リンパ球膜上のムスカリン性アセチルコリン受容体 (m-AChR) が, 加齢の指標 (Aging Marker) になりうるかどうかを決定する為に, この受容体と特異的に結合する N-methyl scopolamine (NMS) を使用して, 受容体結合実験をし, 受容体の数 (Bmax値) と結合力 (Kd値) の加齢に伴う変化をしらべた. 受容体結合実験は女性の健常者群 (N=27, 40~69歳) と, 臨床的に Alzheimer 病と診断された女性患者群 (N=17, 54歳~71歳) からの新鮮な末梢静脈血リンパ球を材料にして行われた.
その結果, 健常者群では, 老化に伴い受容体の親和性が低下 (Kd値の増加) し, Kd値 (Y) と年齢(X) との間には, Y=12.2X-272.6の回帰直線 (N=27, r=0.453, p<0.05) で表される正の相関関係がある事がわかった. また受容体数 (Bmax 値, Y) は年齢 (X) と共に増加し, 回帰直線Y=401X-16, 302, (N=27, r=0.387, p<0.05) で表される正の相関がある事が確認された. つまり健常者では受容体の親和性は加齢と共に低下し, 受容体の数は加齢と共に増加する事が示された. さらに健常者群を40歳代 (N=9, 40~49), 50歳代 (N=8, 50~59), 60歳代 (N=10, 60~69) に分けて各年代のKd値, Bmax 値の平均を比較したところ, 40代~60代間に, Kd値, Bmax 値とも有意の差 (p<0.05) が認められた.
アルツハイマー病患者群からは受容体の親和力及び数の両者と加齢との関係について, いずれも統計的な有意差は見られなかった. アルツハイマー病における痴呆の重症度とKd値, Bmax 値の相関性を検定したところ, Kd値では相関性が認められなかったが, 少数例ではあるが Bmax 値では5%の危険率で有意差が認められた. つまり症状の悪化に伴って, 受容体数が増す事がわかった. 同一の年齢構成に揃えた健常者群 (N=16, 55~69歳) とアルツハイマー病患者群 (N=17, 54~71歳) の群間比較では, Kd値に差は見られなかったが, Bmax 値では5%の危険率でアルツハイマー病患者群の値が健常者群の値より小さい事が認められた.
上記の結果から, Aging Marker として m-AChR受容体機能 (Kd値, Bmax 値) が使用可能である事が示された.
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