前報で試料としたインゲン類の豆のなかで,製餡原料として通常用いられる品種(大手亡)と,得られた生餡および練餡に特異的な性状を示した品種(大白花)を取り上げ,両者の生餡及び練餡の性状に及ぼす製餡条件(加熱時間,加熱温度)の違いの影響を検討することを通じて大白花における特異性の原因を追求した.
1. 同一条件で調製した生餡の収率は,加熱時間の延長に伴い大手亡,大白花ともに増加したが,加熱温度の上昇に伴って大手亡は減少し,大白花もわずかに増加したのち減少した.いずれにおいても,大白花の方が低い値を示した.
2. 得られた大手亡,大白花の生餡相互でタンパク質,脂質,灰分含量には大きな差異はみられなかったが,水分含量は大白花の方が高い値を示した.そしていずれの生餡も加熱時間の延長及び加熱温度の上昇に伴って水分含量が増加した.またこのときペクチン含量は加熱時間の延長に伴ってわずかに増加し,加熱温度の上昇に伴って減少したが,いずれにおいても大白花の方が高い値を示した.
3. 加熱時間を変えて調製したそれぞれの生餡から得られた練餡は,大白花で凝集力のない特異的な性状を示した.しかし,加圧加熱により調製した生餡から得られた練餡では大手亡においても同様の傾向がみられた.これらはいずれも生餡の餡粒子の保水性の増加に伴う現象と考えられた.
4. 加熱時間を変えて調製した生餡にペクチナーゼ処理を行い,生餡中の水分含量とペクチン含量に対する影響を検討した結果,生餡の水分含量はペクチンの分解により減少すること,この傾向は特に大白花で顕著なことを認めた.そして大白花の特異性の原因は餡粒子の保水性の差異にあり,顕微鏡観察の結果と考え合わせて,これは主として餡粒子の表面に存在するペクチンの量的あるいは質的な違いによるものと推察した.
5. 加熱温度を変えて調製したそれぞれの生餡から得られた練餡では大白花でみられた特異的な性状が大手亡にもみられた.これは大手亡,大白花ともに餡粒子の表面に存在するペクチンではなく,餡粒子内に存在するデンプンあるいはタンパク質等の高分子物質の加圧加熱による変化に起因するものと考えられた.
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