本研究では, 魚類養殖場直下の底泥に有機汚泥浄化能力を有するイトゴカイ (
Capitella sp. I) の培養コロニーを散布して汚泥浄化を試みた際に, 微生物の呼吸鎖電子伝達物質である菌体キノンを指標としたキノンプロファイル法を用いて, イトゴカイの増殖に伴う微生物の量および群集構造の変化を解析した.魚類養殖場内において, 飽和濃度に近い溶存酸素が海底まで供給され, 底泥の還元状態が緩和された2004年11月に, イトゴカイの培養コロニーを, 1基の生け簀直下 (144m
2) に約920万個体散布した. その後, イトゴカイは急速に増殖し, 2005年1月には317,000個体/m
2にまで増加した. 従属栄養細菌が有するキノン (ユビキノン (UQ) およびメナキノン (MK)) 量は, 養殖場内でイトゴカイを散布した生け簀直下の底泥では, イトゴカイの増殖とともに, 秋季から冬季の水温低下時であるにもかかわらず, 底泥表層0~2cmで急激に増加し, 2005年1月には, 養殖場外の調査地点と比較して約7.0倍高い値 (10.9nmol/g-dry) に達した.特に, UQ-10を持つα-Proteobacteriaに属する細菌類の存在割合は, イトゴカイの高密度時では, 低密度時に比べて, 底泥表層0~2cmと2~4cmにおいて, それぞれ約9.5%, 4.1%増加していた. これらのことから, 養殖場内において, イトゴカイが高密度に棲息する底泥では, その基質撹拌作用などもあって, 微生物の増殖が促進されたことが示唆された.海底に堆積した有機汚泥のイトゴカイ培養コロニー散布による浄化促進には, イトゴカイによる有機汚泥の摂食による分解促進に加えて, イトゴカイの周辺で急増した微生物による有機物の資化作用も大きな効果をもたらしていると推測される.
抄録全体を表示