近年のニューキノロン系抗菌薬は, 胆道感染症にも臨床応用されるようになったが, いかなる薬理学的特性を持ったキノロン系抗菌薬が胆道感染症治療に適しているのかは特定されていない。本研究では, ラットを用いて種々の黄疸状態におけるsparfloxacin (SPFX), pazufloxacin (PZFX) とDU-6859aの胆汁中移行について, 各時間帯の胆汁中濃度, 未変化体とグルクロン酸抱合体の比率, および尿中排泄を比較検討した。その結果, 閉塞性黄疸ラットでは, いずれの抗菌薬も胆汁中移行が低下し, 尿中排泄が増加したが, 3未変化体の胆汁中移行はPZFX=DU-6859a>SPFXの順に維持された。EHBRでは, いずれの抗菌薬も未変化体とグルクロン酸抱合体は胆汁中移行が低下した。しかし, 閉塞性黄疸とは異なって, グルクロン酸抱合体のみ尿中排泄が増加した。すなわち, 閉塞性黄疸ではUDP-グルクロン酸のプールが減少していることが関与していると考えられた。Gunnラットでは, 抗菌薬の種類によって胆汁移行が異なり, SPFXのような血清蛋白との親和性の高い抗菌薬は, 血中でアルブミンとの結合の競合が起こり, アルブミンが枯渇するため胆汁中移行が低下した。一方, PZFXやDU-6859aのように血清蛋白との親和性が低い抗菌薬はこの影響を受けにくいため, SPFXより多く胆汁中に移行した。また, PZFXとDU-6859aでグルクロン酸抱合体が検出できたのは, キノロン系抗菌薬を代謝するUDP-glucuronosyltransfbraseはビリルビンとはまったく別のisoenzymeであると推測された。このように, キノロン系抗菌薬による胆道感染症の治療に際しては, 黄疸の状態や肝機能によって, 肝臓における代謝と胆汁中移行が異なることに留意しなくてはならない。
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