日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
42 巻, 6 号
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  • 大澤 俊彦
    2005 年 42 巻 6 号 p. 587-595
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    最近, サプリメントが大きな注目を集めている. また, 世界に先駆けて日本でスタートした「機能性食品」に関する研究の進展の結果,「特定保健用食品」(トクホ)と「栄養機能食品」を併せた「保健機能食品」として厚生労働省により認可され, 現在に至っている. しかし, サプリメントを含めた食品の流通に伴い, 規格基準化と表示の国際的な統一が求められてきている. このような背景で, 特に重要視されているのが, 科学的根拠に基づいた (Evidence-based) サプリメントである. 一方, 老化のメカニズムのなかで, 酸化ストレスの役割は大きい. ヒトをはじめとする好気性生物は,「酸化ストレス」を避けるために「抗酸化防御機構」や「酸化傷害修復系」を備えているが, これらの防御系で完全に防ぎきれるものでなく, 酸化傷害の加齢に伴う蓄積が老化の原因であると考えられている. われわれは, 免疫化学的な検出法の確立に着目して, 過酸化脂質やタンパク質, DNAの酸化傷害に特異的なモノクローナル抗体の作製に成功し, 現在,これらの抗体を用いて「酸化ストレス」の程度を, 簡便かつ微量で定量できる「抗体チップ」の開発を行い, 培養細胞から個体レベル, ヒトを対象とした臨床レベルで適用することで, アンチエイジングの評価系の確立を目的に研究を進めている. このような背景で, われわれは,「ポリフェノール」による「酸化ストレス制御」に焦点をあてて研究を進めてきた. なかでも, ハーブや香辛料, 特に, インド料理に不可欠な香辛料, ターメリックの黄色色素,「クルクミン」に焦点をあてて研究を進めてきた. その結果, クルクミンを摂取するとまず腸上皮細胞で還元され, 強力な抗酸化性を持つテトラヒドロクルクミンに変換されたのちに脂質ラジカルを捕捉することで, 老化制御に重要な役割を果たすことを明らかにした. そこで, 老化予防作用について世界的な注目を集めているぶどう種子中に多く存在する「リスベラトロール」の最近の研究動向も併せて, 抗酸化ポリフェノール類の持つ酸化ストレス制御機構と老化予防機能についての最新の話題を紹介してみたい.
  • 疫学, 費用と介入法別費用・効用分析
    原田 敦, 松井 康素, 竹村 真里枝, 伊藤 全哉, 若尾 典充, 太田 壽城
    2005 年 42 巻 6 号 p. 596-608
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    老年病の需要増加に対する有限の医療・介護資源をいかに合理的に活用するかが問われている. 本稿では, 骨粗鬆症・骨折の疫学と費用を述べ, 次いで費用対効果の研究を介入法別に総説した. 骨粗鬆症性骨折による生命予後及び機能予後の悪化, 並びにQOL低下の存在は多くの研究から明らかで, 骨粗鬆症治療の効果はQOLを考慮した質調整生存年 (QALY) によって測定され, 費用・効用分析にて解析されるべきである. 従って, その費用対効果は, 単なる得られた生存年ではなく, 獲得されたQALY当たりの費用で評価されるのが適正で, QALYも得られ, 費用も節減が最も望ましいが, 妥当な費用閾値を越えなければ費用対効果は良好とされる.
    骨粗鬆症・骨折における治療の費用対効果は, 対象の有する骨粗鬆症性骨折リスクと介入法の効果及び費用に依存しており, 特に骨折リスクとしての年齢と介入費用の影響が強かった. 高価な治療であっても高齢であれば, 平均骨折リスクの女性では合理的費用対効果が認められ, 安価で効果のある治療なら, 閉経直後の正常女性でも合理的費用対効果が得られる. さらに介入効果として薬剤中止後の効果残存にも費用対効果は大きく左右され, 効果残存のない薬剤では, 最も安価でかつ最大の効果のある場合以外は, 費用対効果を得るのは困難とする報告もあった.
    介入法ごとの費用対効果を現時点の文献をもとに検討すると, HRTに関しては, 有益作用を有害作用が上回った最近の報告を元にした検討はまだ発表されていない. アレンドロネートは既存脊椎骨折のある高齢骨粗鬆症女性で十分な費用対効果が認められ, 効果は対象が高齢の方が優れており, 既存脊椎骨折を有する方が脊椎骨折のない場合より優れていた. リセドロネートも65歳以上の骨粗鬆症女性では既存骨折にかかわらず, 良好な費用対効果を示し, 既存骨折があれば70歳以上ですべて費用節減に至った. カルシウムとビタミンD併用は大腿骨頸部骨折リスクを減少し, 高齢女性で費用節減に到達した. ラロキシフェンは乳癌抑制作用も合わせると, 既存骨折の有無にかかわらず, 骨粗鬆症女性における費用対効果はどの年代でも良好であった. ヒッププロテクターは, 高齢者においては男女とも費用節減で, 特に高齢女性では大きい費用節減とQALY獲得が予測された.
    このように骨折リスクの高い高齢者にも費用対効果が十分期待できる介入法がいくつかあり, それらによる積極的な治療は医療経済的にも大いに有意義であると考えられる.
  • 黒柳 能光
    2005 年 42 巻 6 号 p. 609-615
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    組織工学のキーワードは,「細胞」・「生体材料」・「細胞成長因子」である. 厚生労働科学再生医療ミレニアムプロジェクトとして多施設臨床研究に使用された同種培養真皮は, 線維芽細胞を生体材料からなる足場に播種したものであり, 線維芽細胞から種々の細胞成長因子が産生される設計である. まさに, 3つのキーワードを巧みに組み合わせた組織工学製品の代表例である. 米国で企業化された同種培養真皮の1つは, 生体内吸収性の合成高分子を足場とした製品である. 生体内吸収性の縫合糸として使用されているグリコール酸と乳酸のコポリマーを足場として使用している. 組織工学で使用される「足場」は, 細胞の担体であり分解されて害のない材料であれば良いというコンセプトである. しかしながら, 生体内で吸収されて害がないという特性のみでは不十分である. より優れた「足場」は, 材料自身が創傷治癒を促進するものでなければならない. その意味で, 創傷治癒過程において重要な働きをするビアルロン酸とコラーゲンは, 優れた「足場」の設計には必須材料である.
    最近, 遺伝子工学の手法を応用して幾つかの細胞成長因子が市販されるようになった. bFGFを創傷面に局所投与する治療法が普及しはじめた. しかしながら, 創傷治癒は, 1種類の細胞成長因子の局所投与では, 十分な効果は期待できない. 創傷面は複数の細胞成長因子を必要としている. 線維芽細胞をマトリックスに組み込んだ同種培養真皮は, 創傷面の治癒過程に合せて必要とされる複数の細胞成長因子を産生して放出することが可能である. もちろん, 他人由来の線維芽細胞は, 免疫学的に拒絶される. しかしながら, 線維芽細胞の拒絶反応は低いため直ぐには拒絶されない. それゆえ, 拒絶されるまでの期間に複数の細胞成長因子を産生して創傷面の治癒を促進することが可能である. このことが同種培養真皮の最大のメリットである.
  • 性差に着目した老年医学の重要性と今後の展望
    大内 尉義
    2005 年 42 巻 6 号 p. 616-623
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 辻 一郎
    2005 年 42 巻 6 号 p. 624-626
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 横手 幸太郎
    2005 年 42 巻 6 号 p. 627-629
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 野出 孝一
    2005 年 42 巻 6 号 p. 630-632
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    心筋細胞にもエストロゲン受容体, 両方が局在し, 女性ホルモンであるエストロゲンが心筋の肥大・炎症に抑制効果を有することが明らかになった. 臨床例でも, 高齢女性が高血圧による心肥大・心不全を合併しやすいことや, ホルモン補充療法が心肥大を抑制することが報告されている. エストロゲンが心筋細胞肥大を抑制するメカニズムとしては, ERK・AP-1活性化の抑制作用やカルシニューリン・NFAT3の活性化抑制作用, さらにその上流にあるGqに対する直接作用がわかってきた. 本稿では, エストロゲンの心筋細胞について自験例も含めて概説する.
  • 柳瀬 敏彦, 范 呉強, 名和田 新
    2005 年 42 巻 6 号 p. 633-635
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    加齢に伴うテストステロン (T) の低下は, 男性の内臓脂肪型肥満の増加に伴うメタボリックシンドロームの発症に関連している可能性がある. 我々はアンドロゲン受容体ノックアウト (ARKO) マウスではオス特異的に肥満をきたし, その成因として, エネルギー消費の低下と脂肪分解系酵素の低下が関与することを明らかにした. また, 同マウスは肥満にもかかわらず, 個体としてのインスリン感受性は正常に保たれていたが, その原因として血中 adiponectin の上昇の関与が示唆された. 内因性T-AR作用系は抗肥満に作用するものの, インスリン感受性は増悪させると考えられ, エストロゲンとは明らかに異なる脂肪代謝作用を有する.
  • 関 成人
    2005 年 42 巻 6 号 p. 636-638
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 高林 克日己
    2005 年 42 巻 6 号 p. 639-641
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    膠原病疾患の多くは女性に多いが, この性差は加齢により減少していく. 今回の調査ではSLEでは減少するのに対してシェーグレン症候群では全年齢層を通じて女性に多かった. また糖尿病, 高脂血症はともに動脈硬化を進める重要な合併症であるが糖尿病は45歳以上で急増するのに対して, 高脂血症は45~54歳をピークにして全年齢層で高く, 75歳以上ではむしろ22%と低値であった. 関節リウマチに対する治療がより積極的になる中で, 高齢者に対してはその合併症の頻度が高いことから十分に留意した治療が望まれる.
  • 細井 孝之
    2005 年 42 巻 6 号 p. 642-644
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 太田 壽城, 原田 敦, 鷲見 幸彦, 奥泉 宏康, 新畑 豊
    2005 年 42 巻 6 号 p. 645-647
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 高齢者の特徴と治療
    土居 義典
    2005 年 42 巻 6 号 p. 648-650
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 岩坪 威
    2005 年 42 巻 6 号 p. 651-654
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 中島 淳
    2005 年 42 巻 6 号 p. 655-658
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 神崎 恒一
    2005 年 42 巻 6 号 p. 659-661
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    Vascular calcification, such as coronary and aortic calcification, is a significant feature of vascular pathology. Two distinct forms of vascular calcification are well recognized. One is medial calcification, which occurs between the cell layers of smooth muscle cells, and is related to aging, diabetes and chronic renal failure. The other is atherosclerotic calcification, which occurs in the intima during the development of atheromatous disease. It has been shown that statins inhibit the progression of calcification in the aortic valve and the coronary artery. We have found that statins inhibit calcification of human aortic smooth muscle cells, which is induced by incubating the cells in high-phosphate medium. We also found that this is mediated by inhibiting cellular apoptosis, an essential mechanism for calcification, not by inhibiting inorganic phosphate (Pi) uptake by sodium-dependent phosphate cotransporter (NPC). Besides apoptosis and Pi uptake, such proteins as osteoprotegerin (OPG), matrix Gla protein (MGP), Klotho, fetuin-A, and apoE have been shown to negatively affect vascular calcification. Many previous reports suggest that vascular calcification appears to be regulated by promoting factors, such as Pi, apoptosis, modified LDL, advanced glycation end products, oxidative stress, vitaminD3, glucocorticoid, cbfa-1, osteopontin, and inhibitory factors, such as OPG, MGP, Klotho, fetuin-A, PTH/PTHrP, pyrophosphate, statins, and bisphosphonates. The precise mechanism of vascular calcification is of interest.
  • 中川 基哉
    2005 年 42 巻 6 号 p. 662-663
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 長寿遺伝子同定の戦略
    広瀬 信義, 小島 俊男, 権藤 恭之, 新井 康通
    2005 年 42 巻 6 号 p. 664-665
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 木村 理
    2005 年 42 巻 6 号 p. 666-668
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
  • 藤田 久美子, 川越 雅弘, 江藤 文夫
    2005 年 42 巻 6 号 p. 669-676
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    目的】本研究では, 65歳以上の要介護認定者12,140人について, 生年月日や見当識などの基本的な認知機能の時間的な変化, および認知機能と日常生活動作 (以下ADLと略す) との関係を明らかにした.【方法】島根県における2000~2002年の要介護認定調査結果を匿名化した時系列データベースを作成し, 調査項目のうち認知機能に関する「日課」「生年月日や年齢」「直前記憶」「自分の名前」「季節」「場所」の理解の6項目について, 正答率と時間的な変化, および6項目の「理解の有無」とADLとの関係を比較した.【結果】認知機能に関する6項目の正答率は,「自分の名前」が最も高く全認定者の90%が正解した. 次いで「生年月日や年齢」「場所」「季節」「日課」「直前記憶」の順であり「日課」「直前記憶」では60%であった. 2000年に各項目が「できた」人のうち, 2年後も「できた」のは60~70%であったが, 2000年の正答率が高い項目ほど2年後も維持されやすい傾向にあった. また麻痺や拘縮がなく自立歩行ができる場合でも, 6項目の理解度によって「更衣」「清潔」「薬の内服」などの自立度に相違がみられた (p<0.001).【結論】記銘・保持・再生という古典的記憶モデルに基づくと,「日課」「直前記憶」は刻々と変化する内容の記銘・保持・再生, 全てを要するのに対し,「名前」「生年月日」は幼少期に記銘・保持され再生が繰り返されるため正答率が高く, また低下もしにくいと考えられる. 一方「場所」「季節」は「名前」「生年月日」ほど固定したものではないが, ある程度の期間一定しているため, 記銘・保持・再生サイクルが「日課」「直前記憶」よりは多くはたらき定着しやすいと考えられる.
  • 岩佐 一, 河合 千恵子, 権藤 恭之, 稲垣 宏樹, 鈴木 隆雄
    2005 年 42 巻 6 号 p. 677-683
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    目的】本研究は, 都市部在宅中高年者を対象として, 7年間の観察期間中における主観的幸福感と生命予後の関連について性別に検討することを目的とした.【方法】10年間にわたる長期縦断研究 (TMIG-LISA心理班) 参加コホートのうち, 2,447名 (男性1,034名, 女性1,413名) を分析対象とした. 1993年から2000年まで7年間の観察期間中における生存時間 (単位: 年) を算出し生命予後の指標とした. 主観的幸福感 (PGCモラール総得点), 年齢, 教育年数, 一年間の入院有無, 治療中の生活習慣病有無, 同居者有無を1993年時点で測定・聴取した.【結果】2000年時点における生存状況の確認を行ったところ, 生存2,006名, 死亡183名, 中途脱落258名であった. 主観的幸福感の平均値は, 男性12.3±3.2点, 女性11.9±3.5点であった. 年齢, 教育年数, 一年間の入院有無, 治療中の生活習慣病有無, 同居者有無を調整した共分散分析を行ったところ, 性差は有意でなかった. 主観的幸福感の関連要因について主観的幸福感を目的変数とする重回帰分析により性別に検討したところ, 男女ともに教育年数, 治療中の生活習慣病有無, 一年間の入院有無, 同居者有無において有意な関連が認められ, さらに男性において年齢で有意な関連が認められた. 主観的幸福感と生命予後の関連について, 年齢, 教育年数, 一年間の入院有無, 治療中の生活習慣病有無同居者有無を調整した Cox 比例ハザードモデルにより性別に検討したところ, 男女ともに, 主観的幸福感と生命予後に有意な関連が認められ, 主観的幸福感が低いほど生命予後が不良であった.【結論】中高年期において, 主観的幸福感は生命予後の予測因子として有効であることが示唆された.
  • 断面調査による検討
    渡邉 健太郎, 鈴木 達也, 中野 博司, 大庭 建三
    2005 年 42 巻 6 号 p. 684-690
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    目的】頸動脈超音波検査で得られる指標が脳梗塞の発症予測因子となる報告は多い. 今回我々は断面調査にて生活習慣病を有するハイリスク高齢者におけるアテローム血栓性脳梗塞およびラクナ梗塞と頸動脈超音波所見との関連性を検討した.【方法】対象は高血圧症, 糖尿病および高脂血症のいずれかで加療され頸動脈超音波検査を受けた65歳以上の男女314例である. 対照群, アテローム血栓性脳梗塞群およびラクナ梗塞群の3群に分類し背景因子 (生化学検査, Body Mass Index, 血圧, 喫煙歴, 高血圧症, 糖尿病, スタチン服用) および頸動脈超音波指標の内膜中膜複合体厚 (intima-media thickness) 最大値 (Max-IMT), プラークスコア (PLQ-S), pulsatility index 最大値 (Max-PI) の差を検討した.【結果】アテローム血栓性脳梗塞の頸動脈超音波指標では対照群に比しPLQ-Sおよび Max-PI は有意に高値, PLQ-S 10mm以上および Max-PI 2.0以上の頻度は有意に高率であったが, Max-IMT は差が無かった. ラクナ梗塞群のこれらの指標はいずれも対照群と差が無かった. 多重ロジスティック回帰分析ではアテローム血栓性脳梗塞とPLQ-S 10mm以上 (オッズ比2.980; P=0.011) およびMax-PI 2.0以上 (オッズ比2.458; P=0.038) が有意な相関を示した. ラクナ梗塞とは有意の相関を認めた指標は無かった.【結論】ハイリスク高齢者の頸動脈超音波所見において, PLQ-SとPIはアテローム血栓性脳梗塞と有意の関連性を示した. しかし, IMTとアテローム血栓性脳梗塞およびこれらいずれの頸動脈超音波指標とラクナ梗塞との間には有意の関連性を認めなかった.
  • 谷本 芳美
    2005 年 42 巻 6 号 p. 691-697
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    目的 本研究は, bioelectrical impedance analysis (BIA法) により評価した筋肉量が地域在住高齢者の健康状態を反映する指標であるか検討することを目的とした. 方法 大都市近郊に在住し老人福祉センターを利用している高齢者394人 (男性110人, 女性284人) を対象とし, 四肢および全身筋肉量の特徴を性, 年齢別に記述し, 筋肉量と通常歩行速度, 手段的ADLの実効感, 食や運動などの生活習慣との関連を解析した. 結果 男女ともに, 四肢および全身筋肉量は, 年齢と有意な負の相関を認め, どの年齢群でも男性は女性より有意に高値を示した. また, 男女ともに, 四肢および全身筋肉量は通常歩行速度との間に有意な正の相関を観察した. 男性において四肢および全身筋肉量は手段的ADLの実効感の高い者に高値を示したが, 女性では有意な差を認めなかった. 男性で, 四肢筋肉量は食品摂取の多様性のある者や, 定期的な運動習慣や軽い体操を毎日している者に高値を示した. 全身筋肉量は, 男性で定期的な運動習慣のある者に高値を示したが, 食品摂取の多様性や軽い体操による有意な差を認めなかった. 女性では四肢および全身筋肉量ともに食品摂取の多様性や運動習慣による有意な差を認めなかった. 通常歩行速度は, 男女ともに定期的な運動習慣のある者や男性で軽い体操を毎日している者に高値を示したが, 食品摂取の多様性との関連は明らかでなかった. 結論 以上の結果よりBIA法により測定された四肢および全身筋肉量は男女とも加齢とともに減少し, 通常歩行速度と関連していた. さらに男性において, 手段的ADLの実効感, 食や運動などの生活習慣との関連が認められ, 筋肉量は高齢期の健康状態を反映する指標として有用であることが示唆された.
  • 蟹江 治郎, 赤津 裕康, 鈴木 裕介
    2005 年 42 巻 6 号 p. 698-701
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は53歳男性. 脊髄小脳変性症による寝たきり状態で, 胃瘻による経管栄養管理を受け在宅診療を行っていた. 胃瘻チューブは, かかりつけ医により在宅で定期的に交換がされていたが, 定期交換時にチューブが腹腔内に誤って挿入されたため当院へ来院した. 当院来院後は緊急内視鏡を行い, 生検鉗子を誤挿入により穿破した瘻孔を経由して体外へ誘導し, その生検鉗子で胃瘻造設用のループワイヤーを把持して内視鏡を抜去し, Pull 式胃瘻造設法に準じて胃瘻造設用チューブを経口的に挿入し留置を行った. この手技により瘻孔穿孔部は胃瘻チューブにより被覆され, 胃瘻チューブによる胃内減圧も行えるため, 胃内容物の腹腔への流出を回避して汎発性腹膜炎の発生を防止し得た. 本例はこの処置により診療所間の連携により入院治療を行うことなく在宅診療の継続が可能であった.
  • 瓦林 毅, 松原 悦朗, 永野 功, 東海林 幹夫, 阿部 康二
    2005 年 42 巻 6 号 p. 702-707
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    症例は65歳, 女性. 2001年より進行する言語障害のため2003年5月当科入院. 発語は努力性で, 意図的に発語しようとすると音の歪みが目立った. 障害は一貫性に欠け, 時には正常に発語することができた. 仮名・漢字の錯書がみられ, ごく軽度の了解障害を認めた. 明らかな字性錯語はみられず, 復唱自体は保たれていた. 計算障害を認めたが, 失行や失認は認められなかった, 他の神経学的症状にも著変は認められなかった. MRIでは左前頭葉に強い萎縮と頭頂葉の萎縮を認めた. 99mTc-ECD SPECTでは左に強い両側前頭葉, 特に Broca 野とその上部, 補足運動野で血流低下を認め, 血流低下は左言語領域を超えて頭頂葉にも認められた. 2年以上に渡って進行する失語が主体で, その他の知的機能はよく保たれ日常生活は自立していることより primary progressive aphasia (PPA) と診断された. 2003年12月の標準高次動作性試験で facial apraxia が認められ, 2004年5月には limb apraxia が出現すると共に四肢の rigidity や痴呆も出現し, corticobasal degeneration (CBD) の臨床像を呈した. 12月に施行したSPECTでは前回と同じ部位で血流低下が著明に進行していた. 本例では, 臨床的にCBDへ移行する以前から頭頂葉の血流低下が認められ, SPECT所見が進行の予測に有用であった.
  • 机上検査で所見が消失した患者の経過を中心に
    森田 秋子, 小林 修二, 濱中 康治, 三吉 佐和子, 飯島 節
    2005 年 42 巻 6 号 p. 708-711
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
    脳血管障害発症後早期に半側空間無視 (unilateral spatial neglect 以下USN) を呈し, その後机上検査および行動観察において所見が認められなくなった患者の長期経過を追った. 症例1は61歳男性, 3年前の右被殻出血後に左USNが出現したが, その後机上検査および行動観察にてUSNは出現しなくなり自宅へ退院した. しかし, 百人一首遊びあるいは電動車椅子操作などのストレスのかかる場面で, 左USNが再び出現した. 症例2は62歳男性, 初回の右被殻出血後に左USNが出現したが, 退院時には机上検査, 行動所見ともに所見は認められなかった. 6年後あらたに右片麻痺をきたし, 大脳左半球の脳梗塞が疑われた. 再発作直後は両方向への注意低下を認めたが, 徐々に左USNが明らかに認められるようになった. 症例3は70歳男性, 64歳時に右被殻梗塞発症後早期に左USNが出現したが, その後机上検査でも行動所見でも認められなくなり自宅退院した. 6年後ADLと知的レベルの全般的な低下を来たし, 検査の結果左USNが再び検出された.
    3例では, 発症早期に机上検査と行動所見において明らかな左USNが認められたが, その後所見は出現しなくなった. しかし, 新規課題あるいは難易度の高い課題, 疲労時, 反対側に出現した脳梗塞などによりUSNが再び出現した.
    USNは, USNそのものの重症度, 患者の課題遂行能力および環境要因, の3つの要素の相対的な関係において出現様式が規定されるものと考えられた. 一度は検出できなくなったUSNが, 全般的注意機能の低下や環境変化などにともなって再び出現する場合があることは, 高齢者においてとくに注意すべきである.
  • 第41回日本老年医学会関東甲信越地方会
    2005 年 42 巻 6 号 p. 712-719
    発行日: 2005/11/25
    公開日: 2011/03/02
    ジャーナル フリー
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