現在, 一般的に, 「患者視点」に立った医療の提供が期待されているものの, 患者視点についての共通理解が成立しているとは言いがたい. 本稿は, 患者参加によって患者の視点を実現したとされる取り組みの重要性と問題点について検討することを目的とする.
そこで, 日本の小児喘息の一般向け診療ガイドライン (clinical practice guidelines: CPGs) の作成を事例とし, その過程に参加した作成委員12名全員にインタビューを行った. 本稿では, そこで得られたインタビュー・データと, その過程についての報告書とを用いて, 作成委員が語る患者視点とその視点をつくりだす過程とを考察する.
作成されたCPGsは言葉がやさしくなり, 内容にも患者固有の経験が含まれているという点で患者視点が主張されていたが, 言葉をやさしくするだけなら医師もできる, また, 患者固有の経験とされた内容も医師委員が以前から知っている内容であったと語られた. そのようなCPGsになったのは, 患者・支援者委員の多様性を, 公募, 勉強会, 構成の検討, 執筆, 最終的なジャッジといった作成過程全体を通して縮減させたためであり, また, 医師委員の指導, 患者・支援者委員による医学的知識・エビデンス志向の内面化が行われていたためである.
患者参加による患者視点の実現を目指す取り組みは, 患者に選択の機会を与え, 医療者の選択に患者が影響を与える可能性がある一方で, 医療者の主導性が巧妙に織り込まれる可能性が潜んでいる.
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