超低温予備凍結が,凍結乾燥魚肉の蛋白変性,復元性にどのように影響するかをみる目的で魚肉(イサギ,メバル,シログチ)を-196℃, -75℃, -20℃の3種の温度で凍結後(第1図参照),乾燥板温度35℃で乾燥し(第2図),その間における肉蛋白の変性を調べるとともに,復元性ならびに,肉組織の変化を調べて,つぎのような結果を得た。
(1) ごく新鮮な魚肉の場合には超低温(-196℃)で凍結直後においては,塩溶性蛋白の溶出量,流動複屈折,および粘度曲線からみた肉蛋白の変性はほとんど起こっていなかった。
-75℃, -20℃凍結肉では,溶出量,流動複屈折に変化がみられなかったにもかかわらず,粘度曲線に変化がみられた(第2表,第3図(A) (B))。
(2) 乾燥後においては凍結温度が低くなるほど,蛋白の溶出量は低下,流動複屈折は観察しにくくなり,さらに粘度の濃度依存性は著しく弱くなって量的にも質的にも蛋白の変性が大きいように考えられた(第2表,第3図(A) (B))。
(3) 凍結乾燥肉の吸水率は-196℃および-20℃区の間では差異はみられなかったが,-75℃区では前2区より若干低い傾向を示した。しかし吸水肉の保水性,官能検査の結果では-75℃区は他の区よりすぐれていた(第3表)。
(4) 凍結乾燥後の肉組織は凍結温度によってそれぞれ特有の組織を示した(写真2)。また吸水後の組織は(3)の結果を裏付け-75℃区で比較的よく筋繊維内部が復元していることを示したが,他の2区ではそれ程の復元性がみられなかった(写真3, 4)。
以上の諸結果から超低温(-196℃)で凍結乾燥しても復元性の向上は認められなかったが,これは超低温まで凍結温度を下げて乾燥したために生じた蛋白の変化に基因すると考えられた。したがって復元性の向上をはかるためには超低温で急速に凍結すると同時に超低温に至らないある中間温度で凍結をとどめることが必要とみなされた。
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