社会学評論
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72 巻, 4 号
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公募特集「ジェンダー研究の挑戦」
  • 佐藤 文香, 鈴木 江理子
    2022 年 72 巻 4 号 p. 404-415
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー
  • ―平等から多様性へ―
    千田 有紀
    2022 年 72 巻 4 号 p. 416-432
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,フェミニズム・ジェンダー理論や実践の課題を問い直すものである.近代フェミニズム思想は,「性的差異」と「平等」をどのように両立させるかという課題と格闘してきた.女性が普遍的人権を適用されないのは,女性の身体に「差異」が潜んでいると認識されていたからである.近代社会の形成期に生起した第一波フェミニズムは,「母」であることを権利の源泉としつつ,個人としての権利も主張した.第二波フェミニズムは,近代社会批判とともに,社会的につくられた「母」役割を批判しつつも,自らの身体性を主張の源泉とした.

    ジェンダー概念の関連でいえば,「解剖学的宿命」に対抗するやり方のひとつが,「文化的社会的産物」としてのジェンダーという概念をつくりだすことであった.またポスト構造主義の登場により,差異は関係的な概念であること,そして「生物学的なセックス」や「身体」もまた言語的,社会的に構築されていると考えられるようになった.さらにジェンダーのみならず,さまざまな諸カテゴリーの位置性や交差性が問われることになった.ジェンダーの構築性の指摘から30年以上が経過した現在,「女」というカテゴリーの定義をめぐる論争のなかで,「身体」をどう位置づけるのかという問題が,以前とは異なる課題とともに再浮上している.

  • ―「長時間労働する身体」と「ヘゲモニックな男性性」―
    山根 純佳
    2022 年 72 巻 4 号 p. 433-449
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    「女性職」であった施設介護の現場では,男性の参入と並行して男性が上位の職位に就く男性優位が再生産されている.本稿では,従来の「ケア労働=女性に適した労働」が「男性=理想的なケア労働者」というジェンダーに置き換わり男性の社会経済的優位が再生産されるメカニズムを,市場化された介護施設のマネジメントや実践における「長時間労働する身体」という「ヘゲモニックな男性性」の作用をとおして考察する.

    介護保険制度下の「個別ケア」では,限られた人手で利用者の生活ニーズを支えるという家庭的ケアの再演が求められているが,そのケア実践は長時間労働する「献身的専門職」に依存している.この「献身的専門職」を前提にしたマネジメントの下では,「長時間労働する身体」というヘゲモニックな男性性を資源に男性が管理的地位を獲得する.一方夜勤専従を配置することで24時間型の献身的専門職モデルの転換を図った施設では,「長時間労働」と介護職の「有能さ」は結びつかず,長時間働かない女性の能力も評価されキャリアアップも保障されている.このようにジェンダーを再生産しないローカルな実践が多くの職場に広がれば社会全体の男性優位は変更されうる.しかし,福祉の市場化は,女性のケアの専門性や能力を活用しつつも,男性よりも低い地位や賃金にとどめる性別分離を促進しており,女性のケア労働の評価というフェミニズムの目標を後退させたといえる.

  • ―ケアリング・マスキュリニティについての一考察―
    巽 真理子
    2022 年 72 巻 4 号 p. 450-466
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿では,イクメンという父親像と男らしさとの関連から,現代日本がジェンダー平等に向かうためのケアリング・マスキュリニティの効果と課題について議論する.

    厚生労働省の父親支援政策イクメンプロジェクトにおけるイクメンについて,イクメンプロジェクトの啓発用資料を分析したところ,イクメンは子育てに積極的に関わる/関わろうとする一方で,その働き方には戦後日本のヘゲモニック・マスキュリニティである〈一家の稼ぎ主という男らしさ〉が大きく影響する父親像であることがわかった.そして,稼得責任も子育て責任も負う「二重負担モデル」であるイクメンの子育ては,母親と比較すると,質的にはほぼ同じだが量的にはかなり少なく,男女差は縮まっていない.

    このイクメンの分析結果をふまえて,EUでジェンダー平等に有効だといわれるケアリング・マスキュリニティの「ケアを男らしさに含める」戦略を考察すると,男らしさを手放したくない男性や企業に受け入れられやすいという効果はあるが,ヘゲモニック・マスキュリニティの支配的な特性を取り除くことが難しいという課題があることがわかった.そのため,日本が本当にケアのジェンダー平等をめざすのであれば,ケアリング・マスキュリニティのようにケアを男らしさに含めて,ジェンダーをそのまま保つのではなく,フェミニズムのケア論が主張するように「ケアからジェンダーを外す」ことが重要である.

  • ―出生前検査に対峙した男性たちの役割カテゴリーの実践に着目して―
    齋藤 圭介
    2022 年 72 巻 4 号 p. 467-486
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    これまでのジェンダー研究は,生殖の当事者は女性のみだと考えており,男性を生殖の当事者とはみなしてこなかった.しかし,生殖にかんする新しい医療技術の普及により,男性もまた生殖の当事者であることが再認識されつつある.ジェンダー研究がこれまで依拠してきた議論フレーム(自己身体自己決定)では適切に論じることができない状況が生じており,男性の生殖経験の解明はジェンダー研究が取り組むべき現代的課題といえる.

    そこで本稿は新しい医療技術の例として出生前検査を取りあげ,この検査を受検/検討した男性たち10名へのインタビュー調査の分析をもとに,男性が生殖の〈当事者であること〉を示すために用いた言語資源と依拠した役割カテゴリーを明らかにした.男性たちは,「自分たち」「自分の子」「2人の子」といった言語資源を用いて,複数の役割カテゴリーのうちとくに親役割の実践をとおして当事者化することで生殖にかかわっていることがわかった.

    分析の結果,男性の生殖経験の特徴として2つの知見を導出できた.1つは,生殖における男性の主体化のプロセスは,将来の親役割を予期して当事者化するという間接的なプロセスをふむことである.もう1つは,男性が親役割の実践をとおして生殖における当事者としてふるまうさい,個々の男性の意図とは独立して,議論の構造的に家父長制的なニュアンスが含まれてしまうことである.

投稿論文
  • ―中3時自己評価成績の含意と,その指標の信頼性―
    中澤 渉
    2022 年 72 巻 4 号 p. 487-503
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    教育と社会階層における実証研究では,多くの人が進路選択に最も強く影響すると考えてきた成績を統制しても,階層の影響が残ることが指摘されてきた.つまり教育機会の不平等研究で,成績を考慮することは欠かせない.問題は,社会調査で真の成績を把握することが困難なことである.日本の社会調査では,中学3年時の学年内の相対的位置から,成績を5段階のリッカート尺度で回答させてきた.日本では大半の中学生が高校受験を経験するが,その際自らの成績を意識せざるをえない.だから中学3年時の自己評価成績は変動しにくく,進学先の高校の偏差値ランクに対応していると予想した.本稿で使用するパネル調査では,異時点で同一人物に中3時の自己評価成績,および高校名を尋ねている.高校名から,高校の偏差値ランクを照合できる.したがって自己評価成績の異時点間の比較から回答の安定性を,また自己評価成績と偏差値ランクを比較し,両者の対応関係を検討できる.その結果,中3時の自己評価成績は回答の一貫性が高いことを確認した.また中3 時自己評価成績と高校の偏差値ランクの関連も強く,回答のズレに特筆すべき傾向は見出せなかった.自己評価成績と高校偏差値を利用し,大学進学の有無を推定したロジット回帰分析により,自己評価成績が頑健で,高校偏差値の代理指標とみなせることを確認した.進学先の高校偏差値は,自己の過去の成績評価を大きく規定しているといえる.

  • ―Xジェンダーをめぐる語りから―
    武内 今日子
    2022 年 72 巻 4 号 p. 504-521
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿は,性別違和を抱く人々がXジェンダーという性自認のカテゴリーを用いて,男女の二値に当てはまらない何者かとして自己を定位する仕方を考察した.先行研究では,性同一性障害やトランスジェンダーに付随する規範が論じられた一方,近年ではこれらのカテゴリーで表せない自己像も描かれてきた.ただし,日本において男女の二値に当てはまらない性自認のカテゴリーが自己を表すために用いられる仕方は十分に論じられていない.

    そこで本稿は,Xジェンダーを名乗る10名に半構造化インタビュー調査を実施し,Xジェンダーが用いられる仕方を分析した.その結果,Xジェンダーを用いることで,経験の再解釈,認識上の切断,暫定的な居場所,政治的主張の根拠という諸実践が可能になることが見出された.すなわちXジェンダーは,先行するカテゴリーのもつ否定的な意味づけを回避するために,もしくは不安定な状況におかれる自己を性自認のカテゴリーに暫定的に位置づけるために用いられる一方で,当事者間での摩擦も生じさせていた.その同一カテゴリーのもとでXジェンダーの意味づけを明確化しようとする政治的主張がなされるからである.これらの結果は,先行するカテゴリーから自己を差異化する過程を論じてきた先行研究に対して,社会的定義や意味づけの定まらないカテゴリーとしてのXジェンダーが可能にする,協働や矛盾をはらむ複数の実践とその帰結を示す点で意義をもつ.

  • ―労働時間・家事頻度との関連に着目して―
    西村 純子
    2022 年 72 巻 4 号 p. 522-539
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    学歴階層による子育てにかんする価値や規範,選好の差異は,仕事や家事,子どもとのかかわりとのあいだの時間配分にも,差異をもたらす可能性がある.本稿では第4回全国家族調査(NFRJ18)をもちいて,仕事や家事へ費やす時間と子どもとのかかわりの関連,および親の学歴階層によるそれらの関連の差異を検討する.分析の結果,低学歴層の母親の教育的活動の頻度は,家事頻度と正の関連がみられたが,高学歴層の母親の教育的活動の頻度と家事頻度には関連がなかった.これは高学歴層の母親が,日常の家事とは別に子どもに教える時間を確保しようとする一方で,低学歴層の母親は,生活の自然な流れのなかで教育的活動をおこなう傾向があることを示唆する.また低学歴層の父親の教育的活動の頻度は,労働時間と負の関連がみられたが,高学歴層の父親の教育的活動の頻度と労働時間には関連がなかった.ここからは,労働時間が長くとも,子どもとのかかわりに時間を割こうとする高学歴層の父親の存在が示唆された.総じて分析結果からは,子どもとのかかわりに高い優先順位を付し,特に教育的活動において子どもを優先した時間配分をおこなう高学歴層の親たちの姿が析出された.父親の労働時間の短縮が進まないなかで,父親においても,仕事にも子どもにも時間を費やす高学歴層の親が出現していることは,子どもが親から受け取る時間投資量という点での,格差拡大の可能性を示唆する.

  • 岡沢 亮
    2022 年 72 巻 4 号 p. 540-556
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/03/31
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,テクストデータを用いるエスノメソドロジーの方針と取り組むべき課題をめぐる方法論的議論を進展させることである.まずテクストのエスノメソドロジーの基本方針が,テクストを社会現象の表象として扱うのではなく,テクストにおいていかなる活動がいかなる概念連関に依拠して行われているのかを分析することだと述べる.次に,テクストを分析する際の資源としての受け手の反応(の不在)をめぐり会話分析から寄せられた批判に応答し,テクストの分析可能性を擁護する.その上で,Goffman の参与枠組のアイデアとそれに対する会話分析の批判的検討を参照し,書き手と読み手がテクストをめぐる参与枠組を形成する方法を解明することが興味深い課題になると論じる.またその課題に取り組むにあたり,テクストを書く/読む実践の制約かつ資源となるインターフェイスへの着目の重要性を主張する.以上を踏まえ,ウェブ上の映画作品レビューとそれに付されたコメントの具体的分析を行うことにより,テクストの参与枠組を形成する方法の分析が当のテクストの活動としての理解可能性の解明に資すること,そしてその分析においてテクストを書く/読む際のインターフェイスへの着目が有効であることを例証する.最後に,本稿の議論がエスノメソドロジーと会話分析の関係の再考や,テクストデータを用いる社会学一般をめぐる方法論的議論に寄与することを示唆する.

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