交通環境が在宅高齢者の保健行動や社会的活動にどのような影響を及ぼすかを明らかにするために, 公共交通機関が不便な地方都市近郊地域の神奈川県A郡A町を選択し, 在宅高齢者の外出実態および交通環境に対する意識を調査した. 二段無作為確率比例抽出法により, A町の4つの地域の中からH地区を選択し, さらにH地区在住の60歳以上の男女の中から計238名 (1/5抽出) を抽出した. H地区はA町内でも比較的交通の便が悪い. 郵送留置調査法を適用した. 回答者190名 (回収率83.3%, 転居, 死亡, 入院を除く) のうち, 一人で外出可能な166名について分析した結果, 1) 運転免許保有率は男性60歳代90%, 70歳代58%であり, 全国平均に比べて高い. 女性60歳代は20%である, 2) 外出頻度には, 性・年齢・仕事の有無が影響し (性・年齢・仕事の有無に関する三元配置分析による), 友人訪問は女性および無職者が多い. 趣味・町内会・老入クラブへの参加等のための外出は70, 80歳代および無職者が多い, 3) 利用する交通手段は, 男性60歳代は車, 70歳以上はバス, 自転車, 歩行であり, 女性はどの年代もバスと誰かの車に同乗 (以下, 同乗と略す) である, 4) 男女ともに50%以上の人が交通環境に問題を感じているが, 女性の方が問題を感じる人が多い (p=0.04). 問題の内容は性差 (χ
2検定による), 年齢差 (クラスカルウォリス検定による) がある: i) 男性に多い問題は車運転時の不安であり, 女性に多い問題は, 坂, 駅の階段の昇降やバス乗降のつらさや交通手段の不便さに外出のおっくうさである, ii) 男女ともに80歳代は, 同乗や電車・バス利用時に人に助けてもらうことへの気がねが多い, iii) 因子分析 (バリマックス法) の結果をもとに, 各年代の交通環境の身体・心理・経済的な問題を要約すると, 男女ともに60歳代では交通手段の不便さと経済的負担などの公共交通機関の利便性の問題があり, 80歳代では坂・駅の階段昇降, バス乗降におけるつらさおよび同乗や電車・バス利用時に人に助けてもらうことへの気がねなど身体心理的問題がある.
無職化や加齢にともない, 友人訪問や趣味等の外出が増大する一方, 交通環境に対する身体的および心理的問題が増大する. 高齢者の外出実態と交通環境に対する意識の関連を考慮して, 車を運転しやすい環境つくりや気がねなく利用できる交通手段のサポートシステム等が必要と考えられる.
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