瀬戸内海の呉港において, 有鐘繊毛虫類 (原生動物門) の種組成, 出現密度, 現存量, 増殖速度, および生産速度の季節変動を調査した. 合計8属20種の有鐘繊毛虫類が出現し, それらの出現水温範囲により暖水性種, 冷水性種, および広温性の3グループに分けられた. 有鐘繊毛虫類の出現密度は0-620cellsL
-1 (年問平均密度: 150cells L
-1つの範囲で変動し, 冬季は極めて低かった. 捕食者を除去した疑似現場条件下で有鐘繊毛虫類の増殖速度を測定し, 18種類についてそれらの測定が可能であった. 比増殖速度は0. 10
-1. 18d
-1の範囲で変動したが, 水温と細胞体積から経験的に算出される (潜在的) 比増殖速度と比較すると約半分の低い値であった. 実測した比増殖速度を用いて有鐘繊毛虫類群集の生産速度を算出したところ, 0-5.2μgCL
-1d
-1の低い値であった. またナノ植物プランクトン現存量に対する有鐘繊毛虫類群集の摂餌圧も0-8.8%d
-1と低い値であった. 以上のように, 今回調査した呉港の有鐘繊毛虫類は, 出現密度, 増殖速度, 生産速度, 摂食圧のいずれにおいても, ほぼ同一レベルのクロロフィルα濃度を示す温帯内湾域で報告されている有鐘繊毛虫類の値と比較して, 極めて低い値を示した. その原因として, 呉港に有鐘繊毛虫類にとって餌として不適な植物プランクトンが出現したことが推定された.
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