日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
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ISSN-L : 1345-2843
69 巻, 3 号
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原著
  • 永野 浩昭, 宮本 敦史, 岸本 慎一, 村上 昌裕, 野田 剛広, 小林 省吾, 武田 裕, 丸橋 繁, 堂野 恵三, 梅下 浩司, 左近 ...
    2008 年 69 巻 3 号 p. 503-508
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    肝切除術中の肝門部血流遮断前後の組織血流量とprostaglandin-E1(PGE1)投与の効果について検討した.対象は,肝切除例症例27例.肝組織血流は,血流遮断直前,血流遮断中,血流遮断解除直後に,非接触型laser doppler臓器血流計を用いて測定した.PGE1は,30-50/1000μg/kg/minを経静脈的に投与した.正常肝6例(投与:3,対照:3),硬変肝21例(投与:12,対照:9)について検討した.正常肝での血流量は,対照群,投与群ともに,遮断時に低下し解除直後に前値に復し,両群間に差はなかった.ところが,硬変肝・対照群では,遮断による血流低下は解除後も前値に復さず有意に低下し,その一方でPGE1投与群では,遮断解放後に血流量は前値に復し,対照群に比し有意差を認めた.硬変肝症例では,血流遮断解除後の肝血流保持は困難で,その対策としてPGE1投与が有用である可能性が示された.
  • 田島 陽介, 武者 信行, 矢島 和人, 木戸 知紀, 坪野 俊広, 酒井 靖夫, 長谷川 功
    2008 年 69 巻 3 号 p. 509-513
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    はじめに:鼠径へルニアの治療の原則は手術であるが,妊娠中に発症した鼠径ヘルニアの治療方針は確立していない.対象および方法:1996年から2006年の間に当科で行われた1,032例の鼠径ヘルニア手術症例のうち,妊娠中に発症した鼠径ヘルニア手術症例14例(1.4%)を対象とし,臨床的特徴,手術法,および治療成績について後ろ向きに検討した.結果:全14例が有症状で10例に鼠径部の膨隆,4例に疼痛を認めた.鼠径ヘルニア発症の時期は中央値が妊娠19.5週であった.12例が妊娠中,1例が帝王切開時,1例が出産後8日目に鼠径ヘルニア根治術を施行された.手術法は8例がMarcy法,6例がLichtenstein法であった.全例で妊娠・出産に関する合併症,鼠径へルニアの再発を認めていない.結論:妊娠中でも鼠径ヘルニア修復術は安全かつ十分に手術を行うことが可能であり,有症状例に対しては手術を考慮すべきである.
  • 阿部 裕之, 舟木 成樹, 小野 裕國, 北中 陽介, 大野 真, 鈴木 敬麿, 幕内 晴朗
    2008 年 69 巻 3 号 p. 514-519
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    高齢など解剖学的血行再建困難症例に対し,非解剖学的血行再建が有用と考えている.対象は,1989年から16年間に施行した非解剖学的血行再建36例(男性33例,女性3例)で,手術時間,術後在院日数,開存率,術後合併症について解剖学的血行再建55例と比較検討した.再建経路は,腋窩─大腿動脈バイパス(18例),大腿─大腿動脈バイパス(18例)であった.手術時間は,解剖学的血行再建に比べ非解剖学的血行再建で有意に短縮されたが,術後在院日数は短縮傾向にとどまった.術前状態不良の1例を除き,重大な術後合併症はなく,5例に遠隔期死亡を認めた.3年後の一次開存率,二次開存率は,大腿─大腿動脈バイパスで,それぞれ88.2±7.9%,94.4±5.4%,腋窩─大腿動脈バイパスでそれぞれ88.9±7.4%,94.1±5.7%であった.非解剖学的血行再建は,高齢者に対する手術侵襲の軽減と生活範囲の拡大や比較的若年者に対しても解剖学的再建が困難な場合は有用と考えられた.
症例
  • 御供 真吾, 早川 善郎, 入野田 崇, 目黒 英二, 小林 慎, 高金 明典
    2008 年 69 巻 3 号 p. 520-524
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は46歳,女性.2007年2月頃より右乳房腫瘤を自覚し,同年5月上旬に当科外来受診した.右乳房AC領域に約5cmの弾性硬で比較的境界明瞭な腫瘤を触知し,右腋窩に大きさ約2cmのリンパ節の腫大を認めた.マンモグラフィではカテゴリー4と診断した.超音波検査では右AC領域にまたがり,境界比較的明瞭で内部は不均一な腫瘍を認めた.針生検で右乳癌の診断となり,右胸筋温存乳房切除術+腋窩郭清を施行した.病理組織検査にてHE染色では腫瘍細胞がロゼット配列を示し,免疫染色ではsynaptophysin,CD56などの神経内分泌マーカーが陽性であり,large cell neuroendocrine carcinoma(LCNEC)と診断した.乳腺原発のLCNECは稀であるため,治療方針は確立しておらず,予後に関しても不明であるが,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 小山 裕, 村上 貴志, 大谷 悟, 山本 剛, 錦 みちる
    2008 年 69 巻 3 号 p. 525-529
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    冠動脈血行再建において,左前下行枝全長にわたるびまん性狭窄病変は,冠動脈バイパス術,冠動脈カテーテルインターベンション双方にとって治療困難であり,未だ血行再建適応外とされることも少なくない.今回われわれはこのような病変を有する7症例に対し,左内胸動脈を用いたlong onlay patch吻合を行ったので,その早期成績を検討した.4例は人工心肺心停止下,3例はoff-pumpで行った.手術死亡は1例で,急性心筋梗塞に対し緊急手術を行った症例に脳梗塞を合併した.他に周術期合併症を認めなかった.onlay patchの吻合長は2.5~6cm.術後造影を行った6例全例にgraftの開存と良好な血流を認めた.Long onlay吻合を用いることで従来の方法では多くのflowが期待できない左前下行枝のびまん性狭窄病変に対しても良好な結果が得られた.遠隔成績は不明であるが,予後改善を期待できる方法と期待できる.
  • 山内 康平, 佐伯 悟三, 岡田 禎人, 広松 孝, 會津 恵司, 新井 利幸
    2008 年 69 巻 3 号 p. 530-532
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    感染性総腸骨動脈瘤に対する瘤切除の後,断端を大腿筋膜で補強し,良好に経過した症例を経験したので報告する.症例は87歳,男性.腰痛と発熱を主訴に近医を受診し,CTにて感染性左総腸骨動脈瘤を認めたため,当院紹介となった.当院にても感染性左総腸骨動脈瘤の診断で,緊急手術を施行した.まずfemorofemoral cross-over bypass(F-Fバイパス)を造設し閉創,その際に大腿筋膜を切除しておいた.その後に開腹し,瘤壁の切除と十分な洗浄を施行し,断端部に大腿筋膜を使用して補強した.術後は,断端破綻を生ずることなく経過良好であった.術後2年4カ月を経過した,現在も元気に通院している.
  • 森田 一郎, 木下 真一郎, 光野 正人
    2008 年 69 巻 3 号 p. 533-537
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    稀な肺原発の炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor:以下IMT)を手術したので報告する.症例は15歳男性で,高校入学時検診の胸部X線で右上葉に5cm大の腫瘤陰影を指摘された.近医を経て,当院呼吸器内科で精査したところ,右上葉の筋線維芽肉腫疑いと診断され,手術目的で当科紹介となった.腫瘤が中葉に接し,不全分葉であったため,右上中葉切除を施行した.病理結果は,IMTと診断された.しかし,細胞に異形成が認められ,p53も陽性より,通常のIMTよりは再発・転移をきたす可能性があり,注意深い経過観察が必要と考えられた.術後経過は良好で術後13日目に退院となった.
  • 植田 宏治, 須藤 一郎
    2008 年 69 巻 3 号 p. 538-542
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,男性.人間ドックの上部消化管内視鏡で胃壁外性圧迫が疑われ,腹部CT検査で膵体尾部背側を主座とし,胃後壁に至る径約7cmの充実性腫瘍を認めた.膵臓・副腎とは境界明瞭で,血管造影検査では明らかな栄養血管は指摘できなかった.胃壁外発育したgastrointestinal stromal tumor(GIST)も考慮したが,腫瘍は膵臓背側の後腹膜腔を主座としており,後腹膜腫瘍と診断し,手術を施行した.腫瘍は膵臓を腹側へ排して存在し,索状の茎で胃体部後壁の漿膜と連続していた.胃を楔状切除して腫瘍を摘出した.病理組織検査では,紡錘状腫瘍細胞が錯走して増生し,免疫組織染色でc-kitとCD34が陽性,SMAとS-100蛋白が陰性でGISTと診断された.壁外有茎性発育した胃GISTでこのような進展を示した報告は検索しうる限り本症例が初めてである.極めて稀な発育形態を呈し後腹膜腫瘍との術前鑑別が困難であった胃GISTの1例を経験したので若干の文献的考察を含め報告する.
  • 蜂須賀 崇, 大住 周司, 西和田 敏, 吉村 淳
    2008 年 69 巻 3 号 p. 543-547
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,女性.平成10年9月にスクリーニングで施行した上部消化管内視鏡検査で胃体中部大彎に広範囲の腺腫を指摘された.癌病変の併存も考慮し平成11年4月に診断的EMRを施行したが病理組織は胃腺腫であった.その後は1年に一回程度の内視鏡検査にてフォローしたが,平成17年5月まで生検はいずれもGroup IIIであった.平成19年1月,胆嚢炎で入院時に内視鏡検査を施行したところ腫瘍は著明に増大しており,生検でもPapillary adenocarcinomaであったため胃全摘術,リンパ節郭清,胆嚢摘出術を施行した.胃病変は肉眼的には明らかな隆起を有する1型腫瘍であるにもかかわらず,病理組織診断では深達度Mで脈管侵襲やリンパ節転移は認めなかった.
    近年,胃腺腫の癌化危険因子について様々な知見が得られている.悪性度の高い腺腫については,積極的に内視鏡的切除を試みる必要があると思われた.
  • 竹本 大樹, 塩田 摂成, 岸本 弘之, 日野原 徹
    2008 年 69 巻 3 号 p. 548-552
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    Plummer-Vinson症候群は嚥下障害,鉄欠乏性貧血および舌炎を主徴とする症候群で,下咽頭癌や頸部食道癌との合併が多いとされる.今回われわれは,Plummer-Vinson症候群に発症した胃癌の1例を経験したので報告する.症例は62歳,男性.30年前より貧血,嚥下困難を自覚.最近になって嚥下困難が増悪したため来院.血液検査にて鉄欠乏性貧血を認めた.上部消化管精査にて食道入口部に膜様狭窄(食道web)を認めた.また胃体部大彎にI型腫瘍を認め,組織学的に胃癌と診断された.Plummer-Vinson症候群に発症した胃癌の診断で根治的胃亜全摘術を施行した.病理組織学的に乳頭腺癌であった.現在再発兆候無く,鉄剤の内服にて貧血および嚥下困難は認めていない.今回,Plummer-Vinson症候群と胃癌との明確な関連性は指摘できなかったが,本症候群の患者に対しては,胃癌の発症も念頭に置いた診療が必要と考えられた.
  • 長 誠司, 堀川 直樹, 澤田 成朗, 山岸 文範, 塚田 一博
    2008 年 69 巻 3 号 p. 553-557
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は49歳,女性.潰瘍性大腸炎(以下UC)で内科的加療を受けていた.経過中に貧血を認め,上部消化管内視鏡検査で進行胃癌と診断され,当科を紹介された.胃癌は術前検査でリンパ節転移,播種性病変も疑われたため,術前化学療法の導入なども考慮したが,貧血の原因が胃癌であると判断し手術を施行した.UCは全結腸炎型で,活動性は中等症であり,内科的治療で管理可能となり始めていたので,大腸全摘術は施行しなかった.UCと胃癌の合併の報告は稀であるが,昨今のUC患者の増加とともに胃癌との合併症例も今後増加すると予想される.UCと胃癌それぞれの病態に応じて治療方針は異なるが,多くのUC患者はステロイドが長期もしくは大量に投与されており,周術期管理にはステロイド補充,合併症の対策などが重要であると思われる.今回,これらのことを考慮して周術期を安全に加療できたので,若干の文献的考察を加えて報告した.
  • 藤原 謙次, 大里 隆, 籾井 眞二
    2008 年 69 巻 3 号 p. 558-561
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    十二指腸憩室からの出血は稀であり,診断に苦慮することが多い.今回十二指腸水平部憩室からの大量出血に対し,経カテーテル的動脈塞栓術が奏効した1例を経験したので報告する.
    症例は64歳,男性.突然の下血で近医にて上部下部消化管内視鏡検査を行うも出血源は認められなかった.しかしその後も大量の下血が続きショック状態となったため,当院に緊急搬送となった.大量輸液,輸血,止血剤にて一旦下血は消失,全身状態も安定した.翌日に再度内視鏡検査を行ったところ十二指腸水平部の憩室から出血を認めた.内視鏡下での止血困難であり,緊急血管造影を行い下膵十二指腸動脈からの出血であることが判明した.動脈塞栓術を施行し下血は消失,入院11日目に退院となった.輸血の総量は照射赤血球5.8リットルを要した.
  • 池嶋 聡, 倉本 正文, 松尾 彰宣, 田嶋 哲二, 馬場 秀夫, 島田 信也
    2008 年 69 巻 3 号 p. 562-566
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,女性.C型慢性肝炎で加療中に施行した上部消化管内視鏡検査で十二指腸乳頭部の腫大を認め,生検にて分化型腺癌と診断され,膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的検査で腫瘍の大部分は髄様構造からなる小型細胞で占められており,chromogranin Aが陽性で小細胞癌(内分泌細胞癌)と診断した.また,組織学的に癌病巣の大きさは9mm,リンパ節転移も皆無で,本邦報告十二指腸乳頭部原発小細胞癌19例のうち最小の大きさであった.術後経過は良好であったが,術後約1年で肝転移再発をきたし,急速な進行で13カ月目に死亡した.十二指腸乳頭部原発小細胞癌報告例はいまだ少ないが,術後急速に転移,進行する極めて悪性度の高い予後不良の疾患である.本症例でも早期発見,治癒切除したにも関わらず再発し不幸な転帰をたどった.今後の有効な化学療法の確立が予後改善に必要であると考えられた.
  • 槇 彰子, 藤木 健弘, 松尾 勝一, 田中 伸之介, 池田 靖洋, 山下 裕一
    2008 年 69 巻 3 号 p. 567-571
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は49歳,男性.嘔吐を伴う腹痛を認め,救急外来受診.腹部膨満と圧痛を認めたが,明らかな腹膜刺激症状は認めなかった.腹部X線検査でニボーを認め,腹部CT検査で腸管拡張像と腹水を認めた.腹部症状は軽度であったが,白血球増多,CK上昇を認め,絞扼性イレウスが否定できず緊急手術を施行した.開腹所見では乳び腹水を中等量認め,小腸は腸間膜根部で時計回りに約360度捻転していた.小腸壊死は認めず,捻転を整復し手術を終了した.本症例は腹腔内に解剖学的な異常や奇形を認めず,原発性小腸軸捻転症と診断した.本邦では成人の原発性小腸軸捻転症は比較的稀な疾患であり,本症例を含めて47例が報告されている.診断には腹部CT検査が有用である.急激に小腸壊死に陥り致命的な経過をたどる場合があるため手術のタイミングを逃さないよう注意が必要である.
  • 近藤 禎晃, 中室 誠, 竹田 幹, 前田 庄平
    2008 年 69 巻 3 号 p. 572-575
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,男性.平成6年9月に小腸腫瘍の診断にて空腸切除術を施行.病理組織検査で平滑筋肉腫の診断(当時)を得た.以後定期的に腹部CT検査などを施行し,経過観察を行っていた.平成19年4月に臍部の皮下腫瘤を自覚し来院.精査にて腹腔内,臍部の皮下に多発する腫瘍を確認.臍部の病変に対し摘出生検を行い,併せて初回手術時の病理組織を新たに切り出して検索.類似した紡錘形,多角形細胞の束状の増殖を確認.免疫染色ではc-kitが瀰漫性に陽性であり,小腸GISTの再発と診断した.摘出手術は不能であり,直ちにメシル酸イマチニブ300mg/日の投与を開始.その後400mg/日まで増量したが腫瘍の縮小効果は得られず,全身状態が悪化し死亡した.手術後13年目での再発は稀であり,再発形態を含め若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 花本 尊之, 井上 行信, 砂原 正男, 高橋 雅俊
    2008 年 69 巻 3 号 p. 576-580
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    魚骨による虫垂穿孔の1例を経験したので,最近10年間に本邦で報告された虫垂異物48例と,魚骨による虫垂炎・虫垂穿孔の論文報告27例の検討を加え報告する.
    症例は56歳,男性.2日前からの右下腹部痛を主訴に近医より当科に紹介受診となった.腹部超音波検査と腹部CT検査で,腫大した虫垂と虫垂内腔に点状の構造物を認めたため,糞石を伴う急性虫垂炎の診断で虫垂切除を施行した.虫垂は全体的に腫大しており,虫垂先端には2.5cmの魚骨が穿通していた.
    本邦の虫垂異物は魚骨が原因となることが多く,穿孔をきたし易い.魚骨による虫垂炎・虫垂穿孔の術前診断は困難であるが,腹部画像所見で線状構造物を認めた際は,魚骨の存在を考慮すべきである.また,腹部腫瘤を伴う右下腹部痛の症例を診察するときは,魚骨による虫垂穿孔と炎症性腫瘤の形成の可能性を常に念頭に置くべきである.
  • 福富 聡, 安冨 淳, 草塩 公彦, 鈴木 秀, 深尾 立, 宮崎 勝
    2008 年 69 巻 3 号 p. 581-585
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性.5日間続く上腹部痛で来院し腹膜炎の診断で入院となる.腹部単純CTで急性虫垂炎を疑い保存的治療を行った.第7病日の造影CTではSMV内に血栓があり,ヘパリンの持続投与を開始したが,第12病日に右下腹部痛が顕著となり,第13病日に回盲部切除術を行った.病理診断は壊疽性虫垂炎であった.経過は順調でワーファリン内服による抗凝固療法を継続し,術後136日目の造影CTではSMV内の血栓は消失していた.
    SMV血栓症は比較的稀な疾患であり,特異的な症状を示さないことにより診断が遅れる傾向にあるといわれる.虫垂炎などの炎症に起因した場合は,炎症の重症化に伴い血栓が進展し腸管壊死をきたす可能性があり,血栓の早期診断と十分な炎症のコントロールが重要である.自験例のように腸管壊死をきたさずとも保存的治療で炎症の改善がみられない場合は積極的に原疾患に対する手術を行うべきであると考えられた.
  • 秋山 芳伸, 松原 健太郎, 北郷 実, 服部 裕昭, 鈴木 文雄, 大高 均
    2008 年 69 巻 3 号 p. 586-589
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,男性.主訴は上腹部痛.右腹部嚢状腫瘤,総胆管結石,両側鼠径ヘルニアを診断された.腹部腫瘤は12×6×6cm大で頭側が肝右葉,胆嚢に挟まれた上行結腸の背外側に接し,内部に壁に接した石灰化を認めたが,明らかな充実性部分は認めず,後腹膜腫瘍,腸間膜腫瘍が疑われた.注腸造影では上行結腸が背外側より圧排され,虫垂は描出されなかった.術中所見で嚢胞状腫瘤は拡張した虫垂であり,虫垂腫瘍と診断し右結腸切除術を施行した.切除標本では,虫垂は長径約12cmで嚢胞状に拡張,内腔には粘液を含んでいた.組織学的に嚢胞壁は軽度の異型性を有する核をもち,内部に粘液を有する上皮細胞で覆れていた.一部に上皮の乳頭状の増殖を認めたが,間質への浸潤は認められず,粘液性嚢胞腺腫と診断された.
  • 福田 賢一郎, 木ノ下 修, 永田 啓明, 古谷 晃伸, 中島 晋, 増山 守
    2008 年 69 巻 3 号 p. 590-593
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,排便時の怒責が原因でS状結腸裂傷をきたし,腹腔内出血を合併した1例を経験したので報告する.症例は77歳の男性で,排便直後から急に出現した下腹部痛を主訴に受診した.下腹部中心に圧痛と反張痛を認めた.腹部造影CT検査では腹水の貯留を認め,S状結腸には多量の便塊を認めた.S状結腸周囲にairを認めたが,腸管内gas像とfree airとの鑑別は困難であった.大腸穿孔による腹膜炎の疑いで緊急手術したところ,腹腔内に約400ccの出血を認め,便塊により著明に拡張したS状結腸の漿膜が結腸紐に沿って4cmにわたり裂けていたが穿孔は認めなかった.明らかな腫瘍性病変による狭窄は認めなかった.病理組織所見では虚血性腸炎の所見で,漿膜から筋層にわたり断裂していた.これらより宿便によって慢性的に虚血性変化をきたしていたS状結腸が排便時の怒責によって漿膜・筋層が裂け,腹腔内出血をきたしたと推察された.
  • 文元 雄一, 種村 匡弘, 菰田 弘, 西田 俊朗, 澤 芳樹, 伊藤 壽記
    2008 年 69 巻 3 号 p. 594-597
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    患者は54歳,男性.21歳時に1型糖尿病を発症.平成18年に脳死ドナーが発生し,脳死下膵腎同時移植が施行された.血清中CMV抗体はドナー:陽性,レシピエント:陰性のため術後にganciclovir(GCV)を8日間予防投与した.術後27日目より下痢が出現し,CMVアンチゲネミア陽性を呈した.GCVの投与を再開したところ,症状ならびにCMVアンチゲネミアが改善したので術後55日目に退院となった.しかし,退院後5日目より発熱と頻回の下痢が出現したため再入院となった.大腸ファイバー検査では盲腸から直腸にかけて小発赤斑が散在していた.発赤部粘膜の病理組織所見では免疫染色にてCMV陽性細胞を認めたためCMV腸炎と確定診断した.CMV抗体陽性ドナーからCMV抗体陰性レシピエントへの膵移植症例はCMV感染症のハイリスクグループであるため強力な予防対策ならびに注意深い経過観察が必要である.
  • 上神 慎之介, 宮本 勝也, 藤本 三喜夫, 山東 敬弘, 中井 志郎
    2008 年 69 巻 3 号 p. 598-603
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は77歳,女性.2002年11月突然の嘔気,嘔吐のため近医を受診した.腸閉塞と診断され加療後軽快退院となったが,再び同様の症状が出現し精査加療目的にて当院内科を紹介受診した.腹部X線検査で右側結腸壁に沿った石灰化,CT検査で回盲部から横行結腸にかけての壁肥厚,上行から横行結腸壁では結節状の石灰化を認めた.大腸内視鏡検査で浮腫状粘膜,暗紫青色変化,血管透見像の消失を認め,静脈硬化性腸炎と診断され保存的に加療されていたがイレウス症状を繰り返すため当科に紹介となった.2002年12月に手術を施行し術後病理所見にて静脈硬化性腸炎の確定診断を得た.術後5年になるが現在まで再発を認めていない.
  • 十倉 正朗, 上坂 邦夫, 勢馬 佳彦, 藤原 澄夫, 嶋田 安秀
    2008 年 69 巻 3 号 p. 604-608
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    結腸憩室症による結腸・十二指腸瘻を経験した.症例は71歳,男性.胃・十二指腸潰瘍症状を呈し受診した.同様の症状が4年前にもみられた.発熱は無く,血液検査で炎症所見がみられた.腹部CT検査で上行結腸の腫瘍性病変と膿瘍性病変,十二指腸壁肥厚が指摘された.また受診6カ月前の腹部CTでも同様の所見が確認できた.病状は数年経過し,症状の軽快と悪化を繰り返していたと考えられる.胃腸透視で十二指腸下行脚に,注腸透視で上行結腸に互いに交通すると思われる瘻孔が確認された.上下部内視鏡検査では共に腫瘍性病変はなく,病変部の炎症性肥厚,外部からの圧排などが確認された.瘻孔を含む結腸と十二指腸壁切除,膿瘍掻爬を行った.切除標本で悪性所見はなく,憩室症と膿瘍による瘻孔形成と診断された.憩室が原因の結腸・十二指腸瘻の報告例はきわめて少なく,貴重な症例と思われたので報告した.
  • 小川 聡, 石井 祥裕, 中家 亮一, 平野 誠太郎, 久留 哲夫
    2008 年 69 巻 3 号 p. 609-613
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は81歳,女性.発熱,右下腹部痛を主訴に近医を受診し,急性虫垂炎の疑いで,紹介入院となった.腹部理学所見では,右下腹部に手拳大の腫瘤を触知し,圧痛および腹膜刺激症状を認めた.腹部単純X線写真で,右下腹部に内部に斑状の透亮像を伴う腫瘤陰影を認めた.腹部CT検査では,回盲部付近に長径約60mmの辺縁がリング状に石灰化した嚢胞状の病変を認め,上行結腸内腔と連続していた.大腸巨大憩室症と診断し,翌日回盲部切除術を施行した.病理組織学的検査では,憩室壁の筋層を欠き,高度の炎症を伴った偽性憩室と診断された.
    急性虫垂炎との鑑別を要した上行結腸巨大憩室症の1切除例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
  • 鷹羽 智之, 森山 仁, 横山 剛, 的場 周一郎, 澤田 壽仁
    2008 年 69 巻 3 号 p. 614-619
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    S状結腸憩室炎に起因した結腸膀胱瘻は稀であり,多くは手術適応となる.以前は開腹手術が標準術式であったが,近年腹腔鏡下手術の報告がみられている.当院でも1998年以降,結腸膀胱瘻を伴ったS状結腸憩室炎5例に対して腹腔鏡下手術を施行している.成績は平均手術時間194分,開腹移行率0%,平均出血量72ml,平均術後在院日数14.6日,死亡例0例であり,術後合併症は尿管狭窄1例,皮下膿瘍1例であった.瘻孔剥離後の膀胱には手術操作を加えなかったが,尿道カテーテルを留置し膀胱内を減圧することで瘻孔は治癒した.高度の炎症による瘻孔形成性の憩室炎に対しても腹腔鏡下手術は実現可能であり,拡大視野を利用した手術操作によって安全で低侵襲に施行できる.
  • 山口 哲司, 田澤 賢一, 田中 飛鳥, 澤田 成朗, 山岸 文範, 塚田 一博
    2008 年 69 巻 3 号 p. 620-625
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,男性.夜間に右下腹部痛が出現.発症から12時間後に急激に症状が増悪,右下腹部に圧痛を認めたが,明らかな腹膜刺激症状はなかった.直腸温は39.1℃であり,皮膚温37.1℃に比べ異常に高値であった.腹部CT検査では上行結腸が著明に拡張し,上行結腸狭窄部には腫瘤像を認めた.大腸穿孔を伴う大腸癌イレウスと診断し,同日緊急手術を施行した.開腹所見では,結腸肝彎曲部に径5cm大の腫瘤性病変を認め,その口側結腸は著明に拡張し,全長約10cmにわたる結腸壁損傷を2箇所に認めた.腸管内容物として,スイカの種,トウモロコシなどの食物残渣が大量に排出された.右半結腸切除術,回腸人工肛門,横行結腸粘膜瘻造設術を施行し,術後合併症なく23日目に退院した.
    今回,われわれは口側結腸壁損傷を示した食餌性イレウスを伴った上行結腸癌の1例を経験した.文献的考察を加えて報告する.
  • 堀 和樹, 花田 法久, 草野 秀一, 鶴本 泰之
    2008 年 69 巻 3 号 p. 626-630
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は92歳,女性.左下腹部痛と粘血便を主訴に前医を受診し当科に紹介された.直腸指診で肛門から約3cmの位置に全周性の表面平滑な隆起性病変を認め,一部表面不整を認めた.下部消化管内視鏡検査で肛門縁より3cmに腸管内腔に突出する表面平滑な粘膜下腫瘍様の膨隆を認め,先進部にびらんと2型の腫瘤を認めた.ガストログラフィンによる注腸造影検査では,直腸に蟹の爪状の陰影欠損像を認め,直腸重積と診断した.造影剤の注入および送気により重積部は口側へ可動するが還納できなかった.骨盤部CT検査で直腸内腔に重積腸管を認めた.腸重積を合併した直腸腫瘍の診断でHartmann手術を行った.
    直腸癌による腸重積症は稀であり,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 伊藤 哲哉, 池田 祐司, 青木 浩一, 森 尚秀, 山家 仁, 伊藤 俊哉
    2008 年 69 巻 3 号 p. 631-635
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,女性.嘔吐と上腹部痛により,当院救急外来を受診した.WBC 11,100/μl,CRP 0.5mg/dl,s-amylase 1472IU/lを示し,軽症急性膵炎の診断のもとに膵酵素阻害剤,抗生物質,輸液療法を行った.第2病日にはs-amylaseは正常値に復したが,腹痛は増強し,WBC数とCRP値も漸次増加した.腹部CTでは上腹部正中線の腹壁直下に3×1.5cm大の淡い腫瘤陰影を認めた.第9病日にはこの腫瘤は7×4cm大へと増大し,低密度性で縞模様の内部構造を示しており,肝円索壊死が疑われた.開腹所見では膿瘍形成を伴う炎症性の肝円索腫瘤であった.細菌培養にてEnterobacter cloacaeを同定した.組織学的に主病変は壊死性脂肪織炎の所見を示した.肝円索膿瘍は急性腹症の範疇に入る疾患でありながら,その報告例は極めて少ないので本疾患の外科臨床上の概念について検討した.
  • 坂東 敬介, 山本 康弘, 鈴木 茂貴, 紀野 泰久, 河野 透, 葛西 眞一
    2008 年 69 巻 3 号 p. 636-640
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    一期的切除が困難であったS状結腸癌肝転移に対し,原発巣の切除後FOLFOX4を施行し転移巣の縮小後切除しえた1例を経験したので報告する.症例は,76歳,男性.下血を主訴に近医受診,精査の結果S状結腸癌および肝S4,S6に転移を認め当科紹介となった.原発巣,肝転移の同時切除も検討したが,患者の全身状態等を考慮し,S状結腸切除のみ行った.術後FOLFOX4を8クールまで施行した時点で肝転移の著明な縮小を認めたが,副作用により治療継続が困難となったため,肝切除を行った.病理結果では一部に中分化型腺癌を認めたが,その他の部位は著しい壊死と石灰化を認め化学療法の効果と思われた.化学療法施行後腫瘍の縮小効果が得られたのち肝切除を行うことは,切除困難な肝転移症例の治療に対して1つの選択肢になりうると思われた.
  • 平田 貴文, 木村 正美, 堀野 敬, 川田 康誠, 西村 卓祐, 安井 英明
    2008 年 69 巻 3 号 p. 641-644
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は65歳,男性.2年ほど前から肝嚢胞と分枝型膵IPMNを経過観察中であったが,今回の超音波検査にて肝嚢胞の増大と壁の不整肥厚,およびCT,MRIでは多房性で不整形な嚢胞を認めた.膵頭部の分枝型IPMNは画像上明らかな悪性所見を認めなかった.また,FDG-PET検査で肝嚢胞に腫瘍を疑う集積を認めた.以上よりIPMNに併存した肝嚢胞腺癌の診断で肝左葉切除術を行った.嚢胞内部には凝血塊や粘液様物質が充満しており一部嚢胞壁の肥厚を認めた.病理組織学的には腺腫様の部分と高分化型腺癌を認め肝嚢胞腺癌と診断された.肝嚢胞腺癌は比較的稀な疾患であり,IPMNに併存した肝嚢胞腺癌の報告は検索したかぎりでは認められない.極めて稀な症例と思われるため若干の文献的考察を加え報告する.
  • 成本 壮一, 山本 宏, 浅野 武秀, 貝沼 修, 趙 明浩, 竜 崇正
    2008 年 69 巻 3 号 p. 645-649
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    今回われわれは肝膿瘍を契機に発見された混合型肝癌の1例を経験した.稀な症例と考え報告する.
    症例:64歳,男性.主訴:上腹部痛,発熱.現病歴:2003年6月主訴出現し,当院受診した.初診時体温38.8度.血液検査所見:白血球10700/μl,CRP 20.5mg/dl.CEA 5.5ng/ml,AFP 215ng/ml,PIVKA II 777mAU/ml.造影CT:肝内側区域に長径7cmの腫瘤を認めた.一部膿瘍形成を認めた.門脈左枝に腫瘍栓を認めた.血液培養でKlebsiella. pneumoniaeを検出した.肝膿瘍を合併した肝細胞癌と診断.抗生剤による感染症治療の後,拡大肝左葉切除+リンパ節郭清術を施行した.病理組織学的検査所見:混合型肝癌.T4N1M0stageIVA.治癒度C.術後4カ月目に癌の残肝再発.肝膿瘍再発.抗生物質と肝動注化学療法により一時軽快するも術後7カ月目に肝膿瘍再燃して死亡した.
  • 網倉 克己, 坂本 裕彦, 田中 洋一
    2008 年 69 巻 3 号 p. 650-656
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌209例に対して249回の手術を施行後,再発151例中骨転移18例の臨床経過について検討した.肝内再発治療中10,肝内再発と同時骨転移4,肺転移経過観察中1例であり,肝内再発あるいは肺転移なしは3例のみであった.診断はCT10,骨シンチグラム12,MR 9,剖検1.10例で腫瘍マーカーの異常高値を示した.症状は疼痛13,しびれ1,腫瘤触知1,無症状3であり,10例で下半身麻痺を発症した.放射線治療14例,オピオイド投与による症状緩和のみ4例,診断後の平均余命は5.1カ月で,放射線照射量と生命予後との関連は認めなかった.早期に椎骨転移を認めた症例では下半身麻痺などQOL低下を伴い予後不良であった.High Risk症例では骨転移を伴う早期再発の可能性がある.肝内再発病変治療中あるいは肺転移を伴う症例でも骨転移を念頭に置いたInformed Consentおよび経過観察が必要である.
  • 中村 幸生, 上島 成幸, 鳥 正幸, 水谷 伸, 仲原 正明, 辻本 正彦
    2008 年 69 巻 3 号 p. 657-661
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    十二指腸狭窄を伴った黄色肉芽腫性胆嚢炎の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は51歳,男性.2カ月前より食欲低下が出現し,前医で上部消化管造影検査にて十二指腸の狭窄を指摘され,当科紹介となった.腹部CT検査にて胆嚢壁の肥厚が著明で,胆嚢周囲の肝組織の濃度上昇を認めた.腹部血管造影検査にて胆嚢動脈の屈曲,蛇行,不整を認めた.胆嚢癌の肝浸潤,十二指腸浸潤を疑い,開腹手術を施行した.術中迅速組織診断にて黄色肉芽腫性胆嚢炎と診断した.十二指腸狭窄は胆嚢炎の炎症波及によるものであった.術後吻合部潰瘍を併発し治療を要したが,保存的治療にて軽快し退院となった.
  • 松本 拓, 味木 徹夫, 藤田 恒憲, 高瀬 至郎, 鈴木 康之, 黒田 嘉和
    2008 年 69 巻 3 号 p. 662-665
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.2002年5月に下部胆管癌に対して膵頭十二指腸切除術を施行.病理組織診ではtub1,ginf0,panc3,du0,pv0,a0,n1(#13a),T4,stageIVaと診断された.術後23カ月目の2004年4月のCTにて局所再発巣を指摘され,本人の同意を得てgemcitabine(GEM)1000mg/m2による化学療法を開始した.2005年1月頃より繰り返す発熱が出現し,CT上局所再発腫瘍の増大,肝内胆管と挙上空腸の拡張を認め,挙上空腸閉塞の診断にて挙上空腸─空腸バイパス術を施行.術後よりTS-1 100mg/dayによる化学療法に変更し,同年7月ころより腹水が出現したが再発腫瘍の増大はなく投与を続行した.2006年8月,腹水の増加,経口摂取困難からTS-1による治療を断念,緩和医療に移行し,2007年4月,初回手術から58カ月で永眠した.
  • 大橋 正樹, 小林 慎二郎, 三方 一澤, 松浦 裕史
    2008 年 69 巻 3 号 p. 666-670
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は37歳,女性.心窩部痛を主訴に来院した.膵頭部に境界明瞭で内部に嚢胞成分を含む最大径4cmの腫瘍を認め,CA19-9が135U/mlと高値を示していた.嚢胞性膵腫瘍を疑い,全胃幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.腫瘍は内部に出血・壊死を伴い,破骨細胞様の多核巨細胞が認められ,破骨細胞型退形成性膵管癌と診断された.術後3年経過したが現在も無再発生存中である.破骨細胞型退形成性膵管癌の本邦での報告はこれまでに34例しかなく比較的稀である.本邦報告例を集計し,文献的考察を加えて報告する.
  • 大島 由記子, 高野 奈緒, 加藤 彩, 林 孝子, 近藤 建, 佐藤 康幸
    2008 年 69 巻 3 号 p. 671-675
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    副腎皮質癌の予後は悪く,進行および再発時の治療法としては確立されたものがないのが現状である.今回われわれは副腎皮質癌に対して化学療法を行い治療効果のみられた症例を経験したので報告する.
    症例は29歳,女性.17歳時悪性リンパ腫にて化学療法施行し寛解.27歳時発熱が続き検査施行したところ,CTにて後腹膜腫瘍を認め当院紹介となった.術前には確定診断がつかず,開腹手術施行.手術時生検結果で未分化癌と診断され切除せず術後EP療法を行っていたが,化学療法中に副腎皮質癌の診断となったため3クール施行しその後副腎腫瘍摘出術施行.経過観察中の術後1年4カ月後のCTにて腹膜腫瘤を認め,副腎皮質癌の腹膜再発と診断し再度EP療法を施行.8クール終了時のCTでは腹膜の腫瘤は画像上縮小しており,化学療法の効果が認められた.
  • 塚原 哲夫, 山口 晃弘, 磯谷 正敏, 原田 徹, 金岡 祐次, 亀井 桂太郎
    2008 年 69 巻 3 号 p. 676-681
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例1は34歳の男性で,左下腹部痛を主訴に当院を受診し,イレウスの診断で入院した.イレウス管造影で回腸に狭窄像を認め,腹部CT検査では同部位の拡張腸管がS状結腸間膜内に嵌入している所見を認め,S状結腸間膜ヘルニアと診断し手術を施行した.開腹所見ではS状結腸間膜窩に回腸が嵌頓して壊死に陥っており,壊死腸管を切除しヘルニア門を縫合閉鎖した.症例2は68歳の男性で,下腹部痛を主訴に当院を受診した.腹部CT検査でのS状結腸間膜付近での不連続な小腸の拡張像と,小腸ループ形成像とから,S状結腸間膜ヘルニアと診断し手術を施行した.開腹するとS状結腸間膜窩に回腸が嵌頓していたが,血流は良好でヘルニア門を縫合閉鎖した.
    S状結腸間膜窩ヘルニアの本邦報告例はわれわれが調べえた限り自験例を含め35例で極めて稀な疾患である.診断にはイレウス管造影とCTが有用であった.
  • 原田 浩, 五代 天偉, 深野 史靖, 田村 功, 鈴木 紳一郎, 下山 潔
    2008 年 69 巻 3 号 p. 682-686
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,男性.2006年8月会社の健診で肝障害を指摘されたため当院内科受診,腹部CT検査で胃体部大彎に接する径5cmの腫瘤を認めた.上部消化管内視鏡検査では粘膜面に異常なく壁外発育性の胃GISTの診断で10月27日腹腔鏡下腫瘍摘出手術を施行した.腫瘍は胃には癒着を認めるだけで横行結腸間膜に由来していた.病理組織検査では紡錘形の細胞が束状配列をとりながら増殖しており核分裂像は認められなかった.免疫組織学的検査ではc-kit陽性,CD34陽性,NSE陽性であり横行結腸間膜原発のGISTと診断した.腸管外組織を原発とするGIST(EGIST)は稀であり最近の本邦報告例とともに若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 内藤 浩之, 佐々木 秀, 小林 健, 橋詰 淳司, 中川 直哉, 立本 直邦
    2008 年 69 巻 3 号 p. 687-691
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    大網裂孔ヘルニアは内ヘルニアの1つで,稀な疾患であり,特徴的な臨床所見に乏しく術前診断は困難とされてきた.2003年から2006年に当科では5例の大網裂孔ヘルニアを経験したが,詳細な画像の検討により全例術前診断が可能であったので報告する.症例は男性3例,女性2例で,平均年齢は79.2歳であった.腹部CTと超音波検査での画像上の特徴として,上行結腸,横行結腸の腹側,外側に位置する拡張した小腸,網嚢腔に嵌入した拡張腸管,腹部CTにおけるヘルニア門に向かう腸間膜の収束像,超音波検査における小腸ループ基部近傍に一塊となった脂肪織が有用な所見であった.開腹歴のないイレウスの診断に際しては,大網裂孔ヘルニアも念頭に置き,腹部CTや超音波検査を行うことが重要と思われた.
  • 安岡 利恵, 西野 小百合, 藤木 博, 森田 修司, 満尾 学, 門谷 洋一
    2008 年 69 巻 3 号 p. 692-698
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    症例は60歳,女性.左下腹壁腫瘤を触知し,当院を受診した.腹部超音波検査や腹部CT検査などで,左腹直筋内に直径4.0cm大の腫瘤を認め,大網や周囲への炎症の波及もしくは浸潤が疑われた.生検で放線菌症と診断され,腹壁腫瘤摘出術と直下に癒着していた大網を部分切除したが,腸管の関与や腹腔内の炎症所見は認めなかった.培養ではKlebsiella oxytocaのみが検出されたが,病理組織学的検査で線維化を伴う肉芽腫と菌塊などを認めたため,放線菌症と診断した.腹壁放線菌症は,本邦での報告は自験例を含めて16例と比較的稀な疾患であるが,生検による術前診断も可能であり,腹壁に炎症性腫瘤を認めた際には,本症を念頭におくことが必要である.また,外科的切除が基本であり,それとともに,混合感染も考慮した抗生剤の選択が必要であると考えられた.
  • 中村 博志, 岩崎 維和夫, 柴田 祐充子, 渡辺 聖, 石川 由起雄
    2008 年 69 巻 3 号 p. 699-704
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/05
    ジャーナル フリー
    臍ポリープの2例を経験した.症例1は2歳6カ月男児,臍帯脱落後から臍に径約5mmの鮮紅色の腫瘤と湿潤が続き来院した.臍部のポリープ状腫瘤は胃粘膜上皮で,膵組織の迷入を認めた.症例2は2歳女児,臍帯脱落後から臍に径約4mmの鮮紅色の腫瘤を認め来院した.ポリープ状腫瘤は大腸粘膜組織を認めた.両症例とも臍部のみの開腹で臍を腹腔面も含めて切除したが,腹腔内や小腸に異常を認めず,再発徴候は認めていない.
    本症は本邦集計では臍帯脱落後早期(73.9%)に生じる鮮紅色の臍腫瘤(59.6%)と漿液性分泌物が特徴で,臍肉芽腫症として長期に加療されている例(51.1%)もあり本症を念頭におくべきであると考えられた.
編集後記
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