に対する治療戦略や,晩期成績を視野に入れた食道再建法,癌化の問題などが注目されている。一方,新生児に対する内視鏡的食道修復や気管気管支狭窄症に対するスライド形成術など新たな術式の普及や,喉頭気管食道裂や気管無形成に対する挑戦的な治療の報告もあり,気管食道奇形に対する外科の進歩は最近の小児外科学のトピックスの一つとなっている。
  • 北川 博昭, 島 秀樹, 脇坂 宗親, 川瀬 弘一
    2010 年 61 巻 5 号 p. 427-433
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/25
    ジャーナル 認証あり
    重症心身障害児 (重症児) が長期にわたり安定した呼吸状態を保つための気道確保は,患児の生活の質quality of life (QOL) の向上につながる。また重症児の死因の半数以上を誤嚥性肺炎が占めることから,外科的予防的措置の関心は高まっている。当院小児外科で過去20年間に施行した気管切開術施行例の約半数が重症児であった。近年小児に対する喉頭気管分離術も増加しており,術後多くの症例で気道管理が容易になり,誤嚥性肺炎の発生も著減した。重症児の在宅あるいは施設での管理に際し,気道確保手術は患児のQOLのみならず,介護の安全性確保に有用であるが,実施に際しては十分なインフォームドコンセントと,個々の症例での適応を考慮すべきである。
  • 福本 弘二, 漆原 直人, 福澤 宏明, 杉山 彰英, 長江 秀樹, 渡辺 健太郎, 光永 眞貴, 植田 育也, 長谷川 史郎
    2010 年 61 巻 5 号 p. 434-437
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/25
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    喉頭軟化症 (喉頭軟弱症,laryngomalacia) は乳児期の吸気性喘鳴の原因として最も多い疾患であり,5~10%の重症例が外科治療を必要とする。Olneyの分類では,type 1披裂部の余剰粘膜が吸気時に吸い込まれる,type 2披裂喉頭蓋ヒダが短い,type 3喉頭蓋が吸気時に倒れこむように吸い込まれる,の3つに分類され,複数のタイプが重複することもある。喉頭顕微鏡下手術はtype 1に対しては披裂部余剰粘膜の切除,type 2に対しては披裂喉頭蓋ヒダ短縮部の切離,type 3に対しては喉頭蓋の舌根部への吊り上げ縫合を行い,重複例にはそれぞれの手術を組み合わせて行う。本稿では喉頭軟化症の病態と診断,当院での重症例に対する喉頭顕微鏡下手術の経験を中心に治療について考察する。
  • 工藤 典代
    2010 年 61 巻 5 号 p. 438-444
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/25
    ジャーナル 認証あり
    気道異物は特に乳幼児にとっては生死にかかわることのある救急疾患である。小児例の70%は2歳未満であり,気道異物の多くはピーナッツなどの豆類である。症状は,突然の咳嗽が最も多く,次いで喘鳴である。丁寧な問診と胸部X線は的確な診断に重要である。気道異物を疑った際には全身麻酔下でラリンジアルマスクを用い,摘出前に軟性内視鏡で異物の確認を行う。気道異物の95%は気管あるいは気管支の異物である。摘出術は全身麻酔下で,硬性気管直達鏡や軟性気管支鏡を用いて行う。乳幼児の気管は細く,軟性気管支鏡を用いると換気が不能になるため,主として硬性気管直達鏡を用いている。摘出後,特にピーナッツの場合には術後の管理が重要である。
    消化器の異物は食習慣や社会の変化とともに変化している。20年以上前は食道異物にはコインが多かったが,コインは減少傾向にあり,ボタン型の電池やプリクラなどのシール類が増えてきた。食道異物の80%が第一狭窄部に介在し,13%が第二狭窄部に異物が介在したとの報告がある。食道異物摘出術にも直達鏡や軟性内視鏡の2通りの方法がある。最近は軟性内視鏡で摘出することが多い。ただ,鋭利な異物は軟性内視鏡よりも食道直達鏡のほうがよい。
    異物の誤嚥や誤飲は事故であり,予防が何よりも重要である。特に保護者に対する啓蒙が重要と考える。
原著
  • 中村 一博, 渡邊 雄介, 許斐 氏元, 駒澤 大吾, 吉田 知之, 鈴木 衞
    2010 年 61 巻 5 号 p. 445-451
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/25
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    喉頭疾患における標準術式は全身麻酔下喉頭微細手術 (LMS) である。LMSは術者単独で施行可能であるが全身麻酔で入院が必要なことが多い。局所麻酔下喉頭内視鏡下手術 (LVES) は外来日帰りで施行可能であるが,諸家の報告によると術者と助手を必要とし単独では困難であり,使用器具も特注のものが必要とされている。今回われわれは,LVESを術者単独で,必要最小限の器具で施行する工夫をした。その工夫について報告する。
    症例は,2007年1月から2009年6月までに国際医療福祉大学三田病院において,LVESを施行した50例である。同時期のLMSは329例であった。LMSを選択しなかった理由は,全身麻酔不可,入院拒否などであった。
    手術はまず局所麻酔から開始した。2%塩酸リドカイン (キシロカインビスカス®) を5 ml口腔内に含ませ咽頭を麻酔した。患者自身に舌を引かせ経鼻内視鏡下に喉頭を観察しながら4%塩酸リドカイン (キシロカイン液®) を注入した。十分に麻酔を行った後,術者は左手に内視鏡,右手にフレンケル式喉頭鉗子を持ち,手術を施行した。
    手術が中断した症例はなく完遂率は100%であった。合併症はリドカインショック,一過性脳虚血,呼吸苦が各1例ずつであった。
    LVESは工夫によって術者単独で最小限の器具で施行可能な手術手技であった。
  • 高木 真紀, 渡嘉敷 亮二, 鈴木 衞
    2010 年 61 巻 5 号 p. 452-457
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/25
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    【目的】手術治療を行った片側声帯麻痺例で,術後にどの程度のピッチレンジが獲得されたかを検討し,結果に影響を与える因子について検討すること。
    【対象と方法】2006年1月から2009年1月の3年間に手術を行い術前および術後1年後にピッチレンジと以下の検討項目が測定されていた39例。手術は術前の重症度にかかわらず,すべて披裂軟骨内転術と甲状軟骨形成術I型を同時併用した。術後に獲得されたピッチレンジと以下の項目,(1) 術前後の最長持続発声時間 (maximum phonation time:以下MPT) (2) 術前後の平均呼気流率 (mean air flow rate:以下MFR) (3) 術前のピッチレンジ,の相関について検討した。
    【結果】術前後のピッチレンジは術前3.0±4.5 (mean±SD) 半音から術後17.5±5.8半音と有意に増加した。術前のMPT,MFR,ピッチレンジは術後のピッチレンジの広さに相関しなかった。術後のデータではMPTのみが術後のピッチレンジの広さに相関していた。
    【結論】片側声帯麻痺に対し披裂軟骨内転術と甲状軟骨形成術I型を行うことで術後のピッチレンジは有意に拡大した。また獲得されたピッチレンジの広さは術前の重症度には相関しないことが予測された。
  • 吉岡 哲志, 櫻井 一生, 内藤 健晴, 鱸 成隆, 藤井 直子, 片田 和広
    2010 年 61 巻 5 号 p. 458-466
    発行日: 2010/10/10
    公開日: 2010/10/25
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    320列高速多列面検出器CTを小児の気管支異物の診断に使用した。本機は0.5 mm·320列の面検出器が,1回転あたり最速0.35秒で回転し,最大160 mm幅を1回転のみで撮像することが可能である。そのため画像内の全部分に時相差がなく,また連続回転により時間的に連続する立体画像データを得ることが可能である (4DCT) 。
    対象は,気管支異物を強く疑った幼児4名である。機器は東芝Aquilion ONE®を使用し,多断面再構成像 (MPR) および三次元再構成画像 (3DCT) を作成した。予め観察した1呼吸分の連続4DCT動画も作成した。
    本機により,薬物睡眠無しでの超短時間での撮影が可能であった。静止画においては,従来回避不可能だった,呼吸や心拍動に伴うモーションアーチファクトが完全に消失したため,画像の連続性や末梢気管支の描出能が飛躍的に改善した。そのため微細・複数の異物の診断の確実性が非常に高まった。4DCTでは,動的な観察により異物介在部位や肺の生理学的な状況を視覚的に解りやすく画像化した。すなわち,肺の機能診断にもCTが応用できた。被曝量は,認容できる量であった。
    本機は新しい肺気管支領域の画像評価ツールとして非常に期待できる。
用語解説
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