臨床分離株におけるマクロライド抗生物質耐性に関して, 30年前には, 単純に (1) 70Sリボソームの50Sサブユニット中の23Sr RNAの特定アデニンがN
6, N
6-ジメチル化酵素によって修飾されるために, マクロライド抗生物質が結合できなくなって耐性化するとだけ覚えておけば十分であった。しかし, 現在ではエリスロマイシンから始まった種々のマクロライド開発によってマクロライド耐性化機構は実に多様化し, 激しく進化してきている。そして, 最近の遺伝子工学を駆使した研究の進歩と共に, アデニン2058位N
6, N
6-ジメチル化反応機構の詳細や種々の新しい耐性化機構が明らかとなってきた。さらに, (2) 23Sr RNAの多部位での残基変異, (3) リボソーム50Sサブユニットのリボソーム蛋白変異や, 他に (4) マクロライド排出系蛋白,(5) マクロライド透過性変化,(6) エリスロマイシンエステラーゼ (エリスロマイシンエステル環加水分解不活化酵素), (7) マクロライド2'-リン酸化不活化酵素, (8) マクロライド2′-グリコシル化による不活化機構や, (9) マクロライドホルミル基 (CHO) 還元化機構, (10) マクロライドの脱アシル化耐性化機構が知られている。これらの中にはいくつものサブグループが知られ, かつ, 菌株によって特異性をもっている。このような多種類のマクロライド耐性が出現し問題化している現状下でそれぞれ特徴をもつ新たなマクロライドである15員環マクロライドのアジスロマイシン, 14員環マクロライド誘導体のケトライドなどの登場が予想されており, 新マクロライドと耐性菌の戦いがいま再びはじまろうとしている。そして, 今後のマクロライド耐性菌はさらに新しい進化を余儀なくされていくに違いない。
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