日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
22 巻, 4 号
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  • 加納 達二, 清水 満
    1985 年 22 巻 4 号 p. 303-309
    発行日: 1985/07/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者の虚血性心疾患は冠状動脈自体の動脈硬化性病変に加え心臓の生理的老化や他臓器障害など複雑に関与している. 急性心筋梗塞の臨床像, 選択的冠状動脈所見, 病理学的検索の3面から老年者の虚血性心疾患の特徴について検討した. 急性心筋梗塞例中70歳以上の老年者72例を非老年者128例と対比した. 老年者群の特徴は加齢とともに女性の占める率が増加し, 梗塞部位では心内膜下梗塞が24%と高率であった. 冠状動脈硬化危険因子中高脂血症, 肥満, 喫煙は有意に低率であった. 心不全, 心室頻拍・細動, 心房細動の合併率は有意に高く, 死亡率は25%で, 非老年者群の13%に比し有意に高かった.
    選択的冠状動脈造影で75%以上の有意の狭窄を呈した65歳以上の81例を40歳以下の若年者群と対比検討した. 若年者群の一枝病変に比し, 老年者群では多枝病変が多く, 有意狭窄の出現率は前下行枝79%, 回旋枝57%, 右冠状動脈57%と高く, とくに前下行枝病変が有意であった. また冠状動脈施行例の60歳以上の高齢者のA-C Bypass 術, 内科治療の遠隔成績は比較的良好で, 今後更に成績の向上が期待される.
    病理学的検索では加齢による生理的狭窄は50歳代から80歳までゆるやかな直線的上昇を示し, 女では10年おくれる. 冠状動脈硬化指数5以上の虚血性心疾患を生じうる狭窄は男の70歳以上にのみ生じる. 心筋梗塞と冠状動脈血栓との関係では大量壊死型梗塞で血栓の出現率は高く, 60歳代男で84%, 70歳以代女で69%と最も高い出現率をみた. 70歳以上の大型梗塞では平均冠状動脈硬化指数は12.9と高く, 三枝病変例が8割を占めた. 冠状動脈血栓形成よりも基盤の強い冠状動脈硬化が主役をなし, 梗塞の責任冠状動脈以外の枝にも強い病変を呈し, 非梗塞部心筋も線維症などの病変が認められた. この非梗塞部の心筋病変が心不全の発生や予後に重要な因子となるものと考えられる.
  • 古賀 義則, 戸嶋 裕徳
    1985 年 22 巻 4 号 p. 310-316
    発行日: 1985/07/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    高齢者心筋症の特徴を明らかにするために, 肥大型心筋症196例, 拡張型心筋症47例を用いて年齢と臨床病態の関係を検討した.
    50歳以上の高齢者心筋症例は肥大型の37%, 拡張型の43%に見られ, 心筋症は高齢者でも重要な疾患と考えられた. 肥大型心筋症では若年群では常染色体性優性遺伝形成に一致する濃厚な家族性がみられ, 突然死が多発し予後不良であった. これに対して高齢者では家族性は低率で高血圧などの後天性因子との関連が示唆される例が多く認められ, 左室拡張期機能障害, 運動耐容能低下も比較的軽度で予後良好であった. apical hypertrophy は中高齢男性に好発し, 高血圧との関連が示唆される軽症例が多く予後も良好で, 高齢者肥大型心筋症に一致する特徴を示した.
    拡張型心筋症では若年群で心筋炎との関連が示唆されるのに対して, 高齢者では高血圧, アルコールとの関連が推測され, 生検組織像では perivascular fibrosis が特徴的であった. また左室拡張末期圧上昇も軽度で予後も若年例にくらべ比較的良好な傾向を認めた.
    したがって, 高齢者の心筋症は必ずしも若年発症例から進行した重症・末期例ではなく, むしろ後天性因子が関与した晩発例と考えられた. そして若年例にくらべ心機能障害・心筋病変の程度は比較的軽く, 予後も良好であった.
  • 大川 真一郎, 上田 慶二, 杉浦 昌也
    1985 年 22 巻 4 号 p. 317-324
    発行日: 1985/07/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    老年者連続剖検4,000例中に弁膜症と臨床的に診断され, 病理学的に確認されたものは458例 (11.5%) にみられた. その種類としては大動脈弁閉鎖不全 (AR) の204例 (45%) と僧帽弁閉鎖不全 (MR) の171例 (37%) が老年者弁膜症の約80%をしめていた.
    病因としては変性にもとずくものが195例 (43%) と最も多く, 虚血性91例 (20%) がこれにつぎ, リウマチ性49例 (11%), 梅毒等56例 (12%) で, これら炎症性病因によるものは105例 (23%) であった. また老年者でも先天性の病因によるものが18例 (4%) にみられた.
    成因を含めた弁膜症の種類としては, 変性型AR 140例が最多で, 乳頭筋不全によるMR 91例がこれについだ.
    臨床像としては, 僧帽弁狭窄 (MS) に心房細動の合併が多く, 心不全は変性型AR以外の弁膜症の60%にみられ, 心死は梅毒など炎症性ARが最多で, 高血圧の合併はMRと変性型ARの半数にみられた.
  • 心房細動
    外畑 巌, 山内 一信, 都築 雅人, 野田 省二, 波多野 潔, 伊藤 栄一
    1985 年 22 巻 4 号 p. 325-333
    発行日: 1985/07/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    心房細動 (AF) および期外収縮は加齢とともに有意に増加する. 過去10年間, 人間ドック検査を受けた約24万人の12誘導心電図の検討ではAF頻度は70歳以上の高齢者においては (男性2.5%, 女性0.3%) 若年者に比し有意に高かった. 老年科診療においてはAFはより高頻度にみられ, その治療は日常診療で大きな比重を占める. 高齢AF患者の3大基礎疾患は弁膜症, 高血圧性および虚血性心疾患であり, 10%は孤立性AFであった.
    AFでは統一ある心房収縮はなく, 心室充満および1回拍出量は主に急速充満に依存し, 後者はRR間隔および流入抵抗により規定される. Pulse Doppler 法による研究では個々の患者では左室流入量および直続心拍の1回拍出量はRR間隔のみに依存するように思われ, RR間隔が個々の患者に固有の閾値より長い場合にはほぼ一定の値を示したが, R-R間隔が閾値以下となればその短縮に伴って直線的に減少した. R-R間隔閾値は左室流入抵抗に依存し, 僧帽弁狭窄症, 左室 compliance 低下症例では延長する. Pulse Doppler 法による検討では健常男性でも左室 compliance は加齢とともに低下することが示され, AFは, 有意な心疾患のない場合でも高齢者により大きな心血行力学的負担を課すると考えられる.
    発作性AF患者の treadmill 試験ではAFは洞調律に比し著しく強い心拍数反応を示し, この過剰心拍数反応がAFでみられた運動時間短縮の原因と考えられた. Digitalis は運動に対する心拍数過剰反応を軽減し, 運動耐容能を有意に改善したが, 多くのAF患者で運動時心拍数はなお過多と思われた. Digitalis 維持投与下のAF患者に verapamil 80mgまたは diltiazem 60~90mgを1回経口投与後には運動時心拍数はさらに抑制され treadmill 運動時間は有意に延長した. しかしβ遮断薬は心拍数の高度抑制にもかかわらず有意な運動耐容能の改善を示めさなかった. Digitalis とこれらのCa拮抗薬との併用はAFの運動時心拍数コントロールに有効な治療と考えられた.
    頭部CT検査を受けた急性脳血管障害患者432名の検討ではAFの頻度は, 脳出血に比し脳梗塞では有意に高かった (18.8% vs 2%). 脳血管写を受けた急性脳血管障害患者72名では, AF頻度は脳出血患者37名で2.7%, 脳血栓患者29名で20.7%, 脳塞栓患者5名で80%であり, 前2者に比し後者では有意に高かった. 脳血管写で確認した脳塞栓患者102名では73名がAFを示し, うち23名は孤立性AFであった. これらの所見は, 脳梗塞がAFの存在と密接に関連していることを示し, 孤立性AFも塞栓症の原因となりうることを示唆する. 脳塞栓の危険性の高い患者の同定およびその防止はAF患者の管理における緊急課題である.
  • 下肢閉塞性動脈硬化症, 腎血管性高血圧症, 腹部大動脈瘤の外科治療を中心として
    多田 祐輔
    1985 年 22 巻 4 号 p. 334-339
    発行日: 1985/07/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    過去14年間 (1970~1983. 12) に各部位の閉塞性動脈硬化症 (以下ASO) 165症例237動脈に対して, 血行再建手術を行った. 下肢ASOが最も多く, 143例 (202肢) であった. 手術適応は, 69歳以下例では, 91%が間欠跛行例であるのに比して, 70歳以上症例では, 65%が, 急性動脈閉塞症あるいは高度阻血肢に対する救肢目的の手術であった. 間欠跛行例の入院死亡は1例 (移植血管感染) であったが, 救肢例では, 4例を失い内3例が70歳以上症例であった. 死亡例も含めて救肢率は57%であった. 間欠跛行例の早期閉塞例はなく, 大動脈腸骨動脈閉塞症の解剖学的バイパス術における5年開存率は80%と良好であった. 動脈硬化による腎血管性高血圧症は, 18症例で, 20腎動脈に再建手術を行った. 全例高度の高血圧 (平均201/114mmHg) をともない, 7例が腎機能障害を呈した. 降圧効果は83% (15/18), 腎機能改善71% (5/7) であったが3例が術後血液透析を要し1例が腎不全死した. 腹部大動脈瘤は32年間 (1952~1983. 12) で, 250例を手術したが, 近年手術成績は著しく向上し, 1971年より1983. 12までの入院死は待期的手術例4.5%, 破裂例17%であった. 5年生存率は手術例62%, 非手術例16%と手術による延命効果は明らかであった. 非手術例の死亡原因のうち38%が破裂で最も多い原因であった. 以上の結果から以下の結果が得られた. 1) 間欠跛行例に対する手術は, 高齢者にその後の活動的な生活を提供する上で有効な治療法である. 2) 高齢者の急性動脈閉塞症は, 肢のみでなく, 時に生命の危険をともなう重篤な疾患であり, 成績はなお不良である. 3) 動脈硬化性腎血管性高血圧症に対する血行再建手術は高血圧治療上のみならず, 腎機能改善の上でも有効な治療法であるが, 高度腎機能障害例では, 術後の急性腎不全に留意すべきである. 4) 腹部大動脈瘤手術は待期的手術に関する限り安全な手術であり, 延命効果も明らかである. 従って本症の外科治療には積極的態度が望ましい.
  • 小林 陽二, 福生 吉裕, 加藤 仁志, 中澤 良寿, 稲葉 治樹, 渋谷 敏道, 羽田 和正, 吉井 博, 赫 彰郎, 金川 卓郎
    1985 年 22 巻 4 号 p. 340-345
    発行日: 1985/07/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    動脈硬化の発症, 進展や血栓症の要因として考えられている血清脂質代謝異常と血液凝固線溶異常の, 相互関係は多くの研究者により検討されている. しかし, 老年慢性期脳梗塞例, いわゆる寝たきり状態例についての報告は少ない. そこで著者らは, これら寝たきり老人 (平均76.4歳, 発作より平均1.4年経過したADL著しく不良例) 38例を対象として, 血清脂質 (TC, β1p, TRG, HDL C, Apo AI, Apo AII) および血液凝固線溶関連因子(Fbg, α1AT, α2M, ATIII, p1g, FDP, α2PI, FN, Factor XIII) を測定し次の結果を得た.
    1) 血清Apo AI, AII は患者群で有意に低値を示した.
    2) 血液Fbgは患者群で有意に高値, α1AT, α2M, P1g, ATIII, FDPは有意差なく, α2PI, FN, Factor XIIIは患者群で有意に低値を示した.
    3) 血清Apo AIとα2PIは患者群で有意の正相関を示した.
    4) 血清Apo AIとα2PIは, 対照群で有意の負の相関を示した.
    5) β1pとFNは患者群で有意の正相関を示した.
    6) FNとα2PIは患者群で有意の正相関を示した.
    以上の成績より, 老年慢性期脳梗塞例では動脈硬化の negative risk factor であるといわれているHDL Cの質的変化が生じており, また凝固線溶面の検討より, これらの症例では, 血栓形成促進傾向にあることが考えられ, 長期臥床状態では, 再発作への危険性が大である状態にあると考えられた.
  • tripamide 二重盲検試験の検討
    蔵本 築, 増山 善明
    1985 年 22 巻 4 号 p. 346-353
    発行日: 1985/07/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    本態性高血圧に対する利尿降圧剤 tripamide 1日15~60mg単独投与の有用性を60歳以上の老年者33例 (平均年齢65.9歳) と59歳以下の壮年者59例 (平均年齢50.0歳) に於て二重盲検法により検討した.
    降圧効果 (20/10mmHgまたは平均血圧13mmHg以上下降) は老年者で84.8%, 壮年者で59.3%で, 老年者の降圧効果が有意に高いことを認めた (p<0.05). しかし降圧幅は老年者で32.0/13.2mmHg, 壮年者で26.9/11.2mmHgであり, 有意差を認めず, 老年者で過度の降圧を来さないことを示唆した.
    臨床検査のうち, 血液学検査では両年齢群とも有意の変動を認めず, 血液濃縮は見られなかった. 生化学検査では老年者では血清Cl, アルカリフォスファターゼの低下と尿素窒素, 尿酸の上昇を, 壮年者では血清Clの低下と総コレステロール, Ca, 尿酸, 尿素窒素の上昇を認めた. 血清Na, K, 空腹時血糖値には両年齢群とも変化を認めなかった. 心胸比は老年者で減少した. これらの変化は有意差を認めたものの正常範囲内の変化であり臨床的意義は少ないと思われる.
    副作用は壮年者で5例8%に認められたが, 老年者では認められなかった. 副作用に臨床検査値の異常変化例を含めると壮年者で9例15%, 老年者で4例12%でいずれも有意差は見られなかった.
    従って有用性 (有用以上) は, 老年者で78.8%, 壮年者で52.5%と有意差を認め (p<0.05), 利尿降圧剤 tripamide は壮年者に比し老年者本態性高血圧の治療により有用であると思われた.
  • 大脳及び小脳・脳幹萎縮の検討
    木谷 光博, 小林 祥泰, 山口 修平, 恒松 徳五郎
    1985 年 22 巻 4 号 p. 354-359
    発行日: 1985/07/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病においては, 大脳の萎縮が正常人に比較し強い事が報告されている. 我々は, パーキンソン病患者43例 (男14例, 女29例, 平均59.5歳, 以下P群) と正常対照群38例 (男15例, 女23例, 平均58.6歳, 以下N群) の二群間において, すでに我々が報告したCTフィルム上における断面積比計測法である Ventricular Area Index (以下VAI), Brain Atrophy Index (以下BAI) を用いて, 天幕上及び天幕下の脳萎縮について比較検討した. また, P群においては脳萎縮と臨床症状との検討も行った.
    大脳においては, P群はN群に比較し萎縮傾向を認めた. その加齢性萎縮は, P群, N群共に有意に認められた. 一方, 天幕下の小脳・脳幹においては, P群はN群に比較し有意に萎縮を示し, その加齢性萎縮は, P群でのみ有意であった. P群において, 脳萎縮と罹病期間の間に有意の正相関がみられたが, Yahr 病期との間には相関がみられなかった.
    以上よりパーキンソン病においては, 正常者と比較し脳萎縮が加齢に伴いより強く進行し, 特に小脳・脳幹部で著明であると思われた.
  • 沖永 陽一, 山田 勤, 栗田 哲司, 大木 康雄, 松尾 武文
    1985 年 22 巻 4 号 p. 360-364
    発行日: 1985/07/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
    症例. 64歳, 女性. 主訴は発熱, 下痢, 側腹部痛, 20年前から糖尿病を指摘されている. 腹部単純写真で両側腎, 腎盂, 腎周囲に一致したガス像を認めCTでは同部位に高度の低吸収域をみた. 血液, 尿, 便から多数の肺炎桿菌を検出し, 本例は糖尿病に伴ったガス産生菌による気腫性腎盂腎炎と 診断された.
    入院第4病日, 腎不全と細菌性ショック, DIC合併のため死亡した. 剖検では肥厚した被膜下にガス貯留を認め, 腎実質は広範囲に出血性巣状壊死に陥っていた. 組織学的には, 急性化膿性血管内膜炎に一部血栓形成を伴い間質には広範に膿瘍形成を認め, 腎盂腎炎から腎被膜への炎症性浸潤が疑われた. 糖尿病性変化としては糸球体係蹄壁, 輸入動脈の硝子化をみた. 本例は稀でこれまで欧米では60数例報告されているが糖尿病合併率が高く死亡率も高い. 尿路感染症として極めて重篤であり早期の診断と適切な治療が必要とされる.
  • 1985 年 22 巻 4 号 p. 365-398
    発行日: 1985/07/30
    公開日: 2009/11/24
    ジャーナル フリー
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