日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
56 巻, 4 号
選択された号の論文の31件中1~31を表示しています
目次
ご挨拶
尼子賞受賞講演
提言
総説
  • 大西 俊一郎, 小林 一貴, 横手 幸太郎
    2019 年56 巻4 号 p. 417-426
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/22
    ジャーナル フリー

    高齢者においても,総コレステロール(TC),Non HDLコレステロール(Non-HDL-C),LDLコレステロール(LDL-C)値が高くなれば,冠動脈疾患の発症は増加する.一方で,高齢者における脂質異常症と脳卒中,認知症発症,ADLとの関係は明らかとは言えない.このように高齢者の脂質異常症の病態は成人(65歳未満)と類似点が多く,基本的には同様に扱う.続発性脂質異常症を鑑別したうえで,日本動脈硬化学会の定める基準を用いてリスクに応じた治療目標を設定し,食事療法と運動療法を基本として治療する.また,高齢者には身体機能や合併症など種々の多様性があり,治療においては高齢者特有の病態への配慮が必要である.食事療法では極度のカロリー制限は避け,重度の腎機能障害がなければ筋肉量維持の観点からたんぱく質の摂取を積極的に勧める.運動療法では有酸素運動と,可能であればレジスタンス運動を併用するが,高齢者は運動器・呼吸器・循環器などの障害を有していることも多く,個々人に合った運動メニューを考慮する.薬物療法としては二次予防および前期高齢者(65歳以上75歳未満)の一次予防においてスタチンの有用性が示されている.2019年にはエゼチミブ単剤投与による後期高齢者(75歳以上)の一次予防効果が本邦より報告され,今後のガイドラインへの反映が期待される.

  • 小谷野 肇
    2019 年56 巻4 号 p. 427-433
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/22
    ジャーナル フリー

    日本では急速な高齢化により,自己管理能力の低下した高齢糖尿病患者が増加している.このような患者のうち在宅自己注射,血糖自己測定が必要な患者には,主に家族が患者に代わってこれらの行為を行っているのが現状である.将来さらに少子高齢化が進めば,現在のように家族から援助をうけることは困難になると予想される.家族が行う在宅自己注射,血糖自己測定を補強するもの,あるいはそれに代わるものとしては,第一に,現行法制を大きく変更することのない,医療資格者の関与の拡大と多職種連携の強化があげられる.具体的には,看護師の訪問日数の増加,薬剤師による在宅自己注射,地域包括支援システムの活用等である.さらに,コストを優先するならば,現行法制では違法となっている介護職員が行う在宅自己注射,血糖自己測定も選択肢にはいってくるが慎重に検討すべきである.在宅自己注射,血糖自己測定について問題となる事例は年々増加しており,国民的な議論と早急な対応が求められる.

老年医学の展望
特集
ポリファーマシー
原著
  • 樋上 容子, 樺山 舞, 糀屋 絵理子, 黄 雅, 山本 真理子, 秋山 正子, 小玉 伽那, 中村 俊紀, 廣谷 淳, 福田 俊夫, 玉谷 ...
    2019 年56 巻4 号 p. 468-477
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/22
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,訪問診療を受療する認知症高齢者の療養状況や行動心理症状(BPSD),薬物療法の実態を把握し,社会サービスや要介護度との関連性を検討した.方法:包括的在宅医療確立を目指したレジストリー研究(Osaka Home Care Registry study:OHCARE)に登録された訪問診療を受ける65歳以上の全患者の内,認知症患者110名(82.0歳±11.3歳)を対象とした.診療記録,主治医意見書より情報収集し,要介護度,BPSD,治療,社会サービスについて解析を行った.結果:認知症の診断率は64.6%で,対象者の33.6%で認知症病型の診断がありアルツハイマー型認知症が最も多かった.要介護3以上の者が62.7%で,家族と同居する者が54.5%であった.訪問診療に併せて,訪問看護:58.1%,訪問介護:48.1%,デイサービス:40.0%等を利用していた.BPSDの有病率は53.0%で,昼夜逆転(23.6%),妄想(22.7%),介護抵抗(21.8%)等であった.BPSD有の者は要介護度3に多く,さらに要介護度が高度化するとBPSDの有病率は低下していた.BPSDがある者の61.5%に向精神薬が処方され,介護抵抗・暴行・暴言・妄想がある者には抗精神病薬が高い割合で使用されていた(全てp<0.005).多変量解析の結果,BPSDの有意な正の予測変数は抗精神病薬であり,要介護度と訪問リハビリはBPSDが減る方向と有意な関連を認めた.結論:訪問診療を受ける認知症高齢者のBPSDの実態が明らかとなり,ADLレベルを調整すると要介護度が低いことがBPSDの独立した関連因子であった.居宅型施設入所者は要介護度3の割合が高く,ADLレベルが高く介護抵抗などのBPSDが生じていたことが考えられた.BPSDの重症度や頻度を含めた縦断研究を今後さらに進めていく必要がある.

  • 岡本 るみ子, 足立 和隆, 水上 勝義
    2019 年56 巻4 号 p. 478-486
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/22
    ジャーナル フリー

    目的:パーキンソン病(以下,PD)では表情表出の障害がしばしば出現する.これまでにPD患者に対する頭頸部リハビリテーション(以下,リハ)効果について表情解析を用いた報告が少数報告されている.本研究では,顔のリハ運動(顔リハ)を実施し,その効果を詳細に検討する目的で,FaceReader™を用いた三次元表情解析と表情筋の表面筋電図測定を実施する.また,顔リハの気分や精神健康度に対する効果についての検討も併せて行う.方法:PD患者のコミュニティ「PD Café」を通じて,同意を得られた21名(男性:6名,女性:15名,平均年齢63.3±12.1歳)を対象とした.介入群と非介入群とに無作為に割り付け,介入群に対し,1回60分,週1回,12週間(合計12回)の顔リハ運動を3カ月間,実施した.介入群に対してGHQ-12による精神健康度,FaceReader™による表情解析,表情筋筋電図測定を介入期間前後に実施した.また,各回の介入実施前後にVASによる気分測定を実施した.非介入群に対しては,VAS以外の測定を介入群とほぼ同時期に実施した.介入前後の変化,両群間の効果の比較について統計的に分析した.結果:対象者のうち介入群は全12回中8割以上,顔リハに参加した8名(脱落率33%,継続実施率67%),非介入群は介入前後の測定のみに参加した5名を解析対象とした.介入群は,FaceReader™による「Happy」出現の増加傾向と「Sad」の減少傾向を認め,「Happy」は二群間で有意な交互作用を認めた.また,表面筋電図では多くの表情筋活動の増加を認めた.さらに,気分は毎回,介入後に有意な改善を示した.結論:今回の結果から,顔リハは,パーキンソン病患者の気分,表情,表情筋活動に有効である可能性が示唆された.また,FaceReader™による表情解析や表面筋電図は顔のリハビリテーションの効果判定に有用であることが示唆された.

  • 鈴木 みずえ, 松井 陽子, 大鷹 悦子, 市川 智恵子, 阿部 邦彦, 古田 良江, 内藤 智義, 加藤 真由美, 谷口 好美, 平松 知 ...
    2019 年56 巻4 号 p. 487-497
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/22
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は,パーソン・センタード・ケアを基盤とした視点から認知症高齢者の転倒の特徴を踏まえて開発した転倒予防プログラムの介護老人保健施設のケアスタッフに対する介入効果を明らかにすることである.方法:2016年5月~2017年1月まで介護老人保健施設で介入群・コントロール群を設定し,認知症高齢者に対する転倒予防プログラムを介入群に実施し,ケアスタッフは研修で学んだ知識を活用して転倒予防に取り組んだ.研究期間は,研修,実践,フォローアップの各3カ月間,合計9カ月間である.対象であるケアスタッフにベースライン(研修前),研修後,実践後,フォローアップ後の合計4回(コントロール群には同時期),転倒予防ケア質指標,学際的チームアプローチ実践評価尺度などのアンケートを実施し,割付条件(介入・コントロール)と時期を固定因子,対象者を変量因子,高齢者施設の経験年数,職種を共変量とする一般線形混合モデルを用いた共分散分析を行った.結果:本研究の対象者のケアスタッフは,介入群59名,コントロール群は70名である.転倒予防プログラム介入期間の共分散分析の結果,転倒予防ケア質指標ではベースライン63.82(±11.96)からフォローアップ後70.02(±9.88)と最も増加し,有意な差が認められた.介入効果では,認知症に関する知識尺度の効果量が0.243と有意に高かった(p<0.01).結論:介入群ではケアスタッフに対して転倒予防ケア質指標の有意な改善が得られたことから,転倒予防プログラムのケアスタッフに対する介入効果が得られたと言える.

  • 大井 一弥
    2019 年56 巻4 号 p. 498-503
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/22
    ジャーナル フリー

    目的:薬剤師は,患者の薬歴,症状,検査値を把握することで患者の服用支援に努め,医薬品適正使用を推進していく責務がある.本邦は,超高齢社会の最中にあり,65歳以上の高齢者の割合が総人口の4分の1を超えている.高齢者はさまざまな疾患に罹患しやすくなり,必然的に薬剤の服用数が増え,ポリファーマシーが問題となっている.今回我々は,薬剤師による疑義照会がもたらすポリファーマシー是正効果について検討を行った.方法:2018年9月から同年11月までの3カ月間,在宅または外来において疑義照会が行われた65歳以上の患者を対象とした.対象患者の性別,年齢,疑義照会による処方変更の有無,疑義照会前後の薬剤総数,処方変更があった場合には4週間以降の症状の変化について検討した.結果:疑義照会対象患者は361例で,年齢は80歳代が最も多かった.処方改変のあった患者数は,349例で全体の96.7%であった.疑義照会前の薬剤数は,7.2剤であったが疑義照会後は6.0剤となり,平均薬剤数1.2剤減少となった.また,6剤以上処方されているポリファーマシー患者が疑義照会前の67.3%から疑義照会後53.7%へと有意に減少した.高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015にある,特に慎重な投与を要する薬物に対する提案は,33.7%であった.疑義照会による処方提案後,4週間以降の症状の変化は,変化なしが84.5%であった.結論:本研究によって,薬局薬剤師は疑義照会により高齢者のポリファーマシーに積極的に介入し,処方提案による薬剤数の減少を明らかにした.さらに,減薬の提案の中で,フィジカルチェックや検査値に基づいて行ったものもあり,今後,薬局薬剤師が疑義照会の質を上げるためにも検査値の情報は,重要なツールになるものと考えられた.

  • 田中 あさひ, 新井 康通, 平田 匠, 阿部 由紀子, 小熊 祐子, 漆原 尚巳
    2019 年56 巻4 号 p. 504-515
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/22
    ジャーナル フリー

    目的:本研究の目的は高齢者におけるポリファーマシー,抗コリン作動薬及び鎮静作用薬の使用による薬剤負荷の影響を調査することである.

    方法:川崎市在住非介護高齢者コホートThe Kawasaki Wellbeing Projectにて2017年3月から12月までに参加した396名を対象とした.ベースライン時の薬剤情報から薬剤数を算出,抗コリン作動薬及び鎮静作用薬に該当する薬剤から対象者のDrug Burden Index(DBI)を算出し薬剤負荷とした.アウトカム指標であるADL,IADL,MMSE,J-CHS,EQ5D5Lについて多変量回帰分析を行い,使用薬剤数又はDBIとの関連性を検討した.調整には性別,年齢,疾患数,教育歴,飲酒歴,喫煙歴を用いた.

    結果:解析の対象となった389名において年齢の中央値は86歳,男性は48%にあたる187名であった.ポリファーマシーに該当した対象者は243名(62%)であり,DBI該当薬の使用者は142名(36.5%)となった.各アウトカム指標の結果から本集団は身体機能,QOLが高く,フレイルのリスクの低い集団であることが分かった.使用薬剤数はJ-CHS(β:0.04),EQ5D5L(-0.01)と有意に負の関連を示し,DBIスコアはEQ5D5L(-0.04)と有意に負に関連していた.

    結論:調査結果から本集団は一般的な高齢者と比較すると身体機能及び認知機能の高い健康な集団であることが示された.しかし,ポリファーマシー及び抗コリン作動薬及び鎮静作用薬による薬剤負荷は高齢者のフレイル,QOLの低下と関連していることが示唆された.今後はより大規模で多角的な調査項目を含めた長期間の観察を行うことが望ましい.

  • 山本 ひとみ, 牧上 久仁子, 福村 直毅, 牛山 雅夫
    2019 年56 巻4 号 p. 516-524
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/22
    ジャーナル フリー

    目的:回復期リハビリテーション(回復期リハ)病棟で入院患者に積極的な摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)と栄養療法の強化を行い,入院中の肺炎発症予防効果を検討する.

    方法:本研究は後ろ向きコーホート研究である.46床の回復期リハ病棟において,積極的な嚥下リハ手法(新手法)が導入された前後で,入院患者の肺炎発症率を比較した.アウトカムは入院中の肺炎発症とした.新手法群で新たに導入した手法は,入院時全症例に嚥下内視鏡検査を行って食形態・摂食体位を指示する,体位による唾液貯留位置のコントロール等による慢性唾液誤嚥対策,経口・経管あわせて原則2,000 kcal/日を目標として栄養管理を行う,などである.新・旧手法群で患者背景が異なっていたため,統計的手法を用いて新しい嚥下リハ手法の肺炎発症予防効果を検討した.

    結果:新手法の嚥下リハを受けた291人と,それ以前に入院した460人を対照群として比較した.新手法群は旧手法群より嚥下障害の患者の割合が多かった(新手法群59.1%,旧手法群33.0%).肺炎発症者は新手法群5人(1.7%),対照群13人(2.8%)であった.肺炎発症を従属変数とし,年齢・性別と各患者背景を投入したロジスティック回帰を行ったところ,嚥下障害の調整オッズ比は24.0(95%信頼区間3.11~186.0,p=0.002)と大きかった.年齢,性別と嚥下障害の有無で調整した新しい嚥下リハ手法と入院中の肺炎発症の関連をみたオッズ比は0.326(95%信頼区間0.11~0.95,p=0.040)であった.

    結論:嚥下障害は肺炎発症の重大なリスクであり,内視鏡等を用いて積極的に嚥下障害をスクリーニングし,栄養療法やリハを行うことで回復期リハ病棟入院中の肺炎発症を抑制できる可能性がある.

症例報告
  • 松本 昇也, 西原 恵司, 長谷川 正規, 佐竹 昭介, 遠藤 英俊, 荒井 秀典
    2019 年56 巻4 号 p. 525-531
    発行日: 2019/10/25
    公開日: 2019/11/22
    ジャーナル フリー

    症例は84歳,女性.近医に糖尿病,慢性心房細動で通院中で,ADLは自立していた.X-10日頃から食事量が低下して立ち上がるのが困難になり,X日に初診した.全身のリンパ節腫脹があり,悪性リンパ腫を疑いPETやリンパ節生検を行ったが,診断に至らなかった.食思不振は一旦自然に改善したが,再度悪化して発熱もあったため,X+41日に入院した.支持療法のみで発熱や食思不振は一旦軽快した.頸部リンパ節の病理所見からEBウイルス関連の疾患を疑った.EBウイルスDNAの末梢血中への増加と,発熱,脾腫,低フィブリノゲン血症,血清フェリチン高値,骨髄での血球貪食像を認めたため,EBウイルス関連血球貪食性リンパ組織球症(Epstein-Barr virus-associated hemophagocytic lymphohistiocytosis:以下EBV-HLHと略す)と診断した.再度発熱して食事が摂れなくなり,X+90日からプレドニゾロン20 mg/日を開始したところ,解熱して食事が摂れるようになった.X+131日に自宅退院したが,X+145日に呼吸不全のため再入院し,X+150日に死亡した.EBV-HLHは小児と若年成人での発症が多いとされるが,80歳代で発症した1例を経験した.本症例ではプレドニゾロン投与により一時的に寛解が得られた.高齢者のEBV-HLHは報告がなく,どのような治療が最適であるかは知られていないが,本症例からはプレドニゾロンによって症状緩和が得られる可能性がある.EBV-HLHであればステロイド投与で病勢を抑えられる可能性があるため,高齢者の多発リンパ節腫脹の診療では,EBV-HLHの可能性を念頭に置くことが重要である.

医局紹介
基礎教室紹介
IAGGマスタークラス体験記
日本老年医学会地方会記録
会報
会告
巻末総目次・索引
feedback
Top