日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
45 巻, 1 号
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第25回日本老年学会総会記録〈ラウンドテーブルディスカッション:実生活の中の老年学に向けて〉
第25回日本老年学会総会記録〈パネルディスカッション:在宅高齢者支援の戦略と戦術〉
原著
  • 水川 真二郎
    2008 年 45 巻 1 号 p. 50-58
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    目的:近年,わが国では高齢者人口の急激な増加に伴い,「高齢者の終末期医療」に対する関心が高まっている.しかし,高齢者にとって「望ましい死」とは何か,「高齢者の終末期医療」ではどのような医療環境やケアを優先すべきかなど数多くの課題が残されている.この研究では,高齢患者と家族および医師を含めた医療従事者が,「高齢者の終末期」をどのように捉え,「高齢者の終末期医療」において何が最も重要な要素であると認識しているのかについてアンケート調査を実施した.そして,これらの成績を解析することにより,「高齢者の終末期医療」における老年科医の役割について検討した.方法:対象は「高齢者の終末期医療」に関するアンケート調査に同意の得られた高齢患者148名(患者群),患者の家族76名(家族群),医師105名(医師群),看護師784名(看護師群)および介護職員193名(介護職員群)である.結果:"「高齢者の終末期」とはどのような状態か"の問いに対して,「生命予後の危機」と解答したものは医師群,看護師群,介護職員群でいずれも70%以上であった.しかし,患者群と家族群ではそれぞれ61%と52%で,医師群(75%)と比較して少なかった.これに対して「日常生活動作の低下」と解答したものは,患者群と家族群ではそれぞれ36%と45%で,医師群(23%),看護師群(8%),介護職員群(24%)よりも多かった."「高齢者の終末期医療」で重要な要素は何か"の問いに対しては,「鎮痛・苦痛除去」,「死に対する不安の解除」,「友人や家族とのコミュニケーション」,「尊厳をもった扱い」の4つを最重要と回答したものがいずれの群でも多かった(>70%).一方,「信条・習慣への配慮」は,医師群(63.8%)と比較して患者群(16.1%),家族群(28.2%)でいずれも少なかった.「在宅死」を重要な要素と回答したものは,医師群(37.5%)と比較して患者群(21.0%)と家族群(7.1%)で少なかった.結論:「高齢者の終末期医療」に対する捉え方や考え方は,患者や家族あるいは同じ医療に携わるものでも,その立場や職種によって大きく異なっていた.高齢者医療を専門とする老年科医は,「高齢者の終末期」に生じる様々な問題を全て医療の手法によって解決しようとはせずに,「高齢者の終末期医療」を患者や家族との共同作業であると捉え,共通の認識に基づいた医療の実践に努力すべきであると考えられた.
  • 牧迫 飛雄馬, 阿部 勉, 阿部 恵一郎, 小林 聖美, 小口 理恵, 大沼 剛, 島田 裕之, 中村 好男
    2008 年 45 巻 1 号 p. 59-67
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    目的:要介護者の在宅生活継続には,主介護者の身体的および精神的な負担にも配慮が必要である.本研究では,在宅要介護者の主介護者における介護負担感に関与する要因を検証した.方法:在宅で理学療法士または作業療法士の訪問によるリハビリテーションを実施していた要介護者78名(男性40名,女性38名,年齢77.8歳)とその主介護者78名(男性20名,女性58名,年齢66.8歳)の78組156名を分析対象とした.要介護者の基本情報,日常生活動作能力,居室内動作能力を評価した.また,主介護者からは基本情報,介護期間,介護協力者・介護相談者の有無,介護負担感(短縮版Zarit介護負担尺度:J-ZBI_8),視覚的アナログスケールによる日常生活動作における介助負担度,主観的幸福感,簡易体力評価を構造化質問紙で聴取した.J-ZBI_8から介護負担感の低負担群(10点未満:5.0±3.0点)41組と高負担群(10点以上:15.9±5.9点)37組の2群間で比較した.結果:低負担群の要介護者では,高負担群の要介護者に比べ,高い基本動作能力,日常生活動作能力を有していた.また,低負担群の主介護者では,高負担群に比べて,介護を手伝ってくれる人(低負担群65.9%,高負担群40.5%),介護相談ができる人(低負担群95.1%,高負担群75.7%)を有する割合が有意に多く,主観的幸福感(低負担群9.6±3.5,高負担群6.3±3.7)も有意に高かった.また,高負担群では,すべてのADL項目における介助負担も大きかった.結論:要介護者の日常生活動作能力や基本動作能力は介護負担感に影響を与える一因であることが示唆された.また,介護協力者や介護相談者の有無も介護負担感と関係し,介護負担感が高い主介護者では主観的幸福感が低いことが示された.
  • 鈴木 みずえ, 水野 裕, Brooker Dawn, 住垣 千恵子, 坂本 凉子, 内田 敦子, グライナー 智恵子, 大城 一, 金森 ...
    2008 年 45 巻 1 号 p. 68-76
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    目的:認知症ケアマッピング(Dementia Care Mapping:DCM)は,認知症のケアの質の改善を目的とした行動観察手法としてわが国にも導入されたが,日本語版DCMの信頼性,妥当性については検証されていない.本研究の目的は,Quality of life評価手法でもある日本語版DCMのWell-being and ill-being Value(WIB値)の信頼性と妥当性を検証することである.方法:平成17年4月1日∼平成18年6月30日にデイケア,グループホーム,療養型病床群に入院する認知症と診断された130名(男性31名,女性99名,平均年齢82.65±7.69歳)を対象とし,同席法による評価者間一致率と再検査法により信頼性を,Japanese Quality of life inventory for elderly with dementia(QOL-D)との相関により基準関連妥当性を検証した.結果:対象者はアルツハイマー型認知症49名(37.7%),脳血管性認知症80名(61.53%),レビー小体型認知症1名であった.WIB値を用いて評価者間の一致率として算出した級内相関係数の平均値は0.813(±0.052),1週間後の再テストの相関係数は0.836(p=0.001)であった.基準関連妥当性に関しては,日本語版DCMとQOL-Dの下位尺度の相関係数を算出した結果,0.53以上の有意な正の相関が認められた.日本語版DCMの内的一貫性に関してはWIB値,BCCカテゴリーの積極的交流,消極的交流を用いたが,良好な有意な関係を示していた.結論:本研究の結果,日本語版DCMのWIB値はオリジナルのWIB値と同様の信頼性,妥当性があることが明らかになり,わが国の認知症高齢者に対しても使用が可能であることが示唆された.
  • 山佐 稔彦, 池田 聡司, 古賀 聖士, 河野 茂
    2008 年 45 巻 1 号 p. 77-80
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    目的:冠動脈疾患は,高齢者に多く認められる動脈硬化性疾患である.高齢冠動脈疾患患者における,メタボリックシンドロームおよび,その上流に位置するといわれるインスリン抵抗性について検討した.方法:冠動脈造影検査で冠動脈疾患の診断が確定し,入院時に糖代謝異常の有無が不明であった214例を対象とした.65歳以上の高齢者が102例,若年者が112例であった.全例に75g経口糖負荷試験を施行し,血糖およびインスリン値を測定した.その他,冠危険因子の検査を併用してメタボリックシンドロームの診断を行った.結果:肥満,脂質代謝異常は若年者に有意に多く,高血圧の頻度は高齢者に有意に高率であった.メタボリックシンドローム,耐糖能障害の頻度は2群間に差を認めなかった.HOMA-Rよりもとめたインスリン抵抗性は若年者に高い傾向であったが,75g経口糖負荷試験のインスリン2時間値より求めた高インスリン血症では2群間の差が無くなった.結論:肥満の頻度は高齢者で低率であったが,メタボリックシンドロームは若年者と同等であった.耐糖能障害,高インスリン血症は2群ともにそれぞれ,ほぼ60%,45%に認められた.インスリン抵抗性の診断には,HOMA-Rより75g経口糖負荷試験のインスリン2時間値が有用であった.
  • 藤巻 博, 粕谷 豊, 川口 祥子, 原 志野, 古賀 史郎, 高橋 忠雄, 水野 正一
    2008 年 45 巻 1 号 p. 81-89
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    目的:私共は高齢の慢性腎不全症例を対象として,透析導入過程の諸事象の規定要因を事象毎に検討してきた.規定要因としてあげられた背景因子は,新たな症例が個々の事象に臨んで,その事象の帰結を予知する上では意義があった.しかし,初期事象の段階で後続事象の帰結を見通す上では,その意義が不明確であった.その理由は,透析導入過程の進行に伴って,諸事象の対象は症例数を減じ,かつ性状の変化(以下,対象の変容)を被っていたからだった.ここでは,初期事象の段階で後続事象の帰結を見通すための規定要因を明らかにしたいと考えた.そのための方法として,「透析導入過程が進行しても,対象はほとんど失われず,その変容も軽度であったならば」という仮定を持ち込んでみた.方法:年齢60歳以上の高度慢性腎不全例(152例)を対象とした.全例で背景因子の調査を行った.検討事象は,透析導入の是非,透析導入の緊急度,病状軽快の可否,および家庭復帰の可否とした.新たな規定要因を求めるために,事象毎のロジスティック回帰分析の際,各背景因子が絞り込まれていく順序と状況に着目した.どの事象で,どの背景因子に着目するかは,背景因子の変容に基づいて決められた.結果:透析導入の緊急度と病状軽快の可否では,年齢と認知機能の良否が着目された.家庭復帰の可否では,年齢,歩行の可否,および認知機能の良否が着目された.病状軽快の可否のロジスティック回帰分析において,年齢は最終段階で絞り込まれていた.また,家庭復帰の可否の回帰分析において,年齢は最終の前段階で絞り込まれていた.結語:病状軽快の可否と家庭復帰の可否における年齢の係わりを検証するために,透析導入過程において失われた症例を対象に復活させるシミュレーションを行った.病状軽快の可否では年齢の係わりの増加がみられたが,家庭復帰の可否では年齢の係わりの増加は明瞭でなかった.病状軽快の可否において,年齢は新たな規定要因となった.また,事象毎の検討による規定要因のすべても,初期事象の段階で後続事象の帰結を見通すための規定要因となった.
症例報告
  • 大田 秀隆, 山口 泰弘, 山口 潔, 江頭 正人, 秋下 雅弘, 大内 尉義
    2008 年 45 巻 1 号 p. 90-94
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    今回我々は,パロキセチン内服中に低ナトリウム血症を来し,SIADHと診断された食思不振の高齢患者の一例を経験したので,文献学的考察を加え報告する.82歳男性,うつ状態に対してスルピリドを投与されていたがパーキンソニズムの副作用のため中止しパロキセチン内服へ変更後,低ナトリウム血症が出現,SIADHと診断された症例.約4年前から食思不振増強,体重減少が目立っていた.表情がない,無口,不安感が強い症状があり,うつ状態に対してスルピリド内服開始したが,パーキンソニズムの副作用のため同剤からパロキセチン内服へ変更した.その後,食事,飲水ができない状況続き,当院へ緊急入院.入院中,血清ナトリウム126mEq/mlと低下.ADH測定感度以上,血漿浸透圧242mOsm/kg,尿浸透圧439mOsm/kg,尿中ナトリウム100mEq/l以上とSIADHの診断を全て満たした.中枢疾患や悪性腫瘍は否定され,薬剤性によるものと考え,パロキセチンの内服中止した.その後血清ナトリウム値は正常化し,自主的な経口摂取が可能となり退院した.SSRIによるSIADHは高齢者に多い傾向にあり,低用量でも発症し,SSRI投与後数日から数週間で発症することが報告されている.SIADHにより生じた低ナトリウム血症の症状(全身倦怠感,食欲不振など)は,抑うつ状態と類似しているため鑑別が困難になる症例もある.高齢者において,今後SSRIの使用頻度が増加してくると思われるが,投与開始後は,薬剤性SIADHの可能性を念頭に置いた上で,症状変化に十分注意し,定期的な電解質の測定が不可欠と考えられる.
  • 竹内 淳, 田代 淳, 中垣 整, 吉田 昌弘, 鴨嶋 ひかる, 奥 健志, 吉岡 成人
    2008 年 45 巻 1 号 p. 95-99
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    症例は69歳女性.検診を定期的に受けていたが,高血糖は指摘されていなかった.66歳時より両下肢筋の萎縮と難聴を自覚していた.69歳時,感冒で近医受診し尿糖陽性で随時血糖311mg/dl, HbA1c 8.3%より糖尿病の診断となった(糖尿病合併症は無かった).母親,姉,弟が難聴と糖尿病で中年期に突然死しており,娘(45歳)も高血糖の指摘と難聴の自覚があったためミトコンドリア糖尿病を疑い精査したところ本人と娘にミトコンドリアDNA3243A-G変異を認めた.ミトコンドリア糖尿病は糖尿病合併症の進行も早く心筋障害やMELASなども合併するため早期に確定診断し適確な対応が必要とされる.日本での115例の調査ではミトコンドリア糖尿病の発症は平均32.8歳で本症例は既存の報告より明らかに高齢発症であった.
  • 高遠 哲也, 芦田 映直, 山田 奈美恵, 穴井 元暢, 堀 貞夫, 岡田 芳和
    2008 年 45 巻 1 号 p. 100-106
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    症例は76歳男性.主訴は左眼の急激な視力低下.56歳から高血圧,糖尿病,高脂血症で外来加療中であった.64歳から左頸動脈血管雑音を認めた.2005年11月24日急激に左眼の視力低下が出現したため眼科を受診した.11月28日(第5病日)矯正視力右1.0,左0.1,眼底検査では左乳頭耳側浮腫,蛍光眼底造影検査では初期充えい遅延,後期過蛍光,視野検査では水平下半盲を認めた.眼痛や血液検査で炎症反応を認めず,高血圧,糖尿病,高脂血症で加療中であったため非動脈炎性前部虚血性視神経症と診断した.Aspirin内服に加えalprostadilの点滴とprednisolone内服を行い,乳頭浮腫および視力も一時的に改善傾向を認めたが視力は0.1どまりであった.その後左内頸動脈に95%狭窄を認め眼循環障害への関与が考えられたため,頸動脈内膜剥離術を検討したが,全身状態不良のため施行できなかった.2006年8月脳血管障害の疑いにより死去された.本症には確立した有効な治療法がなく危険因子の管理と定期的な頸動脈の動脈硬化の検査が重要であると考えられる.
  • 鈴木 一成, 松村 典昭, 鈴木 達也, 中野 博司, 永山 寛, 横尾 英明, 田村 浩一, 片山 泰朗, 杉崎 祐一, 大庭 建三
    2008 年 45 巻 1 号 p. 107-111
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/03/10
    ジャーナル フリー
    認知症で発症し,肺炎の併発とともに急速に失外套状態に進行,約1年の経過で死亡したCreutzfeldt-Jakob病(以下CJDと略)の1剖検例を経験した.症例は80歳男性.CJDの家族歴はない.入院時無動性無言状態で,頭部MRIでは大脳灰白質にdiffuseに高信号を認めた.脳波上周期性同期性放電は認められなかった.プリオン蛋白のDNA解析では,codon180の点変異(Val→Ile)およびcodon129の多型(Val/Met)を認めた.病理学的には大脳皮質の海綿状変化が認められたが,海馬,小脳は保たれ,ラクナ梗塞は認めなかった.また大脳皮質に多数の老人斑の形成を認めた.codon180の点変異,codon129多型を伴う症例は稀であり,文献的考察を加え報告した.
日本老年医学会地方会記録
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