本稿は,患者の死に対する看護師の感情が,看取りの経験を重ねることでどのように変化するのか解明することを課題にする.
本稿の調査における2 人の看護師の発言を分析すると,新人時代には患者の死に衝撃を受け,精神的な負担の大きさから,死にゆく患者との関わりを避けがちになっていた.しかし看取り経験を重ねてからは,死にゆく患者に積極的に関わり,疾患を越えて患者の生活史を知ることで悲しいと感じていた.
この変化の過程では「穏やかな最期」という死生観が形成されている.それは3つの要素をもち,第1 に死を万人に訪れるものとする認識であり,第2に苦痛や後悔が残らないことを理想とし,第3 にそのような死となるように介入しなければならないという職業意識である.この死生観によって精神的負担が軽減されて,死にゆく患者への関わりが可能となる.以上の看護師の関わりは,患者や家族に後悔が残らないように介入することで,「他者の感情管理」を行い,また患者の生活史を聞くことで感情を触発し,この死生観によって感情を抑圧することで「自己の感情管理」も行っている点で,Hochschild の感情労働に該当する.
「穏やかな最期」という死生観を形成した看護師は,「自己の感情管理」は可能になったが,告知が一般化した時代において,死が迫っていることを受け入れられない患者や家族に対してどのように関わるかという「他者の感情管理」が新たな課題となっている.
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