日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
52 巻, 3 号
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目次
エッセイ
原著
  • 森崎 直子, 三浦 宏子, 原 修一
    2015 年 52 巻 3 号 p. 233-242
    発行日: 2015/07/25
    公開日: 2015/08/13
    ジャーナル フリー
    目的:本研究は,在宅要支援および要介護高齢者の包括的栄養状態の現状を明らかにし,口腔機能との関連性を分析することを目的とした.方法:在宅要支援および要介護高齢者218名を対象に調査を行い,年齢,性別,要介護度,包括的栄養状態,口腔機能(嚥下機能,舌圧,口唇閉鎖力)のデータを得た.包括的栄養状態の評価には簡易栄養状態評価表(MNA-SF)を用い,嚥下機能の評価には地域高齢者誤嚥リスク評価指標(DRACE)を用いた.舌圧はJMS舌圧測定器を用い,口唇閉鎖力はリップデカムを用いて測定した.栄養状態と口腔機能との関連性はPearsonの相関係数およびステップワイズ重回帰分析を用いて解析した.結果:MNA-SFの平均ポイントは10.07±2.58であった.一方,DRACEの平均スコアは4.39±3.80,舌圧平均値は23.89±10.61 kPa,口唇閉鎖力の平均値は10.17±6.04 Nであった.Pearsonの相関係数では,MNA-SFはDRACE,舌圧,口唇閉鎖力と弱い相関関係を示した.加えて,交絡要因の調整のためにステップワイズ重回帰分析を行ったが,MNA-SFはDRACEと口唇閉鎖力と特に有意な関連性を示し,決定係数は0.20(p<0.01)であった.結論:在宅要支援および要介護高齢者の包括的栄養状態は嚥下機能や口唇閉鎖力と有意に関連していた.
  • 宇良 千秋, 宮前 史子, 佐久間 尚子, 新川 祐利, 稲垣 宏樹, 伊集院 睦雄, 井藤 佳恵, 岡村 毅, 杉山 美香, 粟田 主一
    2015 年 52 巻 3 号 p. 243-253
    発行日: 2015/07/25
    公開日: 2015/08/13
    ジャーナル フリー
    目的:本研究の目的は,地域に暮らす高齢者が自分自身で認知機能や生活機能の低下に気づき,必要なサービス利用につながるようにするための自記式認知症チェックリストの尺度項目案を作成し,因子的妥当性と内的信頼性を検証することにある.方法:認知症の臨床に精通した専門家パネルが37の候補項目で構成される質問票を作成し,65歳以上の地域在住高齢者2,483名を対象に自記式アンケート調査を実施した.探索的因子分析と項目反応理論(IRT)分析を用いて,チェックリストの尺度項目案を作成した(研究1).研究1で作成した尺度項目案を用いて,地域在住高齢者5,199名を対象に自記式アンケート調査を実施した.再び探索的因子分析を行い,10項目の尺度項目案を作成した上で確証的因子分析を行い,信頼性係数を算出した.結果:37の候補項目の探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転)を行った結果,5因子が抽出された.因子負荷量0.4以上の項目の内容から,第1因子は「認知症初期に認められる自覚的生活機能低下」,第2因子は「認知症初期に認められる自覚的認知機能低下」と命名した.因子負荷量が大きく,かつIRT分析の傾きの指標が高い項目を10項目ずつ選び,合計20項目からなる尺度項目案を作成した(研究1).20項目の探索的因子分析の結果から,第1因子に強く関連する5項目,第2因子に強く関連する5項目を選出し,10項目の尺度項目案を作成した.この10項目で確証的因子分析を行ったところ,2因子構造であることが確認された(χ2=355.47,df=31,p<0.001,CFI=0.989,GFI=0.985,AGFI=0.973,RMSEA=0.048).第1因子および第2因子に関連する下位尺度のCronbach αはそれぞれ0.935,0.834であり,全項目のCronbach αは0.908であった.結論:2因子構造10項目の自記式認知症チェックリスト尺度項目案を作成し,因子的妥当性と内的信頼性を確認した.
  • 杉本 充, 高木 忠之, 大平 弘正
    2015 年 52 巻 3 号 p. 254-259
    発行日: 2015/07/25
    公開日: 2015/08/13
    ジャーナル フリー
    目的:高齢者の比率は年々上昇傾向にある.総胆管結石は高齢になるとともに罹患率が上昇するといわれており,今後治療を要する機会が増加すると考えられる.そこで80歳以上の高齢者に対する内視鏡的総胆管切石術の有用性と安全性を検討した.方法:2012年1月から2013年12月までの間に当院で初回の内視鏡的総胆管切石術を試みた症例のうち80歳以上(20例)と,79歳以下(50例)の2群間で後ろ向きに比較検討した.患者背景として,抗血栓薬内服の有無,腹部手術歴の有無,Performance Status(PS),結石短径,結石個数を,治療手技として,内視鏡的乳頭括約筋切開術,内視鏡的乳頭バルーン拡張術,内視鏡的乳頭大バルーン拡張術の有無を,治療成績として,手技時間,完全切石率,手技完遂率(完全切石,もしくは胆管ステント留置),偶発症の有無を検討した.結果:抗血栓薬内服の有無,腹部手術歴の有無,結石個数,治療手技には両群間で有意差を認めなかった.80歳以上でPSは有意に低下し,結石短径は有意に大きかったものの,治療成績として検討した手技時間,完全切石率,手技完遂率,偶発症には両群に有意差を認めなかった.結論:80歳以上の総胆管結石症例において,内視鏡的総胆管切石術は有効かつ安全な治療と考えられた.
  • 宮城島 慶, 松井 敏史, 小原 聡将, 三ツ間 小百合, 田中 政道, 輪千 督高, 小林 義雄, 長谷川 浩, 神﨑 恒一
    2015 年 52 巻 3 号 p. 260-268
    発行日: 2015/07/25
    公開日: 2015/08/13
    ジャーナル フリー
    目的:2011年に提唱された医療・介護関連肺炎(NHCAP)ガイドラインに従い高齢者肺炎の治療を行い,入院前後の介護度悪化にかかる予後規定因子を検討した.方法:2012年4月から2013年3月にかけて杏林大学付属病院高齢診療科で肺炎の治療を行った112名(平均年齢:86.8±5.5歳,男/女:72/40名)を対象に,退院後にNHCAPガイドラインに従い,市中肺炎(CAP)(29名)とNHCAP(83名)に,NHCAPは更に耐B群(耐性菌リスク無)とC群(有)に分類した.介護度は入院前後にJABCスコアで判定し,肺炎治療後2段階以上のADL低下または死亡を転帰悪化とし,各肺炎群の臨床的特徴と,転帰について評価を行った.結果:NHCAP患者の入院日数はCAP患者に比べて長く(CAP vs. NHCAP:21日vs. 33日,p=0.02 by Mann-Whitney U test),肺炎重症度であるADROPスコアが高値で(CAP vs. NHCAP群:2.45±0.87 vs. 2.88±0.80点,p=0.02),誤嚥を有する頻度が高かった(42.9% vs. 89.2%,p<0.0001).一方,B,C群間ではこれらの項目の程度は同等であった.また各肺炎群における死亡例の頻度に差はなかった.いずれの肺炎群でも入院前後で全体のJABCスケールは悪化し(CAP群,p=0.002;NHCAP-B群,p<0.0001;NHCAP-C群,p=0.01,Wilcoxon順位検定),特にNHCAP-B群では,全体で1ランク低下していた.死亡例を含む2ランク以上の介護度悪化者はCAP群37.9%に対し,NHCAP群は43.8%であった.年齢,性別,入院時JABCスコアで補正したロジスティック回帰分析を行ったところ,NHCAP(CAPに対し相対危険度6.2,95%CI 1.2~32.2,p=0.03),血清アルブミン2.5 g/dl未満(7.8,95%CI 1.7~35.7,p<0.01)が介護度悪化に関与した.一方ADROPスコアや誤嚥の有無は入院による介護度悪化に関与しなかった.結論:NHCAP自体が,栄養状態を反映する血清アルブミン低値とともに,入院による介護度悪化の危険因子であった.NHCAP症例は入院治療で肺炎が軽快しても介護度が悪化する可能性が高く,そのような予後予測を念頭に置いて診療を行う必要がある.
  • 谷口 優, 清野 諭, 藤原 佳典, 野藤 悠, 西 真理子, 村山 洋史, 天野 秀紀, 松尾 恵理, 新開 省二
    2015 年 52 巻 3 号 p. 269-277
    発行日: 2015/07/25
    公開日: 2015/08/13
    ジャーナル フリー
    目的:本研究では,1.身体機能,骨格筋量,及び身体機能と骨格筋量に基づくサルコペニアと認知機能との横断的な関連 2.身体機能,骨格筋量,及びサルコペニアと認知機能低下との縦断的な関連をそれぞれ明らかにすることを目的とした.方法:群馬県草津町在住の65歳以上を対象とした介護予防健診データをもとに,ベースライン調査(2008年から2011年)が完了した805名を横断的解析対象者とし,その後2012年までに再度認知機能検査が完了した649名を縦断的解析対象者とした.身体機能は,握力及び通常歩行速度から身体機能得点を算出した.認知機能はMini-Mental State Examination(MMSE)により評価し,追跡期間中の年平均変化量0.5点以上の低下を認知機能低下(CD)有りと定義した.結果:身体機能,骨格筋量及びサルコペニアと認知機能との間にそれぞれ有意な横断的な関連性がみられた.縦断的解析では,平均追跡期間3.0±1.1年に201名(31.0%)のCDがみられた.重要な交絡要因を調整したロジスティック回帰分析を行った結果,CD有りに対する身体機能[OR=0.75(95%信頼区間0.65~0.87)]に有意な関連性がみられたが,骨格筋量には有意な関連性はみられなかった.AWGS(Asia Working Group for Sarcopenia)基準による身体機能と骨格筋量の組み合わせにより分類した低身体機能かつ骨格筋量正常群は,身体機能と骨格筋量いずれも正常群に比べてCD発生リスクが有意に高かった[OR=2.10(1.18~3.38)].一方,低身体機能かつ低骨格筋量群(サルコペニア)ではCD発生に対する差の傾向がみられた[OR=1.57(0.93~2.63)].結論:地域在宅高齢者の身体機能,骨格筋量及びサルコペニアは,それぞれ認知機能の関連要因であった.高齢期の身体機能は,CDに対して社会医学的要因とは独立した予測因子であり,骨格筋量が正常であっても低身体機能の高齢者は将来認知機能が低下するリスクが高いことが示唆された.
症例報告
  • 鈴木 宏清, 吉田 和史, 寺本 信嗣
    2015 年 52 巻 3 号 p. 278-284
    発行日: 2015/07/25
    公開日: 2015/08/13
    ジャーナル フリー
    閉塞性肺疾患(COPD)と気管支喘息は異なった疾患であるが,その合併病態が知られており,喘息及びCOPDの国際ガイドライン委員会が共同でAsthma-COPD overlap syndrome(ACOS)という新しい概念を提唱した.今回我々は,再喫煙を契機に呼吸不全を生じ,急性好酸球性肺炎(AEP)と鑑別を要した高齢者ACOS症例と考えられる症例を経験したので報告する.症例は,77歳,男性.主訴は,呼吸困難.慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断で通院中で,フルチカゾン・サルメテロール配合剤吸入にて,症状は安定していた.一時期,禁煙していたが,救急外来受診1カ月前より再度喫煙を開始していた.201X年○月22日に呼吸困難が生じ外来を受診した.血液ガス分析を含め,明らかな異常を認めず帰院した.その1週間後,呼吸困難が悪化し再度,救急外来を受診した.安静時肺機能検査で一秒量(FEV1)0.76 L(%FEV1 26.1%),動脈血液ガス分析は空気呼吸下でpH 7.42,PaCO2 41.3,PaO2 51.9,HCO3- 25.9であった.胸部CTにて広範な肺気腫性病変と小葉間隔壁の肥厚を認めた.末梢血白血球数の増加(13,200/μL),好酸球比率の著明な上昇(61.5%)を認めた.急性の好酸球性炎症の合併を考慮して,同日より酸素投与下にステロイドパルス療法を実施し,4日目には,自覚症状,ガス交換障害の改善を確認し,酸素投与を中止した.その後,ステロイドの後療法を継続し,画像所見,血液ガス所見も改善した.ステロイドパルス療法施行後7日目に施行した,気管支鏡検査では,気管支粘膜に軽度のリンパ球浸潤を認めるのみであったが,肺胞洗浄液の分析では総細胞数の増加と,4%の好酸球を認めた.胸部CT検査の画像所見では肺気腫性病変が明らかであり,固定性の気流閉塞障害もあり,COPDとして矛盾しないが,再喫煙を契機にした急速な末梢血好酸球上昇と急性呼吸不全状態は,通常のCOPD急性増悪よりは重篤であり,AEPとの鑑別を要した.しかし,病理所見はAEPに一致せず,血管炎を示す所見もなかった.その後は,気管支拡張薬による治療を中心にして治療を継続し,ステロイドの減量を試みたが,減量すると症状が悪化し,末梢血好酸球数も増加した.ステロイドを2週間中止して再度気管支鏡下生検を行ったが,好酸球の組織浸潤はみられなかった.以上より,好酸球性肺炎とは診断できず,喘息様の気道炎症を合併した高齢者ACOS症例と考えられた.ACOSは,喘息患者の高齢化,喫煙喘息患者の高齢化などにより増加することが推定されており,今後は高齢気流閉塞性疾患患者の診断,治療の際に考慮すべき病態と考えられる.
  • 羽生 直史, 青田 泰雄, 後藤 明彦, 櫻井 道雄
    2015 年 52 巻 3 号 p. 285-290
    発行日: 2015/07/25
    公開日: 2015/08/13
    ジャーナル フリー
    後天性血友病は凝固第VIII因子に対する自己抗体による出血傾向を認める比較的稀な疾患である.基礎疾患として,自己免疫疾患や腫瘍性疾患などを認めることが報告され,高齢者に比較的多い.英国での発症頻度は年間100万人あたり1.48人と報告されており,原因不明の出血をみたら,疑うべき疾患の1つである.症例は84歳の女性.皮下出血とHb低下のため近医より紹介受診した.著明な貧血とAPTT延長を認め濃厚赤血球輸血にて対応したが,出血が持続した.凝固一段法では,第VIII因子,第IX因子,第XI因子および第XII因子の活性低下を認めた.また第VIII因子インヒビター高値陽性(509 BU/ml)を認め,後天性血友病と診断した.基礎疾患の検索をしたが,明らかな異常は認めず特発性と考えた.PSL40 mg/dayにて治療開始したが,全身の皮下出血が顕著であり,輸血を必要とするHbの持続的低下を認めたために活性型複合体製剤を4日間投与した.投与後速やかに止血がえられ,PSLの減量を行い第64病日に退院した.第VIII凝固因子インヒビター出現による出血傾向は本症例のような重篤な出血傾向を呈することが多く本疾患に対する認識と迅速な対応が必要である.
短報
  • 須藤 英一
    2015 年 52 巻 3 号 p. 291-293
    発行日: 2015/07/25
    公開日: 2015/08/13
    ジャーナル フリー
    医学生への老年医学の教育は,全国の医学部で老年科を設置している大学は約4分の1といまだ不十分であるがその重要性は指摘されている.しかし医学生以外の医療福祉専門職(看護師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士等)の学生への老年学の体系的講義は各施設に委ねられており,端緒についたばかりである.当大学で作業療法学科の学生へ15回/年の老年学の講義を行い,アンケート調査を行った.老年学を学ぶのは初めての学生が多く,半数近くが講義前と講義後ではイメージが変わったと答え,学外の高齢者施設,サービスの見学を多くの学生が希望していた.また講義後に高齢者に対する態度,接し方が変わった学生は半数以上であり,殆どの学生が,老年学がこれからの我が国において必要な学問と考え,全ての医療従事者の講義カリキュラムに必要であるという回答であった.
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