近年, 新規抗菌薬の臨床開発に際して, ブリッジング試験が実施される機会が増加している。その場合, 特に問題となるものにわが国の慢性気道感染症と欧米の慢性気管支炎の急性増悪, それぞれで評価される症例間の相違が挙げられる。この点は, しばしば欧米の研究者と討議されてきたが, 明確な比較をすることが今後のわが国の抗菌薬臨床評価法を考える上できわめて重要と思われ, 本検討を実施した。今回, trovafloxacin第3相試験に参加し, 慢性気管支炎の急性増悪症例を数多く経験しているアイルランドの1施設 (O'Doherty Clinic, Wexfbrd, Ireland) を訪問し, 現地の担当医, 放射線科医師と診断, 重症度, 組み入れ基準などを症例ごとに検討し, わが国の基準と比較した。18症例の詳細な検討では, 慢性気管支炎の急性増悪は臨床的診断であり, 臨床経過と膿性痰の存在およびそのグラム染色鏡検結果がもっとも重要視されている。わが国の基準で必要とされるCRP値や白血球数あるいは発熱の有無などは評価されていない。この結果全体としてわが国の症例よりやや軽症例が多い。一方, 胸部X線の検討では, 陳旧性肺結核や肺気腫あるいは気管支拡張症などの器質的障害を有する症例も5例あり, 純粋な慢性気管支炎のみが対象となっていないことが明らかであった。ただし, 嚢胞性肺線維症は含まれず, また, 緑膿菌の持続排菌例なども含まれていない。また, 喀痰グラム染色の重視から起炎菌の判明率は高かった。今回の比較検討症例は限られた例数であったが, 原則的に欧米の慢性気管支炎の急性増悪とわが国の慢性気道感染症との症例間では類似性が高く, 大きな差異は重症度がわが国でやや高い方に偏るのではないかと考えられた。
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