日本化学療法学会雑誌
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55 巻, 3 号
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  • 藤原 啓次, 保富 宗城, 山中 昇
    2007 年 55 巻 3 号 p. 201-210
    発行日: 2007/05/10
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    急性中耳炎をはじめとして耳鼻咽喉科領域感染症の分野は, 抗菌薬耐性菌の出現により治療指針の大きな過渡期を迎えつつあり, 診療にかかわる医師が明確な治療指針をもつことが求められている. 小児の中耳炎が難治化した原因として, 細菌の側からは急速に抗菌薬耐性化が進行していること, 宿主の側からは起炎菌特異的な免疫能の低下と, 集団保育の低年齢化などの環境の大きな変化があげられる. このような難治化した中耳炎を治療する場合, 重症度に基づいて抗菌薬を選択し, その投与回数および投与量においては抗菌薬の体内動態 (PK/PD理論) をふまえた投与方法が必要である. このような基本的な考え方をふまえたうえで, ガイドラインを理解し実践することが必要である.
  • 三澤 成毅, 小栗 豊子, 中村 文子, 田部 陽子, 近藤 成美, 三宅 一徳, 三宅 紀子, 猪狩 淳, 大坂 顯通
    2007 年 55 巻 3 号 p. 211-219
    発行日: 2007/05/10
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    当院における2001-2005年の各種臨床材料からのメタロ-β-ラクタマーゼ (MBL) 産生グラム陰性桿菌の検出状況, 薬剤感受性および日常検査におけるスクリーニングについて検討した. メルカプト酢酸ナトリウム (SMA) 阻害試験でスクリーニングされたMBL産生株は, 5年間で重複例を除き352株であった. これらのうち, PCR法でプラスミド性MBL遺伝子が検出された株は247株で, MBL遺伝子型はすべてIMP-1 groupであった. 247株の菌種は, ブドウ糖非発酵菌はPseudomona saeruginosa79株 (320%), Pseudomonas pufida/fluorescens38株 (164%), Acinefobacer spp. 37株 (15.0%), Achromobacferspp.11株 (45%) , Alcaligenesspp.6株 (2.4%), 腸内細菌科ではEnteroba Ctercloacae50株 (202%), Citrobacfer freundii12株 (49%), Providenciaretgeri7株 (28%), serrafiamarcescens3株 (12%), klebsiella spp. 3株 (12%), Escterichia coli1株 (04%) であった. IMP-1group陽性株は全体的には年次的に増加傾向は認められなかったものの, P. aeruginosaおよびE. cloacaeは, それぞれ2005年, 2003-2005年でやや増加していた. IMP-1group陽性株の薬剤感受性は, Pseudomonas spp., Acinefobacter baumannii, Achromobacter spp., s.marcescensで多剤耐性株が多かった. 一方, S. marcescensを除く腸内細菌科, Acinetobacfer lwoffiiおよびAlcaligenes spp.では多剤耐性株が少なく, imipenem (IPM) 感性株が多かった. P. aeruginosaはMBL遺伝子保有株が最も多く, 最近5年間の頻度は03-1.5%であった. 一方, 多剤耐性株は年次的に増加傾向であり, 2005年におけるIPM-gentamicin (GM)-levonoxacin (LVFX) 耐性とIPM-amikacin (AMK, 中間を含む)-LVFX耐性の頻度は, それぞれ3.7%, 39%であった. MBL産生菌は日常検査で監視すべき耐性菌であり, SMA阻害試験はこのタイプの耐性菌の検査にきわめて有用と考えられた.
  • 佐藤 正一, 斉藤 佳子
    2007 年 55 巻 3 号 p. 220-224
    発行日: 2007/05/10
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    2003年4月から2006年3月までにmethicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) に塩酸バンコマイシン (Vancomycin: VCM) を投与した患者79例について解析を行った.Pharmacokinetics/Pharmacodynamics (PK/PD) 理論では, VCMは抗菌薬の24時間暴露量と最小発育阻止濃度 (MIC) の比 (AreaUnder the blood concentration Curve/MIC: AUC24/MIC) が臨床効果に関係するといわれる. 今回調査したMRSAのVCMに対するMIC分布をみてみると, VCM非投与群のMRSAのMICは1.0μg/mLを中心とする分布であるのに対し, VCM投与群では2.0μg/mLを示す株が429%(21/49) を占め, 有意に高率であった (p<0.05).またVCM投与例の感染部位は, VCMの移行性が悪い呼吸器が46.8%を占めていた.これらのことはPK/PD理論からみると治療に難渋する可能性を示す結果といえる. 実際に治療の有効率についてみてみると薬物治療モニタリング (TDM) 未実施例では, 51.6%(16/31) であったのに対し, TDM実施例では75.0%(36/48) とその有用性は明らかであるが, PK/PD理論を用いて投与設計を行わない場合, 354%(17/48) の症例で十分な血中濃度が得られず, 治療成績が悪くなる可能性を示唆するものであった. 以上のことから, VCMのTDMを実施する際にはPK/PD理論に基づいた投与設計を行うことが安全性を確保し, 有効性を高めるために必須であると思われる.また, VCM治療成功例と不成功例の血清アルブミン値について解析した結果, 治療不成功例では血清アルブミン値が治療成功例に比べ有意に低値であった (p<0.01). 治療成績向上のためには, 抗菌薬による治療だけでなく, 栄養サポートについても同時に行う必要があると思われる.
  • 名取 一彦, 和泉 春香, 石原 晋, 長瀬 大輔, 藤本 吉紀, 加藤 元浩, 梅田 正法, 倉石 安庸
    2007 年 55 巻 3 号 p. 225-229
    発行日: 2007/05/10
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    悪性腫瘍の治療後に発症する白血病 (therapy-relatedleukemia; TRL), あるいは骨髄異形成症候群 (therapy-related myelodysplastic syndrome; T-MDS) は悪性腫瘍の治療上重要な問題となっている. われわれは固形癌治療後に発症したTRL, T-MDSの6例 (TRL: 3例, T-MDS: 3例) を経験したので報告する. 6例のTRLおよびT-MDSに先行した病型は小細胞肺癌1例, 非小細胞肺癌2例, 腎癌2例, 食道癌1例, 胃癌1例, 前立腺癌1例であり, うち2例は重複癌であった (小細胞肺癌+前立腺癌, 食道癌+腎癌).固形癌の治療については術後化学療法が施行された症例が3例, 化学療法と放射線療法の併用療法が施行された症例が2例, 手術療法単独症例が1例であった. 骨髄液染色体検索で異常を認めた症例は4例であった.TRLとT-MDSの治療と予後についてはTRLでは2例に対しては併用化学療法が施行されたが, いずれも完全寛解 (completeremission; CR) は得られなかった.しかし, FAB分類 (French-American-British classification) によるM3症例ではall-transretinoic acidによる分化誘導療法にてCRを得ることができた.T-MDSの3例に対しては化学療法は施行せず, 支持療法のみが施行された. 現在までにT-MDSの2例が生存中であり, 4例は死亡し, 死因は1例が固形癌 (小細胞肺癌), 3例がTRMあるいはT-MDSによるものであった.
    今後, 悪性腫瘍の治療においてTRLあるいはT-MDSの発症を防げるようにするには本症の臨床的および生物学的病像をさらに解明していく必要があろう.
  • 辻 泰弘, 佐道 紳一, 神村 英利, 谷口 真一郎
    2007 年 55 巻 3 号 p. 230-234
    発行日: 2007/05/10
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    症例は78歳女性. 冠動脈三枝すべてに高度狭窄を有する重症三枝病変のためcoronary artery bypassgrafting施行. 術後34日目に縦隔炎と診断され, 縦隔の排液からKlebsiella pmmoniaeが検出された. このため, cefozopran (CZOP) を投与したが, 術後39日目にmethicillin-resistantst Staphylococcus aureus (MRSA) に菌交代した. その治療には腎機能障害を考慮し, arbekacinとvancomycinを使用せずteicoplanin (TEIC) 単剤投与を選択した. また, 添付文書どおりの投与量では重篤なMRSA縦隔炎には効果が乏しいと判断し, 投与初期から薬物血中濃度モニタリング (TDM) を積極的に実施し, TEICの血中トラフ濃度を投与終了まで≧20μg/mL (400→200mg/日) に維持することに努めた.その結果, 臨床症状・検査成績は改善し, MRSAも消失したため, 投与50日目で投与中止した.
    TEICの血中濃度を添付文書どおり, 5-10μg/mLに設定すると多くのMRSA感染症例には無効とされており, TEICの用法・用量もしくは基準濃度域については再検証が必要である. MRSA縦隔炎に対しては, TDMを積極的に行い, TEICの血中トラフ濃度を≧20μg/mLに設定することが新たな治療手段の一つになると考えられた.
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