本研究は, 大都市部に居住する後期高齢者の社会的ネットワークの諸特性が, 精神的健康に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.データは, 東京都墨田区の75歳以上の在宅高齢者, 合計618人より得た.精神的健康度は, ディストレス (GDS短縮版) および生活満足度を用いて測定した.分析の結果, 以下のような知見が得られた.
(1) 男性では, 配偶者がいる者ほどディストレスが低く, 生活満足度が高い傾向が示されたが, 女性では, 配偶者の存在は有意な効果をもっていなかった.
(2) 女性では, 子どもがいる者ほど, ディストレスが低く, 生活満足度が高い傾向が示されたが, 男性では, 子どもの存在は有意な効果をもっていなかった.
(3) 男性では, 近距離友人ネットワークが生活満足度を高め, 女性では, 中遠距離親族ネットワークがディストレスを低め, 生活満足度を高める効果をもっていた.そして, 伝統的な近距離親族ネットワークに埋め込まれていることが, 必ずしも精神的健康を高めるわけではない点が示唆された.
(4) 女性では, 地域集団参加数が多い者ほどディストレスが低く, 生活満足度が高かった.この知見は, 後期高齢期におけるストレスフルな状況に適応するための資源として, 地域集団が有効であることを示唆していた.
抄録全体を表示