老年者の心脳卒中を脳卒中症状で発症した心筋梗塞と定義し, その発症要因を臨床病理学的に検討した. 昭和47年以降の当院連続剖検4,167例中, 脳卒中様症状で発症した急性心筋梗塞は, 30例 (男: 15例, 女: 15例, 平均年齢80.3歳) であった. 脳の主病巣の性状で塞栓群, 血栓群, 出血群, 脳粗大病変のない群の4群に分類し, 臨床所見, 合併症, 病理所見を比較検討した. 脳病変の内訳は, 塞栓群17例 (56%), 血栓群9例 (30%), 脳出血群2例 (7%), 脳粗大病変のない群は, わずか2例 (7%) であった. 臨床症状は意識障害: 83%, 発作時血圧上昇のみられない症例: 67例, 片麻痺: 43%が多く見られ, 胸痛は17%と低値を示した. また, 心筋梗塞と診断し得たものは53%にすぎなかった. 基礎疾患, 合併症は, 高血圧15例 (56%), 心房細動14例 (47%), 播種性血管内凝固症候群 (DIC) 12例 (40%), 腎不全7例 (23%), 悪性腫瘍5例 (17%), 糖尿病4例 (13%) であり, 心房細動, DICの合併は血栓群に比し有意に塞栓群で大であった. また, 左心内壁在血栓, 非細菌性血栓性心内膜炎 (NBTE) も, 有意に塞栓群で高頻度に認めた. 脳動脈硬化は, 塞栓群で軽度の症例が12例 (71%) であるのに対し, 血栓群では, 中等度以上9例 (100%) であり, 塞栓群で有意に軽度であった. 冠狭窄指数も塞栓群10.3, 血栓群13.1と有意に塞栓群で小であった. 従って心脳卒中の脳病変は脳塞栓によることが多く, その原因として心房細動, NBTE, DIC, 左心内壁在血栓の関与が大であると考えられ, 脳粗大病変のないものは比較的少ないことが示された.
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