骨格筋障害にともなって, その細胞成分クレアチンキナーゼ (CK) などが, 血清中に放出される横紋筋融解症は老年者では比較的稀と考えられる. 我々は,
Streptococcus pneumoniae (S. pneumoniae) によると考えられる老年者肺炎患者において横紋筋融解を認めた2症例を経験したので, 文献的考察を加えて報告した. 症例1は, 71歳, 女性で基礎疾患として気管支拡張症があり, 肺炎, 食欲不振で入院した. 喀痰より
S. pneumoniae のみを検出し, 抗生剤によって軽快した. 入院時, CK551 (IU/L) と高値を示したが, 心電図異常はなく, 他の血清逸脱酵素は正常でCK分画はMM型が100%であった. 症例2は, 84歳, 男性で発熱, 食欲不振, 咳嗽で入院し, 喀痰より
S. pneumoniae のみが検出され肺炎と診断し抗生剤投与によって軽快した. 入院時検査所見にて, CKの著明な上昇 (1,552IU/L) と心電図にST-T変化を認め, 心筋梗塞が疑われたが, 心エコー上, 明らかな異常は認めなかった. CK分画はMM型100%で, 他の血清酵素は軽度の上昇を示したのみで, CK上昇は骨格筋由来と考えられた. CKの異常上昇も肺炎治療後は正常となった. また, 横紋筋融解を生ずる薬剤の投与は経過中なかった. いずれも, 腎機能に異常なく, 臨床経過は良好であった. 今回の横紋筋融解の原因が
S. pneumoniae 肺炎であるとは断定できないが, 文献的にも肺炎にともなう横紋筋融解は
S. pneumoniae 肺炎での報告が最も多いことから, 加齢や疾病によって腎機能が低下しやすい老年者
S. pneumoniae 肺炎では, 一度はCK測定を行って横紋筋融解の有無を検討しておくことの意義は少なくないと考えられる.
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