1998年と2000年の12月下旬に宮城県の石巻東部海域で, 2000年6月には同海域に加えて松島湾南部周辺および雄勝湾東部周辺海域で捕獲したマコガレイの生殖腺指数 (GSI), 肝ミクロソーム内チトクロムP-450 (Cyt.P-450) 含量, 脳内アセチルコリンエステラーゼ (ACkE) 活性, 血漿中総チロキシン (tT
4), および, 雄ではテストステロン (T), 雌では17β-エストラジオール (E2) 濃度を測定し, 内分泌攪乱化学物質を含む環境汚染物質が当該海域に生息する魚の健康状態に及ぼす影響を調べると共に, それらの変化から生息環境の汚染状況を検討した.
12月下旬の石巻東部海域産マコガレイは, 雌雄とも, 多くの個体が性的に成熟していた. 6月の魚のGSIは全海域とも1%未満であった. 肝Cyt.P-450含量 (nmol/mg protein) は平均0.2程度であったが, 調査した石巻東部海域産マコガレイの約20%, 松島湾南部周辺海域産マコガレイの約10%からは0.4を超える値がみつかった. 当該個体では, 脳AChE活性や血漿tT
4, 雄の血漿T濃度が低くなる傾向にあった. また, 両海域のマコガレイ肝Cyt.P-450含量と血漿T濃度の間には負の相関関係が, 肝Cyt.P-450含量と脳AChE活性や血漿tT
4の間には負の相関傾向が認められた.
上記結果は以下の事を示唆する: (i) 宮城県中部沿岸海域の中で石巻東部と松島南部周辺海域 (仙台湾) に生息するマコガレイに内分泌撹乱化学物質を含む汚染物質の影響が出始めていると考えられるが, 現時点においては, それらによる成長や性成熟過程への影響は軽微である. また, 当該海域あるいはその周辺海域の環境水や餌生物中には有機リン系あるいはカーバメート系農薬を含む内分泌攪乱化学物質が影響発現量を超えて存在している可能性が高い.(ii) 内分泌攪乱化学物質を含む汚染物質の影響を捉えるためには, 肝Cyt.P-450含量, 血漿中のTやtT
4濃度, 脳AChE活性等が有効な指標となる.(iii) 当該汚染を早期にかつ的確に評価するためには, 上記指標の相関関係を丹念に調べ, 総合的に判断すべきである.
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