地域在住の高齢者を対象に, 抑うつ状態とその背景因子を解明するための横断調査を実施した. 対象は, 地域在住の自記式回答可能な高齢者であり, 調査は, 松林らの香北町健康長寿研究で用いられたと同様のアンケートと Zung Self-Rating Depression Scale (以下SDS) を用いて行われた.
地域在住の自記式回答可能な高齢者2,379人中2,361人 (99.2%) より回答を得た. そのうち回答不備例を除く分析可能な対象は, 1,181人 (49.6%), 男性542人 (平均年齢72.3±5.5歳), 女性639人 (平均年齢73.0±6.3歳) であった. SDSからみた抑うつ状態の程度では, 正常731人 (61.9%), 軽症240人 (20.3%), 中等症181人 (15.3%), 重症29人 (25%) であった. SDSと背景因子との関係については, SDSが重症になるほど平均年齢は高齢になり, 女性の比率が有意に高かった. その他, SDSが重症になるほど同居者や配偶者のない人, 定期的な内服治療を受けている人, 飲酒をしない人, 運動習慣のない人, 仕事をしない人の割合も有意に高かった. SDSと各種スコアーとの関係については, SDSが重症になるほどADL, 情報関連機能, 手段的・情緒的支援ネットワーク, 家族仲, 友人や親戚との人間関係, 経済状態のスコアーは有意に小さかった. SDSを取り巻く背景因子を説明変数とするロジスティック回帰分析では, 女性であること (オッズ比: 1.73,95%信頼区間: 1.10~2.72), ADL (0.80,0.69~0.93), 情緒的支援ネットワーク (0.88,0.81~0.96), 友人や親戚との人間関係 (0.98,0.96~0.99) が有意な独立寄与因子であった. SDSと主観的感覚との関係については, SDSが重症になるほど健康感, 満足感ともにスコアーは有意に小さかった.
地域に在住する高齢者の抑うつ状態の予防のためには, 本調査により明かにされた背景因子の改善を計り, 今後経過を追跡して行くことが必要であろう.
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