日本化学会誌(化学と工業化学)
Online ISSN : 2185-0925
Print ISSN : 0369-4577
最新号
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総合論文
  • 生田 博将, 内本 喜晴, 脇原 將孝
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 271-280
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    可逆的にリチウムイオンをインターカレート · デインターカレートすることができるスピネル型リチウムマンガン酸化物LiMn2O4は,マンガンが豊富に存在し,安価であるため,リチウム二次電池用正極材料として期待されている.本論文においては,このスピネル型リチウムマンガン酸化物の構造およびリチウム二次電池正極特性についてまとめる.また,Mnの一部を他の金属で置換し,サイクル特性を改善する試みがなされている.それについても示し,サイクル特性の改善の要因について考察する.
  • 市野 昌彬, 横山 拓志, 小田 愼吾, 岩井 保範
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 281-288
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    作動中にガス発生速度が増加する性質を持ちアジ化ナトリウムを用いない新規自動車エアバッグ用ガス発生器を開発した.本ガス発生器は,無毒なガス発生剤,小型軽量,乗員加害性低減,低原価の特長を持つ.ガス発生剤は燃料成分としてのグアニジン化合物,酸化剤としての金属硝酸塩,無機添加物とバインダー成分からなり,ガス発生剤を構成するすべての成分はLD50が1000 mg/kg以上であり環境汚染の可能性が低い.無機添加物は酸化剤から生成する残さと速やかに結合する成分を選択している.このことによりガス発生器の構造を単純化(小型 · 軽量化)することが可能となり,空気中に放出される残さ微粒子も大幅に減少した.本ガス発生剤は押出し成形法によって円筒形に成形している.径と長さを制御することにより,燃焼後半にガス発生速度を増加させることができる.このことによって,ガス発生器作動中にガス発生速度を上げることが可能となり,乗員加害性が低く拘束性能が高いという相反する目標を実現した.これらの特徴が市場から認められ,本ガス発生器の販売数は年間約300万個に達しさらに増加が見込まれている.
  • 奥村 典子, 宇野 文二
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 289-300
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    有機π電子系二価アニオンの特異的性質に基づく分子認識,それに伴うn-σおよびπ-π型電荷移動(CT)錯体生成能とその電気化学的制御に関する最近の研究成果を記した.
     電解により生成するキノン類二価アニオン(PQ2−)の水素結合錯体の構造と電子状態を明らかにした.この水素結合は強いn-σ型電荷移動によって支えられ,キノンの構造的特徴を反映してπ電子系に多大な影響を与えた.水素結合はn-σ型電荷移動であるにもかかわらず,πフロンティア軌道によって引き起こされるPQ2−の機能を制御可能であることが示された.これらの結果は,生物活性キノンの機能に関する水素結合の役割に対して基礎的知見を与えるものと考えられる.
     一方,TCNE2−およびクロラニル二価アニオン(CL2−)のは4電子系のビフェニレンとπ-π型CT相互作用することを実験的に証明し,この錯体生成は二価アニオンが4分子を分子軌道レベルで認識した多点の相互作用によることを明らかにした.この結果,電位制御によるHOMO-LUMO相互作用がスイッチされ,色と構造の異なる二つの安定な錯体生成系を提案することができた.この結果は,酸化還元反応に制御された分子化合物生成を用いる分子スイッチや機能性分子構築に基礎的な知見を与えるものと考えられる.
一般論文
  • 中川 徹夫
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 301-307
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    1-プロパノール水溶液の構造に関する知見を得るため,Kirkwood-Buff(KB)積分G11G22G12 (1 : 1-プロパノール,2 : 水),1-プロパノールの濃度揺らぎN<(Δx1)2>,密度揺らぎ<(ΔN)2>/N,密度揺らぎと濃度揺らぎの相関<ΔNΔx1>,両成分の密度揺らぎ<(ΔNi)2>/<Ni>および両者の相関<ΔNiΔNj>/<Nj>を,全濃度範囲,283.15–353.15 Kの温度範囲で算出した.KB積分は,等温圧縮率kT,過剰モルギブズエネルギーGmEおよび過剰モル体積VmEなどの熱力学量より計算した.続いて西川の方法により,KB積分の値を,各種揺らぎの値に変換した.G11, G22, N<(Δx1)2>, <(ΔN)2>/Nおよび<(ΔNi)2>/<Ni>は,x1≈0.2に極大値が出現し,温度上昇とともに増大した.一方,G12,<ΔNΔx1>および<ΔNiΔNj>/<Nj>は同じ濃度において極小値が出現し,温度上昇とともに減少した.しかし,x1>0.3の濃度領域では,これらの温度依存性は逆転した.以上のことより,1-プロパノール水溶液の構造に関して,次のように解釈できる.x1<0.3では,温度上昇とともに1-プロパノール分子どうしや水分子どうしが会合し,その結果ミクロな相分離が進行する.これに対して,x1>0.3では,温度上昇とともに1-プロパノール-水間の会合が進行する.
  • 松谷 寛, 佐多 晋一, 杉浦 三千夫
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 309-312
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    ベンゼン誘導体1の報告以降,二次元円盤状の分子が示すディスコチック液晶に関する研究が盛んに行われている.Chandrasekharら,およびLillyaらの研究グループは,それぞれ独立に2,5-シクロヘキサジエン-1,4-ジオン(p-ベンゾキノン)誘導体2の不安定なカラムナー相について報告している.著者らは,p-ベンゾキノン誘導体が示す酸化-還元等の機能性をディスコチック液晶に取り入れることにより,新たな機能材料の創製が可能となると考えた.そこで,エステル誘導体2に対して,種々のp-ベンゾキノン誘導体457を合成し,これらの化合物が示す中間相について調べた.安息香酸エステル4は,芳香環とコアが同一平面になっていなかったためか,中間相は確認できなかった.エーテル5bのDSC測定を行ったところ,32 °Cと55 °Cに吸熱ピークが観測された.しかし,液晶相と思われる明確な組織は確認できなかった.一方,アミド誘導体7aを等方性液体から冷却すると樹枝状組織が観測された.この結果は7aがモノトロピー的なColh相をとることを示唆している.
  • 高岡 京, 小林 光一, 高橋 政志, 多留 康矩, 高砂子 昌久, 曽禰 元隆
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 313-319
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    ジエチルエーテル(DEE),ジプロピルエーテル(DPE),ジブチルエーテル(DBE),ジ-s-ブチルエーテル(DSBE),ジオクチルエーテル(DOE),ジデシルエーテル(DDE)およびエチレングリコールジブチルエーテル[1,2-ジブトキシエタン(DBOE)]中の溶存水が形成する各クラスターの状態をIRスペクトル法で検討するとともに,熱安定性についても調べた.
     これらのクラスターは,エーテル基に水素結合した水分子([–O– · H2O])およびそれを取り巻くクラスター([–O– · Cluster]),アルキル基と直接相互作用して生じたクラスター群(C1,C2)とそれらを取り巻く大型のクラスター群(LC1,LC2,LC3)に分類された.
     アルキル基が長くなるほどエーテル基の酸素原子の陰性度が大きくなり,その結果,[–O– · Cluster]は大きいクラスターとなった.アルキル鎖が長くなるにつれ,C1,C2の大きさとその量は小さくなり,逆に,LC1,LC2,LC3のそれらは大きくなった.
     C1は,40–80 °Cで気化する.また,LC2,LC3は昇温とともに熱破壊して小クラスターとなった.
  • 加藤 千晴, 藤田 一美, 松田 恵三
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 321-328
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    尿素の加水分解を利用した均一沈殿法によるストロンチウムの各種リン酸塩の合成における反応条件について詳しく調べた.その結果,反応溶液のpH変化や加熱時間のほかに,Sr2+イオン濃度やClイオン濃度も各種リン酸塩の生成過程やSr–Ap(ストロンチウムアパタイト)の組成に影響を及ぼした.均一沈殿法によるSr–Apの合成では,初期生成物としてα-SrHPO4が生成し,(i)α-SrHPO4からSr3(PO4)2を経てSr–Apになる場合と,(ii)α-SrHPO4からβ-SrHPO4を経てSr–Apになる場合の二系統の生成過程がある.初期生成物であるα-SrHPO4はpH 6.2付近では,反応溶液のSr2+イオン濃度が低いとSr3(PO4)2に,Sr2+イオン濃度が高いとβ-SrHPO4に変化し,pH 7.2付近では反応溶液のSr2+イオン濃度にかかわらずβ-SrHPO4に変化した.中間生成物であるSr3(PO4)2β-SrHPO4は反応溶液のSr2+イオン濃度やClイオン濃度が高いほど短時間でSr–Apに変化した.
  • 栗原 正日呼, 濱邊 裕子, 池田 美佳, 新川 秀則, 大吉 僓美子
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 329-332
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    没食子酸(H4A)を配位子とし,Al(III)との間の錯体(1 : 1)生成反応を,分光光度法で調べた.酢酸緩衝剤を用いてpHを4–5に保持し,Al(III)イオンの濃度増加に伴う配位子の吸光度の減少量(pH一定下)から生成錯体種を解析した.この条件下では,Al(III)に対する没食子酸と酢酸イオン(緩衝剤)の競合反応および没食子酸に対するAl(III)と水素イオンの競合反応が起こっており,水素イオン濃度および酢酸イオン濃度の増加に伴いAl(III)-没食子酸錯体の生成量が減少した.没食子酸の酸解離定数とAl(III)-酢酸錯体の生成定数を用いて解析した結果,このpH領域での生成錯体種はAl(H2A)であり,Al(H3A)の存在は認められなかった.Al(H2A)の生成定数は,log K = 8.61 ± 0.02であった.この値は,没食子酸のpK2の値すなわち,配位子,H2A (酸解離したフェノール性ヒドロキシ基)の水素結合定数にほぼ等しいことがわかった.
  • 三好 健一郎, 久保 勘二, 五十嵐 徹太郎, 櫻井 忠光
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 333-337
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    β-シクロデキストリン(β-CDx)あるいはγ-シクロデキストリン(γ-CDx)存在下で測定された標題化合物のUV吸収スペクトル,蛍光スペクトル,円二色性スペクトルおよび蛍光寿命のデータに基づいて,分子内蛍光消光反応に及ぼすシクロデキストリン包接効果が解析された.β-CDx空洞は2-ナフチルアラニンモデル化合物のナフタレン環をアキシアルに取り込み,蛍光消光速度を顕著に低下させることが判明した.この結果は,発光消光に対する“through space”機構を支持する強い証拠を提供する.しかしながら,β-CDxと比較してより大きな空洞を有するγ-CDxはこのモデル化合物の蛍光消光反応にわずかな影響しか及ぼさなかった.一方,1-ナフチルアラニンモデル化合物はβ-CDxと包接錯体を形成せず,また,γ-CDx空洞は1-ナフチル基をアキシアルとエクアトリアルの両方の様式で包接し,結果として蛍光消光の速度を大きく減少させることはできなかった.
  • 山本 二郎, 濱田 龍二, 坪井 隆
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 339-343
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    アゾキシベンゼンのベンゼン溶液に酢酸を添加してUV照射すると,ベンゼン中で照射したときよりも高い収率で2-ヒドロキシアゾベンゼンが得られた.同様に2,2′-ジメチルアゾキシベンゼン,3,3′-ジメチルアゾキシベンゼン,4,4′-ジメチルアゾキシベンゼン,2,2′-ジクロロアゾキシベンゼンおよび4,4′-ジクロロアゾキシベンゼンのベンゼン溶液に酢酸を加えUV照射すると,酢酸無添加のときよりも対応する2-ヒドロキシアゾベンゼンが高い収率で得られた.4-メチル-ONN-アゾキシベンゼン(α : β = 3.5 : 1.0) (7α)と4-メチル-NNO-アゾキシベンゼン(α : β = 0.0 : 1.0) (7β)の酢酸を添加したベンゼン溶液をUV照射すると,7αからは主として2-ヒドロキシ-4-メチルアゾベンゼンが,7βからは主に2-ヒドロキシ-4′-メチルアゾベンゼンが生成し,いずれの転位生成物の収率も酢酸を添加したときが高くなった.この反応で7αから7βへの速い位置異性化がみられたが,7βから7αへの異性化は起こらなかった.
  • 篠塚 利之, 伊藤 玲, 佐々木 理, 矢沢 勇樹, 山口 達明
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 345-350
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    風化炭は多量のフミン酸を含んでいるが,フルボ酸の含有量はきわめて低い特徴をもっている.本論文では,中国新疆産風化炭から抽出したフミン酸をオゾンおよび過酸化水素により酸化分解を行い,水溶性であるためフミン酸より付加価値の高いフルボ酸を製造することを検討した.オゾン酸化によって,可溶成分であるフルボ酸画分と有機酸として主にギ酸とシュウ酸が得られた.それぞれの生成量は,フルボ酸画分が炭素収率で20[C%],ギ酸は39[C%],シュウ酸は13[C%]得られた.酸化分解によって製造されたフルボ酸は,風化炭から抽出により得られたフルボ酸に比べ,酸素含有率が高いことが明らかとなった.
  • 山田 パリーダ, 秋葉 妙子, 矢沢 勇樹, 山口 達明
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 351-357
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    本論文では,風化炭腐植物質の特性を明らかにすることを目的に産地の異なる3種類の中国産風化炭より国際腐植物質学会(IHSS)推奨の抽出法に従い,フミン酸(HA)およびフルボ酸(FA)を分画し,代表的な草炭腐植物質,土壌腐植物質およびニトロフミン酸との特性比較をした.
     これら抽出HA,FAの赤外線吸収スペクトル,CP/MAS 13C-NMRスペクトルなどについて行った実験結果より以下の知見を得る事ができた.石炭が自然条件下で空気酸化されることにより多くの再生HAが生成される.風化炭HAは草炭および森林土壌HAに比べ芳香族炭素を多く含み,酸性官能基量を多く持っている.風化炭のHA,FAは土壌,草炭のそれに比べ炭水化物炭素の割合が比較的少ない.風化炭FAは土壌,草炭のFAに比べメトキシ炭素の割合が少ない.
  • 小川 和郎, 島崎 長一郎, 吉村 敏章, 小野 慎, 山崎 偉三雄
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 359-363
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    アミロペクチンからなるワキシコーンスターチを用いてアクリル酸デンプンを合成し,さらに架橋することによりデンプンの機能化を検討した.高置換度のアクリル酸デンプンは,ピリジン中でデンプンにアクリル酸無水物を作用させることによって得られた.高置換度アクリル酸デンプンを用いた重合では,分枝構造による立体障害などによって架橋ポリマーを得ることができなかったが,高置換度アクリル酸デンプンとアクリル酸とを共重合すると,架橋反応物が得られた.この共重合体の架橋部分は重合度の低いアクリル酸重合体であり,生分解性ポリマーの原料として用いることができると思われる.一方,低置換度アクリル酸デンプンとアクリル酸との共重合では,架橋デンプンは得られなかった.
  • 増渕 泰之, 萩原 時男, 池谷 洋一, 河田 盛寿, 米澤 宣行
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 365-369
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    フッ素含有率の高いヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)と環状エーテルとの反応による重合について検討を行った.モノマーとして六員環エーテルであるテトラヒドロピラン(THP)を用いたときには,重合体は得られなかった.四員環エーテルであるオキセタン,および三員環エーテルであるプロピレンオキシド(PO)をモノマーとして用いたときに重合生成物が得られた.
     モノマーとしてオキセタンを用いたときに,最も高分子量の重合体を得ることができ,その数平均分子量は4.8 × 103であった.これは,オキセタンの開環重合反応性が,環状エーテルの中で最も高いためであると考えられる.
     モノマーとしてプロピレンオキシド(PO)を用いたときに得られる重合生成物は,他の環状エーテルをモノマーとしたときに得られる重合生成物とは異なる構造であった.これは,POが他の環状モノマーに比べてかさ高いこと,およびPOの環の開裂の方向がαβの双方で起るためであると考えられる.
  • 工藤 亮一, 松井 英雄, 吉原 正邦
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 371-375
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    タンタルブトキシドと種々の有機ジオールとの反応を行ったところ,タンタル-有機基交互構造を有する新規ハイブリッド共重合体が生成した.また,生成物の形状は,導入する有機基の種類によって形状が変化することが判明した.さらに,生成物の電子物性を検討するためにESRスペクトルおよびab-initio分子軌道計算を行ったところ,共役系有機基を導入した系において,交互構造内で有機骨格よりタンタル原子上へ電子移動が生じていることが判明した.
  • 永瀬 喜助, 神谷 幸男, 穂積 賢吾, 宮腰 哲雄
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 377-384
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    低湿度環境で自然乾燥性を持つ重合漆液の調製を目的として,反応容器中で生漆の反復「くろめ」1)を行った.すなわち簡易な実験用漆液重合装置を試作し,「くろめ」処理の繰り返しによって生漆1)を重合させ,漆液中のウルシオールの変化と低湿度環境(20–25 °C,45–55%RH)での乾燥性を調べた.
     生漆は反復「くろめ」によって酵素酸化が進行し,この中に含まれるウルシオール単量体が減少する.また,この反応における反応容器の底面積と処理量および処理時間には,相関関係があることがわかり,その関係式を推測した.さらに,これらの変化に伴い,ヒドロキシ基価と抗酸化力が低下して側鎖の自動酸化が起こりやすくなり,低湿度環境での自然乾燥性が発現することを見いだした.
  • 松下 洋一, 菅本 和寛, 日高 健一, 松井 隆尚
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 385-391
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    スギ(Cryptomeria japonic D. Don)辺材木粉からKlasonリグニン,α-セルロースおよびヘミセルロースをそれぞれ分離した.スギ辺材と分離した構成成分の熱重量分析(TG)と示差熱測定(DTA)を行い,熱分解開始温度が辺材で258 °C,Klasonリグニンで342 °C,α-セルロースで280 °C,ヘミセルロースで153 °Cとなることがわかった.スギ辺材と分離した構成成分を400 °Cで炭化して得られた木酢液を毛管GC分析した結果は,メタノール,ピロカテコールおよびグアイアコール類がリグニンから,シクロテンおよびマルトールがセルロースから,フラン類がセルロースとヘミセルロースから,および酢酸が3種の構成成分から由来することを示唆する.スギ辺材を炭化温度と保持時間を変えて炭化して得られた木酢液の成分組成の分析から,250 °C · 保持6時間でフラン類とマルトールの生成が終結し,300 °Cでピロカテコールやグアイアコール類の生成が活発になることがわかった.この結果は,スギ辺材では,ヘミセルロースやセルロースの熱分解が250 °Cで活発になり,リグニンの熱分解は300 °C付近になってから活発になることを示唆する.
  • 金崎 英二, 前田 和樹
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 393-397
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    あらかじめ,チオ硫酸イオンを層間に取り込んだMg/Al-LDH前駆物質を合成し,そののち前駆物質とAg+イオンとを水溶液中で反応させることにより層間にAg+イオンを取り込んだ層状複水酸化物(Ag+-LDH)を合成した.Ag+-LDHのFT-IRスペクトルの解析から,層間のAg+イオンはチオ硫酸イオンの末端硫黄原子が2個配位した直線型構造を持つことがわかった.この固体の示差熱曲線中には,前駆物質と類似した熱変化が観測されたが,幾つかのピークではAg+イオンの取り込みによりピーク温度がシフトした.また,それぞれの固体の組成式をよく支持する熱重量曲線が得られた.Ag+-LDHの粉末X線回折図には,取り込んだAg+イオン量の増加とともに,(002)回折線強度が相対的に増加した.これは,層間に取り込まれたAg+イオンが,層に平行に規則的に並んだ格子面を持つ新たな結晶格子を形成したためと考えた.
  • 櫻庭 英剛, 前川 大, 瀧澤 聡, 入内島 さちこ, 山田 学美
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 399-407
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    ポリフェノール(没食子酸(GA),プロトカテク酸(PA,NH-PA),2,3-ジヒドロキシ安息香酸(2,3-HBA))ならびにサリチル酸(SA)および安息香酸(BA)の6種を,それぞれβ-シクロデキストリン(β-CD)の第一級ヒドロキシ基側に一置換させたβ-CD修飾体を合成した.その遷移金属イオン錯体の不斉触媒効果をpH 1–7の領域で,芳香族スルフィド(フェニル,ナフチルおよびフェナントリル誘導体)の酸化反応で調べた.ポリフェノール修飾β-CD誘導体のフェニル環の3-,4-,5-位に位置する隣接ヒドロキシ基は,Mo(V)イオンの共存する中性領域(pH 6)でメチル1-ナフチルスルフィドを不斉触媒酸化し,対応するスルホキシドの(R)-体を20–55%の不斉収率で生成した.これに反して,修飾基のフェニル環の2-位にヒドロキシ基があると,(S)-スルホキシドが19–35%eeで得られた.ポリフェノールのβ-CDとの結合様式は不斉収率に影響を及ぼし,PAのエステル化修飾体(β-CD-PA)のMo(V)錯体はアミド化修飾体(β-CD-NH-PA,41%ee(R))より高い不斉収率(55%ee(R))をもたらした.このメチル1-ナフチルスルフィドの酸化で得られた光学純度は,基質として用いた芳香族スルフィドの中で最大値であった.やはり,フェノール性ヒドロキシ基を持たないβ-CD-BAの添加では不斉誘起は全く起こらなかった.β-CD-PAのMoとW(4d-,5d-ブロック)金属錯体では(R)-スルホキシドを36–55%eeで生成し,3d-ブロック金属イオンとの錯体では(S)-スルホキシドが10–45%eeで得られ,互いに逆の不斉挙動を示した.
  • 香西 博明, 三俣 貴史
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 409-413
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    ヒドロキシ基を両末端に結合したイソプレンプレポリマーがナトリウム-ナフタレンを開始剤としてイソプレンの溶液重合を行って,まずリビングプレポリマーとし,さらに乾燥酸素を通じて約75%の収率で得られた.このプレポリマーの分子量は1300–1500であり,1分子当たりのヒドロキシ基数は2.0–2.15であった.また,このプレポリマーのジイソシアナートによる重付加について若干検討した.反応溶媒としては,アニソール以外にN,N-ジメチルホルムアミドとジメチルスルホキシドが使用できる.得られたポリマーは黄色のスポンジゴム状で,一般の有機溶媒には不溶である.また,ガラス転移温度は73–78 °Cであった.
  • 深川 由紀子, 香西 博明, 香西 保明
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 415-419
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    和紙抄造などに利用されているアオギリの粘質物を採取し,物理化学的特性や構成成分について研究を行った.
     アオギリの若葉や幹に被覆する酸性多糖類は,イオン交換水にて抽出した後メタノールで精製する.多糖類は,D-ガラクツロン酸,D-ガラクトース,L-アラビノースおよびL-ラムノースから構成されている.さらに粘質液を数日間放置すると粘度が低下する.アオギリ粘質物の酸による加水分解からアミノ酸であるL-グルタミン酸,L-アラニン,さらにはL-イソロイシン,L-バリン,L-リシン,L-チロシンおよびグリシンを得た.これらの結果は,アオギリに含まれる多糖類がきわめて複雑な構造を有し,その結果特有な物理的性質を与えていることと示唆している.
  • 白樫 高史, 茂木 貴実, 阿部 有洋, 田村 寿康, 吉原 佐知雄
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 421-426
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    Ag,Pt,CuおよびCuOを担持させた活性炭を調製し,これによるNO2除去特性を調べた.活性炭はヤシガラ系のものを用い,金属の担持方法としては,金属イオンを含む溶液に活性炭を入れ,活性炭により直接金属にまで還元する方法および金属錯体として吸着させた後窒素中700 °Cで加熱,還元する方法を用いた.NO2は硝酸鉛の熱分解により発生させ,活性炭を充填したカラムに循環させた.Pt/ACおよびCu/ACを用いた場合,NO2は速やかに除去され,空気中と窒素中でのNO2の除去速度に大きな差は見られなかった.反応ガス中のHNO3,HNO2,NO,NH3はごくわずかであり,NO2はN2まで還元されることが示唆された.また,CuO/ACを用いた場合にもNO2の除去性はCu/ACとほぼ同一であり,Ag/ACによるNO2の除去性は小さかった.NO2除去後の金属の結晶状態をXRDで調べた結果,Ptは金属のピークのみを示した.Cu/ACを用いた場合にはCu2OおよびCuOに酸化された状態も観察され,CuO/ACを用いた場合にはCuおよびCu2Oに還元された状態も存在した.これらのことから,Pt/ACおよびCu/ACはNO2の還元除去に対する有効な触媒であり,Pt,CuあるいはCu2Oは活性炭によるNO2の還元触媒として作用している.
  • 立本 英機, 成田 高秀, 相川 正美
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 427-433
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    感潮河川域における底質中の形態別リンの分布特性を把握するために花見川(千葉市)を選び,形態別リン濃度および他の項目との関連性について検討した.
     底質の採取は9地点を選び,エクマンバージ採泥器を使用し,同時に流速も測定した.
     形態別リンは,硫酸 · 硝酸分解抽出法により検出されるリンを全リン(T-P)とし,Williamsらの形態別分画定量法に基づいて得られたCDB-P,NaOH-PおよびHCl-Pの合計量を無機態リン(I-P)とした.有機態リン(Org-P)は,全リンと無機態リンとの差から求めた.
     形態別リン濃度および流速の測定結果から,河川形状の変化により流速が遅くなる地点では,CDB-P,NaOH-PおよびHCl-Pが多く堆積し底質中の濃度が上昇することを認め,また上流地点より流速が速くなる地点では,底質中のCDB-PおよびNaOH-P濃度が減少することが明らかになり,現場実験においてもCDB-PおよびNaOH-P濃度と流速の関係を再確認した.
     形態別リン濃度と同時に,底質のpH,底質中のFeおよびAl濃度も定量し,形態別リン濃度との関係を調べた.
     上流地点よりpH値および底質中のAl濃度が高くなる地点では,CDB-P濃度が高い値を示した.また,CDB-P濃度とAl濃度との良好な相関性を得たことから,CDB-P堆積にはAlの加水分解過程におけるリンの吸着および沈降の寄与が大きいと推察された.
技術論文
  • 山田 啓司, 三好 誠治, 岡本 謙治, 住田 弘祐, 高見 明秀
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 435-440
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    酸素貯蔵材(OSC)に貴金属を担持した触媒において,白金(Pt)とロジウム(Rh)の担持状態や触媒特性に及ぼす影響を,酸化セリウム(CeO2),セリウム-ジルコニウム(Ce–Zr)複酸化物,セリウム-プラセオジム(Ce–Pr)複酸化物および酸化プラセオジム(Pr6O11)を用いて調べた.TPR結果から,Prを含んだOSCを担体にしたPt–Rh/Ce–Pr複酸化物とPt–Rh/Pr6O11の触媒は優れた酸素放出特性や水素(H2)の貯蔵特性を示した.これらの触媒は,他の二つの触媒と比べて,H2や一酸化炭素(CO)を還元剤にした一酸化窒素(NO)浄化反応に高い活性を発現することがわかった.
     XPS分析結果から,Pt–Rh/Ce–Pr複酸化物とPt–Rh/Pr6O11のPt表面はCeO2,Ce–Zr複酸化物に担持されたものと異なり,電子密度が希薄な状態である.EXAFS分析結果から,PtとRhは合金化しており,Pt–Rh/Ce–Pr複酸化物とPt–Rh/Pr6O11のRhはCeO2,Ce–Zr複酸化物に担持されたものに比べて金属に近い還元状態であることがわかった.
     以上のことから,貴金属の担持状態や優れた触媒特性は,担体であるOSCとの強い相互作用に起因すると推察した.
  • 松井 哲治, 大西 将史
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 441-447
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    超臨界水中でポリプロピレンの分解を行い,分解率,ガス発生量,油相成分およびガス成分のガスクロマトグラムを測定し,次の結論を得た.(1)分解率に及ぼす反応温度の影響は非常に大きく,高分解率を得るためには430 °C以上を必要とした.(2)高温にするほど,反応時間を長くするほど,分解率や油収率は向上した.これに伴うガス発生量の増加は水充填率を高くすると抑制された.(3)分解率や油収率に及ぼす試料量の影響は比較的少なかった.(4)得られた油分のガスクロマトグラムから,種々の飽和および不飽和炭化水素や芳香族炭化水素が生成していることが推測される.温度および時間とともに低分子化が進行し,やがて市販のガソリンの組成に似た軽質油分となることが確認できた.(5)ガス成分はメタン,プロパンやブタンなどとともに水素ガスが生成していることが確認できた.(6)分解雰囲気ガスの生成油成分への影響は小さい.
  • 相沢 和夫, 生越 英雅, 林 謙年, 前山 勝也, 米澤 宣行
    2002 年 2002 巻 3 号 p. 449-454
    発行日: 2002年
    公開日: 2004/03/05
    ジャーナル フリー
    地域冷暖房あるいはビル空調用氷蓄熱システムの氷蓄熱槽内の結氷率を蓄熱槽内部で氷と共存する水溶液の導電率から判定する新しい結氷率計測方法を開発し,そのアイスオンコイル型のスタティック型氷蓄熱槽への適用を検討した.結氷率の追跡は槽内の氷-水溶液の全体積測定と水溶液部分の液体導電率測定の2種類の方法で行った.水溶液の電解質の種類,濃度,製氷速度を種々設定し凝固と融解の過程で,体積変化から求めた結氷率と槽内の水溶液の液体導電率の計測値との相関を調べた.実際の氷蓄熱槽の運転に対応した低速の製氷では,電解質のほとんどが氷の外に排除されながら氷は成長し,結氷率の増大に伴う液体導電率の上昇はほぼ理想的な形で現れることがわかった.また濃縮比と液体導電率比の間に近似的に一次関数的な関係が得られた.その傾きをあらかじめ実験的に把握することによって実用上十分な精度で結氷率が判定できるという見通しが得られた.計測の指標としては水道水中にすでに含まれる程度の電解質を用いることで十分であるが,計測精度の向上には槽内の効果的な混合が必要であることもわかった.
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