目的: 高齢者において骨カルシウム代謝が, 非炎症性の心内石灰化病変である僧帽弁輪石灰化 (MAC) および大動脈弁硬化・石灰化 (AVS) に関与しているか否かを検討した. 方法: 高齢者 (265例, 男性91例, 女性174例, 60歳から96歳, 平均78.3±7.5歳〔Mean±SD〕) を対象として, 断層心エコー図と腰椎コンピューター断層撮影 (CT) 検査を2週間以内に, 血液検査を1カ月以内に施行した. 骨量は腰椎CT検査に骨量ファントム (中外製薬, B-MAS) を用い腰椎(L2, L3, L4) の椎体海綿骨部の骨量 (BMC: mg/m
3) を推定計算した. 原則として, 第3腰椎の骨量をBMC値として求めた. 対象を断層心エコー図により, MACとAVSともにない群 (C群), MAC陽性群 (M群) およびAVSのみ陽性群 (A群) との3群に分類し, 各群におけるBMC値を比較検討した. また, 血液検査は血清Ca・P, 副甲状腺ホルモン (PTH-c), カルチトニン (CLT), ビタミンD (25-(OH)D) およびオステオカルシン (OC) を測定し, 3群間で比較検討した.
結果: BMC値の3群間の比較では, 男性において, 有意な差異はみられなかった. 女性において, BMC値は70・80歳代で, M群がC群に比べ有意に低値であった (70歳代, C群54±36vsM群35±19;p<0.05: 80歳代, C群47±33vsM群21±22mg/cm
3; p<0.01). 一方, BMC値はA群とC群の間では有意な差異がなかった. 70・80歳代での血液検査では, 男女とも, 血清Ca・Pはほとんど正常範囲内で, PTH-cは正常範囲でも低値が多く, CLTは測定感度以下の低値が多く, 25-(OH)Dは正常値以下が多く, OCは女性が高値であった. 血液結果は, 女性での3群間の比較では有意な差異をみなかった.
結語: 高齢女性におけるMACは, 骨カルシウム代謝との関連がより強く, 閉経後骨粗霧症との関連が高いことが示唆された. MACの病態背景には, 閉経後骨粗鬆症と同様に, 副甲状腺ホルモン・カルチトニン・ビタミンDの低値傾向とオステオカルシンの高傾傾向が存在する. しかし, それらの明確な関与は証明されなかった. 一方, AVSと骨代謝との関連は弱かった.
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