段フラッシュ蒸発式海水淡水化装置における重要な課題の一つにスケール防止が挙げられる.スケールは海水中の難溶性塩類の析出, 物であり, 伝熱面に析出, 付着すると伝熱を阻害し, 装置の熱効率を低下させる.スケールにはアルカリスケールと硫酸カルシウムスケールの2種がある, 各スケールの生成機構と防止法につき, 造水量100m
3/d, 10段フラッシュ蒸発プラントを使用して実験検討し, 以下の知見を得た.
(1) アルカリスケールは炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムが主成分である.その生成機構を明らかにするため, スケール防止法を何ら講じない実験を行った結果, 100時間という短い時間で, アルカリスケールは多量析出した.アルカリスケールの生成はブライン中の炭酸物質の挙動に関係している.多段フラッシュ蒸発器の特徴は, 伝熱管内のブラインが加圧され, 伝熱面で蒸発が起こらない点にあり, また二酸化炭素のブラインからの放散がない.したがって, 従来の蒸発缶の場合と異なる炭酸物質と水の解離平衡に基づく生成機構が得られた, この生成機構を適用してプラント内のスケール成分の物質収支を計算し, さらにスケールの生成を晶析現象としてとらえ, スケール析出速度データを用い, 炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムの表面晶析速度係数を得た.
(2) アルカリスケールの防止には酸を海水に添加して脱炭酸するpHコントロール法が有効である.100m3/dプラントにおいて短期200時間連続運転実験を3回実施し, pHコントロールの最適条件として循環ブラインpH7.2±0.2を得た.各実験について炭酸物質の解離平衡に基づいて計算したスケール析出速度を実験データと比較検討し, スケール成分の物質収支計算には, 炭酸物質の過渡変化を考慮すべきことがわかった.
(3) pHコントロール法の実用化を図るため, 長期2,000時間連続運転実験を行った.その結果, アルカリスケールの析出はほぼ完全に防止できたが, 伝熱を阻害するスラッジの伝熱管への沈着が起き, さらに高温部のブラインヒータで硫酸カルシウムスケールの析出が誘発された.すなわちスラッジ層に含まれるブライン中で無水硫酸カルシウムの過飽和性が破られ, 結晶核が生成し, これがしだいに成長して本格的なスケール形成につながった.なおスラッジの主成分は鉄の酸化物であり, その物質収支から鋼製蒸発缶体の腐食生成物が, 高温部で四三酸化鉄, 低温部でオーキシ水酸化鉄になることがわかった.
(4) スラッジの除去が実用的なスケール防止にとって重要なことがわかり, スラッジ除去法としてスポンジボール洗浄法を適用した.pHコントロール法にスポンジボール洗浄法を併用した複合型スケール防止法につき, 長期2,000時間連続運転実験を行い, スケール, スラッジともに完全に防止できることを確認した.
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