北海道内の寒冷地農村T町 (996名) と温暖地農村S町 (1,000名) を対象とし, 高血圧およびその合併症に対する寒冷の影響を解析すべく, 長期にわたる経年的な高血圧疫学調査を昭和52年より開始した. 両町における初年度断面調査の結果は以下のごとくであった. (1)夏季, 冬季調査時の受診率は, 各々, T町で99.7%, 99.7%, S町で99.9%, 99.8%であった. (2)夏季収縮期血圧, β-リポ蛋白, 尿素窒素はT町で有意な高値を示し, 冬季の収縮期と拡張期血圧, 並びに, 肥満度, 皮脂厚, 総コレステロール, 総蛋白, 早朝空腹時血糖, 心胸郭比などの値はS町で有意に大であった. (3) WHO分類による高血圧者および境界域高血圧者の頻度は, それぞれ, 夏季には, T町21.3%, 19.9% (計41.2%), S町24.3%, 15.7% (計40.0%), 冬季には, T町20.2%, 21.6% (計41.8%), S町28.1%, 16.6% (計44.7%) で, 高血圧既治療者は夏季, 冬季共S町が多かった. (4)両町共, 高血圧者の頻度は加齢と共に明らかに増加した. (5)血圧値の分布は, 両町で, 夏季, 冬季共収縮期血圧は120~129mmHg, 拡張期血圧は80~89mmHgに最高頻度を示した. (6)T町では, 境界域高血圧以上を示す者の頻度および血圧の平均値は, 夏季, 冬季でほぼ同様であったが, S町でのそれらはいずれも冬季に増加を示し, 両町で血圧の季節変動に差がみられた. (7)肥満度が+20%以上を示す者の頻度は, T町23.5%, S町28.8%であった. (8)T町およびS町で, 各々, 血清総コレステロール値231mg/d
l以上は11.2%, 13.3%, β-リポ蛋白値451mg/d
l以上は27.7%, 19.6%, 中性脂肪値171mg/d
l以上は14.0%, 14.3%, 同70mg/d
l以下は27.4%, 14.9%, 尿素窒素値21mg/d
l以上は13.8%, 8.4%, 尿酸値7.0mg/d
l以上は12.3%, 12.0%の割合にみられた. (9) 50gブドウ糖負荷試験で耐糖能異常を示した者は, T町で45.0%, S町で56.3%を占め, その頻度は加齢と共に増加したが, その多くは境界型を示しており, 加齢, 肥満の影響があるものと思われた. (10)心胸郭比50%以上の者はT町で27.3%, S町で36.6%, 心電図異常を示した者は, 各々, 31.1%, 31.7%であった.
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