すり身を高圧処理した場合のすり身中の微生物の生残および細菌の栄養細胞におよぼす高圧処理の影響について検討を加えたところ以下の結果を得た.
(1)高圧処理後短時間のうちに生菌数の急速な減少が見られ,特に300~400MPaの圧力処理によりすり身に存在している大部分の微生物は死滅した.また,微生物叢におよぼす高圧処理の影響をみたところ,真菌,グラム陰性菌,グラム陽性菌の順に死滅しやすい傾向が認められた.
(2)それぞれ耐圧性の異なる菌株を分離し,同定をおこなったところ,200MPaまで耐圧性がみられたものは
Moraxellasp.,300MPaまで耐圧性がみられたものは
Acinetobactercalcoaceticus,400MPaまで耐圧性がみられたものは
Streptococcusfaecalis,600MPaまで耐圧性のみられたものは
Corynebacteriumsp.であった.この結果からすり身中の細菌の高圧に対する感受性はかなり異なることが明らかとなった.
(3)それぞれ耐圧性の異なる4種類の菌株を用い.高圧処理後,自動培養記録装置を用いて30℃における増殖曲線を調べたところ,増殖開始時期が無処理のものより遅れる傾向が見られ,特に
S.faecalisの場合は400MPa処理のもので約20時間,
Corynebacteriumsp.の場合は600MPa処理のもので約15時間増殖開始時期が遅れた.
(4)細菌懸濁液を高圧処理し,菌体外に漏洩してきたミネラル類を測定したところ,いずれの菌株においても漏洩が認められたが,特にFe,Mgの漏洩が著しかった.
また,細菌の栄養細胞からの漏洩物質のうち260nm吸収物質,RNA様物質および糖の漏洩について調べたところ,いずれの物質の場合も高圧処理したものの方が無処理のものに較べ漏洩量は多く,特にRNA様物質や糖は無処理のものと比較して漏洩量は約10~20倍に達していた.したがって,以上のことから高圧処理により細胞膜が何らかの損傷を受けていることが推察された.
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