日本化学療法学会雑誌
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55 巻, 5 号
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  • 青高素 (チンハオス) とその誘導体の単独および他剤との併用療法
    海老沢 功
    2007 年 55 巻 5 号 p. 351-357
    発行日: 2007/09/10
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    4種類あるマラリア原虫のうち, 生命に危険のある熱帯熱マラリア原虫は世界中に広く分布し, かつ最も代表的な抗マラリア薬であるクロロキン, メフロキン. サルファドキシン+ピリメタミンの合剤ファンシダール®などに耐性を示し, マラリア研究者を悩ませてきた。これに対して中国の古墳, 馬王堆から発掘された古文書の解読により発見された漢方薬青高素 (チンハオス, アーテミシニン) の分析, 合成によって開発されたアーテメータ, アーテエータ, アーテスネイトなどを薬剤耐性熱帯熱マラリアの流行地, タイ, ミャンマー, アフリカなどで単独で使用した成績をまず紹介した。いずれも即効性があり熱帯熱マラリア原虫の速やかな消失が認められたが, 単独使用では数%の再燃例が認められることを確認した。
    次の段階で上記薬剤に補強的に作用するメフロキンとの併用療法あるいは補助的に作用するアモダイアキン, アトヴァコン, プログアニル, トリメトプリム, ルメファントリン, ダプソンなどとの併用療法あるいは合剤, 座薬の開発の現状を分析・報告した。患者が再感染しやすい環境にあり,「再燃」と分類される症例が必ず数%出てくる現状では, 新薬の効力が持続することを望んで止まない。
    日本国内でもアーテメータ+ルメファントリンの合剤 (リアメット®, コアルテム®) がマラリア研究班により輸入・保管されている。
  • 多田納 豊, 清水 利朗, Ko Yasumoto, 冨岡 治明
    2007 年 55 巻 5 号 p. 358-362
    発行日: 2007/09/10
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    ピコリン酸は, マクロファージ (MΦ) のMycobacterium aviumに対する抗菌活性を増強する作用を有しているが, マウスの骨髄由来MΦの場合では, ピコリン酸のMΦ殺菌能増強作用はMΦアポトーシス誘導作用に連動したものであることが報告されている。今回は, このようなメカニズムがヒトのMΦにもあてはまるものであるのか否かを知る目的で, THP-1ヒトMφ (THP-1 MΦ) を供試して, ピコリン酸のMΦアポトーシス誘導能についてDNA laddering法とAnnexin V法を用いて検討した。その結果, Annexin V法による検討では, ピコリン酸処理によりTHP-1 MΦのAnnexin V反応性の増強, すなわちフォスファチジルセリンの細胞表面への移行という早期アポトーシスに特徴的な現象が誘導されることが明らかになった。他方, DNA laddering法による検討では, ピコリン酸処理により中・後期アポトーシスに特徴的なDNA分解・ヌクレオソームへの断片化が誘導されるような徴候は認められなかった。これらの成績は, ピコリン酸処理によりTHP-1 MΦに早期アポトーシスが誘導されるが, このピコリン酸の作用はcaspase-activated deoxyribonucleaseによるDNA断片化という中・後期のアポトーシス誘導にはつながらないことを示唆している。
  • 土持 典子, 内田 勇二郎, 長崎 洋司, 江里口 芳裕, 前原 依子, 門脇 雅子, 下野 信行
    2007 年 55 巻 5 号 p. 363-367
    発行日: 2007/09/10
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    2003~2005年に九州大学病院で喀痰, 血液および尿検体より分離されたmethicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA) のなかでmeropenem (MEPM) のMICが32μg/mL以上の207株に対するMEPMと抗MRSA薬, すなわちvancomycin (VCM), teicoplanin (TEIC), linezolid (LZD), arbekacin (ABK) とのin vitroにおける併用効果をチェッカーボード法で比較検討した。抗MRSA薬単剤でのMICはVCM 0.5~4μg/mL, TEIC 0.5~8μg/mL, LZD 0.5~2μg/mLであり, ABKのMICは幅広く分布し0.25~16μg/mLであった。MEPMとVCM, MEPMとTEICとの併用では207株全株において相加以上の効果を示し, それぞれ156株 (75.4%), 205株 (99%) に相乗効果を示した。VCM, TEIC, LZDの3薬剤においてはMEPMとの併用で拮抗を示す株は認めなかったが, ABKにおいては22株 (10.6%) で拮抗作用が認められた。これらの株においてMEPMを含め, 他3つのカルバペネム系薬, imipenem, panipenem, biapenemとABKとの併用効果についてディスク拡散法で検討したところ, MEPM以外のカルバペネム系薬でも同様に拮抗作用を示した。MRSA治療において, 個々の抗MRSA薬の感受性を把握していることは重要であるが, 難治性の場合など併用効果に関しても把握しておく必要性がある。
  • 阿部 教行, 小松 方, 福田 砂織, 中村 彰宏, 岩崎 瑞穂, 松尾 収二
    2007 年 55 巻 5 号 p. 368-373
    発行日: 2007/09/10
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    市中呼吸器感染症治療で汎用されている経口β-ラクタム系薬8薬剤について, Streptococcus pneumoniae 59株 (PSSP 31株, PISP 22株, PRSP 6株) を使用し, Muller-Hinton Brothに生体内に類似した濃度である4g/dLのヒトアルブミンを添加し, in vitroの抗菌力に対する影響を検討した。
    全59株の, アルブミン添加時のMICとアルブミン非添加時のMICとの比 (MIC比) の平均値で比較したところ, 大きい順に, faropenem: FRPM (MIC比; 6.9倍), 次いでcefditoren pivoxil: CDTR-PI (4.2倍), cefteram pivoxil: CFTM-PI (2.3倍), amoxicillin (1.9倍), cefcapene pivoxil: CFPN-PI (15倍), cefpodoxime proxetil (1.4倍) cefotiam hexetil (0.9倍) の順であった。70%以上の蛋白結合率を示すFRPM, CDTR-PIおよびCFTMもPIの3薬剤はアルブミン添加により2倍以上のMIC比を示したが, 他の薬剤は2倍以下であった。
    次に, アルブミン添加により約2倍以上のMIC比を示したFRPM, CDTR-PIおよびCFTM-PIの3薬剤について, それぞれの薬剤の用法・用量におけるtime above MIC%が40%以上を満たすMICブレークポイント (BP1) と, 血清蛋白結合率 (以下, 蛋白結合率) を補正するために補正係数 (FRPM; 0.5, CDTR-PI; 0.2, CFTM-PI; 0.5) を乗じたブレークポイント (BP2) の2つのブレークポイントを算出し, BPIではアルブミン添加MICの感性率を求め, BP2ではアルブミン非添加MICの感性率を求め, 両ブレークポイントによるS. pneumoniaeの感性率を比較した。その結果, 今回検討した6薬剤すべてにおいて, BPIおよびBP2の両者より求めた感性率にはほとんど差がなく, 蛋白結合率補正係数の妥当性が確認された。
    以上から, 蛋白結合率が70%以上を示すFRPM, CDTR-PIおよびCFTM-PIは, アルブミンの存在下でMICが著しく上昇する傾向が認められた。このMICの上昇は, 生体内の感染部位でも再現される可能性があり, 特に蛋白結合率が高い薬剤の感受性試験は, 蛋白結合率を考慮したPK/PDブレークポイントで評価する必要性が示唆された。
  • 和田 明子, 村谷 哲郎, 小林 とも子, 後藤 令子, 木戸 直徳, 古賀 一将, 松本 哲朗
    2007 年 55 巻 5 号 p. 374-377
    発行日: 2007/09/10
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    2005年に北部九州・山口地区において, oxacillin (MPIPC) のMIC4μg/mL以下を示すStaphylococcus aureusを対象とし, mecA保有の有無を検討した。さらにKirby Bauer diskを用いcefoxitin (CFX) の阻止円径および寒天平板希釈法によるMICの測定も実施した。収集された323株の微量液体希釈法によるMPIPCのMICは≦0.25~2μg/mLであった。mecA保有株は9株 (28%) 検出され, そのうち8株は, CFXの阻止円径21mm以下であり, Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI) の基準によりMRSAと判定可能であった。mecA保有株の235%(4/17) は, 外来患者頗材料由来株であり年齢別では, 5歳以下の株が12.2%(5/41) を占めた。これら9株のうち外来患者由来7株はpulsed field gel electrophoresis (PFGE) により4パターンに分類され, 数種類のMPIPC感受性mecA陽性クローンが市中に広がっていると考えられた。mecA陽性でMPIPCによりMSSAと判定された株は, CLSIの推奨するCFX diskを用いることにより, 2.8%から0.3%まで減少した。しかし, MPIPC, CFXを用いても検出できないmecA保有株が存在したことから, 選択培地の使用なども考慮する必要がある。
  • 金子 明寛, 山根 伸夫, 渡辺 大介, 水澤 伸仁, 松崎 薫, 長谷川 美幸, 佐藤 弓枝, 小林 寅哲
    2007 年 55 巻 5 号 p. 378-381
    発行日: 2007/09/10
    公開日: 2011/08/04
    ジャーナル フリー
    誤嚥性肺炎は, 嚥下機能障害から口腔内容物を誤嚥することに起因する肺疾患であり, 高齢者を中心に増加している。誤嚥性肺炎の起炎菌は, 上述した発症機序から口腔内細菌, 特に嫌気性菌の頻度が高いとされている。
    今回, 口腔外科領域由来菌株で, かつ誤嚥性肺炎の代表的な起炎菌とされるStreptococcus anginosus group, Peptostreptococcus species, Prevotella species, Fusobacterium speciesに対し, 注射用抗菌薬piperacillin, tazobactam/piperacillin (TAZ/PIPC), ampicillin, sulbactam/ampicillin (SBT/ABPC), ceftriaxone, cefepime, meropenem (MEPM), clindamycinの感受性を測定した。4菌種いずれに対しても高い抗菌活性を示したのは, TAZ/PIPCおよびSBT/ABPCのβ-lactamase阻害薬配合ペニシリン系抗菌薬とMEPMであった。
    本結果は, 口腔外科領域および歯性感染症同様口腔内常在嫌気性菌が主要起炎菌となる誤嚥性肺炎に対するβ-lactamase阻害薬配合ペニシリン系抗菌薬の有効性を示唆するものであり, 特に, TAZ/PIPCについては誤嚥性肺炎治療の上位選択薬とする海外のガイドラインの根拠を裏づける成績であった。
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