日本気管食道科学会会報
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55 巻, 5 号
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特集:気管食道科領域と咳嗽
  • 藤村 政樹
    2004 年 55 巻 5 号 p. 367-374
    発行日: 2004年
    公開日: 2007/08/24
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    咳嗽(咳)は多くの呼吸器疾患の部分症状であるが,咳嗽だけを症状とし,初診時の一般検査にて原因を診断することが困難な症例がある。とくに3週間以上持続する咳嗽(遷延性咳嗽)や8週間以上持続する咳嗽(慢性咳嗽)が唯一の症状である患者が増加している。この10数年間の日本咳嗽研究会を中心とした基礎および臨床研究によって,我が国における慢性咳嗽の原因疾患とその病態が少しずつ明らかとなってきた。このような咳嗽の原因疾患を正しく診断できれば,それぞれの原因疾患に対する適切な治療が可能である。欧米では,慢性咳嗽の三大原因疾患は,胃食道逆流,後鼻漏および喘息と報告されているが,本邦における三大原因疾患は,副鼻腔気管支症候群(湿性咳嗽),咳喘息(乾性咳嗽)およびアトピー咳嗽(乾性咳嗽)であり,胃食道逆流の頻度は低く,後鼻漏による乾性咳嗽の報告例はみられない。欧米と我が国における違いは,欧米では解剖学的診断アプローチによって診断しているが,我が国では病態学的アプローチによって診断していることが要因と考えられる。
  • 東田 有智, 辻 文生
    2004 年 55 巻 5 号 p. 375-379
    発行日: 2004年
    公開日: 2007/08/24
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    呼吸器疾患にとって咳嗽は最も代表的な症状の1つである。咳嗽は本来気道内の喀痰や異物を喀出するための生態防御反射であるため,安易に薬物によってとめる必要性はない。しかし,持続する病的な咳嗽は,体力を消耗させ,QOLの低下につながるため可能な限り原因を明らかにさせ,特異的でかつ適切な治療を施すべきである。しかし,咳嗽,特に慢性咳嗽の鑑別診断は多彩であり,決して容易ではない。多くの鑑別疾患の中から1つの疾患を導き出すには,ポイントをついた詳細な問診と身体所見の評価そして適切なタイミングでの検査が必要である。決して効果の認められない同一の鎮咳薬を長期間処方すべきではない。臨床上の注意点として,一般内科医は慢性咳嗽の鑑別疾患に一般の鎮咳薬の効果が認められないアレルギーが関与する咳嗽の認識を強くもつ必要がある。また,どうしても原因がわからないときや,咳嗽が徐々に悪化するときは,躊躇せず専門医へ移送するべきである。
  • 土橋 邦生
    2004 年 55 巻 5 号 p. 380-386
    発行日: 2004年
    公開日: 2007/08/24
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    呼吸器疾患と胃食道逆流(GERD)との関連性が注目されている。GERDによる咳嗽や喘鳴の発症機序は,おもに迷走神経反射説とマイクロアスピレーション説の2つがあり,まだ定まってはいない。慢性咳嗽の原因として,欧米ではGERDと後鼻漏と喘息で原因の約86%を占める。また,潜在性GERD患者の唯一の症状が,咳嗽であるという報告もある。喘息患者のGERD合併率は,われわれの内視鏡による検討では,50歳以上の喘息患者で,83.6%にロサンゼルス分類でグレードM以上の所見がみられた。
    治療的には,GERDをもつH2ブロッカーの無効な慢性咳嗽患者に,プロトンポンプインヒビター(PPI)を投与により,全例症状の改善がみられたとの報告もある。われわれは,喘息患者にPPIを投与し,ピークフロー値の改善を検討したところ,3例中2例に4~8週後に改善が認められた。
    GERDが慢性呼吸器疾患の難治化に関係しているか否かに関しては,はっきりとした結論は出ていない。咳嗽がなかなかおさまらない場合,GERDを念頭に入れ検査・治療を検討することは必要であろう。今後,各種慢性呼吸器疾患とGERDとの関係をさらに明らかとさせる必要がある。
  • 内藤 健晴
    2004 年 55 巻 5 号 p. 387-392
    発行日: 2004年
    公開日: 2007/08/24
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    肺に明確な病変がない持続性咳嗽の病態が複雑であることはわれわれ臨床家を大変に悩ませている。最も一般的な原因は慢性気管支炎,喘息,後鼻漏,咳喘息,アトピー咳嗽,喉頭アレルギー,胃食道逆流症があげられるが,経過,所見,検査の結果で的確な診断治療に結び着けなければならない。耳鼻咽喉科領域の持続咳嗽の原因は後鼻漏,喉頭アレルギー,胃食道逆流症,気管支異物であり,その詳細を本稿に示した。慢性咳嗽患者を診察するにあたり,最も注意しなければならないことは,耳鼻咽喉科領域では喉頭癌,副鼻腔癌,副鼻腔真菌症など,呼吸器内科領域では肺癌,気管支結核などの重要疾患を見逃さないことである。
  • 川崎 一輝
    2004 年 55 巻 5 号 p. 393-397
    発行日: 2004年
    公開日: 2007/08/24
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    咳嗽には小児に特有なものあるいは好発するものがある。新生児ではミルク吸引が原因になることがある。哺乳時のむせに注意する。RSウイルスによる細気管支炎は冬期に多い。乳児期から気管支炎や肺炎を反復する症例では,気道の先天異常を疑う。百日咳では連続する発作性の咳嗽とその後の吸気音が特徴的である。新生児ほど重症化しやすく,年長児でも発症することがある。クループ症候群では犬吠様咳嗽と吸気性喘鳴,嗄声がみられる。気道異物は1歳男児に多く,ほとんどの例で吸引エピソードがあり,以後気道症状が持続する。日中激しく,睡眠中には消失する咳嗽では心因性を疑う。
    咳嗽が3週間以上持続する幼児では,副鼻腔気管支炎の可能性が高い。診断には湿性咳嗽の聴取とWaters撮影が有用である。マクロライド系抗菌薬やST合剤の有効なことが多い。幼児期以降では咳喘息のこともある。
    自分から積極的に排痰できない小児では,鎮咳薬の投与は慎重でなければならない。気道分泌物が多い場合には,薬物療法だけに頼らずに,タッピングや体位ドレナージなどの胸部理学療法を励行し,水分摂取に努めるよう指導する。
  • 村上 正人
    2004 年 55 巻 5 号 p. 398-403
    発行日: 2004年
    公開日: 2007/08/24
    ジャーナル 認証あり
    人間の感情が動くときに象徴的な咳反応や咳症状が出現するように,咳は必ずしも気道の刺激だけではなく情緒的な刺激によっても生じることがある。いわゆる神経性咳嗽nervous coughは決して多い疾患ではないが,的確な診断と治療がなされないと,改善されぬまま慢性の経過をとりやすい。神経性咳嗽は何らかの心理的機制により,発作性,あるいは持続性に乾性咳嗽が生じるものである。しかし心因性,神経性といいながらよく病歴をとってみるとかつて急性上気道炎,咽喉頭炎や気管支炎に罹患したことが契機になり発症することが多い。長期間持続する慢性咳嗽の鑑別診断は慎重に行い,特に咳喘息との鑑別は重要である。咳反射に対する過敏性を獲得するプロセスに何らかの心理社会的ストレス要因が関与して発症するとされ,ヒステリーによる象徴的な症状(転換症状),内的緊張のはけ口としての咳,緊張時の音声チックと同様なメカニズムなどが考えられている。診断,治療に当たって,bio-psycho-socialな視点からの理解とアプローチが必要である。本症ではしばしば不安障害やうつ状態が合併しており,抗不安薬や抗うつ薬などの神経系作用薬がよく奏効することが多い。心理的要因が症状悪化につながっているときには専門的な心理療法を導入する。
症例報告
  • 宮嶋 義巳, 福永 博之, 森 一功, 中島 格
    2004 年 55 巻 5 号 p. 404-407
    発行日: 2004年
    公開日: 2007/08/24
    ジャーナル 認証あり
    喉頭に腺癌が生じることはきわめて稀である。また,頭頸部においても高齢者の癌では,治療法の選択に難渋する。今回,われわれは超高齢者に生じた喉頭腺癌を経験したので報告すると共に文献的考察を行った。
    症例は90歳の男性で,主訴は声が出にくいことであった。1999年9月下旬に急に声が出にくくなり受診した。左仮声帯を中心とする腫瘍を認め,左声帯は固定していた。CTで左声門上部を主座とする30 mm×20 mmの腫瘍と左中内深頸リンパ節および左下内深頸リンパ節の腫大を認めた。声門上癌T3N2bM0の診断で1999年11月10日に喉頭全摘出術と左保存的頸部廓清術を行った。組織診断は腺癌であった。術後14日から経口摂取可能となった。退院後は1人暮らしの生活にもどり,再入院するまで5カ月間は自宅でのQOLの高い生活を送ることができた。
  • 尾関 明美, 齊藤 裕子, 澤島 政行, 谷垣 裕二, 佃 守
    2004 年 55 巻 5 号 p. 408-413
    発行日: 2004年
    公開日: 2007/08/24
    ジャーナル 認証あり
    今回われわれは声門下に発生した喉頭アミロイドーシスを経験したので,文献的考察を加えて報告する。症例は53歳女性。嗄声,呼吸困難を自覚し,当科を受診した。初診時声門下に黄色の表面平滑な腫瘤を認めた。気管切開後,直達喉頭境下腫瘍を生検し,病理組織学的にアミロイドーシスと診断された。全身検索にて他臓器にアミロイドの沈着を認める所見はなく,声門下に限局した喉頭アミロイドーシスと診断した。
    本邦で報告された喉頭アミロイドーシスはわれわれが調査し得た限りでは自験例を含め125例であり,その中で声門下に限局した例は15例とやや稀で,声門上,声帯に発生する病変が過半数を示した。喉頭アミロイドーシスの治療法としては,1994年から2003年までの報告をみる限り喉頭微細術(LMS)下にて病変を切除もしくはレーザーで焼灼蒸散する症例が主流になっているようである。今回われわれは3回に亘り声門下病変を切除後,LMS下にアルゴンプラズマ凝固装置にて凝固焼灼した。術後病変は著しく縮小し嗄声は改善され,現在も増大傾向はなく経過観察している。
  • 佐藤 公則, 中島 格
    2004 年 55 巻 5 号 p. 414-422
    発行日: 2004年
    公開日: 2007/08/24
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    酸分泌抑制剤(H2受容体拮抗剤あるいはプロトンポンプ阻害剤)に抵抗を示した咽喉頭逆流症を報告した。1) 1例はFamotidine 40 mgを,1例はOmeprazole 10 mgを,1例はLansoprazole 30 mgを内服していた例である。2) 24時間pHモニタリングでは胃酸分泌は十分に抑制されておらず,咽喉頭にも酸の逆流を認めた。3) たとえ患者が酸分泌抑制剤を内服していても,酸分泌抑制剤に抵抗する咽喉頭逆流症が存在することに留意すべきである。4) 酸分泌抑制剤に抵抗する咽喉頭逆流症を疑うには,酸分泌抑制剤を内服しているにもかかわらず,胃食道逆流症の症状を患者が訴えていることを問診することが大切である。5) 酸分泌抑制剤に抵抗する咽喉頭逆流症が臨床上疑われるときには,薬剤を変更(H2受容体拮抗剤投与例ではプロトンポンプ阻害剤に,プロトンポンプ阻害剤投与例では他のプロトンポンプ阻害剤に)することが大切である。6) 4チャンネル24時間pHモニタリングは,胃酸のレベル,胃内の酸分泌抑制の状態,胃食道の逆流と食道咽喉頭の逆流の状態,各部位における酸逆流の関連性が同時に測定でき,薬剤の制酸効果を評価する際にも有用な検査である。
  • 山本 聡, 川原 克信, 前川 隆文, 白石 武史, 白日 高歩
    2004 年 55 巻 5 号 p. 423-426
    発行日: 2004年
    公開日: 2007/08/24
    ジャーナル 認証あり
    当施設におけるアカラシア対する胸腔鏡下のBelsey手術を検討し,その有用性と問題点について報告する。
    対象:当施設において胸腔鏡下に施行したアカラシアの症例は27~37歳の女性で,GradeII 2例,GradeIII 1例であった。病悩期間は2年から5年でいずれも内科的治療により症状の改善がみられなかった症例である。
    手術方法:手術術式は左胸部に約5 cmの小切開とカメラ用ポートを1個,鉗子の操作孔を1~2個追加して施行する。下部食道を剥離した後に,電気凝固あるいはフック型のハーモニックスカルペルで胃の大弯側まで筋層切開を行い,食道と胃大弯側の筋層を充分に開放する。次にBelsey変法による逆流防止術を行う。
    結果:3例の術中出血量は平均54±35 ml,手術時間は平均135±47分であった。術後経過は気胸の発症や胸水の貯留など呼吸器合併症はなく,胸腔ドレーン挿入期間は3.5±2.3日,術後平均入院期間13.6±3.5日である。いずれの症例も症状の改善がみられ,胸部不快感も改善し,プロトンポンプ阻害剤などの内服治療も不要となった。
    結語:GradeII,IIIのアカラシアに対する胸腔鏡下のBelsey法は安全で有効な術式と考えられる。
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