脳血管性痴呆の中で, 多発小梗塞や白質の脱髄を主病変とする例 (以下, 多発小梗塞痴呆例36例) の成因について対照例 (37例) および痴呆を有しない限局性脳梗塞例 (32例) と比較しつつ, ヘモグロビン酸素解離能 (P
50) とそれに影響を与える赤血球2,3-DPG (DPG) を検討した.
(1) DPG濃度とHb濃度の間には負の相関がみられた. 多発小梗塞痴呆例では, 対照例とは有意の差は認めなかったが, 限局性脳梗塞例に比べ, DPG濃度が低い例が多く (p<0.05), 特にヘモグロビン濃度低値例ではDPG濃度が上昇しない例が多くみられた. (2) P
50とHb濃度の間には負の相関がみられたが, 多発小梗塞痴呆例では, Hbに対するP
50が低い例が対照例 (p<0.01) および限局性脳梗塞例 (p<0.01) に比べ, 有意に多くみられた. (3) P
50とDPG濃度の間には, 正の相関がみられた. 多発小梗塞痴呆例では, DPG濃度の割にP
50が上昇していない例が対照例と比較して多い傾向にあり, 限局性脳梗塞例 (p<0.05) に比べ有意に多かった.
以上の検討結果より多発小梗塞痴呆例では, 主として, 2,3-DPG低下による酸素解離能 (P
50) 低下がみられ, このような異常は脳微小循環における酸素供給能に影響を及ぼし, 多発小梗塞痴呆の重要な原因のひとつである可能性が示唆された.
抄録全体を表示