生鮮マアジとそれより調製した開き生干し(製造直後)の脂質の比較,ならびに,25℃, 8℃および-20℃に貯蔵した開き生干しの脂質の経時的な変化を調べ,貯蔵温度,貯蔵期間と脂質の変化との関連について,TLのAV, POV, COVおよび脂質組成,各脂質の脂肪酸組成などにより検討した。得られた結果を次に示す。
(1) 製造直後の開き生干しの含水率は,生鮮マアジに比べると4.5%低かった。また,各温度に貯蔵した開き生干しの含水率は,どの温度のものも経時的に僅かに低下した。
(2) 生鮮マアジと開き生干しのTLはNL区分とCL区分に分画し,さらにNL区分からTG, FFA, DG, ST, HC, SEおよびMGの7種の脂質が認められた。
(3) 開き生干しのTL含有率は約6~7%で,数値にばらつきがみられたが,生鮮マアジの場合(7.9%)より低かった。これは,開き生干し製造中に,TLの一部,特にNL区分中のTGが洗浄水および浸漬用塩水中に流出したためと考えられる。
(4) TL, NL区分およびCL区分を構成する脂肪酸は,生鮮マアジ,開き生干しとも約30種認められ,主要脂肪酸は22:6酸,16:0酸,18:1酸,20:5酸,18:0酸および16:1酸であった。
(5) 製造直後の開き生干しのTL, NLおよびCL区分の脂肪酸組成を生鮮マアジの場合と比較すると,開き生干しでは18:1酸などモノエン酸含有率が生鮮魚に比べて低かった。
(6) 貯蔵中における開き生干し脂質の変化をAV,POVおよびCOVでみると,AVは25℃と8℃貯蔵では経時的に上昇し,しかも25℃の方が著しかった。一方,-20℃貯蔵ではほとんど変化しなかった。なお,POVとCOVは,どの貯蔵温度においても不規則な増減をしたため,脂質変化の指標となり得なかった。
(7) 貯蔵中における開き生干し中のTLの脂質組成をみると,経時的にCL区分が分解し,逆にFFAが増加した。そしてこの傾向は,貯蔵温度の高いほど顕著にみられ,-20℃ではほとんどみられなかった。
(8) 貯蔵中における開き生干しのTLとNL区分の脂肪酸組成は,どの貯蔵温度の場合もほとんど変化がみられなかった。一方,CL区分の場合は,22:6酸含有率の経時的な低下がみられ,特に25℃貯蔵で顕著であった。しかし,-20℃では,このような変化はほとんどみられなかった。
(9) 以上のように,開き生干しの脂質の貯蔵中における変化は,貯蔵温度の高いものほど大きかったが,-20℃貯蔵ではほとんど脂質の変化はみられなかった。
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