目的: 薬物の蛋白結合率は, 体内薬物動態を理解する上で極めて重要である. 本研究では Ceftezole (以下CTZと略す) を指標薬として, 老年者の血清遊離脂肪酸 (以下FFAと略す) 組成の変化が, 結合率にいかなる影響を及ぼすかについて検討した.
対象および方法: 対象は健常若年者(20歳代) 及び, 健常老年者(70歳以上) 各20名とした. CTZの蛋白結合率は100μg/m
lの薬液濃度で遠心限外濾過法により求め, FFAの測定は飽和脂肪酸ミリスチン酸, パルミチン酸, ステアリン酸, 不飽和脂肪酸パルミトレン酸, オレイン酸, リノール酸, アラキドン酸の7種FFAについてDoleの方法に準じ抽出し, キャピラリーガスクロマトグラフ法で測定した.
結果: (1) 血清アルブミン値は, 老年群が若年群に比し低値を示した. (2) 総血清遊離脂肪酸 (T-FFA) には両群で差はなく, FFA組成は, 老年群ではパルミトレン酸, オレイン酸が増加, ミリスチン酸, リノール酸が減少し, 加齢に伴うFFAの質的変化が認められた. (3) CTZの蛋白結合率はT-FFA, オレイン酸, リノール酸と負の相関を示し, ステアリン酸と正の相関を示した. (4) オレイン酸組成比のCTZの蛋白結合率に及ぼす影響は, アルブミン値4.0g/d
l以下の老年群では, アルブミン減少による低下作用より大きかった.
結論: 老年群の蛋白結合率が若年群に比し低値であるのは, 加齢に伴う血清アルブミンの減少とFFA組成比の変化によると考えられる. FFAのCTZの蛋白結合率に影響を及ぼす機序は, アルブミン分子上の結合部位での競合作用と, FFAがアルブミンに結合することにより生じる, アルブミン分子構造変化に伴う結合部位の結合性の変化によると思われる. 蛋白結合率の変化は, 体内遊離型薬物量を変化させ, 薬物の薬効発現, 代謝, 排泄, 副作用の出現に重大な影響を与えることが予想され, 各臓器機能の減弱した老年者では, 薬物の蛋白結合率の持つ意義は大きいと思われる.
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