日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
21 巻, 6 号
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  • 血糖降下剤との関連について
    板垣 晃之
    1984 年 21 巻 6 号 p. 523-535
    発行日: 1984/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    60歳以上の老年者で, 耐糖能異常を示した387例について, 経口血糖降下剤及びインスリン使用例での心筋梗塞 (MI) 発生頻度を検討した.
    I) 耐糖能異常者全例についてみると, MIの頻度はトルブタマイド (T) 群及びTを含むスルフォニルウレア (SU) 群とも, 未使用 (F) 群に比べ有意に高率で, F群とインスリン群では差を認めなかった.
    II) 冠動脈の有意狭窄 (内腔の狭窄が75%以上) の有無に分けて, 治療法別のMI発生頻度をみた.
    1) 全例では有意狭窄を有す例では, MIはT群, SU群ともF群に比べ高率で, 有意狭窄の無い例では差を認めなかった.
    耐糖能異常を軽度異常 (MGI), 糖尿病 (DM) に分けた場合, MGIの有意狭窄あり例では, T群のMIはF群に比べ有意に高率であった. DMでは, 有意狭窄あり例及びなし例とも治療法別の差を認めなかった.
    2) 耐糖能検査時年齢を老年前期 (75歳未満), 後期 (75歳以上) に分けて, 同様の検討を行った. 全例についてみると, 老年前期では, 有意狭窄あり例及びなし例とも, F群, T群でのMI頻度に差がなく, 老年後期では, 有意狭窄あり例のT及びSU群のMIはF群に比べ高率であった. 有意狭窄なし例では差は認めなかった. MGI, DM別でみると, 老年前期のMGIでは, 有意狭窄あり例, なし例ともT群とF群で差はなく, 後期では, 有意狭窄あり例で, T群のMIはF群に比べ高率であった.
    以上, 老年者のMGIで, かつ冠動脈狭窄のつよい例で, T及びTを含むSU剤服用がMIの発生と関連している結果を得た. 特に, 75歳以上の高齢者で, これらの血糖降下剤の投与については慎重であるべきである.
  • 井澤 和弘, 金澤 武道, 金子 宏彦, 二瓶 忠精, 星 克樹, 盛 英機, 小野寺 庚午, 目時 弘文, 嶋中 義人, 川原 礼子, 大 ...
    1984 年 21 巻 6 号 p. 536-544
    発行日: 1984/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    動脈壁における血栓は, 粥状硬化, 心筋梗塞ならびに脳血管障害の発症と密接な関連を有しており, 内皮細胞の傷害による血小板の粘着・凝集を基盤として形成される. したがって, これらの発症の追求にあたって, 血小板凝集に及ぼす血管壁成分の影響を把握することは重要と考えられる.
    そこで, ヒト大動脈内膜ならびに中膜抽出液の血小板凝集に及ぼす影響を検討した.
    死後5時間以内に得られたヒト大動脈の, 正常部分と fibrous plaque 部分の内膜ならびに中膜を剥離し, これらとpH7.4の0.15M NaCl (1:5W/V) とを4℃の状態で24時間 gentle shaking 後1,000G 30分間遠心して, それぞれの中間層を分取した. さらに, 沈殿部分にpH7.4の0.15M NaCl (1:5W/V) を加えて homogenization 後, 1,000G 30分間遠心し, それぞれの中間層を分取した. 分取液について, 血小板凝集に及ぼす影響を追求した.
    正常ならびに fibrous plaque 内膜ならびに中膜の gentle shaking による抽出液は, それ自体には血小板凝集惹起作用はなかったが, ADPによる血小板凝集を抑制し, epinephrine ならびに norepinephrine による血小板凝集を亢進させた. collagen による血小板凝集には, ほとんど影響を与えなかった. homogenization による抽出液には, すべて, それ自体に血小板凝集惹起作用がみられた. この homogenization による抽出液の血小板凝集惹起作用は, 凝集曲線から考案した結果, collagen が抽出されたことによる凝集と考えられた.
    gentle shaking 抽出液中のADPならびに catecholamine による血小板凝集に影響を与えた物質が何であるかを明らかにできなかったが, catecholamine が多い状態では血栓が形成されやすく, 動脈硬化, 心筋梗塞ならびに脳血栓等の発症とも深い関連のあることが示唆された. これらの物質の追求は, 血栓を基盤として発症する疾患の予防や治療の一助になり得るであろう.
  • 八木 高秀, 小橋 紀之, 香取 瞭, 宮崎 学
    1984 年 21 巻 6 号 p. 545-549
    発行日: 1984/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    正常者 (54±3歳) 154例及び臨床症状, CTより診断した脳動脈硬化症 (68±9歳) 12例, 慢性期脳梗塞 (69±9歳) 20例これら脳血管障害が痴呆の原因と考えられる脳血管性痴呆 (71±8歳) 12例, アルツハイマー型痴呆 (74±7歳) 9例について, 平均血小板容積, 血小板数, 血小板停滞率を測定し正常者及び脳循環障害者のこれら血小板パラメーターの診断的意義を検討し, つぎの結果を得た.
    1) 平均血小板容積は脳動脈硬化症では正常者に比し有意差を認めないが脳硬塞では有意に増加した.
    2) 血小板数は正常者に比し脳動脈硬化症, 脳梗塞で有意に減少した.
    3) 脳血管障害患者において平均血小板容積, 血小板数は有意の逆相関を示した.
    4) 脳血管性痴呆ではアルツハイマー型痴呆に比し有意の平均血小板容積の増加と血小板数の減少を認めた.
    5) 血小板停滞率は脳梗塞, 脳動脈硬化症, アルツハイマー型痴呆において有意差を認めなかった.
    以上より平均血小板容積, 血小板数の変動は脳血管障害を反映している可能性が考えられ, これら血小板パラメーターの測定が脳血管障害患者においては梗塞発作を予知するうえで, 痴呆患者においては病因を鑑別するうえで有用な情報のひとつになり得ることを示唆しているものと思われた.
  • 知的機能を主とした一斉調査から
    小椋 力, 白石 義光, 岸本 朗, 小村 文明, 久田 研二
    1984 年 21 巻 6 号 p. 550-557
    発行日: 1984/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    山陰地方の小都市, 米子市に在住する65歳以上の老年者11,374人を対象にして, 知的機能, それに及ぼす諸要因を調べる目的で一斉調査を実施した. 方法は, 地区担当の民生委員が各対象者の自宅を訪問し, 調査表をもとに面接調査を行った. 知的機能は, Kuhn の Mental Status Questionnaire (MSQ) を著者らが改変した評価尺度を使用した.
    1) MSQの質問のうち誤答数2以上の者を知的機能に問題のあると考えられる者として取り上げた. 知的機能に問題のあると考えられる者は, 加齢とともに増加するが, その増加は必ずしも直線的ではなく, 年齢による差がみられ, とくに80歳以上で目立った. 性差も認められ, 知的機能に問題のあると考えられる者は女に多かった (p<0.005).
    2) 知的機能に問題のあると考えられる者は, 一般にふだんの健康状態が悪くなるほど多い傾向があり, 両者間にはある程度の相関がみられたが, その相関には年齢差がみられた. 知的機能に問題のあると考えられる者は, 配偶者のある者に比較してない者に比較してない者に多かった (p<0.005).
    3) 自由時間の過し方から, 女の場合, 男に比較して頭脳活動をあまり要しない受動的な生活のあり方が目立った. 男の場合でも加齢とともに生活のあり方は全般に女性化するが, その変化には年齢差がみられた.
    4) 得られた結果から, 老年期を65~75ないし79歳ころまでの老年前期と, 80歳以上の老年後期の2期に, あるいは後期を80~89歳までと90歳以上に分け, それぞれを中期, 後期とし, 老年期を全体で3期に分けることが可能かもしれない. そして老年者をめぐる各種の調査, 研究, 診療において年齢差, 性差は重要な要因であることをあらためて主張した.
  • 中井 瑠美子, 折茂 肇, 原澤 道美
    1984 年 21 巻 6 号 p. 558-564
    発行日: 1984/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    Spraque-Dawleg 系ラット雌雄おのおの5匹の長管骨 (大腿骨・脛骨・上腕骨) および頭蓋骨中のγ-carboxyglutamic acid (Gla) を測定し, 加齢および性差の影響を検討し, 以下の成績を得た.
    1) γ-carboxyglutamic acid (Gla) 含量は, 大腿骨・脛骨・上腕骨等の長管骨ではいずれも骨幹部において骨端部に比し有意の高値を示した.
    2) 大腿骨中 Gla 含量は1.5月齢, 3月齢, 6月齢とラットの加齢にともない有意の上昇を示した.
    3) 骨中 Gla 含量は3月齢, 6月齢において雄では雌に比して高値を示した.
    4) 骨中 Gla 含量とCa量との間には雄, 雌ともに有意の正相関が, Gla とP量との間にも雄, 雌ともに有意の正相関が認められた. 以上, 骨中 Gla 含量は, 加齢および性により変動を示し, また骨中CaおよびP量との間に有意の正相関が認められる事から, Gla の骨代謝における骨形成面への関与が示唆された.
  • 中井 瑠美子, 折茂 肇, 原澤 道美, 堤 ちはる, 大田原 洋子, 細谷 憲政, 森内 幸子
    1984 年 21 巻 6 号 p. 565-572
    発行日: 1984/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    健常者, 代謝性骨疾患につきビタミンK依存性カルシウム結合蛋白質 (osteocalcin) の血中濃度を radioimmunoassay により測定し以下の成績を得た.
    1) 30~69歳までの健常者では血中オステオカルシン濃度に年齢差・性差は認められなかった. 30~39歳: 男子(n=18) M±SE 10.42±0.57ng/ml, 女子(n=10) M±SE 9.32±1.09ng/ml, 40~49歳: 男子(n=47)M±SE 9.57±0.35ng/ml, 女子(n=16) M±SE 10.00±0.83ng/ml, 50~59歳: 男子(n=33)M±SE 9.25±0.38ng/ml, 女子(n=14)M±SE 9.65±0.48ng/ml, 60~69歳: 男子(n=10)M±SE 9.77±0.97ng/ml, 女子(n=9)M±SE 10.10±0.68ng/ml, 以上30-69歳: total (n=157) のM±SEは9.68±0.20ng/mlであった.
    2) 血中オステオカルシン濃度は甲状腺機能亢進症, 慢性腎不全では健常者に比し有意の上昇を示し, 老人性骨粗鬆症では有意の低下を示した. 甲状腺機能亢進症 (n=39) のM±SE:17.29±1.56ng/ml(p<0.001), 甲状腺機能低下症 (n=18) のM±SE:12.26±2.30ng/ml, 慢性腎不全 (n=6) のM±SE:31.27±3.12ng/ml (p<0.001), 老人性骨粗鬆症 (n=21) のM±SE:7.32±0.74ng/ml (p<0.01) であった.
    3) 老人性骨粗鬆症においては血中オステオカルシンと血中1.25-(OH)2Dとの間に有意の正相関が認められたが, 一方血中Ca, P. Al-Pase, PTH-CT, 25-OHD, 24,25-(OH)2Dとの間には有意の相関は認められなかった.
  • 椎名 豊, 本間 康彦, 三神 美和, 周 顕徳, 吉川 広, 石原 仁一, 佐藤 美智子, 東野 昌史, 木下 栄治, 田川 隆介, 玉地 ...
    1984 年 21 巻 6 号 p. 573-579
    発行日: 1984/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    健常者6名に, 2日間同一の食事を摂取させ, 2日目に毎食時30grの脂肪 (P/S比1.2) を摂取させ, LCAT活性, 血清総コレステロール (TC), トリグリセライド (TG), 遊離コレステロール (FC), HDLコレステロール, 遊離脂肪酸 (FFA), 血糖 (BS), IRI値を, 空腹時, 朝食後, 1, 3時間, 昼食後2, 4時間, 夕食後2, 4時間の7時点で測定し, 日内変動を検討した. 空腹時LCAT活性は, 第1日目59.8±14.2 (平均±標準偏差) nM/ml/hrで, 第2日目58.4±13.3nM/ml/hrであり, 日内変動は認められず, 脂肪負荷の影響も認められなかった. TG値は昼食後2時間がピークで, その後低下する傾向が認められ, 脂肪負荷で食後上昇した. TC, FC, HDL-C値は日内変動, 脂肪負荷の影響とも認められなかった. FFAは, 空腹時最も高く, 食後低下した. 脂肪負荷で昼食後2時間目以後, 負荷前日の値より高値であった. BSの変化は軽微で, 午後わずかに上昇した. IRI値は午後以後高値で推移し, このことがTGの処理を亢進させ, 血清TG値が, 昼食後2時間をピークに低下することの原因と考えられた. LCAT活性と空腹時のTC (r=0.632, p<0.05), TG (r=0.793, p<0.01), FC (r=0.855, p<0.001), HDL-C (r=0.577, p<0.05), と正相関が認められた. 測定全時点で検討すると, LCAT活性はTC (r=0.403, p<0.001), TG (r=0.508, p<0.001), FC (r=0.415, p<0.001), HDL-C (r=0.503, p<0.001), FFA (r=0.266, p<0.02) と正相関が観察されたが, 空腹時のみの場合よりTG, FCとの相関係数は低下した. 脂肪負荷テストのように大量でしかも脂肪のみ負荷した場合とは異なり, 日常摂取しているような食事ではLCAT活性の日内変動はあっても極く軽微と考えられた.
  • 吉村 正博, 森 秀生, 朝長 正徳, 山之内 博, 葛原 茂樹
    1984 年 21 巻 6 号 p. 580-587
    発行日: 1984/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    痴呆を伴うパーキンソン病 (PD) における cholinergic neuron system の障害を検討する目的で, その Nucleus basalis of Meynert (NbM) の細胞脱落の程度をPD類似疾患と比較検討した. 症例は痴呆のないPD5例, 平均76.4歳, 痴呆を伴うPD5例, 平均78.4歳, 汎発性 Lewy 小体病5例, 平均84.2歳, SDAT5例, 平均76.4歳, 進行性核上麻痺3例, 平均75.0歳, 線条体黒質変性症2例, 平均63.5歳及び正常コントロール群5例, 平均80.3歳の計30症例. 検索方法: 前記症例について中枢神経系各部位の Lewy 小体 (LB), 老人斑 (SP) 及び Alzheimer 神経原線維変化 (ANC) の出現頻度を調べ, 次いで無名質中のNbMのニューロン数を調べた. ニューロン数算出は細胞密度 (CD) 及び総細胞数 (TCC) で示した. 結果: NbMの神経細胞脱落はSDAT, 汎発性 Lewy 小体病 (DLBD) 及び痴呆を伴うPDでコントロール群と比較し有意の差で認められた. 即ち, CDではコントロール群と比較してSDAT及びDLBDで約70%の減少が, 又痴呆を伴うPDで約35%の減少が認められた. 一方, TCCでもSDAT及びDLBDで70%, 痴呆を伴うPDで約40%の減少がみられた. 痴呆のないPD, 進行性核上麻痺, 線条体黒質変性症ではコントロール群と大差なかった. LB及び脳老人性変化の出現状態は, DLBDでは大脳皮質, 基底核, 間脳, 脳幹部で多数のLBが認められ, 同時に高度の脳老人性変化を伴っていた. 痴呆を伴うPDでは, LBは間脳, 脳幹部では多数認めたが, 大脳皮質では散在性であった. 脳老人性変化は中等度に認められた. 痴呆を伴わないPDではLBの分布は脳幹部に限局しており, 脳老人性変化も加齢相応であった. 以上の結果から, 痴呆を伴うPD及びDLBDでは dopamine 作動系及びcholine 作動系両者の system degeneration が想定された.“汎発性 Lewy 小体病”の病理学的位置付けについて考察した.
  • 永井 晴美, 七田 恵子, 芳賀 博, 須山 靖男, 松崎 俊久, 柴田 博, 古谷野 亘, 籏野 脩一
    1984 年 21 巻 6 号 p. 588-592
    発行日: 1984/11/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    血清アルブミンの老化指標としての意義を明らかにする目的で, 地域居住の70歳健康老人を対象とし, 75歳時点の追跡調査から血清アルブミンの加齢変化を観察し, また血清アルブミンが生命予後にどのように関連するかを検討した. 70歳検診受診者は422名であったが, その中70歳, 75歳とも検診し得た者242名を追跡群とし, 75歳時点で生存していたが, 75歳検診には参加しなかった者133名を未受診群とし, 75歳時にはすでに死亡していた者47名を死亡群として以下の成績を得た.
    1) 追跡群と未受診群の間には, 70歳時血清アルブミンの平均値に差はみられなかった. 死亡群と生存群 (追跡群と未受診群の合計) を比較すると, 男女とも死亡群で低く, その差は男0.25g/dl (p<0.01),女0.12g/dl (N.S) であった. 血清アルブミン分布を四分位数で分け, 各分位からの相対死亡比率をみると, 第1四分位範囲 (男4.1g/dl, 女4.2g/dl未満) で201%と高く, 血清アルブミンが高くなるにしたがい, 相対死亡比率は減少し第3, 4四分位範囲では40, 50%であった.
    2) 70歳から75歳にかけて血清アルブミン平均値は, 男4.41g/dlから4.14g/dl, 女4.47g/dlから4.22g/dlへと低下した (p<0.001). 70歳と75歳間は有意な正相関をみとめた (男r=0.44, 女r=0.48, p<0.0001).
    以上の結果より, 血清アルブミンは, 老化指標として有用であることが示された.
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