大豆から調製したリン脂質,粉末レシチン(CSL),エタノール抽出レシチン(EL), phosphatidylcholine (PC), phosphatidylethanolamine (PE)及びphosphatidylinositol(PI)で調製したケロシン-水系o/w型エマルションのクリーミング安定性に対するpHの影響と,生成したエマルションの電導度変化を測定したところ,次のような結果が得られた。
(1)単一リン脂質系のエマルションでは,総じて,中間のpH領域でクリーミング安定性が高くなったが,PC,PEエマルションではpH6~8付近で特に安定性が高かった。
(2)2,3成分系エマルションの安定性は,各成分の効果が累積された形となった。PIを含む系ではPI成分が増えるほどその効果が強く現われ,広い領域pHで安定性はほとんど変わらなかった。
(3)エマルションの電導度は総じて経時的に低下した。
(4)CSL試料の電導度は,どの精製リン脂質試料のそれよりも高かった。
(5)精製リン脂質試料の電導度の高さの順序(PI>PE>PC)は,クリーミングに対する安定性の順序と一致し,特に,極端に不安定なエマルションを作るPC系ではその値も小さく,電導度は時間とともに急速に低下した。
(6) 2, 3成分系エマルションの電導度は非常に大きく,特に,PI成分の多い試料ほどその値は大きかった。
これらのことから,リン脂質のイオン性により油-水界面に配列する粒子集団の構造及び荷電状態が規定され,それがエマルションの安定性に大きく関与すると結論される。
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