みそ熟成中のリパーゼの働きを検討するとともに,リパーゼ力価を高めたみその品質について,みそ中の脂質変化を中心に検討し,次の結果を得た。
(1) みそに添加したリパーゼMY(名糖産業(株))は,みその熟成に適した作用pH領域,作用温度,食塩耐性,安定性等の性質を有し,高力価であるから少量の添加でもみその熟成および品質の改良に効果があった。
(2) みそ中のリパーゼ力価を高めることによって,脂質分解率の上昇,グリセロール含量の増加,脂肪酸エチル含量の増加,エタノール蓄積量の減少等の現象が認められた。これらの結果より,リパーゼはグリセリドを脂肪酸とグリセロールに加水分解し,さらに酵母によって生成されたエタノールと遊離の脂肪酸の一部からエチルエステルを合成する働きをすると考えられた。
(3) みそに0.03units/gのリパーゼを添加することによって,25日あるいは90日間の熟成で,リパーゼ無添加のみその倍以上の遊離脂肪酸および脂肪酸エチルが含まれ,官能検査では,香りに高い評価が得られた。みそに0.3units/gのリパーゼを添加したみそは,香りのくせが強過ぎるため,信州みその品質としては不適当と評価された。
(4) 遊離脂肪酸および脂肪酸エチルの組成において,リパーゼ力価に応じて,リノール酸エチルを中心に不飽和脂肪酸の占める割合が高くなり,熟成後期では,脂肪酸エチルの組成においてこの現象が顕著であった。
(5) みそ中の脂質変化は,熟成後期に低温でも活発で,他の成分変化がほとんど起こらない間も進行し続けた。これらの事実は,脂質変化がみその後熟の重要な因子であることを示唆している。
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